第18話 Bランク昇格試験 その2
冒険者ギルドの出口から外へ出てきた外見は青年ショウ。彼は寄り道などせずそのまま宿泊中の高級宿へ戻り、カウンターで一週間分の延長料金をその場で払い、寝泊まりする自身の部屋に戻った。寝室に行き、担いでいた鞄をそこら辺の床に置き捨て、ベッドに脱いだパーカーを放り投げ、そのままベッドに飛び掛かる如く倒れ込んだ。
『CランクからBランクになるまでが早かったな。全然依頼などこなしていないというのに』
『Bランクパーティーでも討伐が難しいとされるオークキングを単独で討伐でもすれば、Bランクに直ぐにでもなれますよ、ふふ』
ナビリスは難儀にもショウの愚痴に答えてくれた。彼女の言う通りであるが、もう少しCランク冒険者の時間を楽しみたかったショウ。
『それで昇格試験があります三日後までどうするの』
「(うーん。試験の日まで塔に登るのもありだが…)」
『そうだな、折角だからこの街をぶらぶらしながら観光しようと思う。何か神眼では見つけていない発見があるかもしれない』
『分かったわ』
ベットから起き上がり、先程脱いだパーカーを着ず、シャツに、デニム。そしてコンバットブーツに剣を装備しただけで部屋から出た。
道中、常連客となりつつある大通りのコーヒーショップに寄りお持ち帰り用のコーヒを頼み、それを飲みながら街中を探索し始める。
彼は意外と自らの目で眺める景色にハマっている。
『ショウ、気づいてる?』
『ああ、後ろから四人、建物の上に二人だろ』
『ええ、そうよ』
薄暗い裏通り、通称スラム区と言われたいる西区に足を踏み入れた俺の後を付いてくる気配を捉える。魔力探知スキルを使わなくとも反応出来る、とてもお些末な気配。
折角なので、暇つぶしに逆に誘うこととなった。
迷路の様に入れ組んでいる西区の裏道を歩き進み、目の前に大きな壁が立ち上がっている場所までやって来る。
周辺に誰の人影が居ないことを確認したら、後ろに事前動作も無しに振り向き未だ背後を付けている者達に声を掛けた。
「そこに居るんだろ。出てこい」
声を掛けたが何も反応が無かった。
暫くジッと待っていたら建物の陰から薄汚いローブを顔もすっぽり被った四人の武器を構えた男達が現れた。屋上に居る二人は隠れたまま出てこない。先に四人の処理を終えてからで良いか。
「俺に何か用か?長い事俺の後を付けていたが?」
「……疾速のショウだな。残念だがここで死んでもらう」
問答無用で殺すか。見た感じは暗殺者…。俺を名を指名した輩が存在するのか?ふむ、一人は生き残して過去を読み取らないとな。
「そうか、それじゃ呑気に構えてないで掛かって来いよ。周囲には俺達以外誰も居ないぞ」
腰に差した武器を抜き、剣先を彼等に向けた。それが合図となり、両手に短剣を構えていた暗殺者がこちらへ向かって来た。
――キンッ!
金属同士の甲高い音が響く。奴らの短剣に何か紫色の液体が垂れ流れている。毒類か。
「…ッシュ!」
鋭く声を掛けながら、俺の首を狙い放ってきた鋭い攻撃を首の皮一枚分躱し、カウンターで一太刀に両手を斬り落とし、そのまま動きを止めた暗殺者の腹を蹴り、数メートル先の壁にぶつけ気絶させた。他は殺して大丈夫か。
無傷で仲間の一人を無力化に一瞬戸惑った暗殺者だが即座に二人が俺に動き出し、残りの一人が無力化された仲間の命を奪うため攻撃を仕掛ける。更に上から監視をしていた仲間が俺に向けて針を放ってきた。針にも猛毒が塗られている。
飛んできた針を素手で掴み、俺の正面まで迫って来てた暗殺者の額に向けて、目に見えない程の速度で針を指だけの力を使い投げた。
スナップを掛けて投げられた針の速度に反応することが出来なかった暗殺者は、避ける事すらなく、額に小さな穴を開けこの世から去った。
俺に向かって突撃をしていたもう一人の暗殺者も自ら気が付かずに体が二つに分かれていた。
口封じの為無力化された仲間を殺そうと、毒が付いた短剣で彼を突き刺そうとした暗殺者。瞬間、何故か体が動かない。力を振り絞ってもビクともしない。段々視点が上に向き始めそのまま真後ろを見て理解した。
「(ああ、首から上が無い)」…と。
血が付いた剣を地面に向け振り払い、鞘に納めた。俺が針を掴んだ時から、建物の上から離れていた、残りの暗殺者の元へ転移した。
