第29話 決闘

『ふざけるな!あいつらのせいで!光は殺されたんたぞ!こんな世界に召喚されされなければ!…ッくそ!何だよ…!何なんだよ!?アイツの親に何て伝えればいいんだよ……』


『あれは仕方が無いよ…。誰もあの罠には気が付かなかった。誰のせいでも無いよ…』


…………。


『仕方がない…?仕方がない、だとっ!?そんな言い方無いだろ!?そんな言葉で終わらせるな!クラスメイトが死んだんだぞ!?それを仕方ないだと……』


『光君の分も僕達が頑張ろう!必ず皆で元の世界に戻って、光君の両親に真実を伝えようよ!』


『…俺達、本当に魔王を倒したら元の世界に戻れるのか?……なぁ!?どうなんだよ?』


『でも…皇帝や他の騎士の人達も言っていただろう?魔王を倒して、魔王が持つ帰還用の魔晶石。それがあれば僕達の世界に戻せるって』


 ……地球に帰ることは出来ない。お前らを産み落とし、育てた両親にも記憶に残って居ない。存在事無かったとされた。


『信用できるかよ!あいつらの事なんか!皇帝のデブは魔王率いる魔族にそって侵略されている、と言っていたが。なら何故あのデブや貴族どもは、毎晩豪華な料理を食べながら暮らしているんだ?変だろ!』


『…僕にも分からないよ。確かに少し奇妙だけど、僕らに居場所はここしかないんだ。皇帝の言う通りに魔王を倒すしかないよ』


 ……倒すとは。魔王である彼女を殺す事だ。心臓を剣で貫き、首を刎ねる事なんだ。お前たちはそれを理解しているか?ここはゲームではない。現実だ。


『っくそ!むかつく!特に陸の野郎が気に食わなねぇ。無能な癖に茉莉にカッコつけようとしやがった』


『あはは。煌斗は茉莉が好きだもんね~』


『うるせっ。あの女を無茶苦茶にしたいだけだ』


『ふ~ん。あ、でも…。そうなると陸が邪魔だね~』


『そうだな。…そうだ!次ダンジョンに挑むときにあいつを裂け目に落とそうぜ!』


『……本当かい?バレたら君でもやばいよ』


『っふん無能が勝手に落っこちた、とか言っとけばいいだろ』


『…そうだね。うん、そうしようか。でも僕にも後で茉莉を使わしてよね』


『ああ、勿論だ。他の連中にも伝えようぜ』


 ……人間と言う生物は。醜い。憎悪によって、他人を簡単に騙し。犯し。そして殺す。

 何故創造神は人間を作ったのか、それは神になった俺にも理解は出来ない。


 神眼を止め、瞼を開く。開いた目線の先には汚れ一つない真っ白の天井にゆらゆらとぶら下がっているクリスタルシャンデリアが日の光を浴び、小さな虹を部屋中に作り出している。贅沢な眺めだ。


 ベッドから降り、そのまま立ち上がると床に無造作に落ちていた高級羽根を使ったバスローブを羽織り、寝室に用意されたジャグジーへ向かった。


 塔から帰還した俺は、約一か月振りに神眼を使い、この世界を眺めた。一か月振りといっても、殆ど何も変化は無く。未だ戦争している国があれば、ダンジョンかあ溢れた魔物に町を破壊されている国もある。村を襲っている盗賊もいれば、逆に盗賊を殲滅している冒険者の姿も見れた。


 世界はそのままの姿が美しく。そして完璧だ。


 それと、っふと召喚された勇者の様子が少し気になったので、視点をバンクス帝国の方へ移動した。

 面白い光景がそこに映っていた。


 どうやら、召喚されたクラスメイトの一人が上級ダンジョンを挑んでいる途中一人の生徒が罠の確認を行わずに前に出てしまい、クロスボウ型のトラップに引っ掛かり、両側の壁から発射されたクロスボウの矢によって脳天を突かれて即死した。いきなりの事にパニックに堕ちた生徒達を背後で見守っていた騎士団副団長の助けにより脱出することが出来た。


