第27話 Sランク冒険者
エリックの屋敷にて幼女エリンの呪いを治療して数週間が経った。
あれから変わらず塔に挑み、着々と階層を上げていた。41階層からワイバーンが出現する火山フィールドだ。周りの火山が良く噴火しており他の冒険者からは砂漠フィールド以上の温度と噴火による灰が降りまくっており、数メートル先が見えない程厳しいフィールドだ。
それと、塔に登る前にエリンがショウに会いたいと、エリック邸に仕える使用人がショウが泊まっている宿に来ていたので。ちょくちょく屋敷に遊びに行った。
ショウも幼女のお願いには弱く。エリンより遊びに誘われると予定が無ければ必ず二人で遊んでいた。
彼女はまだ幼いので未だラ・グランジから出たことは無く。それに屋敷の私有地からも馬車以外でしか街中を見たことないとこぼしていた。それを聞いたショウは彼女の父親であるエリックに街で探検を検討したが、意外な事にショウのお願いは問題も無く了承された。勿論二人で街を探検している時は、暗殺者である煙が遠くから見守っていた事をショウは始めから知っていた。
エリンも初めて自らの足で街を歩いた経験は物凄く嬉しくて、更にショウとの遊ぶ時間が楽しみであった。
ショウの話ばかりするエリンに毎日のこと聞いているエリックは内心ショウに嫉妬していた。それにより仕事を終わらすのが僅かに早くなったのは言うまでもない。
50階層へと進む階段をやっと見つけた。
相変わらず目の前にナビリスが読み取ったデータを元に、半透明の地図を表示させながら進んでいたが。飽きる程デカく、されに魔物がうざかった。もう少しで時を止めて進もうかと思っていた。倒しても倒しても蟻のように湧き出てくるモンスター。道中いきなり噴火する火山。溶岩の川から飛び出すラァヴァフィッシュ。
撃退した魔物からドロップしたアイテムを拾うと一歩先に進むと、突如上からワイバーンのブレスに照らさせる。俺が持っているスキルによりダメージは全く負わないが。ただしつこい。この一言に尽きた。
そのせいで、元から大量にあったワイバーンの素材が50階層に上がる頃には倍以上インベントリに入って居る。
…この量はギルドでも換金できないだろう。
何故だか知らないがため息が出た。
50階へ上がる階段の途中で一旦腰を下ろし、インベントリから屋台で勝った料理と、創造魔法で作りだした炭酸を取り出した。
『あぁ~うまい』
上級冒険者であってもインベントリやストレージのスキルが無ければ、ここまで豪華な料理を持ち込めないだろう。それ程、ストレージやインベントリのスキルを持つ人はとても珍しい。帝国に召喚された勇者でも2~3人しかストレージスキルを持っていなかった。
まぁ、Aランク、Sランクの冒険者。名高い商人になると、一見すると普通の鞄にあり得ない程の量を入れられる魔道具。通称マジックバッグを所持している。彼等以外にも欲しい人は大量に存在している。そのため購入しようとすると、アホみたいな金額になる。
その他に入手方法は俺が今挑んでいる塔から出現した宝箱から手に入れるか、上級ダンジョンでボスを倒すと稀にドロップすることがある。
無論マジックバッグは錬金術を使い作ることも出来るが、そういう人材は国が囲っているだろう。国によっては戦争の道具として一生監禁され、死ぬまで無理矢理作らされる。
作る際に必要な素材も珍しく手に入れにくい物ばかりだ。
俺なら創造魔法と錬金術スキルを合わせ幾らでも作れる。冒険者となり今のように塔に挑まなくても、莫大な富や名声を得られることが可能だが、俺は神としてお気楽暮らしたい。そう望む。
空になった空き缶をインベントリに放り投げ立ち上がると、降り注ぐ灰によって汚れたズボンを手で叩き、階段を駆け上がった。すぐさま階段の終わりが見えてき、最後の一段を登り切った。
階段を登ると、そこは他の門番がいる階層とそう変わらず広い空間があり。その奥には巨大な扉が堂々と設置されていた。あの扉の向こうに門番がいるだろう。
しかし、この空間だけ他の門番の居る階層と異なる箇所があった。
それは、扉の前には集落のような建物が建ていた。人も結構な数がいる、食堂のような壁が無い建物には、一目で一流冒険者だと分かる人達が飲み食いしている。そこには大樹灰(フォレストダスト)のメンバーも居た。塔内で初めて目にするが’…ちゃんと仕事しているんだな。
