第115話 旅の終点

 要塞から魔都市を一直線に引かれた魔導列車に乗車したショウ達王国使節団、彼等は一度中間地点であるリコリスの都市にて一時停車した列車が再運行するの待つことなったので、その間小休憩を取ることになった。


 駅に降りたショウをちょこちょこと背後に着いてくるオーレリアを上手く誘導して姿を巻いたショウは近くの歓楽街へ向かうとナビリスや銀弧が好きそうな贈り物を選ぶ為、道具屋、ドールショップ、ブティック、最後に書店等の店を廻り、適当に選んだ小物を数点購入する事を繰り返せば駅の方面からアナウンスが聞こえてきたので、短き時間を存分楽しんだショウは駅に戻り係員に切符を見せると元の列車に乗った。


 前と同じ席に戻るショウの目に映ったのはプクリと頬を膨らませたオーレリアの姿が窓側の席に座っていた。如何にも「私、不機嫌です!」と訴える目で彼を見つめるオーレリアだったが、彼女の足元を見れば先程購入したのであろうワインレッドのドレスが入った紙袋が置かれている。良く見れば紙袋に印刷されたブランドロゴは先程ショウが贈り物を購入したブティック店のロゴ。


 目線の先に向けられた品に気付いたオーレリアは膨らませた頬を戻すと、そそくさと隠す様に紙袋を頭上の荷物置き場に移動させた。


「どうしたの狼さん?私をジロジロと見つめて。も、もしかして恋に落ちちゃったとか?」


 周囲に聞こえる程わざとらしく音量高めで話す彼女に表情を一切変えないショウは「何でも無い、肩にゴミが付いてるぞ」と言い、大人しく窓側に腰を落としたオーレリアの隣に座る。


 暫く経った後、点検が終了したとアナウンスと列車内に響き渡りその数分後『――発車いたします』と放送が終われば駅と町中に鳴り響くばかりに、けたたましくベルの音が轟く。更に、その音に負けじと汽笛が声を高く上げて動き始める車輪。そのまま段々と速度を上げていきあっという間に窓から見える街は視認できないほど早く後方へと流れていった。


 ――それから約数時間、魔都の駅ホームに到着するまでショウは書店で購入した魔導国の歴史書を片手に一ページ一ページ字を追いながら、横に腰を落としたオーレリアからの質問攻めにのらりくらり躱してれば『ピンポーン』と車内放送の開始の音が皆の耳に入り込んでくる。


『まもなく当列車は魔都ガヘム駅、ガヘム駅に到着します。お忘れ物の無いよう、ご注意下さい。当列車は貨物出向のためしばらく停車いたします。10分程お待ちください』


 アナウンスが終わり間もなくして車輪のブレーキ音が床下から鳴り始め、速度を段々落としながら駅へと到着する。完全に停止した列車はエレニール王女を始め、王城で務める外交官、役人等、守護を任された騎士達が乗る第一車両の扉が開く。暫くした後、ショウ達冒険者が乗り込んだ扉も開き、自分の荷物を手に取ると席から立ち上がり列車から降りた。


 程程の大きさを誇る駅ホームに到着した大国ランキャスターの王族の中でも有名なエレニールの姿を目に焼き付けようと結構な人数が集まり、距離を置いた所から無数の視線が集中する。幼い時から自分に向けられたエレニールは兎も角、平民生まれ多数占める冒険者は集まる視線に何処かギクシャク身体を動かし、顔が緊張で強張っている。例外なのは人智を超えたショウと、彼の右斜め背後に立ちすくむオーレリア位のみ。


 すると、ホームの一角から誰もが見ても一目で高位魔法使いだと分かる首まで隠れた立派な髭を蓄えた老人がエレニール達へ歩み寄ってくる。ギリギリ地面に届く純白のローブには金糸の刺繍が施され、胸元に掛けて首からぶら下がった高純度の魔石を加工したアミュレットの周りをサファイアが囲んでいる。


 ウエストに巻いた高級感溢れる黒革のベルトポーチに差した長さ26センチの杖に秘められた圧が周りに威圧感を与える。

 エレニールを守らんとする騎士が彼女の前に進みだすが、それを手で制した。


「ようこそ魔導国へお越し頂き誠に感激の極み。初めましてエレニール王女殿下。魔導評議会に席を置きます金剛石級魔術師、ギィーシャベルト・ロロトロシィと申します、以後も良しなに」


 金剛石級魔術師ギィーシャベルト・ロロトロシィ、と名乗った老人は優雅な動きで礼を取った。


「議長自ら出迎え誠にありがたく思う魔術師ギィーシャベルト殿。早速だが案内を頼みたい」


 突如現れた大物にも全く動じないエレニールに老人特有のニコニコした表情を表に出して「ええ、魔導馬車の用意は出来ております。此方へ」と言うと、背を向け元来た道に歩き始めた。


「隊長、では予定通りに頼む。後で伝令を走らせる」


「っは!」


 近くにいた兵隊長に命を告げたエレニールはそれだけ言うと、外交官等含めた数名を連れて駅構内を抜けて外へ出ていった。


「冒険者の諸君、長旅の同行感謝している。ここ時点で依頼達成とする!」


 命令を受けた隊長は冒険者が集まる一角に早歩きで向かってくれば、いきなり告げられた依頼の完了にざわめきを見せる。


「達成料金は既にギルドに預けているのでこれより全員に手渡す書類を持ってギルドへ向かってくれ!ご苦労であった!後は各自自由にしてくれて構わない!以上だ!」


 急な展開であったが、冒険者が文句を言う前に何処からか取り出した分厚い紙束を手に持った隊長が次々と集まった冒険者に周り書類を渡し始めた。


 最後となったショウの前に隊長が立つと彼に書類を渡しながら顔を近づけ小声で話しかけてきた。


「殿下からの伝言だ。『冒険者ショウは即座にギルドへ向かい、カウンターで預けた手紙を受け取れ』と。それ以上は私も知らない」


「分かったと伝えてくれ」


 紙を受け取ったショウは了解と頭を頷く、しかし彼の言葉使いに気に食わなかった隊長はそれ以上何も言わず歯を食いしばって睨みつけ最後に舌打ちを付いてショウから離れていった。


「(さてと、ナビリス達が気に入りそうな土産を探さないとな)」


 しかし、ショウは相変わらず能天気であった。

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