第51話 黒幕を見つけたその後
ティダハムが大量の生贄を使って異界より召喚した魔物の首を刎ね、後始末を全てエレニールに押し付けるように任せた俺は地下より戻って来た。敷地内覆う結界は解かれていなかったので、敷地内付近の森へ入り人混みが少ない裏道へ転移する。
周りに人の気配が感じないと分かると、ナビリスと銀孤が待つ屋敷へ向かい歩き始めた。途中、美味しそうなお菓子のお土産を片手に。歩きで帰るのは面倒だったので、道中人通りが見えない角に曲がると転移で自宅へ戻って来た。
リビングに置かれた長ソファーにぐったりと座り、反対側のソファーでバクバクと買ってきたお菓子を頬張る銀孤を横目に。解禁した神眼を発動し、ティダハム邸で後処理をしているエレニール達を観察し始めた。ナビリスも神眼で観察している気配がある。
天から眺める視点をエレニールと中年騎士隊長へ移動する。
そこには俺が刎ねた魔物の首を地面に引きずりながら本館に向かっている姿があった。中年騎士の方は米を肩に担ぐように闇魔法使いの暗殺者を担いでいた。
二人の姿に気付いた他の騎士達が近くに寄り、状況報告をしている。広場には束縛された兵士や逃げ出そうとした黒ずくめの恰好をした暗殺者の姿があった。そう、実は俺達を襲撃した暗殺者の一人は視察の任務を与えられた者が居た。しかし、俺達に勝ち目が無いと分かるとアジトに報告をする為、撤退を試みたが。魔法師団部隊によって発動されていた結界魔法に阻まれ、無力に捕まったようだ。
彼はこの後、アジトはメンバーの情報を言わされるため厳しい尋問に掛けられるだろう。今まで生命を奪ってきた定めだ。
それに、事実を聞かされていないと言え。無実の国民を200以上誘拐、そして殺害したのだ。ティダハム邸で勤務していた人々も無罪では済まないだろう。
特に辺境伯と言えど、ティダハム辺境伯は断絶されるだろう。本領に住まう子供達は貴族籍を剥奪だろうな。でも、すぐさまには他の貴族が納めるだろう。辺境伯の領地はロスチャーロス教国と接した場所に領地を持った上級貴族だからな。ティダハム辺境伯は独自に軍を指揮して、他国から自領を守ることができる権限を持った爵位ということだった。
「殿下…あの冒険者はどうなさいますか?」
っお、俺の事だな。
さて、この国の王女様は俺をどうするかな?味方に引き込むか。それとも、敵とみなし。俺を殺そうとするか?
そう思い、彼等の会話を観察する。
「……ナイン団長はあの魔物に勝つことは出来たか?」
「…そ、それは……しかしっ!、我が誇る第三騎士団が束ねましたら!どの敵も確実に打ち散らすでしょうとも!」
「っふ、それはこの王国を愛する一人の王女として頼もしい限りだ。…だからこそ、ショウに敵対行動は絶対にするな。さすれば彼はこの国ごと滅ぼすだろう」
いやいや、観察者として国は滅ばす訳はないよ。観察の楽しみが減るじゃん。
「…っは!畏まりました」
苦悶の表情を見せながら敬礼をしながら応答した。
『ショウ晩御飯が出来ましたよ』
日が沈みかけ、周りの景色が赤っぽくなる頃にはナビリスから念話が入った。
神眼を止めるとソファーから立ち上がり、二人が待つダイニングへ向かった。
「昨日ぶりだな王女様。本日はどうかしたのか?」
「ああ…」
話は今朝まで遡る。
依頼の翌日、屋敷内にあった広い浴室でゆっくり湯船に浸かり。訓練用に手入れをした中庭で奴隷相手に摸擬戦を行っていたショウの元へナビリスが近付いた。彼女の存在を感じ取ったショウは、汗だくで訓練している奴隷に一旦中断させると。ショウの元へ近付く彼女に振り向く、すると彼女の他に一人の男性が後ろから付いてきていた。真面目そうな顔に、高価そうに見える服を着ているので城で働く官吏であろう。
