第25話 料理
「すまない。不甲斐ない姿を見せてしまって」
周りを気にせずに三人で抱き合っていたが、俺の存在に気が付いたエリックが顔を赤く染めてこちらに謝罪してきた。
「気にしないでくれ。娘が元気になったんだ。俺もエリックの気持ちは分かっているつもりだ」
「あはは、君は私と同じぐらいの歳なのになんだか父上と話している気分だよ」
まぁ、実年齢は軽く80を超えてますからねぇ。外見に反して経験がありますし。
それより、すっかり元気になったエリンが母親に抱き着きながらこちらをチラチラと見ている。
普段見掛けない人物を不思議に思っているのか。
「あ、あの…」
チラチラ見ていた幼女が俺を見上げながら話しかけてきた。
「うん?なんだい」
警戒されないよう、優しく接する。
「もしかして、ショウ様でしょうか?」
おっ、俺の正体に気が付いたか。
「ああ、そうだよエリン。私が言った通りに元気になっただろ?」
目の前に寄って来た幼女に方膝をつき、頭の上に手を置いてわしゃわしゃと髪を撫でた。
エリンはされるがまま俺に頭を撫でられていたが、次の瞬間そのまま俺に抱き着いて来た。
「ショウ様、エリンを治してありがとうございます!」
出来るだけ精一杯の力で俺に抱き着いてくるその姿は、先程まで呪いに掛かりベットの上で弱り切っていた幼女は、そこに居なかった。
「良い子だ、よく頑張ったな。これからどれだけ遊んでも、もう平気だよ」
俺の首に巻きつくように抱き着いていたエリンの頭を撫でながら、出来るだけ安心させるように言い聞かせる。幼女に伝えた言葉に安心したのか、俺の肩に乗せていた頭から「スゥ…スゥ…」と可愛らしい寝言が聴こえてきた。
気持ちよさそうに寝ているエリンを傍で見守っていたエリックに渡した。
彼は眠ってしまったエリンを見ながら苦笑をしていたが、彼女を抱きかかえ、ベッドの上に戻した。
「ショウ、エリンを治してくれて感謝する。君の言い値の報酬を払おう」
エリンをベッドに戻したエリックがこちらに振り返り、真面目な表情になり礼を言った。彼に合わせて妻であるガーネットも礼をくれた。
「気にするな。運よく俺が聖魔法を使えたまでだ。それに報酬も元々払う予定であった金額で問題ない」
気にするなと手を振りながら一応遠慮はする。でも、このままじゃ彼が貴族としてのプライドが許さないのは既に知っている。
「いや、私は貴族の誇りを持っている。私の家族が君に救われたんだ。せめて、金は受け取って貰いたい。それに何か君の身に起こったら、私が全力で守る」
目を真っ直ぐに見て言葉を伝えてきた。
「分かった。では元々払うはずだった報酬の三倍で受け取ろう。…これで良いか?」
それ以上周りに俺が金を持っているとバレると、物凄く面倒くさい事になる。
「…了解した。それで手を打とう。後もう一ついいかい?」
妻の方を見ながら何か言いたそうにしている。何だ?
