　冒険者ギルドで用事を終えた俺は、そのまま街並みを見ながら武器屋へ向かっていた。空は晴れ渡り、ビーチでの日光浴日和。ナビリスの案内でヒビ一つ見当たらない　白く丁寧に舗装された石畳の上を歩く。

　大通りの端には屋台らしきものが沢山出ている。その中には、ホットドッグや、ハンバーガー、更にナンの上にカレーに似た何かをかけた食べ物等々、地球でよく見かけた食べ物を売っている。

　すぐ近くの広場では、ご老人が広場に設置されたベンチに座り新聞らしき物を読んでいる。また、子供達が、サッカーボールを蹴りながら無邪気に遊んでいる。

『この世界は、意外と文明が進んでいるんだな』

『はい、アカシックレコードによると、やはり一番の原因は、１００年ごとに召喚される異世界からの勇者です』

『異世界からの召喚って、絶対地球からだろ』

『ええ、１１００年前に何者が召喚した勇者、ランキャスター初代国王の圧倒的火力と知識に目を付けたバンクス帝国が、１００年ごとに転移型魔法陣で召喚しているようです』

『地球人からしたら、帝国は連続誘拐犯。だが、向こうからしたら、短期間で戦力増加可能な駒…か』

『それと、今年で最後に召喚を行ってから１００年目になります。バンクス帝国は今まさに召喚の準備中です』

　成程…しかしその召喚を止める義務は俺に無い。召喚を止めたかったら、バンクス帝国以外他国で連合軍を作り、そしてバンクス帝国を滅ぼし、勇者召喚に関する資料を全て燃やせばいいだけの話。でも、人類はそれをしない。内心どの国も簡単に手に入る戦力を求めているのだろう。

　ナビリスと勇者について話していたら、いつの間にか街の武器屋に着いた。

　煉瓦と石造りが合わさった立派な建物で、ハンマーの絵が描かれた看板があり、開けっ放しの茶色く焦げた木製の扉を潜った。店内の壁には所狭しとショートソード、ロングソード、バスタードソード、大剣、短剣、槍、斧、メイス、ハンマー、レイピア、エストック、そして刀、種子島らしき火縄銃も飾られ、そして床に置いてある樽の中には魔法使いが使用する杖が入って売られている。

　予想を超えた武器の種類の多さに時間が掛かりそうだ。俺以外の客も１５名程、壁に飾った武器や杖を物色しており、全て鉄でできたカウンターには店内に入って来た俺をジロリと睨みつけてきた筋肉髭親父がすぐに興味を無くして、手元の短剣を丸形の砥石で磨く作業に戻った。

　俺は剣が壁に並べられたセクションへ行き、何も変哲の無い普通の素材で作られたロングソードを手に取り、それをカウンターに置いた。

「親父。このロングソードに、これをしまう鞘と剣帯をくれ」

「…金貨１枚と銀貨６０枚」

　無愛想に値段を教えてきた店員に金貨１に銀貨６０枚丁度渡した。

「っふん…そこで待ってろ」

　そう言って奥の部屋に行った親父を待つこと数分。鞘と剣帯を持った親父がそれをカウンターに置いた。これも何も変哲の無い、黒色の革で作られた鞘と剣帯だった。しかし、何の武器も持たないよりましと自分を説得し、ロングソードを鞘に仕舞、剣帯の横に付いた鞘用のベルトに括り付け、腰に巻き付け、親父に礼を言い、武器屋から出た。

『結構品揃えが良かったな。また買いに行くか』

『ふふ、貴方のインベントリには大量の武器が入ってるのに、態々下界で武器を買うなんて変な神ね』

『ナビリスの言いたい事も判る。確かに俺のインベントリの中に鍛冶の司る神と一緒に作った武器が山の程眠っている。でも、豪華過ぎて恥ずかしい。それに、力が強すぎて、一振りで大陸が消滅する程の威力だぜ？それ故神界か、お爺ちゃんが作ったダンジョンでしか、使わないようにしてるんだ』

