第65話 破壊を望む者 その6

「ふぁ~ぁ」


 ハルロペ村を襲った盗賊団を無力化にした翌朝、睡眠を取る必要ない俺は自分の部屋に戻った後神眼で世界を眺めていた。

 ランキャスター王国から遥か遠くに離れたとある小国で起こっていたスタンピードを上空から観察していると。ナビリスからのおはよう念話が入ったのでスキルを解除した俺は部屋に設置された木製の小さな机に放り投げた服に着替え、剣帯を腰に装着し吊るした鞘の微調整を行う。

 最後にそこら辺の床に転がっていたコンバットブーツを持ち上げ履き、準備が出来た俺は部屋の扉を開き一階の食堂へ歩く。


 廊下の先の階段を下り、一階の食堂へ向かうと既に先客がいた。夜の襲撃から疲れが取れていないのか喉の奥まで見えるような、大きな欠伸をしている。


 大きな欠伸をしている所を俺が眺めていたのが見つかり、彼女は誤魔化すようにゴホンと咳をすると何事もなかったかのように話しかけてくる。


「コホン…っお!ショウにゃ、おはようなのにゃ!ショウもあまり寝れなかったのかにゃ?」


 丸テーブルに置かれた魚料理を美味しそうに食べているリディアの近くに腰を下ろすと、俺は忙しそうに働いている給仕係にオムライスとレモネードを頼んだ。


「おはようリディア。ダンジョン調査し甲斐がありそうな良い朝だな。それと、俺は十分に睡眠を取ることが出来たよ」


 本当は疲れない身体を持っているだけなのだが。


「そっか、私も気持ちよく疲れを取ることが出来たのにゃ」


 それほどまでにさっきの欠伸を無かったことにしたいのか。

 まあ、ここは惚けていよう。


「まあ村に怪我人は出たが、死者はいなかったことだしそれに、あの盗賊団にも討伐依頼が出されていたんだ。ダンジョンの調査も何事も無く完遂すれば報酬金額は増え、万々歳じゃないか」


 丁度頼んでいたレモネードがテーブルに置かれたので、グイっと口に入れる。うん美味い。


「それもそうだにゃ。それに盗賊団の頭は元Bランクの事もあって多額の賞金が付けられていたそうだにゃ。頭以外いも名が通った者もいたらしいにゃ」


「へー、王都に帰った時の報酬が楽しみだな」


 俺は金にそんなり興味を持っていない。カジノで短期間で莫大な利益を生み出しているし、創造魔法で金は幾らでも作れる。しかしその事を知っているのはナビリスと銀孤しか知らない。

 もし下界の住民にばれでもしたら即座に神界へ戻らなきゃならない、それも数千年単位で。それか他の世界に引っ越すか。


 っと、木製コップのレモネードを飲み干してしまった。そろそろ他の皆も食堂に降りてくるころだし、お替りは別にいいか。



 空は晴れ渡り、絶好のピクニック日和。あれから暫く装備に着替えた冒険者達も集まり、宿屋の裏庭に停めていた馬車に乗り込み、未報告のダンジョンが見つかったとされる場所まで馬を進める。俺達が宿屋から出ると、外で待機していた村人から感謝されまくった。昨晩盗賊団を討伐した後も過激に感謝され逆にこっちが引いてしまう程だったが、あれでも感謝しきれなかったらしい。


 馬車に乗り込んだ冒険者も感謝の言葉が飛びまくってくる外へ向かって手を振っていた、苦笑いで。


「ここから先は馬車では無理だな。っよし!馬は近くの木に繋げておけよ、結界魔道具の起動も忘れるなよ!」


 ハルロペ村から出発して凡そ30分ほどで、発見されたダンジョン付近の森に移動した。木が生い茂った深い森、一歩手前で準備を行う俺達の目の前に巨木の木々が密集し、漆のごとく森が黒い。雨上がりの木林に湿った落ち葉の匂いが漂う。


「準備はいいか?基本的に前衛は俺、ユーリ、ショウ。真ん中にロードリヒ、後衛にマギウス、カノン、リディア。だがダンジョンでは罠察知に長けたリディアを先頭に進む手筈だ」


「分かりました」


「了解」


「分かったわ」


「我々に与えられた試練に神のご加護を」


「…」


「了解にゃ~、罠は任せるのにゃ!」


 それぞれが返事を返す中、俺以外の6人は己の武器を確かめ始める。防具の位置を微調整、ポーチやマジックバッグに入ったポーション類の確認。武器の握りと繋ぎの部分を点検し、予備の武器にはオイルの様な何かを塗り付ける。