 その瞬間彼等は知った。いや、理解させられた。自分たちは主人公じゃないと。特別な力が備わっても、周りから勇者と言われ自分が他よりも立派であると思い上がっていても。


 人は簡単に死ぬんだと。

  

 それから彼等は憶病になり、生徒の半数が今城内で用意された部屋で引きこもっている。

 まぁ何人かは、禄でもないことを考えているようだが。

 このままでは力を授けた面白い人材が殺されるだろう。


 しかし、俺が彼を助ける義理はこれっぽちも存在しない。

 力を授けたからといって、無条件で神が一般人を助けるはずは無い。


 もし彼が殺されても、それまでの事だけだったという意味。

 でも、俺の土産の存在に気付いた彼が簡単に殺されるかは、知らないが。


 さて…身体も十分に温まった。服に着替えて冒険者ギルドに向かうか。



 ショウが塔を登っている一ヶ月の間に少し気温は高くなっており。普段何時も着ているフード付きの厚着をしているショウも、周囲の人々と合わせる様に襟付きのTシャツに、濃い色のジーンズ。視線を下に向けると、この暑い中コンバットブーツを履いている。防具は変わらず全く装備していなく。武器も腰に下げたロングソード一本という異様な恰好。

 周りに歩く人族、獣人族、ドワーフ族、エルフ族すら、ショウのこの世界では見掛けない恰好を見て、片眉を吊り上げ奇妙な目でショウを見ている。


 冒険者ギルド前の広場でもその奇妙な目線は変わらなかった。


 しかし、ショウは短い時間でその未知数な実力を持ちながら、有名パーティー等に入らない事。ソロで塔に挑み続ける事。それに黒髪に銀色も混じりあった髪に周りの冒険者はいつしか彼の事を孤独狼(ローンウルフ)と広めていた。


 ショウが広場を渡り、ギルドへ向かう途中。ショウの存在が気に食わない冒険者がショウの道を遮った。


「おい、孤独狼(ローンウルフ)!待ちあがれ!」


 いきなり冒険者ギルドへ続く扉を遮られ、指を指されながら大声で喋る冒険者にショウも困惑の表情を見せていたつもりだが、外からは何時もと変わらない無表情であった。


「孤独狼…?ああ、俺の新しい二つ名か。まぁ、何か用か?」


 何故目の前にいる冒険者が興奮しているか全く分からないショウ。神眼で調べようともしない。


「ああ!お前あり得ない速度でBランクに上がったらしいじゃねえか!どんな奇妙な手を使ったんだ!?ああっ!?」


「…そっちか」


 ショウの表情が無からつまらなそうな顔に変わった。実際面倒くさい目で男を見ていた。


「お前が俺より強いはずがねぇ!そんな剣だけ装備した格好にBランクの役目が務まるわけがねえ!」


「成程…それで君はどうしたい?」


 外から聞こえてきた大声にギルド内部に居た冒険者も何事だ、と扉や窓ガラスから外を眺めるが。ショウの姿を確認した瞬間、「ああぁ…」とどこか同情する声が漏れた。


 その中には大樹灰のメンバーの姿もあった。


「決闘だ!今!ここで!一本勝負で勝敗を決める!お前が負けたら冒険者を辞めてもらう!」


 決闘と言う言葉が聴こえた瞬間、周りにいた他の冒険者から哀れな目線が集まる。


「決闘か。いいだろう。さっさと終わそう」

 

 無茶な要望に断ると思っていたがショウは決闘を承認した。

 しかし、観戦する気でいる周りの他の高ランク冒険者はショウから発せられる雰囲気が変わった事に気が付いた。


 目の前の男を殺すつもりだと。


 実際、決闘で相手の命を奪っても、殺人罪で捕まることも、犯罪奴隷に落ちる事もない。


 ただし、決闘の際。第三者が見届ける場所である必要がある。

 ショウはソレを満たしている。


 他の冒険者が目の前の愚か者を決闘を中止するよう説得している。しかし、男は興奮しており耳を貸さない。心配になった彼のパーティーメンバーが助けを求めギルドに駆け込んだ。


「いつでも掛かってこい。俺はここから動かない」


 完全装備に斧二刀流に対しても、剣を鞘から抜いたショウが余裕な表情で男を挑発する。


「ッツ!調子にこきやがって!?その腕!ぶちぎってやる!」


 哮え、腕を振りかぶりながら向かってくる男に、一歩も動かないショウ。


「ッふん!」


――ッギン!!