『ふーん。それじゃあ、気に入った個体にその武器を差し上げたら？剣の威力が強くても、人の力なら平気じゃない？』

　確かに。俺と鍛冶の神アポロスで作った武器達も出来たら使われたいと思ってるし。

『うーん。神剣とかは無理だけど、魔剣や聖剣ならいいかもな。っま、考えとくよ』

　午後の光がいくらか薄れ、あたりに夕暮れの気配が混じり始めた街並みを見ながら今夜泊まる予定の黄金の木に着き、扉を開け中に入ると変わらずホテルのような内装で、カウンターでカギを受け取り、部屋には戻らず、そのまま食堂の方へ向かった。　高級宿ながら頑丈そうなテーブルと椅子がいくつも並べられており、所々に冒険者や商人の宿泊客や食堂の利用者が腰掛け、楽しそうに笑いながら一時を謳歌している。どうやらこの宿に泊まってなくても金を払えば、食堂は利用できるらしい。空いてる席を探すと、片隅に、二人用の他のテーブルより一回り小さいテーブルが空いてたので、そこの席に座った。

「こんばんはショウ様。こちらのメニューをどうぞ」

　席に座り、数分そのままジッと待っていたら、可愛いらしい制服を着たウエイトレスがこちらに来て、メニューを渡された。流石、高級宿。どの客が泊まっているか把握してるらしい。メニューを一目したが、この世界に降りて未だ二日目。どの料理が美味しいか、全く知らない。

「こっちに着いたばっかで、何が美味しいか分からないから、シェフのおススメで。それに、ワインを一本頂戴」

「ふふ、畏まりました。それと、ワインは別料金で金貨２枚になりますが宜しいでしょうか？」

　さっき買った武器より高いワインか。うん、楽しみだ。

「ああ、構わないよ」

　ウエイトレスがオーダーを伝えにキッチンに入り、十分程で銀のトレーを持ち、その上に置かれた料理と、ワインボトルを持ってきた。

「お待たせしました。こちらがシェフのおススメになりますオーク肉入りコーンポタージュと、バーナード卵を使ったオムライスになります。そしてこちらが、カルペード産のワインとなります」

　おおー美味しそう。流石地球から召喚された勇者。米もこの世界にあるのか。

　料理とワインがテーブルに置かれ、先にワインボトル代の金貨２枚を払い、更にチップとして金貨１枚彼女に渡した。

「っ！ありがとうございます」

　金貨をチップとして渡すのは珍しかったのだろう。一瞬びっくりした表情見せ、俺が渡したチップを受け取って貰えた。余程嬉しかったのか、スキップでもしそうな足取りでキッチンに戻っていった。

　初異世界料理は美味しかった。コーンポタージュとオムライスを食べた後、パンも頼んだら、良く小説で観かける黒っぽい硬いパンでは無く、地球の作られるフワフワの白いパンだった。ナビリス曰く、この白パンも召喚された勇者からの知識だと。

　満足したので、２０９号室に戻り。ジャグジーに入ることにした。この世界全ての住人が魔力を所持してるので、ジャグジーに設置された魔石に魔力を流すとこで温かいお湯がでてきた。丁度いい温度になったの確認し、剣帯を腰から外し。最初にコンバットブーツの靴紐を解き足をプラプラし、そこら辺に脱ぎ捨て。デニムジャケットを脱ぎ、その下に着ていた白Ｔシャツも脱ぎ。上半身裸になったところで、次に靴下を脱ぎ、最後にダークカラーのストレートデニムとその下に履いているブランド物のボクサーブリーフを一緒に脱いだ。

「あああ、気持ちいぃ」

　神になったので本来ならば、汚れも付かないし、風呂も入る必要が無い。それでも、俺は風呂は欠かさず入っていた。それは神界でも同じだった。修行中にレベルが上がり、創造魔法で色々な物が作れるようになると。まず最初に巨大な温泉を創り出した。元々食欲・睡眠・性欲が無かった神々も、今では自分で料理を作り、食べ。風呂に入りリラックスしてる。但し自然発生した男神に性欲は現れなかったが。

