第28話 塔に住まう主

 60階層 吹雪フィールド……門番フォレストゴーレムドラゴン、撃破。


 70階層 妖精の国フィールド……門番ハイフェアリー、撃破。


 80階層 クリスタルフィールド……門番クリスタルドラゴン、撃破。


 90階層 不死者アンデットフィールド……門番ノーライフキング、撃破。



 ショウが塔の半分である50階層を撃破し、更にそれから一か月の月日が経っていた。

 50階層に出現する門番ファイアードラゴンの撃破後、あれからショウは一度も街に戻らずそのまま進み続けた。


 神故、休む必要も無く。寝る必要性も無く。食事も取る必要性は無いが、時々インベントリから取り出した肉串等を頬張りながら上へ上へ進んだ。今や何回生まれ変わっても、死ぬまで遊べる程の財宝がインベントリに入って居る。勿論、この世界に危険を及ぼす可能性があるマジックアイテム等。売るはずは無いが。


 51階層以降他の冒険者と合わなくなり。今まで貯めていた自重が無くなった。その結果、たった一ヶ月という凄く短い期間で既に100階層へ辿り着くと言う偉業を成し遂げていた。中央の広場までたどり着く、奥に設置された扉を確認する。


 それはこれまで他の門番の部屋に進むために置かれた扉と全く異なり。そこには何処にでもありそうな木製のドアであった。しかしその扉の周りには、赤く染められた所謂日本の神社でも置いてある鳥居が設置されていた。最後の石碑に魔力を流した後、ポケットから取り出したギルドカードに魔力を込めた。金色に輝くBランクと共ギルドカードにキチンと、100階と表示された。これで、後は最後の門番を倒すだけで塔を攻略したことになる。ギルドカードをしまったショウは準備を整えず、そのまま真っ直ぐに鳥居の奥に設置された扉へ向かった。


 普通の人には理解できないだろうが。段々扉へ近づくと、段々扉の中から発せられる神力の威圧感が強くなってくる。どうやら、最後の門番は神に近しい存在か神そのもの可能性がある。

 力が無い人がこの空間に訪れた瞬間、あまりの圧にやられていただろう。

 身体全身にまとわりつく、この感じ。神の気配を何処か懐かしく思った。


 扉のすぐ傍までたどり着いたショウは、気楽のままその木製の扉を開き中へ潜る。


「(…神界で感じてた空気に似ている。だが、これは神力より……神通力と言った方が正しいか?)」


 この空間に入った途端、部屋に充満する空気を懐かしく感じてた。


 神界でいつも感じてた空気。しかし全く同じとは言えづ。何処か似た雰囲気を感じる。

 これで間違いない。ここの門番は神に等しい存在だ。


 奥に建てられた神社に目線を向ける。昔俺と飛鳥の二人で旅行で行ったことがある神社にとてもよく似ている。神社の中から発せられる雰囲気は全く別物だが。


 神社へ上がる為の階段で一旦止まり、声を出した。


「誰かいるか」


 ……何も反応が無い。でも、中に何かは居る。存在がはっきり分かる。仕方ないもう一度だ。


「誰かい…」


「うるさいのおぅ、折角寝てたやんし起こさないでもらえるかいな?」


 ショウの言葉を遮り神社の中から一人の女性が出て来た。戦国時代でよく見かける武装着物を崩す様に着た絶世の美女。身長は170センチ台と女性でありながら長身。靴もヒールを履いており、尚背が高く見える。その背中まで届く限りなく白銀色に近い銀髪には金で装飾された簪が良く似合っている。その大きく膨らんだ胸は階段を一段降りる度に上下に揺れている。


