第48話 黒幕を見つけろ その4 

 エレニールの言葉に一旦俺に向けていた殺気が煙の如く消えた。彼女が乗る白馬を先頭に、綺麗に整列を取りながら今回襲撃者を雇った貴族の屋敷まで歩く騎士達。


 その大勢の完全武装した騎士と魔法使いの集団に貴族街の店や商店から何事かと裕福な人々が不思議そうに眺めている。その先頭にこの国の王女が居ると分かると、皆驚きながら敬礼やカーテシーを表す。


 その王女様は相手の敬意に目線で返すと目の前の事に集中した。


 俺はほぼ最後列で呑気に彼等の背後を追っていた。俺が今からエレニールと協力して貴族の屋敷に行くことを既にナビリスと銀孤に念話で伝えておいた。もしかしたら帰りが遅くなるかもしれないからな。


 二人からの返事は、頑張ってね。信頼している事が念話からでも分かった。


 俺が神だと知っている二人だからこその信頼関係があった。


 最後列で進んでいる俺だったが。俺の事を信用出来ないというと事で、俺の更に後ろには馬に乗った団長と呼ばれた中年の男性騎士が俺を睨みながら進んでいる。その目には変な真似をした瞬間、キリ殺すという目を俺に向けている。


 …団長とあろう者が俺達に存在する実力差が分からないとは。エレニールに同情するよ。


 ああ。王城に行った時に装備していたレイピアはまだ俺の腰に差さっている。訓練所に向かう間、何時も使っているミスリルロングソードに変更しようと思ったが、今日は何となくレイピアで過ごそうと思う。


 斬れ筋はレイピアの方がレア鉱石を使用しているのでミスリルロングソードより数段優れているが。


「皆止まれ!」


 スティダハム辺境伯が王都で住まう屋敷を囲む城壁が目の前に見えてくると、先頭に立つエレニールの一声により、即座に全員その足を止めた。


 白馬の上に立った彼女が後ろに振り向き、騎士が居る方へ軽く手を伸ばす。


「第三騎士団は半数に分かれ、城壁を囲むように待機を!お前達の知り合いの騎士も敷地内に居るであろう。もし、その者達が投降したら捕縛のみで構わない。だが!もし攻撃をしてきた場合。…この王国を脅かす存在として斬れ!」


 彼女の口から伝えられる内容に、何人かはゴクリと唾を呑む音が聞こえてくる。


「そして、魔法師団部隊は配置が完了した次第。この辺りを囲むように結界魔法の詠唱を。私事閉じ込めても構わない」


 その言葉に魔法師団部隊のリーダーっぽい加齢の女性がハイと頷いた。


「そして冒険者ショウ。貴様は屋敷の案内役として私と一緒に行動しろ。ソレに第三騎士団からも優秀な者達を十名ほど借りるぞ」


「っは」


 この王国の騎士ではないが一応敬礼をしておく。

 勿論俺がエレニールと一緒に行動することに不満があちらこちらから聴こえてくる。


「では…開始!」


 俺もエレニールもそのような不満を一切耳を貸さず、彼女の号令によって行動を開始した。


 その様子を敷地内へと入る門でオロオロと見ていた門番達の所まで馬を進めるエレニール。

 この国の王女様が正に完全装備でそちらに向かってくる事態にどうしたらいいのか処理が追い付いていないようだ。


 彼女が何も出来ない門番達のすぐ傍まで近寄ると、口を開いた。


「お勤めご苦労。早速だがその門を開き、スティダハム卿の居場所まで案内を頼む」


 そういうが門番達が顔を合わせると、一人が代表としておずおずと言葉を発言した。


「恐れ入りますがスティダハム辺境伯只今自らの領地に戻っております故。大変恐縮ではございますが時間を改めてから出向いては下さいませんか」


 それは実質の拒否だった。発言した兵士は汗を大量に掻きながら、何時でも殺されても良いとう顔をしている。

 エレニールはそんな門番に怒りも無く、淡々と兵士に伝えた。


「スティダハム卿にはここ最近、王都を騒がしている誘拐事件の容疑が掛かっている。更にロスチャーロス教国に国家機密の密告を行っているとも情報が入った。これが本当なら国家転覆罪に値する。証拠も揃っている。もう一度問う、門を開きスティダハム卿の居場所まで案内を頼む」