　ジャグジーから上がり、インベントリから取り出した心地が良いバスローブを着て、ベットに倒れこんだ。神に睡眠しなくてもいいので、スキル神眼でこの世界を観る事にした。

　この神眼は神になった時に習得したスキルだ。宇宙から見たこの世界やら地面に落ちてる石ころまでハッキリと見える。昼夜関係無く、位置も関係ない。対象の人物を鑑定すれば、隠蔽も無視し全ての状態が確認出来。思考は過去も見通せる。

　どの世界でもいつも通り。

　戦争してる国もあれば、ダンジョンに潜り魔物と戦っている人々、逆にスタンビートで戦ってる国、都市。

　道端で野宿をしている商人や冒険者達もいる。賊に襲われ難なく撃退する人達もいれば、飲み込まれこの世を恨みながら死ぬ人もいる。良くも悪くも、ここはそういう世界で、俺の『神の役目』とは無関係だ。この世界の生物を殺し、殺される。所詮どの世界も弱肉強食。

　神の価値観になったせいだろうか。見ず知らずの者達がどうなろうと、何かしらの行動を取る気にならない。

　勿論俺が神として行動すれば全て助ける事が出来る。だが、俺はそれをしない。一度人間を助けたら、その人間は『神なのだから人間を助けるのは当たり前』と傲慢な生物になる。神と種族が違えば価値観が大幅に異なる。

　実は俺が神となり、数日あったある日。俺は祖父の創造神から貰ったアドバイスがある。

　一回人類に手を貸すと人類は堕落するとこと。一回でも神として人類に手を出すとくだらないことまで聞いてきて、不都合があるとすぐに文句を垂れ流し、侮辱し、最後に邪神と称えられる。

　私は、俺は、他人より優遇されてる、選ばれた種族なんだ。他のより優れている。他を見下し、悦に入る。更に酷くなると自分が神なるとほざき、他の神に発狂し殺し合いを始める。

　一つ実際に起こった出来事を話そう。

　ある世界を管理する女神が居た。彼女は自身が管理する世界に住む人間を心から愛していた。女神がいつも通りに世界の外側から眺めてたらある日、彼女を祀る教会にある重い病気を持った少女が運ばれ両親と共に祈り始めた。神よ、どうか娘の命をお救い下さい、と。人間を愛していた女神は、この少女の病を治した。勿論元気になった少女とその両親には女神に感謝した。それから直ぐにこの出来事を聞きつけた人間は彼女を祀る教会にやって来て祈り始めた。怪我を治してください、攫われた子供を助けて下さい、戦争で無くなった腕を元に戻してください。愛する人間の為、女神は全ての願いを叶えていった。そして数日後、ある王様が彼女を祀る教会に出向き願った。儂を大陸唯一の王にしろ。

　女神は断った。それは人間同士の問題だと、それを聞いた王は激怒した。それから王は彼女を祀る教会を全て破壊し始めた。それに人間からの願いも傲慢になっていた。お金持ちにしてくれ、貴族にならせろ、王になりたい、神にならせろ。彼女は断った。それに狂った人間は彼女を邪神と呼び始めた。侮辱し始めた。

　愛する人間達から邪神と呼ばれ、教会を破壊され、彼女は悲しみ、苦しみ始めた。最終的に人間達が最初に救った少女を邪神の手下と決めつけ犯しそして殺した。ソレを知った女神は全てを憎み邪神となり全てを壊した。彼女が管理する世界を無茶無茶にしたあと。他の世界も壊し始めた。結果その女神は俺が殺した。

　彼女との間に産まれたばかりの赤ちゃんを腕に抱きながら。

　あの日程、後悔した日は無い。

　………結論としては、眺めてるぐらいが丁度いい。