第17話 Bランク昇格試験その1

 指名依頼を完了してから既に5日が経っていた。

 あれから俺は相変わらず一人塔に挑戦し苦戦することなく第27階層まで登っていた。面白い事に第21階層から洞窟では無く、森やジャングルのフィールドが形成されており。

 出現する魔物も昆虫系や獣系、それにトレント系になっていた。その他に、毒を持った果実や、近づいただけで麻痺させる花も在った。


 その他に、何処から広まったが知らないが俺が一人でオークキングを討伐した事が広まり、パーティーに誘られる回数が度々増えていた。勿論全部断っているが。


 それとクビになった元副ギルドマスターデニスが、金で雇ったならず者を集め、夜中にシノンの屋敷に襲撃を仕掛けた。しかし門番をしていた兵士ただ一人によってデニスを含めた全員捕縛された。

 話に寄ると門番をしていた兵士は、元々王城に勤めてた引退した近衛騎士団副団長だったらしい。


 シノンは初代国王の曾孫だが、一応王家の血が流れる王族なので、王族暗殺未遂として次の日に大広場で全員処刑された。デニスは民から石を投げつけながら処刑が実行される寸前まで無実を主張していた。


『おはようショウ。もう朝ですよ』


『ありがとうナビリス。今日も良い天気だね』


 習慣となった召喚された勇者たちの訓練を眺めてたらナビリスからのモーニングコールを貰った。

 勇者たちは昨日から魔法を学び始めた。魔法の練習をしてた彼等の目が輝いていた。やはり日本人は魔法に憧れを持っている。


 俺も魔法を初めて唱えた時は興奮したが、今では剣で敵を葬る方が楽だ。


『今日も塔を登るの?』


『そうだ。意外と楽しいからな』


 神界で挑戦した塔では休む暇さえ無かった。魔法で異次元を作りそこに隠れようとしても、魔物が異空間から俺をごり押しで引きずり出した事もあった。あの時は正に地獄だった。


 ベットから降り、バスローブを羽織ったまま大理石で作られたテーブルが置いてあるリビングまで行き、フカフカのソファーに座り、インベントリからミニチュアのドリンクバーを取り出し、テーブルの上に置いた。


 四角の形をした箱に、ドリンクの絵柄とボタンが数十個付いている。箱の上には魔石がはめ込まれ、魔石を中心に魔法陣が刻まれている。


 これは神界で作った時空魔法が付与されたドリンクバー魔道具だ。ボタンを押し、どれだけ選んだジュースを出し続けても無くなることは無い。


 キッチンから持ってきた銀製のグラスをドリンクバーの開いた隙間に入れ、マウンテン・ドゥーのボタンを押すと、ジュースが流れ始めた。丁度いい量になったところでグラスを隙間から取り出し、キンキンに冷えている炭酸飲料を一気に飲み干した。


 神に汚れやごみは付かないが、何となく口周りを生活魔法「クリーン」で綺麗にし、座ったままの状態で、空になったグラスと空中に放り投げた。

 空中に投げられたグラスは、回転しながら元の場所に在った位置にピンポイントで止まった。


 服を着替え最後に剣帯を装備し、宿から出て塔へ向かった。大通りを歩いている途中度々俺の姿を様々な感情を露わにして、見てくる。


 尊敬、恐怖、嫉妬。そして、殺気。

 色んな感情を俺に当ててくる。それら全てを無視して中央へ歩き進めた。


 塔正面の広場で数人の冒険者達から彼等のパーティーに誘われたが全て断り、入り口へ入った。


 相変わらず祭壇のてっぺんに置かれた巨大な女神像に祈りを捧げてる神官、巫女や、修道女達を通り越し、傍に大きく開かれた横穴に進み、空中に浮かぶ水色の臨光を放つクリスタルの広場まで来た。