 その女性が欠伸を手で隠しながら階段を降りてくる。下界の者が彼女を一目見た瞬間、その美しさに恋に目覚めるだろう。だが、女性は普通の種族ではない。


 何故なら彼女の頭からフサフサそうな狐耳がぴょこん、と出ており。されに彼女の背後から、髪と同じ銀色である九本の尻尾がゆらゆらと揺れている。


「おんやぁ、男前なおにぃはんやいの」


 彼女の口から放たれた言葉すら色気を持ち美しく思う。


 でも、ショウは彼女の正体を昔読んだ妖怪の本で既に知っていた。


――九尾。


 遥か昔。古代中国で生まれた一匹の狐は一般の狐と違い、九本の尻尾があった。


 その存在を知った人は狐の神と崇めた。その存在は何時しか人化を習得し、妖術を学んだ。


 ある日、絶世の美女に変化した狐の神を崇められた存在はこう思った。


 …人間は弱い。何も出来ない弱者だと。


 それ以降、自ら九尾と名乗った存在は自由自在になれる人化と強力な妖術を巧みに扱い、国を破壊し始めた。

 年月が経ち、生まれた国を破壊し終えた彼女は退屈になった。


 つまらん。ただ壊すだけは飽きてきの。他の国ぇ行くかねぇ…。


そうして九つの尾を持つ狐の妖怪は大陸を横断して日ノ本へ移動し、他国と同じく破壊活動を始めた。娯楽の為、自らが楽しむ為。

 しかし、その日々も長く続かなかった。


 それはある神を祀る神宮を破壊した時に起こった。

 実は九尾により破壊された神宮が祀る神は実在し。日ノ本に恵みを与えたこともある神だった。

 普段は下界に手を出さない神であっても、この一件によりキレた。それは正しく神罰であった。


 神の怒りにより九尾は一瞬にして抹消され、また地球に転生しないようにその魂ごと、創造神によって作られた遊び場に封印された。実行した神の名は天照大御神。

 

余談だが、彼女は今、地球を管理しているメルセデスと一緒にパリ旅行を楽しんでいる最中だろう。


 それはさておき。


「封印されたとは聞いていたが、まさかこの世界に。この塔に封印されているとは思いもしなかったよ」


 俺が彼女の正体を口にした途端、九尾は目開き九本もある尻尾の動きが激しくなった。


「…うちの正体を知っているさかいか…おにぃはん、何者のぉ?」


 笑顔で俺に語り掛けてくるが、彼女の目は一切笑っていない。


「さて、何者だろうな?」


 とぼけるように肩を竦めた。俺の答えを聞いた彼女の表情が変化した。


「…しゃあないなぁ。ほな、さいなら」


 そう言い終わると、目に見えない速度で俺に攻撃を仕掛けてきた。残念だ、普通の人間なら今ので殺されていただろう。


「…っえ?」


 長く鋭い爪で攻撃した手を俺が目線を彼女に向けたまま、左手で掴んでいた。攻撃が失敗した九尾は声を漏らしたが、即座に手を引き俺の腹を蹴って後ろへ飛んだ。


「…ありへん。うちの攻撃を素手で防ぐなんしぃ」


「いきなり攻撃を仕掛けるなんて危ない女性だな」

 

 彼女へ挑発を掛ける。しかし、先程の防いだ攻撃のせいか、俺の挑発には乗らず。冷静に俺の全体を見ている。とうやら俺に鑑定を掛けているようだ。


「なぁるほどやぁ。おにぃはんの名前はショウさんっているさかいか?良い名でなんし」


 彼女の力でも俺が偽造したステータスを破ることは出来なかったか。


「ああ、宜しくな九尾。日本…いや、日ノ本で有名な妖怪に会えて嬉しいよ」


 日ノ本の言葉を聞き取ると、その形が良い眉毛が上に上がった。


「そちは懐かしいぃ名を出すさかい。おにぃはんもあの禍々しい女の使いか?」


 両手に魔力を込めながら聞いている。


「いや、俺は天照大御神の使いじゃない。そもそも九尾がこの塔に封印されているなんて知らなかったんだ」


 これは事実だ。本当は知ろうとしたら知ることが出来たが。ネタバレにならないように取っておいたんだ。まさか、ねぇ…?


「…やはりあの女は神やったか。そなぁおにぃはんも神かのお?」


「っお、お前の言う通りだ。この世界の管理者、現人神のショウだ。宜しく」


「……そうかいなぁ、神相手じゃうちが勝てるはずないのぉ。…一つだけいいかのぉ?」


 やっと俺の正体が分かった彼女が真面目な表情になり聞いて来た。


「ん?なんだ」


「うちを殺すさかい。本気で戦ってもいいかのぉ」


 殺す気なんて全くなんだが。まぁ良いだろう、折角だ。


「ああ、良いだろう」


 腰に差した鞘からミスリルロングソードを抜き。何時も抑えている神力を解放した。ナビリスには外に漏れないようにお願いした。


 俺が解放した神力をまともに受けた九尾は膝が笑うように震えるが、決して意識を失わられなかった。凄い精神力だ。もう一段解放しても平気だろう。


 そのまま見守っていると彼女は震えた膝のまま腰を下ろし、目を閉じた。

 すると、九尾の姿へ段々変化していき、そこには巨大な九つの尾を持つ狐の姿があった。


 グルルルと低い呻き声を出しながらこちらに向かった突進を仕掛けてきた。


 口を大きく開き、俺を丸ごと食おうする。ソレを剣で阻止しようと。剣を盾のように構えると、開いた口から青く燃える炎が発射された。

 即座に盾の構えからカウンターの構えに変え、横へ振り炎をかき消し。剣を振り終えた格好のまま手首だけを曲げると反対方向へ振り斬り、一本の足を豆腐の様に切り落とした。

 手足が三本になったが動きを辞めず俺に攻撃を仕掛けてくる九尾。


 攻撃を躱す、弾く、塞いだ攻撃をカウンターで斬りつける。


 彼女がどれだけ攻撃をしても、俺に届くはずが無く。狐の姿をした彼女は満身創痍の状態であった。手足は一本しか残ってなく。その美しかった九本もあった尻尾も今は二つしか残って居ない。それでも九尾は諦めようとしない。