ナビリスからこの場所について既に聞いていたが、改めて己の目で確認すると何とも奇妙な空間だ。
41階層からこの50階層まで一人も他の冒険者を見掛けなかった。だが何故この場所だけこれ程の人が居るのか理解できなかった。
…まぁそんな事より、階段を上がったすぐ傍に置かれた石碑で自分の魔力を登録するため、そちらへ向かった。強大な門の前に建てられた集落にて、階段から上がって来た俺の気配に気が付いた冒険者が俺の姿を確認した瞬間、全員もれなく驚愕していた。…見ていて面白かった。
石碑に俺の魔力がちゃんと登録された事を確認すると、集落の入り口に向かった。
俺が丁度入り口付近まで近づくと、集落内居る他の冒険者が全員こちらを見ている。俺を鑑定している輩もいる。どうあがいても偽造したステータスを破ることは無いけど。
木材で出来た不格好な入り口を進み、早速集落内の周りを確認し始めた。
おおぉ、ここにもお湯に浸けるのか。これはいい。
この階層のみ他の火山フィールドに比べて気温は大分低く。丁度お湯に浸かる程の温度となっていた。
そのまま、集落の中心にある壁が無いこの辺で一番大きな建物に入った。
他の階では考えられない程の大勢の冒険者達が酒を飲み。漫画で良く見る巨大な骨付き肉を頬張っている。
尚、只今皆俺に目線を向けおり音一つ聴こえないが。
適当に空いた席に座ると、今まで俺に目線を集中させていた冒険者達が、視線を元に戻し騒ぎ始めた。
座った席膝を突き、手を顎を支えながらボーっとしていると俺の場所に寄って来る気配を感じた。
そちらへ目線を向けると、五人の人影がこちらに向かってきてた。
目線を彼等に向けていると俺のすぐ目の前に来ていた五人グループの内一人の男性が前に出てこちらに話しかけてきた。
「やぁ、初めまして…かな?うん、初めましてだよね!僕はSランクパーティー『鳥の遮り』リーダー、ロイスヴィル・スルッガー。そして、彼等が僕のパーティーメンバーだ、宜しく。君この階層までソロで来たの?凄いね!運良く強力なマジックアイテムでもゲットしたのかな?でもここの門番は挑まないほうがいいと思うよ?あの門の向こうはSランクモンスターのファイアードラゴンがいるんだ。正真正銘のドラゴンだよ?ワイバーンのような偽物じゃないんだよねぇ?例え君がどれだけ凄くても、強力なマジックアイテムやスキルを持っていたとしても、流石に本物のドラゴンには勝てないよ?そう思うだろう?…ところで君の名前を教えてもらってもいいかな?ねえ?」
……おお、やっと話が終わったか。あまりの長さに、この集落にいる冒険者全てを神眼でステータスを確認し終わった。そして、目の前にいるこの男こそラ・グランジで唯一全員がSランクのSランクパーティーのリーダー、ロイスヴィル・スルッガー。Sランクパーティーのリーダーだけあってレベルも87、と周りのSランク冒険者と比べて高い。流石にギルドマスターのシノンよりは低いが。彼女は流れている勇者の血が濃いから仕方ない。ロイスヴィルは気楽に話しかけてくるが、彼の周りに居るメンバーからは俺の全身を舐めるような気持ち悪い目線を感じる。パーティーの一人が俺を鑑定して、偽造したステータスを信じて俺を見下しているようだ。特に横にいるエルフの女性は忌まわしそうな表情を隠そうともしない。ロイスヴィル以外。
「ああ、俺はBランクのショウだ、宜しくな。俺もこんな場所に集落があるなんて知らなかったよ」
折角彼が好意的に喋りかけて来たんだ。俺も好意的に話し返そう。
「そうだよね!?いやぁ~僕も初めてここに連れてこられた日はびっくりしちゃったよ!」
連れてこられた、ねぇ。
どうやら、ここにいる冒険者は皆誰かと一緒に、この階層まで転移し、そのまま石碑に登録した感じか。しかし、階層を一階でも飛ばすと、ギルドカードに表示される最高階層は飛ばした階で止まる。
つまり裏ワザっぽいが、卑怯な手で記録を伸ばすことは出来ない。多分お爺ちゃんがそう設定したんだろう。
…お爺ちゃんああ見えてゲーム大好きだから。
「俺も驚いたよ。目的は門番か?」
「そうだよ!41階層からここまでたどり着くのは厳しいけど、門番のファイアードラゴンは人数と炎耐性装備さえ整っておけば怪我無く撃退出来るからね!でも大人数で倒す代わり、ちっぽけな宝箱を一つ落とすだけで素材とかは落とさないんだ。でも他の門番と比べてレベルも上がりやすいから、丁度いい餌なんだよねぇ!君はソロでここまで来れたからレベルも高いのかな?気になるね?面白いね?」