 クリスタルに手を差し出し、第25階層に転移した。


 21階層から森フィールドに変わって以降、30階までフィールドは変わらないらしい。しかし、同じフィールドでも上に登る度に難易度は高くなる、とルトから聞いていた。


 25階は中級冒険者にとって良い稼ぎ場所らしい。ちらほらとパーティーを組んだ冒険者達が魔物を狩り、貴重な薬草や、素材を収集している。


 目の前に半透明の地図を出現させ、襲ってくる魔物を一撃で屠りながら階段がある奥まで進んだ。


 適当に倒した魔物から出現したドロップアイテムをこの前寄った道具屋で購入したバックパックに入れながら第30階層に辿り着いた。階段を上がったすぐ傍に置かれた石碑に魔力を流し、ギルドカードに登録した。そして門番がある空間へと繋がる巨大な扉を開き、その中に入っていった。


 円型の広大な空間に入り数メートル進むと、開けた扉が勝手に閉まった。そして中央部分の地面から魔法陣が輝き始め、収まるとそこにはさっきまで無かった巨大な一本の木が出現していた。


 ――エルダートレント。

トレントが進化した魔物であり、Bランクパーティーすら討伐には時間が掛かると言われている。


 木の真ん中から口の様に大きく開き叫び声を上げ攻撃を開始した。

 周りの枝を動かし、ショウの身体を串刺しにしようとしたが、ショウの姿はそこに無かった。彼は既にエルダートレントの根元へ転移しており。手を表面に触れ、魔法を唱えた。


――火魔法発動「火(ファイアー)」


 火魔法レベル1で覚えられる魔法、ファイアー。普通のファイアーはバーナー程の威力しか出ないが。ショウが唱えたファイアーは一瞬にしてエルダートレント全体を焼却させた。


 もしこの場面を普通の魔法使いが見たら仰天している事だろう。


 HPがゼロになったエルダートレントは地面に段々吸い込まれれていき、代わりにドロップアイテムの魔石、高価な素材となるエルダートレントの枝、それと宝箱を落としていた。


 門番を倒すと必ず宝箱を落とす。運が良ければ、レア鉱石、宝石、魔剣、魔道具や強力なマジックアイテムなど。

 ある召喚された勇者はこの塔で門番を倒した際に現れた宝箱から、どんな傷や病気を治せるエリクサーを見つけた。勇者は見つけたエリクサーをランキャスター国王に上納し、その見返りに貴族位を貰った話も存在する。


 それと門番が落とした宝箱には罠は掛かっていない。


 ドロップアイテムである魔石とエルダートレントの枝をバックパックに入れ、出現した宝箱まで向かい、箱を開けた。中を見るとそこには青く光る金属で出来たガントレットであった。一目見て珍しい鉱石を使った素材で作られており、指先から前腕部が覆われ強い防御力を誇る。外見も全身が青白く輝き、金色と赤色の線が交互に交じり合っている。


 神眼を使いこのガントレットを鑑定した。


 鑑定した結果、このガントレットには素晴らしい防御力と能力が備わっていた。


 素材は純ミスリルで作られ、それを装備した者のステータスも上げる事が出来る優れものだ。

 ガントレットを手に持つと、まるで空になったペットボトル程の重さしか感じない。


 …まあ勿論これも売るけど。


 奥に設置された階段を上がり、31階に上がったすぐ傍に置かれた石碑に触れ、1階層に帰ってきた。

 ギルドカードにちゃんと登録した階層を確認し、女神像を見ないよう外へ出た。


 冒険者ギルドへ向かい開けっ放しと扉を潜り、俺がギルドに来るたびに忙しそうに働いているセリアの列に並び俺の番になるまで待った。


 そう長く掛からない内に俺の番になった。


「おはようございますショウ様。本日は何の御用でしょうか」


 何時もと変わらない丁寧な対応をしているが、隠せていない。彼女の顔には少しだけ恐怖の感情を表情に出している。


 数日前聞いたがラ・グランジ冒険者ギルドマスター、シノン・カータウェルは国民から英雄と言われ、今でもSランク冒険者として活躍しているらしい。そうだな、昨日彼女の攻撃を楽々に素手で受け止めたからな。セリアからしたら不気味に思うか…。


