第52話 ショウ対エレニール
「……って事になった」
城から出た俺は魔改造した馬車に繋がれたゴーレム馬を預けた城の厩舎へやってき。完璧に馬の真似しているゴーレム馬を返してもらう。馬の頭に装着した手綱を両手に握っているが創造した時、脳に純度が高い魔石を組み込んだので高度な思考を持っている。何処へ向かうか既に知っているので、何の指示がなくともそのまま屋敷へ帰還した。
入り口の門を進み本館の横に建てられた厩舎まで連れていき、本物の馬や俺が更に創造したゴーレム馬の手入れを行っている奴隷に託し、玄関扉を開いた。
リビングに辿り着くとそこにテーブルに置かれたマカロンを口いっぱいに含んだ銀孤と反対側に座るナビリスがカップを前に楽しそうにお喋りをしていた。彼女のカップから爽やかで芳醇な香りが広がっており、そのまま鼻に抜けていく。
俺は適当な空いた席に座ると二人に城で起こった出来事を説明した。
「ふぅん、そうんなことがあったかいな」
淡々とマカロンを頬張る銀孤は別に気にしていない様子。
ナビリスなんかは何も言わずに俺に紅茶を注いできた。
「ん~ショウのやりたい事をしたら。でも良いの?決闘の会場には他の王侯階級の貴族達が見学するわ。貴方の存在が知れ回ってもいいの?」
俺に紅茶を淹れたナビリスは椅子に座り、自分の紅茶を一口含むとその口を開いた。
彼女は面倒事に巻き込まれたくない様子。それに、肉体を得ても人間に良い思いは持っていないからな。
「まぁ、どの道この屋敷を購入した時点で俺の存在は彼等に知られているだろう。神と知られない限りは大丈夫だ。決闘の時も神界で作った神器は使わないつもりだ」
「そう。ならいいわ。私は神眼で決闘を眺めているわ。私の美貌を見掛けた貴族のボンボン共に言い追われるのは勘弁ね」
「そうか」
彼女が淹れた紅茶を飲み干した俺は、そう彼女に答えるとインベントリからハンバーガーを取り出すと口を大きく開き、頬張る。口に入れた瞬間、口内にオークの肉汁が全体に広がる。次の瞬間溶ける様に体内へ消えていった。
神である俺はどれだけ食べても、飲んでも、身体に支障をきたす事は無い。
本来、神々は食物を摂取しなくても生きていける。睡眠もとらなくていい。
神の身体は神力とマナで構築されているからだ。
俺もどれだけ食事を摂取しても腹が一杯になる事は無い。それでも、美味しい食べ物は美味しいと感じるし。不味い物は不味い味を感じる。
俺が神界に来るまでの神々は食事も取っていなく。男神が酒を嗜むだけだった。
しかし、俺が様々な食べ物やお菓子を作っていった事がきっかけで他の神も食事を楽しむようになっていった。
話が逸れたな。
そう思考を途中で振り切ると、俺のハンバーガーを欲しそうに眼をキラキラとしている銀孤に譲った。
「んっ~!美味よのぉ~」
美味しそうに口一杯に含む彼女の姿に微笑む俺とナビリス。
「銀孤。晩御飯が食べれなくなっても知らないわよ」
「平気平気のぉ。ナビリスはんが作るご飯は美味しいぃさかい」
ゴクリと飲み込んだ銀孤に苦笑を交えたナビリスが今晩の料理について尋ねるが、銀孤は気にした様子は見せず。ハンバーガーを食い終えた。
真っ白い歯を見せて微笑むナビリスの姿を見て。彼女の身体を創造して良かったとこの時思った。
「そういえばショウ。奴隷達から食材が少なくなっているって言ってたわ」
あれから早くも一週間が経っていた。
朝リビングでナビリスが調理したシチューを食べていると。彼女が思い出したか昨日奴隷の飯当番に言われてた事を俺に伝えた。
「そうか、それじゃ今日俺が決闘をしている間は足りない食材や調味料を買ってきてくれないか?」
「分かったわ」
「何なら銀孤や奴隷も連れて行っても構わない」
ナビリス一人で王都を探索していたら大勢の男に追われるとこが目に見えている。
折角だと彼女に銀孤と、他の奴隷で行動する事を彼女に伝えた。
