第46話 黒幕を見つけろ その2

 転移魔法を唱えた次の瞬間、ショウの姿は貴族街の道の上に現れていた。

 転移をしたショウはすぐさま誰にも姿を見つからないよう近くにあった建物の物陰に瞬間移動し着ていたフードを深く被る。彼の姿には武器等の類は見当たらなかった。


 彼の恰好は漆黒色の黒いフード付きのマントを身に纏っている。風が吹き、ショウが身に纏ったマントがゆらりと揺れ、マントの下が薄っすら見える。マントの下には黒ずくめの服装を着用している。今回彼は誰も殺す気がなさそうだ。

 逆に殺すと厄介だと思っており、神眼を使用せずに。目的の品を入手するようだ。


 大通りをちらりと確認し、誰もショウへ視線を向けていない事を確認すると。屋根の上へ飛び、建物の上を走り目的の屋敷まで掛け走った。ショウが屋根の間を飛び、掛け走る姿を見た者は居なかった。


「…っん?」


「おい。どうかしたのか?」


 丁度同じころ街のパトロールに勤務していた一人の兵士が、何か風を切り裂くような音がし一旦停止すると、キョロキョロと周囲を確かめ始めた。一緒にパトロールをしていた同期の兵士が、いきなり立ち止まった同僚を不思議に思い声を掛ける。


「あ、ああ。何か頭上から一瞬音がしてな」


 二人一組で行動していた兵士は、その同僚が伝えた言葉を聞いた途端。不審者かと、思い左手に持っていた魔道具のカンテラを頭と同じ高さへ持っていき照らす。カンテラの光を照らされ建物の屋根が眩しく明るくなったが、そこには何も居なかった。


「おいおい、寝ぼけてるんじゃないか?お前が聴こえたていう音も空耳じゃないか?」


 笑いながら、同僚を茶化す兵士。


「いや~聞き間違いじゃないと思うだけどな~」


 そう言いながら頬を掻く兵士。


「っま、念の為に報告を入れと置けばいいだろう。さて、次の場所の見回り行くぞ」


「ああ、そうだな」


 翌朝衛兵詰所のて。ある兵士によると、昨晩風を切るような音と黒い線が見えたという報告があった。



「(…ここか)」


 屋根を上を走り、魔力探知を使用しながら目的地であろう屋敷が目の前に見えてきた。

 敷地を囲むように高い壁でぐるりと囲まれ、出入口は門の一ヵ所のみ。裏門はここからは確認できない。

 

 ここまでは大きさは違えと普通の貴族が住まう土地と何も変わらない。


 しかし、目の前に見える門の周辺には門番であろう。完全武装の兵士達が軽く15人を超えているのを除けば。


 ネズミ一匹たりとも通さないであろう念を込めた厳重体制だ。敷地を囲む城壁にも、一定の距離を置きながらそこにも兵士達を配備している。王城でもこれほど厳重な警備では無いだろう。


 さらに、視線を遥か上空へ向けると、一匹の飛竜が敷地を回るように飛空している。今俺が羽織っている真っ黒のマントが無ければ見つかっていただろう。


「(…っよっと)」


 ある豪華な建物の天井の上から目の前に見える目的地の屋敷に向かった跳躍した。


 目の前。っと言っても距離を測ると今飛んだ建物から、城壁まで100メートル以上は離れているだろう。


 普通の人種なら、見回りに見つからず目的地に辿り着くの到底不可能だろう。

 しかし、俺は外見は全くの人族だが、こう見えても中級神だ。

 転移魔法を唱えなくとも、余裕で侵入できる。


 飛んだ勢いで風が強く身体全身に当たり。フードが外れそうになるが手で軽く抑え。更に上空でもう一度ジャンプして、無事敷地内へと侵入することが出来た。音を立てずに庭に着地すると、そのまま気配を消しながら屋敷の壁側に寄り添い。壁に手を当てると一つの魔法を唱えた。


――空間把握。


 魔法を唱えた瞬間。手の平から放出された魔力が屋敷全体に行きわたり。建物内部の構図、窓の数、見回りの数。全ての情報が頭に入って来た。


 俺が今手を当てている壁の部屋はどうやら物置部屋となっており。内部に侵入するには絶好の機会だ。


――空間魔法発動「ジャンプ」


 瞬間、俺は庭から建物の内部にいた。本来は視点内の短距離転移魔法だが、神眼や空間把握を発動していることで、関係ない。


 夜目を発動させ、扉をほんの少し開け廊下の左右を確認し誰も徘徊中の兵士が居ない事を確かめると、跳躍して空中で体を反転させ。天井に足を付き、音も立てず。目的の部屋まで向かい始めた。



…ここか。


 目的の書類があると思われる一室を見つけ、天井から離れて床に着地する。

 頑丈に閉ざされた扉は、この屋敷の主が使う執務室だ。

 勿論の事鍵で施錠されているが、俺には関係ない。扉に手を当て、又ジャンプする。


 部屋の中は窓一つ付いていなく、周りの壁には本がびっしりと入った本棚がぽつんと置かれた机を囲むように置かれている。


 机へ向かう。机の上はここ最近使った形跡は無く、綺麗なままだった。何一つ物を置いて居なく、引き出しを引いてみたが、そこにも何も入って居なかった。


 一旦机から離れ、次に大量に本が入れられた本棚の方へ向かう。

 本を手で撫でながら、可笑しな本が無いか確認する。


…ん?


 そのまま流れる様に本を撫でていると、一つの本でその手を止めた。その本だけ紙の感触では無く、木製のような何か硬い感触だった。


…これか。


――ガチャン!


