第149話 大野外演習その15
私が感じた最初の違和感は二日目の早朝に戻る。
朝日の領域が草原の全体に広がり、闇が後退していった頃、「起きろ!」という班長の有り難い大音量魔法目覚ましの声で無理矢理起こされた私は、二度寝に陥りそうな重い頭をフラフラさせながら、手の甲で黄金色の目を擦り、戸口を捲って外に出る。鴇色に輝く日光を全身に浴びた私に生成されるメラトニンとビタミンⅮが、自慢の白く美しい肌を保ってくれる。
「『
生活魔法でその場に飲み水を浮かばせる。…うん、ちょうどいい熱さのまろやかな水。
口に含んだ水を地面に吐き出して、二度目に生成した水をグッと飲み干す。
――っよし!これで完全に眠気が消し飛んだ。
…それにしても。
「何だか騒がしいわ」
班ごとに別れた生徒達が、どうしてか一箇所に集まって大声で議論している声で離れた此方まで聞こえてくる。無意識なのか体から魔力が洩れている。悪い通達でも有ったのかな?
「ふぁあぁ~。んあ?あ~おはよーヴィオレットちゃん~。昨晩ぶり~」
「ええ、おはようサブリナ。…夜は良く寝れたかしら?」
とろんと眠気が残った声が私の名前を呼んでのだ、後ろを振り向けば寝癖であちこち突っ立った剛毛はライオンの髪のまま外に出てきたサブリナが今にも眠りに落ちそうだ。
「貴女、寝癖凄いわよ。直してあげるから土魔法で台を生成して座っておきなさい」
「は~い~」
すぐに戻るわ、と伝えた私は一度テントの中へ戻り学園寮より持参したブラシを手に取って外へ出た。
言う通り魔法で作った台にぼんやりと座った彼女の背後に回り、手にしたヘアブラシで梳く。
密度が濃いサブリナの深緑色の爆発髪に悪戦苦闘しながらも髪をといてやった。
それよりも…眼鏡が邪魔だ。
「眼鏡にブラシが当たって危ないから外すわよ」
「えっ!ちょっと眼鏡は…勘弁ぉ~」
「だーめ。大人しくしてなさい」
子羊の様に落ち着かないサブリナの言葉を知らん振りして彼女の眼鏡を取れば、前髪をかき上がって丸眼鏡の下に隠れていた目と私の目が合った。
「なるほどね…。サブリナ貴方、
「うぅ恥ずかしいよぉ」
そう、サブリナは左右の眼で虹彩の色が異なる所謂オッドアイの持ち主だった。右の碧眼、左の紅眼は何とも形容の出来ない神秘を秘めていた。
「恥ずかしがること無いじゃない、素敵よ、サブリナの瞳。それに『精霊眼』は縁起が良い事なんでしょ?」
事実、私が語った通りラーヘム魔導国に伝わる伝承の一節に「一眼は世の理を、一眼は幻世の狭間を見通す」と示されていて。過去に存在した歴代魔導士の一人は、実際オッドアイで精霊魔法を得意としていたらしい。
「まあ、私がどう言おうと結局サブリナが授かった目なんだし、貴方の好きなようにしなさい。目如きで友達を見捨てる程私は落ちぶれてないわ」
「う、うん…ありがとうヴィオレットちゃん」
「っあでも両目を見せる相手が男性なら気を付けなさい。クズ男に執着されたくないでしょ?」
「あははクズ男ってヴィオレットちゃんお口が悪いよ」
そう言いながらもクスクスと笑いを洩らすサブリナの髪を梳かし終えた私はリボンで束ね、彼女の眼鏡を返した。最後に生活魔法『
気付けば一箇所に集まった生徒の数が一段増えていた。そろそろ私達も向かわないとグレイシア先輩に怒られるかも。…考えるだけでふと暗い気持ちに沈む。
「あっち騒がしくなってきたね。見た感じほぼ全班集まっているよ、私達も行こうか?」
「うん…っあ、私の班あっちに集まっているからまた後でね!」
「ええ、また後でね」と綺麗になったサブリナを送り出した私。敏速な動作で持ち出したブラシをテントに戻し、急ぎ足で一直線に班の元へ向かった。
「ごめんなさい!遅れました!」
集まったグループへ移動した私は即座にメンバーに謝罪する。どう弁解しようと私を待っていたのは明白、ここは清く謝った。
「気にしないよヴィオレット嬢。寧ろ、醜い対立に巻き込まれなくて安心してる所だよ」
グレイシア先輩の告げる言葉の意味が分からず私はただ首を傾げる。
醜い対立?先程まで何か議論してた事?頭の中で疑問符が飛び交う私の様子を見かねてグレイシア先輩がさっきまでの出来事を分かりやすく説明してくれた。
「えぇ!?演習日が一日伸びた!」
驚いて目を白黒させる私の表情を見てクスクスと上品に笑う先輩方。
…誰だって驚いちゃうよ――課題内容でもある古代遺跡で不審者の影を発見するなんて!そして、事態を重くした教師陣営が不審人物を身元特定する為、護衛役の冒険者達を連れて遺跡に向かっちゃうなんて誰が思うの。
しかもそれが原因で二日目の実習は中止。明日に持ち越し、生徒は全員森に入るのは禁止された。
「加えて不審人物を目撃した教師の証言によると、革命軍の目印が付いた革鎧を纏っていたそうよ」
「……そんなぁ」
あぁ、私が望んだ平穏が崩れていく。
脳内にハッキリとジェンガのパーツが崩れるような音が聞こえてきた。
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