ナビリスは可憐な女性に見えても正真正銘の神だ。しかし、神に上がり間もない彼女はまだその膨大な力を完璧に制御出来ていない。念には念を込める。『あっ』でこの星でも壊されたら爺ちゃんのゲンコツが待っている。
「ふふ、分かっているわショウ。心配性ねぇ」
心配なのは俺が管理するこの世界だが…。
心の中ではそう思っているが口には絶対に出さない。ナビリスが他の慕っている神に泣きつく可能性があるからだ。そしたら神々が俺を強制的に呼び出し、乙女心の勉強と名のリンチを受ける事になる。
そう女神達からのリンチだ。恐ろしいったらありゃしない。特に母となった女神は怖い。
「…ショウ、何か碌な事でも考えていない?」
「ん?何も」
そう考えていると彼女から疑いの目で見られた。可笑しい、表情には出していないはずなのに。
「…そう、それじゃ今日の決闘頑張ってね」
ナビリスはそう言うと、空になった皿を持ってキッチンへと歩いて行った。
さてそろそろ王城へ出掛ける準備をするか。
お替りをしたシチューを口に入れている銀孤に言葉を掛けると俺の寝室へと向かった。念話でナビリスに愛していると伝えて。
「冒険者のショウ様。此方までお越しください」
何時もと変わらない格好に王城へ向かう、しかし今回は何も武器を装備していない。既に顔見知りとなった正面の門番に俺のギルドカードを渡し、門を潜った。
俺が乗って来たゴーレム馬を城の厩舎で預け、城の入り口まで歩く。周囲に王城で働くメイド、騎士、文官、貴族達が居るが遠回りに俺の姿を眺めながらヒソヒソと同僚と話している。どうやら皆、今日俺とエレニールの決闘の話が広がっているようだ。
まぁ俺は別に気にしていないのでそのような視線を全て無視し、入り口の扉を潜った。
王城内でも俺のまじまじと見ながら仕事に励んでいる者がいる。
しかし、俺はその決闘の会場となる広場を知らないのでその辺をのんびりと玄関ホールで待っていたら一人のメイドが俺に近付き名前を呼んだ。
そのメイドは何時もエレニールと一緒にいる女性であった。
「ああ」
俺の返答も待たずに会場へ向かうメイドに短く一言答える彼女の背後を付いて行った。
広いな。
どれだけ歩いただろう。窓の向こうに広がる城下町を眺めながらメイドの後を進んでいた。大国の王城は広大で様々な種族が働いている、他の国ではこうは出来ないだろう、貴族が反発する。反乱も起こすであろう。人族と人間と言う種族は実に厄介だ。…俺も昔はその人間だったのだが。
「どうぞ」
王城の一角に連れられ少し大きな扉を進んだ先で俺は内心関心しながら上を見上げる。真上に昇る太陽が眩しい。王城の裏庭だろうか。周りに芝生を整えられた広場の中央にポツンと一つの建物が立っている。
円型の建物で会場の高さは約15メートルと言った所。地球で言うコロッセオに似ている。大きさはこちらが小さいが、恐らく貴族王族しか観戦しない為あそこまで巨大な建物でなくとも良かったのだろう。
そういえば…地球を管理している俺の娘、メルセデスが天照大御神と一緒にローマ帝国時代に戻って、生の剣闘士の戦いを観戦したと話していた時があったな。うむ、俺も観戦したかった。
そのまま進むメイドの後を追い大きく開かれた入り口を潜ると、左右に正面の廊下と繋がっており。正面は決闘などを行う広場の入り口で、左へ繋がる通路は観戦席に。右の廊下は出場者の待機室へと繋がっているようだ。神眼を使用した俺は既に広場で素振りをしているエレニールの姿を確認していた。
どれだけ心待ちにしていたのか…。
「こちらで着替えて下さい。エレニール様は既にお待ちしておりますのでお早めに」
「ああ、感謝す――」
「では」
「――る……」
俺の言葉も聞かずに待機室の扉を素早く閉め、去っていった。
『クスクス』
念話で盗み聞きしていたナビリスの笑い声が頭に流れてくる。先程のメイドと気が合うのではないのか?
そんな事を考えていた。
待機室の中には貴重品等を入れるロッカーが備え付けており、安全面もバッチリ整備されていた。
適当に鍵が掛かっていないロッカーに今着ている衣服を放り込む。
掛けた鍵をインベントリに入れ、代わりに着る服を取り出す。
ゴテゴテした装備品も付いていない服なので、時間も掛からず素早く着替えると待機室えお出てエレニールが待機しているだろう広場へ向かう。
「……」
俺をここまで案内をくれたメイドが広場へ出る入り口で待っていたようだ。
何故か俺の恰好に驚いている様だ。思考を読んでいないので正確な感情は読み取れないが、静かに怒りを俺に向けている。
「入ってもいいか」
一応メイドに入ってもいいか尋ねる。
「…ええ、間もなく国王陛下が観戦室へご来場されますのでそれまで待機を」
へぇ、娘とは言え第三王女の決闘に父親である国王自ら観戦するか。それとも…。
「ああ、案内ご苦労」
文句の一言も言わず俺をここまで案内してくれたメイドに礼を言うとその大人が横五列並んでも余裕がある大きな扉を開き、先へ進んだ。天に照らす太陽の光が身体全身を通す。もうすぐ夏が来る。
足を一歩ずつ踏み出す度に程よく反発する土の地面、周りを囲む四メートル程の壁、その外側には噂を聞き付けたであろう、身なりの良い男女が座っている客席が並んでいる。中には騎士の鎧を着た若者た達も同僚だろうか?仲良くお喋りをしている。
一番下の座席手前の通路にはローブを羽織った魔法使いが10以上待機していた。その中にはティダハムの屋敷に向かった時に見掛けた魔法使いもいる。
俺はゆっくりと歩きながら周囲を見渡し、最後に広場の中心にいる彼女の姿へ向ける。
彼女の装備は前回と変わらない白銀のフルプレートアーマー、いや戦乙女装備と言った方がいいか。
フェニックスの羽根が付いたヴァルキリーヘルムを装備した彼女の瞼は閉じており、集中している。
瞼を閉じ、腕を組む彼女の姿には前回と異なる変化があった。
それは、彼女の武器が複数所持している事だった。
俺が前見たクリスタルの剣以外に背中に両手剣。予備だろうか片手剣を両腰に付け、更に太ももには短剣が四。正に完全装備の彼女が俺を待っていた。それに戦いの邪魔になるマントは取り外している。
っお、俺の存在を感じ取ったようだ。彼女の瞼が開かれた。
「ショウか。早かったッ――!?」
エレニールが何か言おうとしたが途中で止まった。すると、彼女の表情に怒りが現れてきた。
「ショウ!貴様その恰好は何のつもりだ!?私を侮辱するつもりか」
広場の中心へ歩く俺に怒りの叫び声が聞こえてくる。今まで俺の姿を感知していたなかった観戦者もその叫びに驚き、何事かと視線を俺に向ける。途端、俺を馬鹿にする笑い声が響き渡る。
中には彼女と同じ、俺に怒りを見せ殺気も放ってくる輩も居た。
俺が今着ている服は地球のギリシア神などが着ているドーガだけの恰好をしている、勿論中の下には黒いズボンを穿いているが。それ以外には何も着ていなく靴も履いていない。一陣の風がさっと吹き、肩から掛けて腰に巻いた布が揺れている。勿論武器も持っていない。
「お前は神聖なる決闘を汚すつもり――!」
「国王陛下の御~成り~!」
彼女は俺に何か言おうとしたが、その途中で一人の騎士に中断された。
観戦席に座っていた人々が騎士の言葉に立ち上がり一角だけ高くなったその豪華な内装に窓で囲まれた観覧席。
すると、奥の扉が開き数人の騎士と共にこのランキャスター王国トップ、国王クロード・エル・フォン・ランキャスターを先端に他の王族が観覧席に入ると。それぞれ置かれた席に座った。国王の姿は玄関ホールに描かれた肖像画とほぼ同じで、歳はすでに50近いはずなのにその肉体は服の上から分かる程鍛え抜かれている。彼が建物に入って来た途端、広場の雰囲気が変わった。彼から発せられる圧に空気が揺らいでいる。王族専用の観覧席に設置された王座に座る堂々とした体つきが周りを威圧している。彼の近くにはエレニールの妹であるアンジュリカも近くの椅子に座っている。
「楽にせよ」
王が発する威圧にただ片膝をつき頭を垂れる騎士、貴族、魔法使いに、王から声が掛かると皆立ち上がり席に座った。
すると彼の目線は娘の相手の俺へと向けられた。
俺の服装に片眉をほんの少し上がったが。何も言わずじっと俺の事を見ていた。
