第107話 二日目
王都から出発した初日は見晴らしが良い平野の野営地にて夜を過ごした翌朝、周囲から人の声が聞こえてきたのを探知したショウは発動していた神眼スキルを解除して両瞼を開く。顔に落ちていた木の葉を手で払うと起き上がり、人間っぽい動作で背筋と両手を伸ばし昨晩土魔法で作った即席窯を地面に帰した。
「ショウも起きたか、ほらっ。早く行かないと温かい飯が無くなるぜ」
偶然彼の前へ通りがかった冒険者が指差した先へ視線を向けてみれば料理係の兵士がデカい鍋をかき混ぜ、他の仲間はスープを茶碗に注ぐと列に並んだ人達に手渡していた。列には今回の依頼で一緒になった冒険者も並んでいれば任務として使節団に同行している王国軍の姿も見受けられる。仲は良さそうには見えないが特別不調和な関係でも無いらしい。
しかし、今回の使節団代表エレニールと彼女の護衛を務める騎士団の集まりは炊き出しから少し離れた場所でパンと串肉で空腹を満たしている。
「何故騎士団は離れた場所で朝食を取っている?」
炊き出しの列に並んだショウはお姫様兼婚約者が離れた場所で腹ごしらえをしている件に気になり、彼の前に並ぶ女性冒険者へ尋ねた。
Cランクに上がったばかりの女性冒険者はいきなり背後から声を掛けられ、びくりと驚きで肩を揺らすが素早く冷静さを取り戻すとゆっくり言葉を返す。
「…私も詳しくは知らないけど仲間が聞いた話によると、どうやら高貴なる身分を持つ騎士様達は平民と同席して料理を食べたくないらしいよ。食事に差は無いのに…って、ごめんなさい!孤独狼はエレニール王女殿下と婚約者でしたね、どうか今の話は忘れてくださいぃ!」
「ああ」
不快感を露わに口を出していた女性冒険者だったが、質問をした相手が王女の婚約者でもあるショウだった事を思い出し、段々と顔色が青くなりながら内密にと志願する。
細かい事情に興味を持たない現人神ショウは頭を頷き承知した。
「っお、お前が最後だな『孤独狼』…そう言えばきちんとした紹介がまだしていなかったな。はっはっはこれは失敬失敬!」
料理係の兵士が調理したスープを思行くままに堪能したショウは号令の笛と耳に届くや空きがある荷馬車に乗り込む、そこにはショウと同じAランクパーティーのメンバーが揃っていた。彼等皆ショウの実力を見極めようとジーッと穴があくほど目を注ぐ、パーティーのリーダーらしき大男は立派に蓄えた紅髯をしごきながら睦まじげに話しかけてくるがその目は一切笑っていない。視線を縫い付けたままショウよりでかい大男は大袈裟に両手を広げると彼のパーティーメンバーを一人ずつ紹介してゆく。
「先に俺はAランクパーティー『焔刃』を纏めるカイアスってんだ宜しくな!横に座ったこいつは俺の右腕でもあるパーヒィンだ。あいつはパーティー随一の弓使い、シャミール。仮面で素顔を隠した黒づくめの奴は『無口』のダーク、っま見た目のままだながっはっは!」
幅のひろい刃がついた戦斧を内ももに掛けたカイアスのメンバーが一応相槌を打つ。
カイアスが右腕と自慢げに語ったパーヒィンと名の男は丸型のバックラーを左手に持ち、先端は鋭く尖った短槍を装備している。魔法も巧みに使用するのか魔力が籠った指輪を五つ付けている。
トレントの枝から出来た弓を装備するシャミールは彼等のパーティー唯一の女性メンバー、種族は人族とエルフ族の間に生まれたハーフエルフ。ショウに巻き付く不気味な違和感に敏感らしいのか睨み付けるように彼を凝視している。
最後に紹介されたメンバーは漆黒の色に塗装したフルプレートアーマーに身を包み、何故か兜の下に仮面を被っている。彼の両手には30㎝程の長さの杖と片手剣をそれぞれの手に持っている。
「冒険者のショウだ、Aランクに上がったばかりの新参者だから宜しく、先輩方」
