第49話 黒幕を見つけろ その5

 三人で入って来た玄関から出ると、そのまま横に広がる森に向かって歩き始めた。他の空間は綺麗に整地されているのにあの場所だけは草木が荒れた状態で、建物を巧妙に隠すように。


「止まれ」


 暫く歩き続け、離れの建物が置かれた森へ入る瞬間。俺は手を上げ後ろの二人を止めた。


「貴様!?やはり裏切り者かっ!この場で叩き割ってやるっ!!」


「ま、っ待て!」


 俺の行動に勘違いした団長騎士が剣を抜き、俺の方へ向かったきた。エレニールはそれを止めようと声を掛ける。


――ッギン!


すると、森の中からエレニールへ向かって高速で飛んできた投げナイフをレイピアの腹で弾く。

 俺が二人を止めた行動の意味を理解した二人は即座に武器を構え、周囲を警戒し始めた。


「気を付けろ。敵さんの御出ましだ」


 そう背後の二人に伝えると、今弾いた投げナイフを地面から拾い上げる。

 真っ黒色に塗られた投げナイフの先端からは紫色の液体が垂れている。

 毒だな。…しかも強力な。高レベルのエレニールさせこの毒を受けたらただじゃすまないな。

 そう思うと手に持った投げナイフを飛んできた方角へ向け投げ返した。先程の速さとは段違いな速度で。


「ッぐわァァア!!」


 すると森の中から悲鳴が起こった。


「10…いや、12か」


 何時の間にか俺の横で武器を構えたエレニールが森に隠れた暗殺者の数を魔力で感じたらしい。素晴らしい魔力操作だ。探知魔法を使わず正確に敵の数を探知するとは。


 彼女の言葉に頷き肯定する。


「ああ、どうやらここのお貴族様が雇った暗殺者だな。出来るだけ殺意を感じさせないように、しかし殺しに迷いは無かった。それにあの黒く塗られたナイフは暗殺者が良く使う手だ」


「なるほど…」


 警戒を続けながら俺の話を聞いているエレニール。


「それにナイフに盛られた毒はヴェノムモスフラワーというとても珍しい花を潰した汁液が塗っていた」


「ヴェノムモスフラワー?毒系の書物は城の図書館で何冊か読んだことがあるが、そんな花の名前見た覚えは無いぞ」


ナイフに盛られた毒の話になると、エレニールから一つの疑問を聞かれた。


「まぁそうだろうな。なんたって主な自生地はロスチャーロス教国の北部だからな」


 俺が管理する星に関する全ての事は全て知っている。それが神としての義務だ。


「……何故そこが分かるのか、今は置いておこう」


「ああ、そうしてくれ」


 そう言い終わると、目の前に現れた12人の暗殺者に武器を構えた。

 全員黒一色の恰好をしており、どれも経験を積んだ熟練の暗殺者だと雰囲気で分かる。


「ショウ、最低一人は残せ。後で我々が尋問する」


「了解」


 その一言が引き金になったのか。手前で俺達の様子を観察していた暗殺者五人程一斉に攻撃を仕掛けてきた。


「パワーアップ。ディフェンスアップ。モビリティアップ。セイクリッドアーマー付与」


 俺は始めにエレニールと中年騎士に支援魔法を掛けた。神である俺が全て片付ける必要な無い。人類の事は人類に任せるつもりだ。…暇つぶしで俺も加わるかもしれないが。


「…っ!感謝するショウ!」


 俺から受けた支援魔法に戸惑いながらも礼を言う王女様。彼女は既に己の剣に雷エンチャントを唱えており、左右から襲ってくる暗殺者の攻撃を防ぎカウンターを放っている。


「ッふん!これしきのこと!我一人で十分だっ!」


 反対側を見てみると団長中年騎士が、片手剣にカイトシールドというオードドックスの装備で。暗殺者2人といい勝負をしていた。性格はひん曲がっているが実力は十分に第三騎士団団長に値するようだ。レベルも暗殺者より高い。


