第199話 ショウ対墓泥棒 その3
勇敢に立ち向かう姿を見せるルトが叫ぶと同時に、リーダーに応える盾持ち前衛のダビットと入れ替わる。両手で構えた盾ごと突撃してきた。パトリックの援護によって肉体強化が施されたダビットのシールドチャージの速度はまるで虎の如く。全体重を乗せ、怒涛の勢いで俺ごと壁に押し潰さんと一歩も引かないダビットの男気に平時であれば賞賛の拍手を送りたいが――。
猛スピードで突撃してきたダビットの盾に足裏を添え、勢いを利用して宙へ飛び上がり、天井スレスレで彼の頭上を飛び越える。
「何ッ!」
背後から驚きの声が耳に入るが通り越し、着地と同時に地を蹴り上げ魔法使いパトリックの眼前に躍り出て鳩尾に拳をめり込ませる。
「ッがア――⁉」
「遠距離から魔法を撃つ後方部隊を第一に無力化するのは戦場の鉄則」
防御魔法も間に合わない一撃を喰らった後衛のパトリックが白目を向いて崩れ落ちる。ぴくぴくと痙攣しており、完全に気を失っている。ついでに、彼の傍でへっぽこな構えでメイスを振り回し、幼児のように震える墓泥棒の喉を短剣で一閃。切断した頸動脈から鮮血が心臓の拍動にあわせて飛び散る。
「期の剣に風と共にあらん――アティタカ流『クロスストライク』」
刹那、風刃が吹き抜けた。声からして今の斬撃を放った人物は『火竜の牙』のノーランに違いない。
四つに枝分かれた不可視の斬撃が石窟に走る。その標的は勿論、俺へ向けられた攻撃。両手に持つ短剣で風の刃を捌いていく。一、二、三…最後の風刃と短剣が接触した瞬間、霧散ではなく手首の流れを僅かにズラし矛先を墓地から逃亡を図ろうと背中を向けた墓泥棒へ受け流す。
「――ッ!避けろ‼」
「え……」
墓泥棒の計画を立てたリーダーの忠告虚しく風刃は墓泥棒の心臓を穿ち、上半身が血飛沫と共に吹き飛ぶ。舞う肉、血、骨、臓器が色彩が施された壁画を生み出す。
「ヒッ⁉――ヒィイイイイ!」
「死にたくねぇ死にたくねえ!」
「バ、化け物だあ!!敵うわけがねぇ!だっ誰か煙玉を投げてくれ!」
まるで発破でも起きたかのような衝撃が轟音と共に立てて攫った殺戮の光景に、仲間であった墓泥棒たちは恐怖で顔を歪ませながら後ずさる。
魂に刻まれた本能が取ったその行動が意味する選択はただ一つ、この場所から逃走。
俺は短剣に付着した血液を振り払いながら、壁に張り付いた走行で逃亡を図る三人組へ疾走する。接近に気付いた一人が慌てて剣を構えようとするが全動作が未熟。武器事一閃で首を跳ね飛ばし、返す刃でもう一人。最後に残った一人は目を見開き、戦意を喪失した様子だったので、苦痛を感じる前に地面から生成した氷柱が顎下を貫通、脳を突き刺した。
意表を突いたクロスボウの奇襲から開始した戦闘は三分経たず泥棒仲間が全滅した光景を目の当たりにしたリーダー格の男は既に反抗の意志を失い、俺が投げた捕縛式魔道具に為す術もなく身動きを封じられた。
残りは『火竜の牙』メンバー三名のみ。墓泥棒の手下は全滅、外国の売り手に伝手があるリーダーは強固な魔道具に捕まり、万事休すに直面したルト達。
「…まだ、続けるか?」
上から目線の物言いにルトは悔しそうに顔を歪めながらも、諦めていない様子。
「…人の皮を被ったバケモンめ、まだ終わってねー!」
地面に溜まった唾を吐き捨てた後、受けた一撃から回復したルトが叫び、腹の内から圧縮した魔力を一気に解放。飲み食いに使ってた木材が吹き飛ぶ。
「ッゥううッオォオオ!!」
石窟に響くその咆哮は正にパーティー名を冠した火竜の鳴き声。体内から放つ衝撃波が地下を揺らし、壁や天井の一部が崩れる。剣に灼熱の炎を纏ったルトが一直線に突進してくる。奴が使用したスキル名『フレイムドライブ』は練った魔力を炎に転換、体内や武器へ取り込む事で威力増強、攻撃力を底上げする高等技術。爆発力を上げる代わり消費魔力は莫大、並外れた魔力量を持たない者が使用したら最後、数分もせず魔力切れで意識を失う諸刃の剣。
短剣を構えた俺は、ルトが振るう渾身の一撃を正面から受け止める。金属同士がぶつかり合う衝撃音が地下空洞内に広がり、石窟奥部を揺らす。片手剣から伝達した灼熱の炎が手に持つ短剣を包み込み、刀身が徐々に溶け始める。…このまま鍔競り合いを続ければ、先に俺の短剣が溶けるか。そう判断した俺は刃が熔解する前に剣を振り払い、反撃に転じた直後――男の独り言が耳に張りつく。
「アティタカ流『再葉』!」
カンテラの光で黒々とした影と認識を同化させて気配を遮断したノーランが間合いの外から剣を振るい、切り裂いた風刃が俺の首を刈らんと迫る。俺は首を軽く傾けて剣線上に身を出し、流れるような動作で宙へと跳び上がった。両足で空を切りながら旋回し、その勢いを利用してノーランの顔を右踵で蹴り飛ばす。
激痛から大きく仰け反るノーランはそのまま勢いを殺せず、地面へ背中から着地。血反吐を吐き、砕けた骨の苦痛に顔を歪ませていた。俺は追撃の手を緩めず彼の胸部を踏みつけ、短剣の緑頭で気絶させる。
「パトリックのみならず剣技に優れたノーランすら無傷で破るとは…」
「ショウウウ!お前さえ来なければッ!お前えエエ!!」
戦況を見つめるダビットとスキルの効果で冷静さを失った叫びが響く。…残り二人。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます