閑話4 とある奴隷の語り事

「……っへ?」


 私が買われたご主人様のお屋敷は城のように広く。綺麗だった。

 今、私や他の奴隷も同じように口が塞がっていないだろう。馬車の御者をしていた奴隷商の店員の一人が小声で「…先代国王住んでいた土地」とか言っちゃってるし!

 それに…奴隷の私達が住む場所も近くに建てられたデカい屋敷って言われた時なんか。気絶する寸前だった。


「(…冗談に聴こえるかもしれないけど、これが現実なんだね)」


 私は実の両親に裏切られ。最後には奴隷として売られ、ショウ様と名乗ったご主人様には感謝した。奴隷に落ちた時はどんな変態貴族に買われるかと、毎晩ベッドで泣いていたが。その私にガツンっと言ってやりたい。


 未来に希望を持って!と。



 私、エマはランキャスター王国北部の小さな村で生まれ育った。そこは一年中気温が低く、作物もあんまり作れなかったので決して裕福な村とは言えなかったが。村の皆が家族の様に一丸となり、苦しい時期は皆で支えあってきた。冬には北部にしか出現しない珍しい魔物を狩って、解体した毛皮を都会で売り。そのお金で必要な物を購入して戻ってくる日々。


 刺激がある人生では無かったけど。何時も笑いが飛びあい、幸せな日々が続いていた。


 隣村の次期村長のクソガキが私を嫁に欲しいと言われるまでは。


 その村は私の村から徒歩で3時間程離れた場所に作られ。村付近には子供でも倒せる魔物が集まったダンジョンがあり、私の村とは異なり裕福だった。私の村は何時もそのことで悪口を言われ、時には暴力を振るわれることもあった。しかし、五歳の頃洗礼の日を迎え。教会で洗礼を受けると私のステータスには火魔法と書かれていた。 私は子供ながらに嬉しくはしゃぎ。両親も心から祝ってくれた。


 洗礼を受けた日から、毎日欠かさず魔力を増やし事を励み。冬の寒い日には魔力が尽きるまで家を渡り火を点けた。


 それから十年の時が立ち、火魔法のレベルも三に上がった時。私の噂を聞きつけた隣村の村長が、彼の息子と私の婚約をお申し付けてきた。


 私は即座に反対した。だって隣村の村長の息子は悪ガキと有名で、昔暴力も振るわれた事もあったから。

 そんな男とは決して結婚しないと両親に猛反発した。


 私のせいだろう。ある日、隣村の村長がいきなり村までやってくると。驚きの内容が伝えられた。


 それは、何時の間にか身に覚えが無い莫大な借金だった。あの下に見つめてくる目を忘れる日は無い。


 全て仕組まれて事だった。


 そんな隣村の村長は私の両親に1つの選択肢を与えてくれた。


 それはもし私が彼の息子に嫁いだら借金を全額払うとことだった。


 貧乏な私達にはどうすることも出来なかった。少し成長した今なら仕方無かったと、理解できるがあの時。私は裏切った両親を憎んだ。


 そして、私は隣村次期村長へ嫁いた。

 それからは地獄の連鎖だった。

 私が作った料理にはどぶの味がすると言われ、身体全身に掛けられた。

 態度が気に食わない日には暴力を振るわれた。

 道具扱いされる日々に私の精神は限界に足していた。


 でも、そんな私にもプライドがあり。最後まで純潔を守り抜いた。


 初夜から寝室に呼び出され、無理矢理服を脱ぎ捨てられ。ベッドの上に押さえつけられた。


 それでも、最後の抵抗にと。今まで努力してきた火魔法の魔力操作で身体全身の温度を劇的に上げ火傷させた。


 それから毎晩のように寝室に呼び出されベッドの上に押さえつけられたが。結局最後まで私の純潔を奪えることは出来なかった。その事に激怒した元伴侶は、あれもない出来事をでっち上げて。私は王都で商売する奴隷商に売られた。奴隷として売られた当初はこの地獄から解放されたとに安堵した。


 ただ、奴隷紋で魔法を制限された時は今までの努力が無駄になったと絶望した。


 運よく村で一番だった私の外見を見込んで高く売れそうと思った奴隷商が私の面倒を見てくれて。今まで頼って来た火魔法を使わなくても十分に暮らす事ができた。たまに村より裕福な暮らしだと思ったりした。


 私が奴隷に売られ約半年がたった今日。メイドとしての教育を学びながら、ここフレドリック商店で一番仲がいい友人とお喋りをしていたら。会長のフレドリック様と共に一人の男性が廊下を歩いているお姿を見掛けた。


 一瞬しか見えなかったが、会長と一緒に奴隷を探すのは珍しい。その背後を歩いていたメイド服を着た女性の美貌には嫉妬すら起きない程の美しさだった。


 少ししてから一階の人族の奴隷が寝泊まりする居住スペースに使用人の代表格がこちらへやってくるとパンパンっと手を叩いて指示を出した。


「今から私が名を呼んだものは直ちに着替え、大広場でお越しを」


 そう名前を伝え終わると、そのまま奥の獣人族の居住スペースで同じことをすると二階へ続く階段へと上がっていった。呼ばれた名前の中には私と、今一緒にいる友人の名もあった。


「何だろうね?」


「さ~私のも分からないわ」


 二人で顔を見合わせて顔を傾ける。呼ばれた人数は人族だけでも20を超す。


 このまま待っていても何も埒が明かないので、言われて通りに着替え。


 友人と一緒に大広場へ向かった。


 扉を開き、中へ入ると。既に30は余裕で超す奴隷がこの広場に集まっていた。

 中には人族の他に獣人族、ドワーフ族、エルフ族。数回しか見たことも無い竜人族の奴隷も勢揃いだった。


「っえ!この人数の奴隷も全員買うつもり!?」


 一緒に入って来た私の友人も予想を超えた数に驚きを隠せない。という私も驚きで言葉が出なかった。

 

 扉の入り口に立ちどまてっると、私達に視線が集まったので即座に皆が集まっている場所まで掛け走った。


 私が入って来た後からもどんどん顔見知りの奴隷が広場まで入ってくる。


 ここに約40は集まっただろう。十分ほど近くに居た知り合いと今回の事について話していると。扉がゆっくりと開き、会長のフレドリック様。先程見掛けた若い男の人とメイド服を着た女性が入って来た。


「(…凄い美形。あんな男性見たことない)」


 先はチラっとしか見る事が出来なかったが。男の人の顔を見た瞬間衝撃がはしった。


 彼の顔は物凄く整っており、偶に来る貴族様の男性より数段風格がそのわっていて。


 簡単に言うと…どタイプだった。


 彼に見惚れているのは私以外もいるだろ。周りに目線を向けると、ほぼ全員の女性が彼の美貌に見惚れていた。中には美形が多いエルフ族の女性もいた。


 男の奴隷は見な後ろから入って来たメイド服の女性を顔を赤くしながら眺めていた。


 彼女の美貌は王族でもそう居ないだろう。


 会長のフレドリック様が彼を紹介してくれた。


「こちらがお前たちの主人となるショウ様だ!無礼が無いようにな!!」


「(…え?ええ!?彼が私達のご主人様!?)」


 まさかあの男の人がここに集合している奴隷全員を買うなんて思いもしなかった。

 フレドリック様が彼を紹介し終わると。ショウ様も一歩前に出なれ、その口を開いた。


「俺がショウだ。こう見えて冒険者で活動している。昨日家を購入したので急遽使用人が必要になったので今回お前たちを買った。そして、こちらがメイド長のナビリスだ。…宜しく」


「(冒険者?王族の方じゃなくて?)」


 ショウ様が奴隷を購入する理由が判明したが。その反面、彼が冒険者である事実に衝撃を隠せなかった。周りを見てみると、私と同様に驚いている奴隷もいれば。元冒険者や、元傭兵だった人達は何処か納得した表情で頷いていた。


 続いて私達の上司となるメイド長ナビリス様がショウ様の横に立たれ、口を開いた。


「初めまして。私、メイド長のナビリス申します。無理難題は出しませんが、逃げる者、反抗する者は即座に奴隷商に売りますので、全力で仕事を覚えなさい」


「「「…」」」


 声も鈴が鳴るような美しい声だったが。その話の内容に私達は何も言葉を言えることが出来なかった。


 ナビリス様は言いたい事を言い終わると、ショウ様の背後にお戻りになられた。


 ショウ様…いえ、ご主人様が部屋から出られると。後を追うように外に出て、フレドリック商店が所持している馬車に入り込み。ご主人様が引かれる馬車を追って館へ向かった。


 どれだけ時間が経ったのだろう。一緒の馬車に入った知り合いと今後の事について話し合っていたら。


 どうやら目的地に着いたらしい。


 ご主人様が住まれる敷地は王都とは思えない程広く、周囲には自然に囲まれていた。


 珍しい魔道具の門を開けられると、そのままご主人様の馬車についていき。彼が住まわれるとおもう建物の前までやって来た。その建物は屋敷というより城だった。


 皆馬車から出ると、入り口手前の階段で待っているご主人様まで近寄った。


「さて、ここが俺が住む家だ。役割や分担はそちらで勝手に決めても構わないが、戦いに長けた者達は門番や見回りをやってくれると嬉しい」


 そう言うと、ご主人様がある方角へ指を指した。


「そして、お前達が今日から住む使用人専用の建物があそこだ。食材は既に置いてある。もし他にも必要な物があれば、俺かナビリスに伝えてくれると助かる」


 奴隷の皆が指差された方へ振り向くと、そこには貴族様が住むおっきなお屋敷が建ったいた。


「(…え?あれが私達奴隷が住む家!?馬小屋じゃないの?)」


 今日一番に驚いた。だって、貴族様が住む屋敷に奴隷の私達が住まうのだも。


 皆の目が輝いているのが分かる。彼等もあのような屋敷に住めるなんて思っていなかっただろう。


「後はナビリスの案内に従ってくれ。仕事は明日から始めても構わない。それじゃナビリス、後は任せたよ」


 そう伝え終わるとご主人様は城中へ入られた。


 ナビリス様を残して。

 残ったナビリス様が私達を冷然たる目で私達を見下してくる。


「とのことで、私が貴方がたを面倒見る事になりました。先も仰いましたが、ここから逃げ出す者。反抗する者は即座に奴隷商に売り返します。頑張って付いてきてください」


 そう言って笑顔を魅せる彼女に何故か背中に冷や汗を掻いた。


 今日から本当の地獄が始まった。


 でもナビリス様の教訓を得て、黙々と上達し。近い未来私が副メイド長に成る事はまだ知らない。

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