 彼女から伝えられた内容に驚愕を隠せない門番だったが、これ以上庇いきれないと分かったのか素直に門を開き。道の端に移動した。


 俺とエレニール、そして騎士の集団から10名程を加えた全員が門を潜った瞬間。城壁全体を丸く囲むように結界魔法が発動した。これで、俺達はエレニールの許可が無い限り。出る事は無い。


 まぁ、俺は別として。


「な、何事ですか!?」


 馬から降りたエレニールが、鎧の音を立てながら玄関の方へ歩いていると。そこに玄関前で声を上げている執事服をピシッと着用した老紳士の男性が、外の騒ぎを聞き付け玄関扉の外で周囲を囲む結界を眺めながら。近くに居たメイドに詰め寄っていた。


「其方は執事長だな」


 そんな老紳士にエレニールが近づき、声を掛けた。


「エ、エレニール王女殿下様!?ご、ご機嫌麗しゅう…して、今回はどの様なご用件でしょうか…?」


 近付いて来た彼女の存在に気付いた執事長と言われた老紳士は、王女様がいきなり現れた事に驚いていたが、流石長年執事として上級貴族に仕えていただけの事はある。驚いたのは一秒足らずで、即座に最敬礼を取った。その仕草も長年の経験を持つ完璧な行儀作法であった。

 執事長の周りにいたメイド達も老紳士の後を追うように最敬礼を取った。


「今回スティダハム卿に誘拐事件の容疑掛かっている。丁度いい、スティダハム卿の所へ案内を頼む」


 少ない情報を知ってる老紳士に大量の汗が流れる。正に全身の血の汗が引いているようだ。

 まぁ気持ちは少しだで分かるが。


「……た、大変恐縮ですが只今旦那様は自らの領地へ戻っており、次王都へ戻るかはこの私にも伝わっておりません」


 エレニールが執事長を見つめるその目線は冷たい目の色でさげすむように眺めていた。その冷たい視線は周りに待機している騎士達にもぞっとするほど異様な迫力に満ちている。


「…ショウ」


 すると、近くに呑気に立ちつくす俺の名前を呼んだ。彼女が何を言いたいのは容易に把握できた。


「屋敷の一室には転移魔法陣が置かれた部屋が存在する。転移先は確かめていないが、恐らく納める自領にもう片方の魔法陣が設置されているだろう」


「なッ!何故その存在を…!?あの部屋はご主人様しか入れないように頑丈に施錠されていたはず」


 俺が転移魔法陣の事をバラすと驚愕し、目玉が瞼の外へ出そうになるほど大きく見開かれた瞳は、じっと俺の一点に釘付けになっている。大量に掻いた汗で額に引っ付いたグレーの髪すら直そうともしていない。


 その様子を眺めていたエレニールが、その手を武器に添えて再度老紳士に尋ねた。


「ランキャスター王国での転移魔法陣の使用は王家権限で非常に厳しく取り締まっているはずだが。その事については全て終わってから話してもらおう。では屋敷に入るぞ、奇襲に油断しないように」


 気力を無くし地面にぐったりと座り込んだ執事長を横目に。エレニールは先頭に立ち、既に部下の騎士が開いていた玄関扉を潜る。俺も後に続く騎士達の背後へ回り、扉を潜った。


「では、ここから分かれ屋敷の内部を隈なく探せ。投降した者は身柄を拘束したのち、庭に一ヵ所に集めろ。スティダハム卿を見つけた者はすぐさま私に知らせろ。絶対に逃がすな!」


「「「っは!」」」


 彼女の命令に敬礼をし、従うように複数人に分かれると別々に行動を開始した。

 この場に残ったのは俺とエレニール、そして団長騎士の中年男性だけであった。


「殿下、我々はどうしますか?」


 俺の方を見ながら団長騎士が彼女に尋ねた。


「私達三名はショウが見つけたという離れの建物へ向かう。そこがこの場所に来た本命だ」


「本命でございますか…?」


 彼女の言葉に理解出来ていない表情を見せる中年男性騎士。


 大丈夫かこのオッサン?…まぁ実際の年齢は俺の事も言えなくないが。神々からしたら新参者だから別に気にしないでおこう。


「ショウ、案内を頼む」


「ああ、こっちだ」


 案内を頼まれたので、俺が昨晩見つけた離れの建物へと向かう。未だに俺の事を疑っている団長騎士は何時でも武器を抜けるように武器に手を置いている。しかし、エレニールはその様な仕草を見せていない。信用されているのか、俺達に広がった実力差に敵対行為をしても無意味だと知っているのか。


 恐らく後者だろうな。


 俺のステータスが偽造の事も前から知っているだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る