 俺は彼女の生命力を感心していた。その諦めない気持ち。俺が人間の頃、同じ感情を持っていた。

 懐かしく感じた。


 俺は彼女をこれ以上痛みを感じないよう、目の前に転移し。その剥き出しの腹に仙術スキルを打ち込み、意識を奪った。



「…あれ?…ここは?」


「っお?目を覚ましたか」

 

 神社の一角の部屋、床に敷くまで押し入れに積まれていた布団から彼女の声が聴こえた。読んでいた小説をインベントリに戻し、目が覚ました彼女の方を見る。そのには何も着ていない彼女が呆然とした表情でこちらを見ていた。


「あれぇ?おにぃはん…?どうして…」


 そのどうして、はどちらの意味だろうか。


「元から殺す気なんて無かったんだ。あの後回復して、こちらに運んで来たんだ」


 全裸だと気が付いた彼女が掛け布団で胸を隠し、何故生かした理由を俺に聞いてくる。


「そ、そぉだったやんしぃ。あ、あのおにぃはんはこれから、どうするさかい?」

  

 状況を理解した九尾が俺のこれからの予定を聞いてくる。…そうだなぁ。


「ん~、もう塔を攻略したことだし。次は王都に向かって家でも購入しようかな」


 別に隠す事でもないので正直に伝えた。

 すると、彼女が体をもじもじしながら、何か言いたそうにしている。


「そ、そうかいなぁ。…え、え~と、もしおにぃはんの迷惑無かったしぃ、うちも一緒に行ってもいいかのぉ?」


 何処か期待した、でも悲しそうな表情で聞いて来た。顔も赤い。断る理由も無い。紳士として女性のお願いを断る筈が無かろう。


「ああ、いいぞ」


「ほ、ほんまか!?」


 嬉しさ一杯の笑顔を見せて、こちらに圧を掛けてきた。


「ほんまだ。ただ、俺が家を買うまでここで待っててもいいか?」


「も、勿論さかい!でも、なんでやぁ?」


「九尾が美人だから、王都へ向かう途中、面倒いを起こしたくないからな」


 事実を伝えた。これ以上目立つのは正直面倒くさい。でも九尾は俺の美人と言う言葉に顔を真っ赤にして両手で顔を隠している。しかし後ろの尻尾は荒ぶっている。


『いいの?ここの門番はどうするの?』


 ナビリスがこれからの事について聞いて来た。確かに、将来ここの住民が100階層に辿り着く可能性もあるな。


『ゴーレムでも創造してここに置いておくよ。財宝と一緒に』


『そう…それなら安心だわ』


『あれ、ナビリスは彼女を連れて行くのは反対じゃないのか』


 てっきり九尾はここに残せ、と言われると思っていたが。


『……乙女の様に恋した女性を諦めさせることは出来ないわよ』


『そ、そっすか』


 ナビリスにも乙女の心が有るんだな…。


「それじゃ、俺はそろそろ外に向かうよ。王都で家を購入したら即座九尾を俺の元に召喚するよ。その代わり、念話を繋げておくから。何時でも話しかけていいよ」


 立ち上がり俺がもう帰ると伝えると彼女の狐耳が悲しそうに垂れたが。何時でも話せると言うと、嬉しそうにピンっと立った。…意外と面白いな。


「は、はい!うちはいつまでもまっとおりぃます!」


 あ、一つ伝え忘れていた。


「そういえば名前は何て言うんだ?九尾が本名じゃないだろう?」

 

 恥ずかしそうにモジモジしている。あれ?本当に九尾が本名か?ステータスを見ていないから分からなった。


「銀孤…うちの名は銀孤っていうんやぁ」


「銀孤か。良い名だ。それじゃ近い内、強制転移でこちらに呼び出すから」


「はい!」

 

 うん、良い笑顔だ。やはり、美人には笑顔が一番似合う。

 俺は石碑まで向かい手を石碑に添えて魔力を流した。

 全身の輝きが消えると、俺は問題なく1階層に戻っていた。


 やるべき事は終えた。もう、この街とはおさらばだ。


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