「この度の決闘、楽しみにしておる。しかし、決闘と言えど実力者を失うのは我が国にとって大きな痛手となり得るであろう。でそちには今回魔道具である身代わりのペンダントを着用して戦ってもらう。先に壊れた方が敗北だ」
王自ら今回の決闘について説明がなされた。本来の決闘なら相手を殺しても罪には問われないが、流石に高レベルである者達には殺されたくないらしい。まぁ国の武力低下は誰も避けたいな。
説明が終わると、俺が広場へ入って来た反対側の扉から恐らく審判役であろう白衣の男が俺達の所まで近付き。その手に持っている二つのペンダントの内、一つを渡された。神眼で効果を確認すると、正に身代わりの効果を持った魔道具だ。興味深くまじまじとその魔道具を眺めていると、既にペンダントを首に巻いたエレニールの視線に気付き俺も首に巻いた。
「結界を」
白衣の男は俺達が魔導具を着用した事を確認すると、広場の端に置かれた審判席に座り。壁の外側に待機している魔法使いに結界魔法の命令を下す。
審判の言葉に従い、周りを囲む壁の上に待機している魔法使い達は一斉に結界魔法を唱えると、観客せ席を守る為の透明な壁が張られた。これにより観覧席に座る者達に埃一つ掛からなくなった。
「これより決闘を始める。両者っ礼!」
審判の言葉が聞こえてくると、距離を取った俺とエレニールはお互いに目を合わせ頭を僅かに下ると、彼女の口が開かれた。
「ショウ…貴様の剣はどうした」
不快な表情を隠す事も無く俺に尋ねる。
「今取り出す」
それだけ言うと、俺は右腕を前に出した。
手元に光り輝く魔法陣が出現すると、その周りから光線が魔法陣に集中し。集まった光線が消滅した頃には手の中に剣が携えていた。実戦用の剣には豪華な装飾はされていないが。窪み一つ見られない細い刃から放出される虹色に輝くオーラが波の様に、首でもすくめるように揺れている。
今まで見たことも無い煌めきに周りの貴族はざわめき、国王も興味深く観察している。近くに座るアンジュリカも余の美しさに瞳を輝かせ言葉を飲み込んで凝視しているのが分かった。
この武器は俺が神界に居る時に創造した神剣プロメテウス。
勿論そのレプリカだ。
本物の神剣プロメテウスで一振すればこの星事真っ二つ出来る程の力が宿っている。
今俺が手に所持している剣は見た目はプロメテウスそのままに出来ているが、神剣に付けられた効果は取り外してある。
それでも、このレプリカに使われたヒヒイロカネ鉱石や他の世界でSランク魔物の素材が使用されたこの武器は鋭く、軽く。古龍の鱗すら綺麗に斬れる事が出来る。
「…おほんっ。では……始め!」
「――っは!」
準備が整った俺を見届けた審判が開始の合図をした時には。エレニールは既に俺の目の前まで迫り俺の頭上目掛けてその片手剣を振り下ろそうとしていた。
――ッギン!!
頭上数センチまで振り下ろされた彼女の攻撃を剣で弾く。
攻撃をずらされた事実を彼女は驚きを表さず、動きを止めず俺に回し蹴りを食らわす。
顎下を狙い迫って来た蹴りを顔を横に動かし躱す。
彼女が放った鋭い蹴りの速度に髪が揺れる。
回し蹴りも躱されたエレニールは一旦後ろへ飛び、魔法を詠唱し始めた。
「土を 『ストーンウォール』」
二人の中間に土の壁を生み出した彼女の意図に困惑しながら俺はその高く盛られた壁へ向かって剣波を放つ。っあ、それとこの決闘に俺は神眼は使用しないつもりだ。
X字に放たれた空気の刃が壁を通り過ぎ、虹色に揺れる線を残して崩れる土の壁の先に彼女の姿は無かった。
「――っしゅ」
魔力探知で即座に彼女の居場所を把握し、背後を攻撃しようとしている彼女に右足を前に出し身体を半回転した俺はカウンターにと剣を振るう。
鼓膜を襲う金属的な音が広場全体を鳴らし続け。ショウとエレニールによる攻撃が止むことは無かった。
彼女が雷を纏った剣技をショウは焦った表情見せずに躱し、弾く。
ショウも攻撃を弾いた瞬間、反撃にと剣を横に振るうがその場に彼女の姿は居ない。
今起こっている激戦に彼等の決闘を観戦している者は固唾を飲み、誰も言葉を話す事は無かった。それ程の戦いである。
観戦している騎士達も高速で戦っている二人に目で追うのが精いっぱいであった。
自分の弱さに、何時の間にか彼等の手は悔しさで力強く握られていた。
流石王国最強と名高いお姫様だな。力やスキルを制限しているとは言えここまで粘るとは、その努力と才能。敬意に値する。神界に来て間もない俺だったら瞬殺されていたな。
しかし。もういいかな?
