第148話 大野外演習その14
「負傷者は治療部隊まで下がれっ、範囲攻撃魔法に巻き込まれるぞ!警戒を怠るな直ぐに三波が来る!1年は後衛でポーション類の確認。2年3年は篝火の明かりを灯しつつ上級生のサポート!4年は破壊された防御壁を確認後、魔法で修復。限界まで魔力で固めろ!魔獣が抜ければ大被害を受ける!上級年は魔法詠唱の構え!」
一段高い木箱の上に立って全体を見渡す指揮を取ったグレイシア先輩の凛とした声で続々告げる命令を他の生徒達が指示に従って行動を起こす。
第1、2波の襲撃で傷を負った生徒は大人しく後ろに下がり、治療を終えて休息を取らせていた生徒達と交代する。
杖を構えた4年生は土魔法を唱えて地面から厚さがある土壁が盛り上がって、崩れた箇所からより頑丈な壁が生成された。
生徒達を囲むように聳え立つ土の壁が破壊でもすれば経験が乏しい低学年の者達はゴッソリ魔物の餌になってしまう。
「(あの先輩、参加しても危険は無いって言ってたのに!嘘つきっ、今絶賛後悔真っ只中だよ!)」
奥歯を強く噛み、腹の内に恨み言をごねる。ただの屁理屈に過ぎない。けれど実際問題、感性を研ぎ澄まして集中力を高めないと生き残れない状況なのは心では分かっている。
「ヴィオレットは私と同伴で前に出るぞ!貴女の持つ魔力総量は私達の助けになるわ。次の魔獣湧きを掃討したら、この異変を引き起こした元凶を叩くわよ。覚悟を決めなさい」
「りょ、了解です…」
「っと、足元が揺れて来たな…来るぞ!」
木を引き倒す音が此方に響き渡り、地響きが足元より体に伝わってくる。魔獣の群れが押し寄せてくる音だ。こっちに向かってきてる証拠。
ホルダーから抜いた杖を構え、引き締まったグレイシア先輩の言葉に私は只頷くしかなかった。魔力量とレベルは高くても、私まだピッチピチの12歳なんだよ!
「(なんでこんな事になったのよおぉー)」
後悔しても既に過ぎ去りし時は戻らない、事の始まりは昨日演習が開始した直後まで巻き戻す。
打ちあがったファイアボールと共に森へ掛け走ったとのはいいもの、地図も持たない状態で奥地手前の古代遺跡まで足を伸ばすのはとても危険らしく。初日は白紙に魔法ペンで地図を作製しながら時間を掛けて場所へ向かって歩み始めた。
野外活動未経験者が数人いた事もあって、小休憩を頻繁に取って負担の少ない行軍を心掛けていた。
移動距離を考えると、初日から疲労と体調不良で負担を増やすのは避けたい事態。先輩から説明されたらとても納得できる理由だ。現に此方を睨め付ける不良少年ケビン先輩も不満顔で眉をひそめるが、文句は言ってこない。
護衛係のA級冒険者ショウさんは始まりの合図後、木の上に飛び上がり霧の様に気配が薄れてやがて消え去った。彼が起こした芸当は高等テクニックだったらしくグレイシア先輩以下ケビン先輩もが驚いた表情を見せていた。
「グレイシア先輩。先輩は去年も野外演習に参加したのですよね?前回発表された実習の内容も同じだったのですか?」
地面に集まった落ち葉を踏み音が続いた頃、コンパス手に何度も周囲を見渡して指標となる目印を発見すればそれを地図に書き込む先輩に一つ、私は気になった事を私が聞いてみた。
「ん?…ああ、ヴィオレット嬢は知らないのか。学園が主催したこの野外演習は例年行われているけど、同時に開催場所や戦うことになる魔物の種類は毎年によって違うの。例えば去年は近くの攻略済みの初級迷宮に挑んで、迷宮に生息する魔物を討伐しながら五日間で定められた最下層まで潜り込む課題だったわ」
「へぇー各年によって違うんですね、納得しました!」
「いい子よ。初日は地図作りと口に出来る食料探しを主に行動して、本格的な移動は二日目の午前からね。勿論討伐対象の魔物を見つけ次第、魔法を撃っても良いわ。くれぐれも誤射には気を付けてね?」
「はい!」
元気たっぷりの返事を送れば、頬に小さい笑窪の出る微笑みを見せた先輩に頭を一撫でされた。嬉しい!
初日は、他の先輩方と交流を深めつつ目的地までの最短ルート模索していれば、耳に伝わってくる流れる水の音を頼り、やがて川沿いに出た。
周囲を探知魔法で生命体を探せば群れからはぐれたゴブリンが一匹、呑気に川の水を飲んでいる場面に出くわした。
まだ私達の気配に気づいていない、チャンス!
「(水の魔力よ我の敵を穿け『ウォーターア』――)」
手にした杖をゴブリンへ向けた私が水魔法水矢ウォーターアローの無言詠唱を唱え終わる直前、横から人の形をした影が正面に飛び出してきた。
思わず詠唱を中断した私は急に飛び出てきた人を怒りをこめて睨みつける。
しかし、既に遅かった様子。
「弾き飛べっ『
魔法を唱えたケビン先輩の右拳に燃え盛る真っ赤な炎が纏うと彼は勢いよく地面を蹴って振り上げたその拳を無防備に水を飲むゴブリンの後頭部へ振るった。
重々しい響きと共に頭部が消し飛んだゴブリンの肉体はぐらりと膝から崩れ落ちる。
「っふん!ゴブリン如きに余計な魔力を消耗しちまったぜ。俺様の相手に相応しい敵は何時来るんだあぁ!?」
なんちゅう奴だ!あの不良先輩、野蛮にも程がある!グレイシア先輩も苦笑いも隠せてない。
そんなこんなで平和な初日が過ぎ終えた。……そして、二日目から私等魔法魔術学園の生徒達が遭遇する騒動。決して忘れられない体験となる、とても長い二日目が始まった。
所で気配を感じさせないショウさんは本当近くで見ているの?誰の探知魔法にも引っ掛からない技術って相当だよ!?
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