第47話 黒幕を見つけろ その3

 黒幕の屋敷にて証拠を見つけた俺はナビリスと二人で家に帰還し、銀孤も交えて三人で手作りのクレープを食べながら今後の事について話し合った。


「ねぇ、向こうで王女達を襲撃した事に関した証拠を見つけたんでしょ?それじゃ明日王城に足を向けるつもり」


「おんやぁ、おにぃはん王城に向かうんかぃな。お土産よろしゅうのぉ」


 銀孤の俺に対する気遣いに思わず苦笑をしてしまう。彼女も先程何が起こったのか知っているはずなのに。


「そうだな、エレニールとも約束もしたし。昼頃あちらへ向かうよ。それと銀孤にも何か珍しい店があったら何か買ってくるよ」


 皿に置かれたお替りのクレープを手に取り頬張ると、二人に明日の予定を伝える。


 念の為にきちんとした格好のの準備でもしておこう。普段の恰好で行くと、絶対に面倒事が起きるだろう。特に城に勤める貴族共は服装にぐちぐちと煩いからな。この一点だけは何処の世界の貴族も変わらなかった。


 翌朝、ナビリスがコーディネートした服に着替え。全ての準備を整えたショウはナビリスと、銀孤のお見送り得てエレニールが住まう王城へ向かった。


 今回彼の服装は何時ものTシャツにズボン、それにコンバットブーツというこちらの世界で異様な服装では無く。こちらの貴族が好みそうな恰好をしていた。とは言っても、高級素材をふんだんに使った魔法使いが着るローブに、細かな装飾が施されている。彼が使った高級素材はこの世界の王でも手に入れられないような素材だらけだが、そこは知らないで通しておこう。


 ショウ自ら馬車を引き、王城まで続く道をのんびりと向かう。綱を引いているが、力は一切入れていなく。行き先を理解しているゴーレム馬が勝手に歩いている。


 ナビリスと銀孤の三人で念話で会話しながら暫くしていると、目の端に立派な城が見えてきた。巨大で純伯の城は見る者全てを魅了する城。優秀な人材は皆、王城で働くことを夢見て努力している。

 

 王城で働くメイドすら、なるためには膨大な努力と才能が必要になる。それでも実際にメイドとして雇われるのはごく一握りの人材。


 それ故、王城のメイド長はある一定条件をクリアしていれば、ほかの貴族当主より権威が上になる。


「そこの者、一旦止まれよ!」


 王城の入り口の門に辿り着いたショウは、馬車から一旦降りると。目の前に置かれた門に向かおうとする。しかし、門の近くで監視していた騎士が彼の方まで近付き、声を掛けた。騎士の様子からして、少々威圧的で、一回も見たことの無いショウの姿に警戒している。


「ん?何か?」


 近くまで寄って来た騎士の声に気付いたショウが、騎士の顔へ振り向いた。


「ここから先は国王陛下の敷地となっておる。何か御用か」


 ショウに威圧を与えながら城に来た要件を尋ねる騎士。ステータスを見る限りでは、優秀な騎士なようだ。


 すると、要件を聞かれたショウはポケットの中から、昨日エレニールから渡された封が付いた手紙を目の前の騎士に見せた。


「俺はランキャスター王国、第三王女エレニール殿下より指名依頼を受けた冒険者だ。今回、依頼の進展についてこちらまで参った」


 本物の手紙だと確認した騎士はすぐさま威圧を解き、立派な敬礼をみせてくれた。


「これは…分かりました、ではこの門をお進みください。暫く進むと左側にそちらの馬車を預かる建物が見えてきますので。そちらの者に話しかけてください」


「ああ分かった。お勤めご苦労」


 ショウも騎士に敬礼を返すと。馬車まで戻り、開かれた門を潜ると。先程伝えられた建物を目指して、ゴーレム馬に命令を与えた。



「どうぞ、こちらまでお進み下さい」


 王城まで引いて来たゴーレム場所を世話係の所で一旦預け、城の入り口へ向かって歩く。すると目の前に上へ上がる階段が見えてき、大理石をふんだんに使用した階段を上がり巨大な扉が開かれた入り口に辿り着く。扉の両側にも騎士が控えている。