まあ確かに彼等が討伐する度に高級素材を落としまくってたら世界のバランスは崩れるな。
人類はそんな事一切気にしない。只々彼等の利益の為なら気にも留めない。
お爺ちゃんもこれを見据えて塔にこのシステムを組み込んだだろう。
「…それより、僕達もう少ししたら門番に挑むんだ。良かったら一緒に挑まないか?」
…成程、俺がソロでここまでたどり着くだけの実力を持っている、と分かっていた訳か。彼の誘いに周りのパーティーメンバーも驚いている。何故、アイツを連れて行くんだ。そう顔に出ている。
「お誘い感謝するよ。でも、ここまでソロで来たんだ。折角だしここの門番にソロで挑んでみるよ」
誘いを断ったが、彼は驚いた表情など見せず、ただ頷いていた。
「うんうん!そうか、そうか。分かった!ここまでソロで攻略出来たんだし、もし君が門番を倒せなくても死にはしないだろう。それじゃもし助けが必要なら言ってくれ。力になるよ!君も居れば今まで以上に楽に倒せるし、宝も良いのが出そうだね?そう思うよね?それじゃあ…またね」
そう言って彼等は俺から離れていった。
『余計な欲を出しましたね』
『ああ、彼の目は諦めていなかった。神眼を使うまでも無かった』
野心を持つのは構わない。それが人と言う物だ。…でも、今回は運が悪かった。神に欲を出すと余計な事になる。ソレを知らない。触らぬ神に祟りなしとことわざもあるぐらいだからな。
数時間後、食堂にて時間を潰した俺は門番に挑むため奥に置かれた巨大な扉に向かっていた。
『どうする。始末する?』
相変わらずのナビリスが強制的に消そうと俺に提案してくる。
『いや、いいよ。彼等はただ俺の実力を見たいだけだ。ただ…俺に襲い掛かってきたら消してもいい』
『ふふふ、分かったわ』
…ナビリスを怒らすのは気を付けよう。
巨大な扉に手を添えた俺は、誰も居ない後ろをチラリ、と見てそのまま扉を押した。
見掛けに寄らず力も籠めずに一人が入れそうな隙間を残して扉の中へ潜った。
部屋に入ると、全身30メートル以上ある真っ赤な鱗で覆われたファイアードラゴンが居た。輝くような黄金の瞳と目が合う。
そのまま3メートル程真っ直ぐ進むとファイアードラゴンが口を開き、炎が吐き出される。
腰に装備したミスリルロングソードを鞘から抜き、目の前まで追って来てた炎のブレスを一振りの剣圧でかき消した。はっきりとは分からないがファイアードラゴンが驚いている様に確認できる。
「剣波」
そのまま流れるように振りかぶった剣から放たれた三日月の形をした空気の刃がファイアードラゴンの長い首を通り過ぎ、動きを止めたドラゴンの首が横にズレるとその巨大な頭が地響きを立てながら落ちた。
ファイアードラゴンが地面に吸い込まれ始めると剣を抜いたまま後ろに振り返った。
「そろそろ、姿を見せてもいいんじゃないか」
俺以外誰もいない部屋に話しかけると、幻術魔法で透明になっていた鳥の遮りのパーティーメンバーの姿が現れた。そう、最初から彼等は透明化になって俺の後ろを追っていた。最初から知っていたがそのままにしておいた。
「す、凄いな君は!ファイアードラゴンをあっさり倒すなんて僕驚いてしまったよ!あ、あはは」
俺にバレても気楽に話しかけてくるロイスヴィル。でも彼の顔には汗が流れている。Sランクである彼でも俺が恐ろしいだろう。仕方ない、俺は人族でも他の種族でもない。存在が全く異なる。
「そうか?それじゃ、このまま先に向かっても良いか?」
先程の戦闘が何事も無かったかのように振舞い剣を鞘に納める。
「あ、ああ!勿論だとも!僕達も君の活躍を応援しているよ!君が戦利品を回収している間、変な考えを持った輩から僕達が見守っているよ」
「そうだな、頼むよ」
彼等は理解したのだろう。向かうが人の数は多いが、絶対に勝てない事実を。周りから英雄と称えられ、巨大な力を持つ彼等でも敵対した瞬間、死ぬ未来を。
っお。ファイアードラゴンの角発見。落とした宝箱にはマジックバッグも見つけたし、今回は運が良かった。
戦利品を回収した俺は彼等に背を向けたまま上の階段へ上がる扉を開いた。
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