短い自己紹介を終えたショウは空いているダークの隣に腰を落とした瞬間、馬車が動き出す。
馬車が動く間、ショウに口を挟む者はリーダーのカイアス以外皆無であった。彼等は皆普通では有り得ない速度で同じくAランクに昇格したショウを内心憎悪と嫉妬に満ちた感情に駆られる、感情を出来る限り殺してショウに接しようとも神の目には全て明るみに出ている。誰も表立って険のある言葉を本人に伝えないのはショウが下級とは言え男爵の爵位を持ち、愛で溢れた本国の姫と婚約を交わした者と知っているから。
「魔物の群れを感知したっ!総員っ襲撃に備えよ!では行動開始!!」
一時間ほど静かな馬車から見える風土を眺めながら屋敷で留守番をしているナビリスと念話で語らっていると外から慌てた大声が聞こえてくると突然馬車が停止した。
「左の森から魔物の大軍が向かってきています!」
「お前ら行くぜっ!」
『おぉ!』
御者席に座っていた兵士の声に即座反応した『焔刃』の面々は己の武器を手に持つと一目散に押しかけてくる魔物へ飛んで行った。
ショウも彼等に続くように馬車から出ると彼はまず初めにエレニールの姿を探した、そしてすぐに見つかった。
「っはあ!」
先陣を駆け抜けているエレニールが見事な鞘から神剣プロメテウス(レプリカ)を引き抜くと片手を軍馬に付けた手綱を握ったまま下から斬り上げる。魔力を込めた強烈の一撃を諸に食らったオークは全身が爆ぜ、血煙なってこの世から消えた。
それからエレニールは馬を止めることなく見事な手綱さばきで魔物を翻弄する。
「Cランク冒険者は馬車と馬を何としても守れ!」
司令官らしく騎士の声が響き渡る。
「ッく、アンノ・キラーアントが向かってきてるぞ!誰か手を貸してくれ!」
ショウは雲の様に軽やかなに木の幹を伝いながら一瞬にして襲ってくる魔物の首を鞠の如く斬り飛ばす。
又一匹を殺す地面に降りたショウの背後から鋭い爪で襲ってくるビッグウルフの攻撃を躱して横一閃に胴体を二つに分ける。
ぐしゃりと生臭い音を鳴らし、分かれた胴体から大量の血と内臓が溢れて雑草に染み渡る。
「風の魔力を……『ウィンドカッタ―』!」
彼の近くでは魔法の杖を構えた冒険者が唱えた魔法が発動している。勿論ショウを狙った魔法攻撃では無い。ただ偶然にも魔法使いが付近にいただけた。
「おい!魔物が馬車の近くまで接近しているぞ!誰か結界魔法が使える者は居ないのか!?」
大量に積まれた魔物の死骸を渡って無力な非戦闘員を襲い掛かろうと侵入を試みた魔物もエレニールが放つ雷魔法に貫かれて死んだ。
「お、終わった…」
森から飛び出してくる無数の魔物の群れが途切れ途切れになり、ようやく最後の一匹となった虫系の魔物を騎士の一人が頭部にロングソードを突き刺して生命の鼓動を停止させたところで疲れ果てた者達が地面に座り込んだ。
最初の魔物が現れてから約一時間、実に長い戦いであった。
長時間での戦闘で平気そうなのはショウとエレニール、Aランク冒険者メンバーに騎士数名のみ。
「…もう居ないな。これだけの数が王都の近くで起きるとは少々不可解だが仕方ない…、各自っ魔物の部位を剥ぎ取りが終わり次第15分の休息を取る!」
「ま、マジかよ~」
ショウの近くで大の字に倒れていた冒険者の呟きが耳に入る。
泣いても変化が起こる訳では無いので嫌々魔物の死骸から使える部位を回収後、土魔法で大きく作った落とし穴に死骸を詰めて焼き払って後始末を終えた。
「あっ、冒険者の皆さん外壁がみえてきましたよ」
再び馬車に乗り込んでから五時間後、御者から聞こえてくる声にショウは顔を動かし馬車から外を見てみる。
その言葉通り山が途切れていきなり視界が開ければ、目の先にはうっすらと町を囲む外壁が見えてきた。
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