 城には途切れる事無く人が出入りしており。俺が扉を潜っても何一つ言われなかった。

 しかし城内へ入った瞬間、何かが身体を通り抜けていった奇妙な感触が一瞬だけ走った。


『ナビリス、今のは何だったんだ』


 不審に思われないよう足を止めずに念話でナビリスに聞いた。


『城内に設置され魔道具が作動したようです。魔道具の効果は鑑定魔法に、魔法遮断が付いています。城内での魔法の使用には気を付けてね。違う意味で』


 まぁ、下界の人類が作った魔道具はどのような効果を発揮しようが、神の俺には全く通用しない。だが、逆に魔法を使うと「こいつっ、何者だ!」ってなるか。


 ところで今。王城のメインホールに居る。目の前に無駄に横に広い階段が見える。目線を階段の上へ向けると。奥の壁には気品あふれる男性の姿が描かれた巨大な肖像画が掛かっている。神眼でしか姿を見たことはないが、あれが現国王だ。肖像からでも分かる体格の良いガッチリとした渋い男性の姿。成程、エレニールの父親も武道家らしい。


 それよりエレニールに彼女の普段使っている場所聞いて要らず分からない。神眼で探してもいいのだが。面倒なので、付近で床を箒で掃いているメイドに聞いてみよう。


 そう思いメイドに近付く。近くまで寄ると、メイドが床を掃いていた箒は驚いたことに魔道具であった。流石、周辺国から羨ましがれる王国の中心部だな。


「そこのメイドさん。少しいいかい?」


 不審人物に思われないよう言葉使いを気を付けながら声を掛ける。


「はい…?どうされましたか?」


 俺に気が付いたメイドが掃くのを一旦停止し、声がした俺の方向へと顔を向けた。

 俺に目線を合わせるとニッコリと笑顔を魅せ付け、顔をほんのり傾けた。

 …あざとい。


「エレニール殿下に依頼を受けた者だが、王女様の居場所を知らないかい?」


「姫様にご用件ですか?…失礼。何かご証明出来る物は?」


 俺が聞いた内容に半信半疑の表情を見せ、身分の証明を提示をお願いされた。


 まぁ、誰であろうと見知らぬ男がいきなり王女の居場所を聞かれたら。ハイ畏まりました、とはならないだ。


「ああ、この手紙で良いかい?」


 そう言って既に入っていた内ポケットから昨日彼女から渡された蝋が押された手紙をメイドに見せる。


「失礼」


 一言、そう言うと目の前に差し出された手紙を手に取り。何故か蝋に指を当て魔力を流した。


 …王城内では魔法は使用できないが、魔力は流せるのか。確かに魔道具が使えなかったら不便だしな。


「……確認しました。本物の様ですね。大変失礼しました」


「ああ、平気だ」


 返された手紙を内ポケットへ戻す。


「では、こちらまでお進みください」


 魔導具の箒を両手で持ったメイドの後を付いていき。彼女の案内でエレニールが居る執務室へと向かった。


――コンッコンッコンッコンッ…。


「何だ」


 メイドの案内に付いていき、長い廊下を歩いていると一つの扉の前で立ち止まり、ノックした部屋の中から。エレニールと思われる女性の声が聴こえた。


「エレニール様からお依頼を受けた冒険者様がいらっしゃいました」


 …俺は一言も冒険者に所属しているとは言っていないが。何時気づいたんだ?

 まぁ、恐らく何ならかの魔道具だろう。


「早いな…分かった、入ってくれ」


「畏まりました。…では、中へどうぞ」


 メイドが扉を開き、俺の中へ迎え入れる。エレニールの仕事場である執務室は円型の部屋となっており、意外と広々とした部屋となっていた。床には一面に青色の絨毯が引かれ中心には、ランキャスター王国を象徴するドラゴンの紋章が描かれている。表面も分厚く柔らかく、ガラスのコップを万が一落としても衝撃を緩和して割れる可能性を無くすほど。


 暖炉が埋め込まれた壁には一つで白金貨1枚以上はするであろう椅子が四つも置かれ、至る所に景色や人物が描かれた油絵が飾ってある。


 天所に目線をやるとこれも又高級そうなシャンデリアが天井からぶら下がっている。

 正に王女様の執務室に相応しい部屋だ。


 そして、そのお姫様本人は奥に置かれた机に座り。大量に置かれた書類にと奮闘しているようだ、俺の目と合わせようともしない。背後に設置された窓から照らされる日光に照らされ、額に薄っすらと汗を掻いている。