「うん?どうかしたのか」
「もし、エリンがショウに会いたくなったら君に依頼を出しても良いか?」
時間を置き彼が伝えた言葉に思わす笑ってしまった。
「依頼を出さなくても、俺が泊まっている宿に人を寄こしたら、パパッと会いに来るよ」
彼の願いに応じると、先程のびくついた表情は何処に行ったのか、満面の笑みに変わった。
彼も娘をそこまで愛しているのか。俺が地球に転移したら、まず最初に地球を管理しているメルセデスに会いに行こう。きっと喜ばられるはずだ。…はずだよな?…うん、そう思っておこう。今もパパ呼びだから嫌われてはないであろう…。
「さて、エリンが寝ていることだし、後の話は先程の部屋に戻って話そう。今晩の宴は一緒に食べるかい?今日は記念すべき日だ。秘蔵のワインも出すよ」
っお、貴族が飲むワインか。興味はあるな。
折角だし、今晩はお世話になろう。
「おお、そうか。楽しみにしているよ」
エリンの部屋に向かった時にどんよりとした雰囲気はさっぱり無くなり。今は幸せで一杯の雰囲気を出しているエリックに、途中出会った兵士は、メイド達が困惑していたが。治療した際に一緒の部屋に居たメイドや、兵士達にエリンの状態が教えられ。この屋敷全体が幸せな雰囲気で包まれていた。
それだけ皆、エリンの事を愛している証拠であった。
「美味しかったよ。もう俺は行くよ」
「本日は本当にありがとうございますショウ様。何時でもいらしてください」
豪華な長テーブルに並べられた皿にはすでに何も残って居なかった。
更に空になったワインボトルが所狭しと転がっており、既にエリックは潰れていた。どうやら、今日まで溜まっていたストレスを全で酒で発散したようだ。
俺も、久しぶり飲んだ飲み心地が良いワインに気持ちが良い気分になっていた。宴で用意された料理も素晴らしかった。
神界に住む神々は俺が転移するまで、料理など食ったことが無かったらしい。しかし、酒だけは飲んでいたそうだ。でも俺が創造魔法で作りだした料理の素材で色々な料理を調理していたら、匂いを嗅ぎつけた女神達、神達に見つかってしまった。それから召喚魔法で天使を召喚するまで、俺がずっと作る羽目になっていた。特に、甘いデザートの味を知ってしまった女神達による喧嘩は、創造神でも逃げ出す程の迫力があった。
今では魔改造した神界では、俺が創造した料理店や、デザート店に設置したオートマトンや、神々が強制的に連れてきた眷属、天使が調理しているそうだ。
更に酒が大好物な神々も、俺が見せた酒のカタログで見せた酒を自ら作っているらしい。
あれは、少し後悔している。
でも、そのおかげで自ら作り出した神界に引きこもっていた神が創造神の神界で楽しんでいる状況をお爺ちゃんは喜んでいたが…。
それはさておき、すっかり酔っぱらってしまったエリックを介護するガーネットに、宴の礼を言い俺が普段泊まっている宿へ戻った。門に向かうと、入り口で出会った門番に見事に鍛えられた最敬礼をされた。
俺も彼等に敬礼を返し、既に開かれた門を潜った。
日は落ち、外はとっくに暗くなっていたが。街中に一定の場所に設置された街灯によって石畳みを明るく染めていた。貴族や裕福な商人たちが住む区域ゆえ、ここ周辺は治安が良く。夜でも道を歩いている人々を見掛けた。人族だけではなく、エルフや獣人、更に高級そうな服装をした魔族すら、楽しそうに暮らしている。魔族を全滅させたいと目論むバンクス帝国とは大違いだ。やはり一番の違いは初代国王の嫁の一人が魔王の娘だからだ。
人の事は言えないが、初代国王は種族を一つに拘らずハーレムを作ろうとしたようだ。結果的にこの国には差別が少ないが。
偶に思う。
彼は、この異世界を楽しんだだろうか?地球に帰れなかったことを後悔しなかっただろうか。
もし地球に帰れたとしても皆の記憶から消され居場所が無いと知ったら、どう思っただろうか。
元は人間である俺も。それは分からない。
…でも、幾年経っても飛鳥には会いたいと願っている。
上級神に位が上がったら彼女に会おう。出来れば一緒に住もう。
『…』
勿論ナビリスも一緒だ。
考え事をしていたら宿に着いた。入り口で立っている顔見知りになった門番に扉を開けてもらった扉を潜った。
メインホールで掃除の作業をしている作業員に挨拶を言い、俺が泊まっている部屋に向かった。
魔力が流れたカードキーで扉を開け、そのまま真っ直ぐジャグジーが設置された寝室まで向かう。
溜めたお湯を手で温度を測り、服を脱ぐとジャグジーへとダイブした。
『ああぁ…気持ちい』
余の気持ちよさに念話が漏れる。ナビリスが思わず漏れた念話を『くすくす』と可愛い声で笑っている。
さて…明日は塔に挑むか。
神眼で世界を眺めながら色んな事があった一日を過ごした。
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