第147話 大野外演習その13



 乙女ゲームの世界にて、魔法学園の野外演習に参加したら人間離れした美丈夫と出会った件…。

 って、脳内でくだらない考えしてる場合じゃ無い!念を払いのけるようにブンブン頭を振って意識を正常に戻す。


「グレイシア先輩、グレイシア先輩!しっかりしてください!瞳にハートが浮かび上がっていますよ!」


 先生から紹介されたショウさんと歳の近さが原因か、今まで凛とした表情を崩さないでいたグレイシア先輩が完全に彼の魅力に固まっている。それどころか他の女子生徒メンバーや、周りで様子を伺っている生徒達もショウさんに見惚れている。

 一足先に思考力を取り戻した私は先輩の傍まで近寄り、ちょいちょいとローブの袖口を引っ張り彼女へ声を掛ける。


「…っん?あ、ああヴィオレット嬢か。…ごほん、改めて班のリーダーを任されたラーヘム伯爵貴顕が長女『グレイシア・リッド・二プラント』。大国ランキャスターで活動する高ランク冒険者の実力は隣国の此方にも届いている。今日の出会いを誇りに思うよショウ殿、実習中の間世話を掛けるかもしれないが今後とも良しなに」


 一度正常に再起動すれば、引き締まった美しい顔で、朗々とした力有る口調で語る先輩にショウさんは「こちらも宜しく」、と短く返答したら二人は伸ばした手で握手を交わす。

 美形の二人が大自然の中握手する光景をモニター画面越しで見立てて眺める。

 今、私の顔は間抜け顔を晒していることだろう。


「っけ!A級だが知らねぇが、異国の人間が俺の邪魔はするなよ。誰であろうと俺が進む道を拒む奴はぶっ潰す!」


「俺はそもそも臨時雇いで参加した冒険者で生徒達を守る護衛の様な者だが、余程の事態が起きない限り手出ししない。各エリアでは生徒等を監視する講師達も居る、余裕を持って構えていれば危険は無い」


 ショウさんに対する周囲の反応が気に入らないのか、不良少年ケビン先輩が声を荒げて噛みつくけど慣れた対応で躱された。

 だけど、ケビン先輩が発した喧嘩口に、私の尊敬するグレイシア先輩の好感度が落ちたのは一目瞭然。

おぉ哀れな残念不良少年よ…、南無南無。


「うーむ、早速仲良くしている事で先生も嬉しいぞ。各班リーダーには事前に課題内容と魔石ポイント表が配られているだろ?お前達『風7』グループも頑張って課題を熟し、優秀な成績を目指せ。成績上位者に成った暁は所属する寮に50点、そして卒業後金級ゴールド段階の魔導試練を受けれる許可証が授与される。励め諸君」


「「「はい!」」」


 教師の言葉にケビン先輩以外の返事が重なり響く。


 魔導評議会が定めた段階の序列は下から魔法見習いに始まり、最高位の魔導士になっており。学園滞在中に会得できる段位は例外を除いて銀級まで、それ以上は試験の許可証と推薦状が必要となる。試練は何度でも受けれるけど不合格に成る度、準備期間と表現して半年間待ちかねないとならない。金級への許可証入手が早ければ早いほど、以後の学園生活で余裕が出来る。


「(乙女ゲームの世界で成り上がりを望む私にとって、またとない好機。たかが学校の行事的に思っていたけど、案外本気で好成績を取りに行かないと)」


 思わずローブの袖口で周囲の目から隠れた拳をぎゅっと握る。自分たちの明るい将来が掛かっているんだ、態度の悪い不良少年でも自分のグループを蹴落とす真似はしないだろう。…やっぱ断言出来ないよ~。あぁ不安だー。


「全グループの準備が出来次第、開始の合図でもある『ファイアボール』が空に上がる。後は各々で作戦を練るなり自由にして良し。それじゃ俺は指定されたエリアへ行くから皆、大怪我しないように」


 班員の気合が入った返事に満足そうに笑みを浮かべて口に挟んだ葉巻を吸い込んで息と共に煙を吐き出して踵を返して他グループの所へ行ってしまった。


「皆、注目」


 グレイシア先輩がぱちぱちと手を打つ音が鳴って私達の視線を集める。


「班に与えられた課題を伝えるわ…」


 凛とした真剣な表情のグレイシア先輩に誰かが唾を飲む音が聞こえてきた。


「森奥地手前の古代遺跡まで赴いて、指定された場所に置かれた魔道具を手に入れる事よ。どうやら魔道具の数に限りがあるらしいから早い者勝ちね。だからって他の班に危害を加えて魔道具を強奪するのは禁止事項に当てはまるわ。下手すれば全員学園から退学するかも、それは頭に入れておいてね。演習内で仕留めた魔物は魔石を抜き取り、灰になるまで火魔法で燃やす」


 クリアでよく通るグレイシア先輩の声、だけど彼女の青い瞳はジッと此方を観察しているショウさんへと向けれている。心に嫉妬が蠢くけど、もし私が先輩の立場だったらショウさんが放つ魅力に抗えないと思う。


 うぅ、それより魔物の死体から魔石を取る作業は異世界に転生してから一向に慣れない作業だよ。

 …そうだ、ここは作業を手分けて魔石取りにはケビン先輩に任せよう!うん名案。私って軍師に向いてるかも。


「奥地の高ランク魔物は既に討伐済みだ。それ故、得物探して浅地に現れる可能性は非常に低いと断言しよう」


 すると、今まで沈黙を貫いていたショウさんの口が開くとメッセージを伝えた。

 おぉ流石A級冒険者。危険な魔物は排除済みなんだね!


「さ、流石ですショウ殿」


 先輩!無意識のうちにうっとり見とれていますよ!って先輩だけじゃない、他の女子メンバーも同様に恍惚と眺め入っている!…ならばッ精神年齢四十越えの私が何とかするしかない。

 斬り込むような気負いを見せる私、その光景を周りの男子生徒達はショウさんに憎悪と羨望と嫉妬に満ちた感情を露わにしている。


 するとショウさんは突如森が見える方角へ振り向けば顔を空へ上げる。


「そろそろ開始の合図が上がるぞ。皆の健闘を祈っている」


 言葉を終えた瞬間、彼が眺めていた方角に空高く打ちあがった火の玉が皆の目に入った。


「『風7』組!行くわ!」


「「「はい!」」」

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