「済まないが、貴殿の武器を一旦預かってもらっても」


 扉を潜り、エレニールの元へ足を進めようとした瞬間。部屋で待機していた女性騎士に道を遮られた。

 まぁ、一介の冒険者が武器を装備して自分の主に近付こうとしたら警戒はするか。


「ああ、了解した」


 そう言うと俺は、何時もは装備している剣帯にミスリルロングソードでは無く。レイピアが金属の鞘に締まっており黒革に金糸で刺繡されたベルトごと外すと、目の前の女性騎士に手渡した。


 女性騎士に俺の武器を渡した瞬間。あまりのレイピアの重量の軽さに一瞬だけ方眉がピクリと動いた動作を俺は見逃さなかった、スプーンと重さが変わらない武器に驚いたのであろう。


「少し待ってくれ、良いところで切り上げる」


 机の目の前に置かれた椅子に座ると、一旦手を止めたエレニールが顔を上げ。一言伝えると即座に書類に何か書き始めた。


「…」


「……」


 魔導具で出来た万年筆の音だけがこの部屋に響く。彼女も俺も、待機しているメイドも、先程の女性騎士も何も話さない時間が流れる。


「紅茶をどうぞ」


「ああ、すまない」


 どれだけの時間が経ったのであろう。エレニールが万年筆を置くと、同時にメイドが彼女の横まで移動しており、何時の間にか入れていた紅茶を机に置いた。


 彼女は紅茶を一口飲み、疲れが出たのかため息が出た。


 俺がため息を見た事がバレたのか一瞬だが俺を睨みつけ、その後紅茶を飲み干した。

 空っぽになったカップを机に置くと、少しだけだらけていた姿勢を元に戻し。俺との視線を合わせた。


「さて、孤独狼のショウ。私が出した依頼に関して何か分かったのか」


 世間話などを抜きにして本題に入った。彼女はそうゆう面倒なお世辞などが好きでは無いらしい。ナビリスと趣味が合いそうだな。


 そんな呑気な事を考えていた。


「ああ、凡そ王女様達を襲った襲撃者を雇った貴族に。その理由も判明した。証拠も入手した」


「そ…そうか、早かったな。…では早速その証拠とやらを見せてもらっても構わないかい?」


 俺が既に証拠を見つけた事を伝えると、思っていた返答とは程遠かったのか。目をパチクリとしていたが、即座に真面目に表情に切り替わった。そこら辺は流石王族といったところか。


 屋敷で見つけた書類や手紙を出そうと内ポケットに手を入れた瞬間、背後で待機している女性騎士が武器に手を掛けたが。即座にエレニールが軽く手を挙げて制す。


 俺は別に気にせずに内ポケットから証拠である王女誘拐の計画が書かれた書類に、ロスチャーロス教国とのやり取りを綴った手紙などを机に出した。勿論あの地下室に示された召喚魔法陣と、それに必要な生贄の事も。


「……」


 初めは感情を抑え、真顔で証拠を閲読していたが。一枚、一枚、次の書類に進む度。彼女の表情に変化が起きていた。


 怒りだ。


 彼女自身平常心を保とうとしているが、証拠を持つ手は怒りで震えている。

 その普通ではない様子に一緒に待機している騎士とメイドが心配そうに彼女を見ている。


 一言も話さず、次の手紙を読み始める。そして、遂に生贄の内容が書かれた手紙を読み終えると怒りのあまり手紙を握り潰した。怒りに震える唇を、血が出そうなほど噛みしめて瞼を閉じた。


 数度深呼吸を取ると目を開け、俺を見つめてきた。その表情に怒りを隠そうともしていない。


 彼女から威圧が向けられている。


「つまり、襲撃者の目的は王家後継者の私やアンジュリカの殺害では無く、誘拐が目的だったのか。生贄として。私に流れる勇者の血を」


「ああ、そう考えるのが妥当だな。それに、誘拐の一番の目的は妹の方だったらしいな。」


「……、アンジュリカは周囲から聖女の生まれ変わりと言われてきたからな」


「そうか。そう言えばここ最近誘拐事件が多発しているとギルドで聞いたな」


 ふと、この前冒険者ギルドに寄った際に聞いた話をエレニールに伝えた。生贄の殆どは恐らく自領から攫って転移魔法陣を使って王都で殺害したと思うが、王都にもスラムは存在する。そこからも攫ってきてたのか。


「孤独狼……。お前はここに示された生贄を確認したのか」


…。


「ああ、200人は下らなかった」


――ドゴンッ!!