 その本を掴み引いてみると、何処からか扉が開く音がし。音が聴こえた方へ振り向くと、近くの本棚が少し開いていた。開いた隙間から光が漏れている。


 隠し扉へ向かい、その少しだけ開かれた扉を開ける。


 魔導具ランプで明るく灯された小さな一室には机に椅子が置かれ。机の背後の壁には金庫が埋め込まれていた。どうやらここが当たりらしい。机に置かれた書類は無視して、後ろの金庫に向かう。


 この金庫も魔道具で出来ており、自身が登録した魔力を流してダイアルを回さないと開かないようになっている。


 しかし、俺には無意味だ。


 金庫に触り時空魔法「空間穴(ディメンションホール)」を唱える。


 すると、金庫の扉に透明な空間が出現し。向こ側に様々な書類や手紙がが重なっていた。

 他にも宝石類などがあったが、それには興味が無いので置いておこう。

 書類や手紙を一旦全て取り出し、後ろに机で読み始める。っあ、念の為に外の時間は止めておこう。



…成程、そうゆう事だったのか。


 金庫に入れられた書類や手紙を読み終え。インベントリからスプライトの缶を取り出し、ソレを一気飲みした。何となくこれが飲みたくなった。そうゆう気分だ。


 飲み終えた俺はインベントリを開いたまま、エレニールを襲った襲撃者の黒幕につながる確実な証拠を空き缶と一緒に入れ。他の手紙や書類は金庫に戻した。


 全てを元通りにした俺は、部屋を後にするとそのまま外の時間を止めたまま。ある部屋に向かい歩いた。

 一つ目の扉には鎖で頑丈に固定しており、誰も入れないようになっている部屋に飛ぶ。

 その内部には何も家具は置いて居なく。殺風景な部屋だった。


 ただあれほど頑丈に扉を固定していた理由が部屋の地面に示されていた魔法陣。

 そう、地面に刻まれた魔法陣は転移の魔法陣だった。

 魔法陣の手前まで寄ると膝を突き、手をかざし。魔法陣に流れている魔力を逆探知をする。流れる魔力を読み取り、何処に転移するのか分かる。


…。


 魔力を探知した場所は、館の主が納める領地。スティダハム辺境伯の領地に繋がっていた。成程…この魔法陣を使い、ロスチャーロス教国の使者と連絡を取り合っていたのか。

 しかし、使い方を間違えると洒落にならない物騒な物をいったい何処で…。


 神眼を使えば瞬時に全て分かるのが、今回は使わないと決めている。後でナビリスに直接聞いてみるか。

 頑丈に施錠された部屋を後にし、最後の目的地を目指す。

 侵入ミッションはとっくに飽きていたので時間は止めたまま廊下を渡り、そのまま屋敷の地下室へ繋がる扉まで向かった。


 屋敷の外れに建てられた不気味な外見をして建物へ向かい、苔だらけの扉を押す。

 鈍い音を出しながら開いた入り口を潜り、地下へ繋がる薄暗い階段を下る。


 長い時間地下へ繋がる階段を進み、ようやく広い空間へとたどり着いた。


「…」


 その空間は真っ暗であり、光一つ入って来ない。

しかし、夜目を使用している俺には全てハッキリと見えていた。

 びっしりと真っ赤な絨毯のように染まった地面と壁。

 その真っ赤に染まった地面の上に大量の死体。


…死体。


……死体。


………死体。


 100はくだらないだろう。おびただしい数の死体がこの空間を圧迫していた。

 死体は全て無残な姿で死んでおり、一目見て全員殺されたと分かった。


 死体が置かれた床には薄っすらと魔法陣が描かれていた。これがエレニールとアンジュリカを襲った理由だ。ある生物の召喚するための生贄として。


 服装は全員、綺麗とは言えない服を羽織っており。その服も血の色で赤く染まっている。 

 死体の中には、自らの子を守ろうとした母親が幼児を胸に抱いたまま、殺されていた。


……。


 すまない、死んだ者を蘇生魔法で生き返らすことは無い。

 例え、魔法を掛けても命が既に失われた者は生き返らない。

 生命の灯が消えた命は一旦天界へ戻り、その後。他の人生へと転生する。

 ソレを戻す事は中級神である俺でも出来ない。

 少しでもまだ息が有る者が居れば即座に全快することは出来るが。


……。


 俺が出来る事は、来世の運命を祈り見守るだけ。


『…ショウ』


 俺が一歩も動かず。そのまますったっていると、ナビリスから念話が届いた。心配そうな声で俺の無事を確認している。

 

 彼女があの時、何か言いにくそうにしていたのはこの事だったのか。


 でも、神の俺は感情がある程度制御されているので正常に思考出来ている。


……だから。


「だから。俺は平気だ、ナビリス。俺は落ち着いている」


 そう言うと、背中を包み込むように俺の背後に転移し。背中に腕を回し、浮遊しながら俺の肩に頭を乗っけているナビリスに手を重ねる。


「ショウ…もう既に貴方の依頼は完了しているわ。後始末はエレニール王女率いる騎士団に任せましょ。ね?私…ショウの為にクレープを作ってみたの。銀孤と一緒に食べましょ」


「…ああ」


 そうだな、俺の役目はもう終わりだ。ここで手に入れた証拠の数々をエレニールに渡し、後は彼女に任せよう。


 彼女もこの光景を目にすれば、俺の気持ちが理解してくれるだろうか?


 そう思い、時間停止の魔法を解き。ナビリスと二人一緒に屋敷に転移した。


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