…さてと。


 俺も自分に向かってくる相手を見る。



 一人だけ碌な防具を付けておらず、あるのはレイピアだけと言う場違いな装備に、向こうは一人で十分だと考えたのか。憐憫のまなざしを送りながら真っ黒に塗られた短剣を立ちつくす男が心臓部分を狙い、突き刺した。


「ッぐ…!」


 何が起こったのか分からない。鎧を着ていない不格好をした者を狙い心臓を突き刺した、と思ったがその男はいつの間にか姿を消していた。


「…」


 何処に消えたかと周りを隈なく探そうとしたが、何故か体が動かない。それに何だか寒くなってきた。

 可笑しい…もう春の時期なはず。上手く立っている事も出来ず、ゆっくりと芝生に倒れる。

 その時点で自分に何が起こったのか理解した。


――死。


 ああ…今から自分は死ぬんだと。

 

 過酷な訓練を積み、暗殺者として数え切れない程殺して来た自分が死ぬのは…嫌だ。…怖い。誰か…!


 既にその者の目に光は写って居なかった。



 一人目を殺した直後、新たに木の陰に隠れていた暗殺者二人が攻撃をしてきた。


 両手に装備している短剣を踊るように躱しつつ、背後の木から投擲された投げナイフを空中で掴み取りそのまま回転を加えながら近くに居た暗殺者へ放った。


 回転で威力が高まった攻撃に成すすべ無く、額に細長い穴を開けドサリと地面に倒れる。


 身体を回転した俺は動きを止めず近くあった木へ飛ぶ。俺が飛んだ直後、地面に複数の投げナイフが突き刺さった。


 幹に着地すると真下で俺を見上げる暗殺者の方へ翔ぶ。頭上から駈ける俺を殺そうと短剣を天へ突きさす。


 しかし、ふわりと落ちる葉っぱの様に体勢を変える。俺はその突き出された短剣ごと身体を縦二つに斬り裂いた。真っ二つに斬られた身体から血と内臓を零しながら。二回音を立て、地面に倒れた。


 ふと、エレニールの様子が気になり。彼女が戦っている方へ視線を巡らす。

 そこには、三人同時を相手にしている彼女の後ろ姿が映った。怪我をした様子は無く、既に二人を無効化にしていた。地面に倒れた死体からは全身で焼かれた風に焦げている。


 すると森の中から何処からともなく彼女の首を狙い、投げナイフが放たれた。先端には毒が盛られている。


「っつ!…『土の魔力よ 我を守護する壁を造りためよ ストーンウォール!』」


 俺が無魔法『インパクト』でナイフを弾くと、それに気付いたエレニールが即座に相手にしている暗殺者の足元に土魔法『ストーンウォール』を唱え。相手が隙を見せた内に俺の真横まで瞬時に移動してきた。


 彼女は全身に魔力を流し、身体強化を身に纏っている。毎日魔力操作の努力を行ってきたのであろう、彼女から流れる魔力には無駄の垂れ流されが無く、例えると穏やかな波のようだ。


 隅々まで綺麗に循環させることによってしっかり強化し、体の外に漏らさず循環させることによって魔力消費を抑える事ができる。それ故彼女の顔には汗一つ掻いていない。


「相変わらず出鱈目な実力だな貴様は。身体強化を使っていないのに既に複数人無効化したとは。それより先程は助かったぞ」


「気にするな。それより王女様も見事な魔力操作だな、流れる魔力も綺麗だ」


「ッな!う、うむ…そう言ってくれたのは貴様が始めてだ。…あ、ありがとう」


 顔を赤く染め、目を逸らしながら礼を言われた。

 あれ?さっきの誉め言葉はこの世界ではセクハラに当たるのか…?