 俺の言葉を聞いた瞬間、飛ぶように立ち上がり目の前にある机に苛立ちを、拳をぶつけた。

 彼女の全力でぶつけられた机はは周囲に轟音を響かせ大きなヒビを残した。机の上に置いてた書類等が粉雪の様に部屋中に舞っている。


「姫様っ!?」


 メイドと女性騎士が素早く彼女の元へ近付き、怪我が無いか確認している。

 そのエレニール本人は怒りに肩を震わせながら俺を睨みつけている。


「お前は!なぜそう無関心でいられるっ!何故!何事も無かったかの様に振舞う事が出来る!我が国民が殺されたんだぞ!!罪も無い者達が。何故…、私にはお前が考えている事が分からない…」


 その剣幕に近くに寄って来てたメイドと騎士が動きを止め俺達を眺めている。

 エレニールの返答次第では俺を殺そうと武器を抜く寸前でいる。

 メイドも何時の間にかその手に短剣を所持していた。…何処からその短剣が現れたのだろう。


「俺は何度も同じような光景を目にしてきた」


「……っえ?」


 俺が放った言葉を信じられないのか。先程までの怒りは無くなり、呆然と動きを止めてしまった。


 そう、俺は同じ光景を数え切れない程見てきた。

 あれより非道な光景を何度も何度も、見てきた。

 俺が神になった時、お爺ちゃんから人間の欲を知るため様々な世界を見せられた。人間の頃に持っていた感情を無くすため。


 一番多く見たのは戦場で死んでいった状況だった。それは、仕方ないかった。戦争はどの時代、どの世界でも起きていたから。


 だが、戦争以外でも残虐な光景を目にすることは多かった。


 快楽の為。


 性欲達成感を得るため。


 自らの利益の為。


 暇つぶしの娯楽の為。


 人間の欲をこれでもかと見せつけられた。


「……………」


 俺の言葉が嘘じゃないと分かるとエレニールは背後に置かれた椅子に倒れ込むように座り込んだ。


 すると涙が当に枯れた俺の代わりなのか、彼女の瞼から一滴の雫が零れ落ちた。


「すまなかったショウ。私と言う者が熱くなってしまった」


 シャンデリアが下がった天井へゆっくりと顔を向き、一回だけ深く深呼吸をすると。冷静を取り戻した彼女が謝罪した。


「…気にするな。俺も軽はずみな発言をしてすまなかった」


「ああ。私は平気だ」


 …そうは見えない。


「……ローザリンデ隊長」


「っは!エレニール様」


 エレニールは近くに寄って来た女性騎士の名を呼んだ。


「今すぐに第三騎士団を集めろ、魔法師団部隊にもだ。第二騎士団は王都の守備を続行。治安部隊にも情報を流して」


「っは!」


 騎士の顔になったエレニールからの命令に敬礼で答えると、周りも気にせずに走り去っていった。


「ベルは聖装備の用意を。私が先頭に立つ」


「畏まりました。お気を付けて」

 

 メイドにそう伝えると足音も立てずに部屋から出ていった。


 …あれ?俺が入って来た時に預けた武器は?あれでも一応聖剣なんだが。


「さてショウ」


 そのまま椅子に座っていると足を組んだエレニールが俺の目を見つめていた。


「ショウにも参加してもらいたい。案内役として」


 彼女から意外な内容に少し驚いた。


「いいのか?俺は冒険者なんだぞ?他の騎士からやっかみを買いそうだが?」


 俺が別に参加するのは構わない。しかし、面倒になるのはごめんだ。それに冒険者と言う理由だけで背後から攻撃でもされたらどう処理をしたらいいのか俺には分からん。


「構わない。後始末は私が全部片づける」


 おお、男前だ。外見は人形の様に凛とした美女だが。


「では、私も着替えていかないとな。ショウは先に兵士の訓練所で待っていてくれ」


「分かった」


 そう言うと追い出されるように部屋から出た。勿論部屋に捨てる様に置かれた武器を拾って。


 王城が騒がしくなる中、廊下で見つけたメイドに訓練所の場所を尋ね。長い迷路のような廊下を歩いていると、やっとの思いで訓練所と思われる広大な広場に到着した。


 …広いな。というか人が多すぎる。軽く万は超えているな。それでもある程度余裕あるんだから広さも大概だな。

 それに誰一人訓練をさぼるような輩は存在せず。一人一人一生懸命に訓練に励んでいる。

 これが実力国家ランキャスター王国の実体なのかもしれない。


 その中にある程度固まっている集団を見つけた。しかもその一団だけ訓練などしておらず、皆完全装備で綺麗に整列している。あれがエレニールが言っていた第三騎士団に違いない。騎士団の横にはローブと杖を装備した魔法使いの集団も待機していた。