 金属同士がぶつかる鈍い音が鳴る。

 斧の二刀流で休まず攻め続ける男に軽々と防ぐショウ。


 そこにはレベル差以前の実力が存在したいた。


「ッくそ!死ねっ!」


 連続攻撃での効果が全く無いと判断した男が後ろに下がり。二つの斧を重ねる構えを取った。


「アックスバン!!」


 魔力を両斧に込め前に飛び、上空から振り下ろすように攻撃を振り下ろした。


「…」


 男が今一番で撃てる大技でも簡単に防ぎ、そのまま弾かれた。地面に落ちた武器を拾う事も無く、この状況に唖然とする男。さらに、ショウの戦う姿を見たことが無い周りの冒険者も驚愕していた。


 目の前で呆然とする男を横目にショウは上段で縦に斬る構えを取っていた。身体縦真っ二つにする。全員がそう理解した。


 剣を真上に持って来たショウが半歩振り込み、真っ二つしようとした瞬間。何処からか放たれた矢が振り下ろされていた剣に直撃し、攻撃を止めた。


 ショウが矢を放たれた方へ目線を向けると、建物の屋根に弓矢を構えたラ・グランジのギルドマスター。シノン・カータウェルの姿があった。


 観戦者である周りの冒険者が彼女の姿を見掛けた瞬間、一言も喋らず大人しく地面に膝を着いた。彼女は弓矢をショウへ構えたまま、語り掛けた。


「ショウ。いったいこれは何事さ」


 他の冒険者とは違い威圧が圧し掛かる。ショウ以外苦しそうに呼吸をとる。


 剣をくるりと回し肩に乗せたショウが答えた。


「何事って、この男から決闘を受けたから、終わらせようとしただけだ」


 威圧が更に重く圧し掛かる。建物全体が揺らぎ、ヒビが入った。


「成程、決闘さ?でもさ?目の前にいる男は殺さなくてもいいんじゃないのさ?彼はもう負けも認めているさ。なぁ?」


 そういって相手の男に問いかけるシノン。

 聞かれた男も首が取れそうになるぐらい上下に頷いた。


「ほら、そこの彼も負けを認めているさ。もう剣をしまってもいいんじゃないのさ?」


 何時でも矢を放つ構えを取り、ショウに伝える。


「分かった。元々俺はこの街を出るからその挨拶にしに来ただけだ」


 そう言うとショウは武器を締まった。だがシノンは今口に出した街に出ると言う言葉に疑問を持った。


「…何処に向かうのさ?」


「王都だけど」


 早々に次の目的地を伝えるショウに驚いたシノン。


「王都ねぇ。何しに王都まで向かうのさ」


 疑いの目でショウを見つめてくる。


「ん?勿論家を購入しに。…それじゃ俺は後数人挨拶をしたらもうこの街を出るよ。セリアに宜しく伝えておいてくれ」


 そういうと後ろを向き、そのまま大通りの方へ歩き始めたショウ。


「………」


 シノンはその背中を見つめたまま弓をショウの心臓の場所に狙いを定め矢を放った。彼をこのまま王都に行かせてはいけない。そう直感が告げていた。


 彼女のレベルに加え、弓術スキル、マジックアイテムの弓に魔力を込めた矢は音速を超え。周辺に衝撃波が起きり、彼女が放った矢は垂直の線を描き、ショウへ向かった。


「……え?」

 

 しかし、彼女が放った攻撃はショウの心臓に位置する体に当たった瞬間。何事もなかったかのように矢は威力と速度を失い。綺麗に長さを揃えた草の上にポロンっと落ちた。


 ショウは一度後ろを振り向くが直ぐに前に戻し、大通りの人混みの中へ消えていった。


「……嘘でしょ。あり得ない」


 屋根の上で呆然とするシノンの口から普段考えられない程の小さい声が漏れた。


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