「まぁ世間話はこの依頼が終わってからでもいいだ…ろう?」


 と、言いながらストーンウォールを迂回して俺達へ向かってきてた暗殺者の首を神速如くレイピアで貫いた。更に貫いたレイピアの先から空気の刃を放ち、その後ろに隠れていたもう一人の暗殺者の身体を突き抜けた。


 すうっと上半身がズレて、知らぬ内に生命の灯を消失しながら下半身と別々に倒れた。


「雷鳴剣!」


 横に居たエレニールを見ると、残っていたもう一人の暗殺者を人間離れした速度で相手を斬りつけた。雷を纏った剣技によって斬りつけた傷口から放電が身体全身に回り、一瞬にして命を奪った。


 彼女が使っている武器にはミスリルの素材も使われているようだ。魔法環境の流れをより良くする為。


「…………!」


 彼女の武器に関心を持っていると森の奥から漆黒の槍状の魔法が高速で向かって来た。闇魔法のダークランスだ。


「闇魔法使いかっ。厄介だな」


 余裕を持って横へ避けたエレニール次々と飛んでくるダークランスを避けながら彼女に尋ねる。


「…闇魔法の殆どは攻撃力はそんなに無いが。万が一攻撃が当たると状態異常を起こす魔法ばかりだ。そもそも使える者はそんなに居ないが…」


 そんなことも知らんのか?と言いたそうな雰囲気をヒシヒシと与えてくるが、丁寧に教えてくれた。

 言葉はその外見もあってキツイ女性に見えるが。意外と面倒見がいい女性だ。


「そうか、それじゃ俺も使うか」


「……は?」


「闇を 汝の敵を引き付けよ 『ダークハンド』」


 エレニールの驚愕した表情を無視して闇魔法のダークハンドを唱える。

 すると足元に出現した黒色の魔法陣から手の形をした影が出現し、標的を合わせた位置までその手が伸びいった。無詠唱の事はまだ知られたくないのできちんと詠唱も唱えた。


「っぐ!クッソ!!何だっ!」


 すぐさま影の手で体を締め付けられた黒ずくめの魔法使いが引っ張られてきた。


「眠っとけ」


魔法から出ようと暴れる暗殺者を仙術で意識を奪った。


「ほら、後は王女様達で焼くやり、食べるなりするといい」


 そう言って、俺達が歩いて来た道へ放り投げた。何時か騎士の一人が気付くだろう。


「…あ、ああ」


 俺が何故あの魔法使いを捕虜した理由が分かったのだろう。丁度使える駒が出来たと、ニヤリと海から出る夏の月のようにほほえんで見せた。


 それと、立っている人数が少なくなったことに焦りを感じて来たのか後衛で待機していた暗殺者が足の音を消しながら此方へ向かってきてた。


「我の前で殿下に襲撃を掛けるとは、その罪。死に値する!!」


 しかし、突如彼等の横から血がベットリ付いたカイトシールドを手前に出した騎士団長による強烈なタックルで一人を吹き飛ばした。あらら、首が曲がってるよ。


「ナイン団長!無事だったか!?」


 いきなりシールドバッシュをかました中年騎士にエレニールが驚きながら近づく。


「っは!殿下を守るのが私の義務ですので!」


 戦闘中と言うのに敬礼をする騎士。その執念深さには俺も敬意を値するよ。


 敬礼をした騎士は次に俺の顔を見始めた。身長は俺と同じ高さで、真っ直ぐと目線が合う。


「おい冒険者!よく殿下を守ったな!」


 すると俺の目の前まで近付くといきなり肩をバンバンと叩きながら俺がエレニールを守った事を伝えた。


「ああ、どう…も」


 絶好のチャンスを逃さないと、傍まで近付いていた暗殺者を一振りで撃退した。


「おおっと。そうだった!まだ敵は居るんだったんだなっ!」


 今の状況を思い出した中年騎士が剣を抜くと相手に向かって掛け走っていった。

 騎士団長があんな感じで良いのか実力国家?

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