 周りで訓練をしている騎士、兵士、魔法使いの邪魔にならないよう気を受けながら進み。俺も彼等の集団に集まる事が出来た。一人だけ孤立した服装の恰好をした俺の姿に周りの騎士達は汚いものでも見るかのように眉間にしわを寄せて俺のことを睨んでいる。


「静粛に!!!エレニール王女殿下が御出でなさったぞっ!」


 周りの目線を無視してぼんやりと待機していると、先頭の方から馬に乗った団長らしき騎士から爆発でも起こったかのような大声がこの訓練所に広がった。


 その声に訓練を行っていた者達も動きを止め、彼に視線を集中される。

 すると奥から純白の馬に乗ったエレニールが現れた。ゆるく三つ編みにした銀朱色の長い髪を、うなじの上で巻き上げて留めている。その頭にはフェニックスの羽根が付いたヴァルキリーヘルムを乗せている。更に彼女の鎧も、何時も着ている鎧では無く。正に戦乙女と言われる彼女の為に存在するであろう白銀の鎧を装着している。それでいて白銀の鎧より美しい彼女の外見に見る者全てを魅了し自らと存在が違うと理解させられる。


 彼女の姿を見た者達は何も言わず、ただ頭を垂れるのみ。


 まぁ俺はそのまま立っていたが。すると俺の姿を見つけたエレニールが薄っすらと笑みを浮かべた。


 …え?なんで?


「頭を上げなさい」


 洗練された雰囲気を纏った彼女の口から凛とした、それでいて心地良い声が訓練所に響く。

 先程の団長の大声とは全く違う。


 エレニールの言葉に従い頭を上げる騎士、兵士、魔法使い達。

 この集団に集まった者達以外、訓練に戻った。ソレを満足そうに見つめた彼女はこちらに振り向いた。


「既に知っている者もいるが、一ヶ月前。ラ・グランジから王都へ帰宅中、私とアンジュリカを襲撃した者がおる。今まで襲撃者を雇った黒幕を探っていたが、やっと確実な証拠を見つけた。今から誘拐罪、殺人罪、国家転覆罪の容疑でティダハム辺境伯の屋敷へ向かう。陣形はティダハム卿邸を囲む配置となる、魔法部隊は屋敷ごと結界魔法で逃げ道を無くせ。誰一人逃亡させるな。…私からは以上だ」


 彼女から伝えられた内容に驚き、困惑する騎士達。しかし、誰も文句は言わない。それが実力国家のトップに君臨するエレニール王女だからだ。


「エレニール殿下。請謁ながら一つだけ宜しいでしょうか!」


 すると、勇敢にも一人の騎士が手を挙げた。


「なんだ」


 エレニールも質問が来ることが分かっていたのか、不快な顔も見せず。質問の許可を出した。


「殿下の厚意に心の底から感謝を!につきましては一人見掛けない者がおりますが彼について何か説明はありすでしょうか?」


 そう言って敬礼をしながら反対の手で俺を突き刺し、聞いて来た。そう来るよな。


「ああ、皆にもまだ伝えていなかったな。彼は私が単独で指名依頼を出したAランク冒険者のショウだ。彼の功績があってこそ私は証拠を手に入れる事が出来た」


 冒険者と言う単語が出た瞬間、殺気が俺に集まった。エレニールの横に居る団長からも殺気が届いてくる。


「この冒険者が裏切り者の可能性は無いのでしょうか」


 先の騎士が更に俺の事に付いてエレニールに聞いた。他の者も内心同じような感情を抱いているだろうな。

 その聞かれたエレニールは俺の目を合わせニヤリと笑った。


「心配するな。もしその者が裏切りの行為を見せた瞬間…」


 そこまで言うと、腰に付けられた鞘からクリスタルに輝く剣を抜き、天空に突き出した。


「私が全力を持って斬り捨てよう」


『おお…』


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