「今日は第31階層まで登って来たから素材の換金を」


「え。も、もう31階層に辿り着いたのですか?あ、あり得ません…。畏まりました、ではお売りになる素材の提出をお願いします」


 31階の数字に驚いていたな。そう思いながら背中に担いでいたバックパックから、今日入手したドロップアイテムの素材や魔石をカウンターの上に置かれたトレーに乗っけた。エルダートレントの枝を取り出した瞬間、「ほ、本当に30階層を撃破したなんて…」と言う小声が聞こえてきた。勿論聞こえていない振りしましたよ。


「あ、それと門番が落とした宝箱から拾ったこのガントレットも売るよ」


 最後にエルダートレント撃破後に拾ったガントレットを置いた。ガントレットを見た瞬間彼女の目が点になった。


「は…?あ、あのーショウ様?本当にこのガントレットを売るつもりでるか?ん?」


 ちょっと素が出てきた。


「そうだ。鑑定が終わるまでそこら辺で待っているよ」


「…畏まりました…はぁ~」


 あらあらため息まで出しちゃって。


 15分程、何時もより少し長い時間を待っていると奥の通路から鑑定を終わらしたセリアがこちらへ走ってきた。


「ショ、ショ、ショウ様!す、少しお時間宜しいでしょうか!?て、いうか来て!」


 そう言いながら俺の手を引き前回と同じ会議室に通された。


「……コホンッ。先ほどは失礼しました。興奮していたもので」


 落ち着いたのか頬を赤くしながら謝ってきた。


「気にしなくていい。それよりどうした?」


「どうしたってねショウ!……いえ何でもありません。先ほど鑑定が無事終わりました。まずこちらがエルダートレントの枝を含めた素材と魔石の料金となります」


 そう言って部屋に置いてあった袋から、白金貨1枚、金貨4枚、銀貨59枚を渡された。


「確認した」


 ちゃんと彼女の目の前で数を数えバックに入れた。


「それで…あのガントレットですが…本当にお売りになるのでしょうか?」


「ん?ああ、勿論。何か問題でも?」


「い、いえ!あのガントレットは素晴らしい物だったので念の為に確認と」


 あれより良い装備なんて山が出来る程インベントリに入っているからな。


「それで…あのガントレットの金額は白金貨6枚となります」


 俺が泊まってる宿の普通部屋6日分か。まあまあだな。


「分かった。その金額で良いよ。他に何かあるかい?」


「はい…ショウ様には是非Bランク昇格試験を受けてもらいたいです」


 Cランクになってから一つしか依頼を受けただけで、もう昇格試験?あんまり早すぎないか。


「昇格試験?しかし俺は全く依頼を受けていないが?」


「はいショウ様の言う通りです。しかし、普通のCランク冒険者がソロで第30階層に辿り着ける程神の試験は甘くありません。さらに門番を倒すなど不可能です」


 それで俺のランクを無理矢理でも上げたい訳か。


「分かったその昇格試験を受けよう。日時と内容を聞いても良いか?」


「ありがとうございます!集合場所は南城門前、時間は今日から3日後の朝となっております」


 火竜の牙と出会った場所か。


「それで…内容は盗賊アジトの殲滅です」


 うん?意外と簡単だな。てっきりワイバーンの討伐とか思ってたが。


 俺の疑問を感じたセリアが続けた。


「Bランク冒険者には貴族から、更に王族からの指名依頼が増えます。勿論危険な依頼や、裏の仕事等、戦争の強制参加まで。簡単に言いますと、この昇格試験で人を殺せるかどうかです」


 成程そういう理由か。冒険者システムもちゃんとしているんだな。


「分かった参加するよ。それじゃ三日後に金のギルドカードを用意しておいて」


「ふふふ、畏まりました。余計かもしれませんが、ご武運を」


「ああ、ありがとう」


 彼女からガントレット分の金を貰い、席を立ち通路に出た。入り口に向かう途中、俺とセリアに嫉妬したチンピラ冒険者が近づいてきたが、誰にも気が付かないよう意識を奪い、毎回同じテーブルに座って俺の事を観ていた『(大樹灰フォレストダスト)』に手を振りギルドから出た。


 …勿論彼等から無視どころか顔を逸らされたよ。

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