「っは!」
掛け声と共に前に飛び、雷光の速度で剣を俺に突き出した攻撃をスキップをするように躱す。空中で剣を突き出した状態に無防備となったエレニールが手に持つ剣を拳で殴り地面へと叩き落した。地面に叩き付けられた瞬間、彼女の剣が真っ二つに割れた。
壊れた武器の確認の暇も無く即座に予備の剣を抜かんとする姿に、俺は容赦無く剣を振るい、彼女の鎧に一撃を叩きつけた。
空中で一撃を食らった彼女は成すすべ無く、壁に激突した。
煙のように土埃が舞い、俺はその場でただじっと待つ。
会場に観戦している者は皆目開いたいる。アンジュリカなんかは両手で口を押えている。
「……っぐ!はぁ、はぁ。ま、まだだ!」
地平線に雲のごとく舞った土埃がおさまると。そこには片膝を地面に突き、予備の剣を杖の様に体を支えている彼女の姿があった。壁に激突した衝撃でフェニックスの羽根が付いたヴァルキリーヘルムは何処かに転がり、纏められた髪はとかれ背中へと垂れている。
それでも、力を食いしばり両足で立ち上がる。そのルビーに輝く目は諦めていなかった。
――パリンッ!
彼女が立ち上がった瞬間、首に巻かれた身代わりのペンダントが砕く様な鋭い音を響かせ粉々に砕かれた。
「そこまで!!勝者っ、冒険者ショウ!」
「…………負けたのか」
その瞬間、審判からの判定に大人しく負けを認める王女。
周りの観戦席から沈黙が続くと、何処からかぱちぱちと手を打つ音が静かな辺りに響きかえって、日中に石を割る音のように聞こえる。
戸惑う観戦者がその聞こえてくる方へ顔を向けると、そこには王座に座る国王本人が此方を見ながら拍手を送っていた。
すると、国王の後に続く様に拍手の嵐が降り注いだ。
この戦いに文句を言う者は居ない。王女である彼女が敗北しても、何か一言でも侮辱した際には他の貴族から『それじゃ、お前が戦いを受けろ』となる。
まぁ、トップである王様が拍手したと理由もあるだろうが。
暫くして拍手を終えた国王が手を上げる。その行動にピタリと拍手は止んだ。
「ふむ、二人ともこの度の決闘、実に心躍った。優秀な人材にこの国も安泰であろう。久びりの余興に余も満足だ。どうだ?宴でも開こうぞ。冒険者ショウ。貴公も参加するががよい」
それだけ言うと王座から立ち上がり、入って来た扉から出ていった。
「ショウ」
俺の名を呼び声が聞こえてきたので視線を前に戻すと、武器を締まったエレニールの姿が俺の横にいた。その顔には何処か不満そうな部分が見受けられる。まぁ彼女の武器も壊したし。
「今回私は遥か高みに少しでも触れて嬉しかったぞ。これからもよろしく頼む」
俺に手を差し出した。
「ああ、俺こそよろしくな」
差し出された手を握り返し答えた。すると彼女は最後に爆弾を落としてきた。
「婚約者として」
……。
「っえ?」
彼女から飛び出して来た言葉に驚いていると、ふふっと今度は勝ち誇った表情を見せそのまま広場の入口へ戻っていった。
『神眼で彼女の思考を読んでいなかったのが仇となりましたね。……帰ったらお話ね?』
『…はい』
繋いでいるナビリスからの念話に俺はそれしか言えなかった。
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