「「ッ!?」」
いきなり目の前に現れる俺に声は出していないが驚いた表情を見せる二人の暗殺者達。
「じゃあな」
――雷魔法発動「稲光(スパーク)」
別れを告げれば二人を指さし、魔法を唱えると人差し指から閃光が輝き、彼等の全身を貫き生命を停止した。
『お疲れ様ショウ。未熟な暗殺者でしたね』
『…まぁな、それより生き残した者に雇い主を聞きに行こうか』
『そうね。うふふ、星を管理する神を殺すよう雇った愚か者はどんな人物なんでしょうね』
大体想像は出来るが…。何も言わずに黙っておこう。
「ッぐ!クソっ!痛えぇよぉ!何が普通の中級冒険者だよ!化物じゃねぇかよ!」
両手は無くしたが、目を覚ました暗殺者がどうやら緊急用に持っていたポーションで血を留めたようだ。
「よう。調子はどうだ」
そこに後始末を終えた転移で戻って来た。
「っツ!!こ!この化物が!俺の仲間を全員殺しやがって!!」
おいおい、その仲良しお仲間達が君を殺そうとしたんだが…。まあ、いいか。
「ふーん。それじゃ君達を雇った人物を教えてもらおうか」
「し、知らねえよ!!金を持ってそうなお前を殺して、金目の物を奪おうとしただけだ!」
尋問するのも面倒だし。手っ取り早く神眼で過去を見るか。
……。
「ほーデニスのパトロンがお前達を雇ったのか。俺だけじゃなくシノンや、火竜の牙も暗殺対象か。おーおー思い切った事を」
「っつ!な、何故!そのことを!?」
デニスの名を出した瞬間狼狽え始めた。体全身が震え、歯をカチカチと鳴らし、挙動不審になった。
「そうか。それじゃ、お勤めご苦労様」
「ま!待ってくぅっ…!」
最後まで言えずにこの世から去った。
シノンは心配しなくても平気だが。火竜の牙、特にローザが気になる。
まぁあいつ等も腐ってもBランクパーティー。暗殺者の10人、20人位問題ないだろう。
『ナビリス。暗殺者を雇ったパトロンの名を』
『畏まりましたアカシックレコードを読み込みます。……分かりました。名前はジェイミー・フォン・ルイベル男爵』
『男爵か。どんな奴だ』
『過去を読み解きます…。違法麻薬の栽培、売買、非合法奴隷狩り、税の横領、更にバンクス帝国への情報提供。一言で言うとクズです。それに嫡男の長男も関わっていますが、何も知らない次男は領地に住まい周囲から有能と言われています』
『そうか。なら仕方ないな』
爵位は低い男爵当主一人位消えても国の痛手にはならんだろう。
――無魔法発動「確定(ロックオン)」
神眼で見つけた二人の首を指定し、無属性魔法でロックオンした。
手を真っ直ぐ垂直に伸ばし、横へ振った。
『さて、宿に戻るか』
『ええ、分かったわ』
ラ・グランジに建てられたとある貴族の別荘に二人の男性が酒を飲みながら、笑い声を上げていた。
「はっはっはっは!これであの憎たらしい平民どもが死に、そして疫病神のシノンも死ねば。あのギルドは我達が管理することになる。つまりあの塔を我が物になったもの同然!はっはっは」
「ははは、父上の言う通りです。あの忌々しい冒険者が塔から得た財産や素材が私達の所有権になりますゆえ」
「その通りだ我が息子よ。流石儂が認めた時期男爵当主!…いや、塔の権利の一部を所有した暁には、伯爵に陞爵も夢ではない!例え公爵閣下でも口出し出来ないだろう!」
「おお!流石父上!では私も次期伯爵当主とし…て…」
「うむ?どうした我がむす……こ」
二人の首が毬の様に飛んだ。手に持っていたワイングラスを盛大に落とし、その割れた音に扉の外で護衛をしていた兵が疑問を持ち、ノックをするが返答が無い。
恐る恐る扉を開けるとそこには。先まで笑い声が聞こえていた二つの死体であった。床に飛び散る、血だらけの絨毯が出来ていた。その血の絨毯の中心には丸い何かが、二つ転がっていた。
調べると二人の首は分厚い刃物か何かで切断された跡があった。
だが、不思議なことに部屋で争った形跡が全く無かった……。
急遽当主を継いだ次男は真面目に貴族の義務を果たし始める事となった。
めでたしめでたし…。
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