 何もしないで突っ立っている俺に怪訝の視線が集まるが、実際に武器等を確かめる必要も無い。

 まぁなんやかんやあったが、俺達は森の中へと足を踏み入れた。


 森の中は、静まり返っていた。森の中だと言うのに、生き物、魔物の鳴き声が全くしない。

 俺達が落ち葉や、落枝を踏みつける足音だけが森に響き渡る。


 まるでこの森に住まう生き物全てが何かに怯えて声を潜めているように感じられる。


 他の冒険者も俺と同じ違和感を感じたのか、慎重に前へ進む。


 生い茂る木々の枝に阻まれて、太陽の光が差さずに周囲は薄暗い。


 そして、そのまま前へ進むと俺達は開けた場所に出た。


 巨大な樹木に覆われた空間、その開けた場所の中心にポカリと大穴が空いていた。あれが新しく発見されたダンジョンへの入り口で間違いないだろう。

 先頭を進むゴウテツは慎重に近付き、幅5メートル程あいた穴を覗いた。下へ続いた階段が見える。


「ここか報告に示されていたダンジョンへの入り口だな。っよしお前らここからが本番だ!リディアは俺達の前を移動して罠を確認したのち逐一俺達に伝えてくれ、ダンジョン内に潜んでいる魔物の種類は現時点では不明だ!気ぃしばっていけ!!」


 それから入り口付近で十数分休憩を取り、リディアを先頭にダンジョンの中へと入っていく。


 階段を降り切った俺達一行は、生活魔法の「ライト」で浮かべた揺れる光の玉を頼りに薄暗い洞窟を進んでいた。


 暫く一本道を歩いていると、道が途切れ小さな広間に出る。肌に触れる空気はじめりと湿り、灯りの届かない周囲は静寂の闇。呼気と足音と鎧の擦れる音だけが繰り返す中、俺達は何となく顔を見合わせて、下へ繋がる広場を目指して歩き続ける。


「魔物の気配を感じ取ったにゃ!気を付けるのにゃ!」


 地下へ降りて一つ目の広場を抜け、洞窟を進む事暫く。土や岩が剥き出しになった通路の先に新たな広場らしき空間が広がっているのが見えた。


 すると突然、先頭を歩ていたリディアが魔物の反応を探知したらしく腰を低く下ろし、両手に持った短剣を構える。


 彼女の言葉にそれぞれ手に持った武器を構え奇襲に備えて辺り一帯に目を配らせていた。高ランクの上級冒険者でも、未登録のダンジョンでは十分に慎重に行動している。それもその筈、もしかしたらこのダンジョンに出てくる魔物全てがSランクに設定された魔物の可能性があるからだ。


「…ゾンビか」


 この状況でも非常に落ち着いたゴウテツは両手斧を構えて前方を見つめている。前に出現した魔物の名を唱える。ゾンビと。

 シルエットの様に浮かび上がり、光源に近づくにつれて輪郭を現した複数のそれは、人の姿に酷似した蠢く物体だった。


 ゾンビ共も俺達の生命を感じ取ったらしく、のろのろと此方へ向かって歩いてくる。


 切り裂かれた身体部分から腐った内臓や骨が露出し、強烈な腐臭が広がってくる。


「臭ぇな、ロードリヒ。聖魔法で奴らの浄化を」


「畏まりました。我らの神よ 聖なる魔力で 汚れた魂の 救済を…」


 ゴウテツの命令で聖魔法使いで回復が得意ロードリヒが首に捧げた十字架を前に出し詠唱を始めた。


「聖輪(ホーリーリング)!」


 魔法を唱えるとゾンビ共の周りに輝く光の輪っかが広場を照らし、範囲内にいたゾンビ全て消滅していった。体内に埋め込まれた魔石を残して。


「ゾンビが現れたって事はこのダンジョンはアンデッドダンジョンか…面倒だな」


「そうだね、最悪リッチやファントムナイト、スケルトンドラゴンと遭遇するかもしれない。もしノーライフキングとかと出会ったら即座にあの世行きだね」


「それは…最悪だな。アンデッドダンジョンのスタンピードでも起こったら正に災害だな!」


「ゴウテツの言う通りね、それならダンジョンコアを壊した方が良いわね」


 ゾンビを消滅した広場に入ると一ヵ所に集まり今後の話し合いを始める。

 余談だが、今ユーリが出した魔物は全てAランク、Sランクに匹敵する。

 つまりSランク魔物であるスケルトンドラゴンに対抗するにはSランクパーティーをぶつけるしかない。


 まぁ運悪く出会っても今回は俺が何とかするけど。


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