閑話7 王立学園
ランキャスター王国、王都ランキャスター。
王都には城と見違う程の圧倒的存在感を放つ巨大な建造物が存在する、それは王立学園。貴族街と一般街の狭間に建てられ、学園の敷地は王都一広大な面積を誇っている。
学問に熱心であったランキャスター初代国王によって建設されたこの学園は創立1000年を優に超え、由緒ある名門中の名門学園となっている。
それは例えランキャスター王国と現在敵対国であろうが王立学園に自分の子供を入学させようと大陸中から優秀な平民、貴族、王族が集まり競い合う。毎年入学試験には凡そ3000人以上の子供が王都に集まり、入学試験を受ける。入学試験を受けるのも安くない費用が掛かるが、優秀な成績を残せば全額免除されるので裕福層以外の平民はがむしゃらで勉強に励む者が多い。貴族、王族は見栄の為。平民は未来安定した職業に就くため切磋琢磨に励んでいる。
学園のシステムは、7歳なら誰でも入学することができ、試験に合格すれば学園敷地内に建てられた大きな学園寮で卒業まで住まう事になっている。寮の中には1階に大浴場や大食堂が、二階と三階には生徒の部屋が設置されている。勿論家が近い者は寮に入らなくとも別に問題ない。他国からの貴族となると学園付近の家を買う事もある。
学園に入学すると基本学科の他に選択学科というものがある。
基本学科とは、言語、算数、歴史、護身術、魔法学などが含まれており、これは必ず選択しなければならない。選択学科は専門性がある学科となっており、戦闘科、職業科、貴族科、魔道具科、薬剤科、侍従科に分かれている。学園に入学した生徒は最低でも一つは選ばないといけないが、生徒によっては三つ、四つと選ぶ人もいるとのことでそこら辺は自由となっている。
綺麗に磨かれた廊下を歩く一人の生徒、堂々とありながら優々たる姿に振り向く者全ての心を鷲掴みにする程の美貌を持ち。一歩進む度に背中に軽く流した髪が金色の渦を捲いてきらきらと震える。
歳は12と若々しいが、妖精のように目まぐるしく、生き生きとして、魅力的な少女。彼女に一言声を掛けられるだけで全ての男は少女に忠誠を誓い、手足となるだろう。
少女の周りには取り巻きだろうか、これもしゃんと澄まして控える上品で美しい四人の女性の姿があった。彼女等全員同じ素材で作られた制服を完璧に着こみ、長い廊下を進む。背後にはメイド服を着た護衛の女性の姿も見られる。
取り巻きを纏め、その中心を優雅に歩く女性の名は『アンジュリカ・エル・フォン・ランキャスター』この国の第五王女である。
廊下を気品良く歩く彼女の整った顔には普段、ショウの屋敷で無邪気に遊ぶ表情は無く。何処か白けた表情を見せている。
それもそのはず、顔には決して出さないが今彼女はご機嫌斜めだ。
その理由が前の休日まで遡る。
その日は学園は休みで既に出された課題を全て終わらせていたアンジュリカは時間を持て余していた。
すると彼女はショウの屋敷に遊びに行きたくなり颯爽とエレニールの仕事部屋に突撃すると、ショウの所に遊びに行きたいと。エレニールに上目遣いで頼んでみた。
だが、エレニールの口から出た言葉は驚きのダメだった。
ダメと愛する姉に言われ悲しみがこみ上がり思わず涙を目尻に溜めながら顔を伏せてしまった。
その姿を見たエレニールが彼女の元まで寄ると、頭を優しく撫でながらショウの所に遊びに行けない理由を教えてくれた。
それはショウは今依頼で王都から出ている、と事であった。
それっきりアンジュリカは一言も告げなかったショウに拗ねてしまい気分を損ねてしまった。
「あら?これは、アンジュリカ様ご機嫌麗しゅう」
ショウと言う一人の男性にナイーブな気持ちになりながらも、気品良く振りまきながら廊下を進んでいると、向こう側から4人の女子生徒が近付いてき。真ん中を歩く一人の女性がアンジュの姿を見つけたようだ。
「ええ、ヴァイオレット様もご機嫌麗しゅう。本日、魔法の授業ではヴァイオレット様のご活躍に期待しておりますわ」
瞬時に笑顔の仮面を被ったアンジュがヴァイオレットと呼ばれた少女に声を掛ける。
彼女はこの王国に忠誠を誓う上位貴族、ビショット公爵の第二女ヴァイオレット・フォン・ビショット。一方的にアンジュにライバル心を持っている。アンジュにとってどうでもいいことだが、彼女にも王女のプライドと言う物を持っている。
「ふふふ、そう言ってられるのは今の内ですわよアンジュリカ様。最近特訓した私の実力をお見せしますわ」
「そうね、私もここ最近特訓した成果を貴方に見せてあげるわ」
「ふふふ」
「ふふふ」
「「…」」
二人の間には火花が散らしていた。それを何とも言えない取り巻きの皆であった。
実際にアンジュリカはナビリスから魔法の手ほどきを受けており。以前と比べて数段階実力を付けていた。最初は王国最強と名高い姉のエレニールをボコボコにした経歴もあってびくびくしていたが。その後すこし魔法を教えてもらっただけでナビリスの事を尊敬していた。教師の教えより数倍分かりやすく、そして楽しかった。
「そういえば噂でエレニール王女殿下に婚約者が出来たと耳にしましたわ。もしよければどのような殿方が教えていただいても?」
バチバチと火花を散らしていたが、スッと表情を戻すとショウについて聞いて来た。
「勿論ですわ。彼はショウ様と言いますわ。彼は冒険者に所属しておりまして、強くて、優しくて、カッコよくて、強くて、笑顔がとても素敵な男性ですわ」
「え、ええそうですか…」
少し引いたヴァイオレット。しかし彼女の事など気にせずにショウの事を言い続ける。
「ええ!特にショウ様の屋敷で頂いたケーキは今までで一番美味しくて、どれだけ食べでもお替りが出てくるのです。結局食べ過ぎてしまって思わず、はしたないとショウ様に謝りますと彼は、気にしないよと私の頭を撫でながら優しく伝えてくれて。まるで新しく出来たお兄様みたいで私の事をアンジュ、と微笑みながら言ってくれるのです。ああ、幸せです」
「……そ、それは…ええ、え優しい殿方で良かったですわね。ね、ねえ皆もそう思うでしょ?」
ヴァイオレットは完全に引いていた。その証拠に数歩アンジュから遠ざかっている。普段は美しく可憐なアンジュリカだが、豹変した彼女に周りを囲む取り巻きも引いていた。
「わ、私次の授業の準備をしなければいけないので、そろそろ行きますわ。ご機嫌用アンジュリカ様」
「ええ、魔法の授業をお待ちになっておりますわね」
早歩きでアンジュを過ぎてしまったヴァイオレットに困惑の表情を見せたが、即座に前に振り向き足を進める。
「(ああショウ様、早くお戻りになってください。アンジュは何時でも貴方にお会いしたいです。それと銀孤様のもふもふ尻尾を触れたいですわ。ショウ様…)」
学園は相変わらず平和であった。
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