「失礼、貴方がAランク冒険者『孤独狼』のショウですね」
「ああ、そうだ。ところでそちらさんは?」
近くにあったテーブルに座り、相手の男性が座るのを待つ。
直ぐ傍に待機していたメイドが入れた紅茶を一口飲むと、相手から話しかけられた。
内容は凡そ判明しているが。
「私はエレニール王女殿下の元で官吏をしております。只今エレニール様は昨日の出来事で大変お忙しいので、代わりに私が此方まで伺いに参りました」
「そうか、遠い所までご苦労だったな」
「いえ、何でも先代国王陛下が住まわれていた土地なんだとか。これくらいのこと何でもありませんよ」
「(成程…)」
「では世間話はこれ程にして、俺に何か用事でも?」
「ええ。実はエレニール様より伝言を預かってまいりました」
ショウは一つ疑問に持った。何故手紙では無くわざわざ伝言を伝えたのか。ソレも騎士などでは無く、エレニールの下で働く官吏に。そう思い、神眼で過去を見てみたが怪しい事は全く無かった。
紅茶をもう一口飲むと、目の前に座る男性に尋ねた。
「その伝言を聞いても?」
男性は頷き、口を開いた。
「はい。『今日、夕方までに私の執務室まで来てくれ。大事な話がある』と言う事です」
過去で見た伝言そのままの言葉がショウに伝えられた。
「分かった。わざわざすまない。準備が出来次第王城へ向かうと伝えてくれ」
「畏まりました」
それだけ言うと、席から立ち上がり。ナビリスの案内で入り口の門まで帰っていった。
神眼で彼女の思考を読み取ることが出来るショウだが。その顔には楽しみが増えそうな、顔になっていた。普段見せない笑顔のまま、退屈にならないと願いながら彼は奴隷を更に鍛え始めた。
「ふむ、そろそろ時間か、よく頑張った。後はゆっくりと過ごすといい」
「はぁ…はぁ…は、はい。ありがとうございますご主人様」
エレニールから伝言を預かった官吏をナビリスが見送り終え、俺はこの敷地の見張り番として働いている奴隷に折角なので訓練を付けていた。まさか、奴隷も神から訓練を受けて居たとは考えられないだろう。…いまは地面に四つん這いになり今でも倒れそうな状態を見せているが。
いい経験になっただろう。
それより約束の時間が近付いているので一旦俺は寝室に戻って着替えるとするか。
そう思い、俺が本館へ振り向き足を進めると。訓練場で四つん這いになっていた奴隷が我慢できなかったのかドサリと仰向けに地面に倒れた。
近くに居たメイドが横へ寄り、生活魔法で造り出した水が入ったコップやタオルを差し出した。笑顔で渡すメイドに顔を赤く染めながら受け取った。
絶対に恋に落ちたな…。まぁ奴隷同士の恋愛は別に禁止にはしていないが、ナビリスが何と言うか。
「冒険者のショウ様ですね。エレニール王女様がお待ちです。こちらへどうぞ」
普段のだらけた格好では無く。きちんとした服装で王城の開かれた入り口を潜ると、一人のメイドが俺へ近付き。エレニールの所まで案内される。
広い廊下を歩く道中、俺の姿を見掛けた貴族達からの視線が集まり、何やらこそこそと小声で何か話している。昨日王都で起こった事件がもう広まっているようだ。
「エレニール様、冒険者ショウ様をお連れ致しました」
「そうか、入ってくれ」
メイドの案内に従って進むと彼女の執務室に辿り着き、メイドが扉がノックするとエレニールの声が室内から聞こえてきた。
彼女から許可を許されたのでメイドが開いた扉を潜り、中へ入る。
部屋には新品で置かれた仕事机で何やら書類を作成している彼女の姿にメイドが二人。そして前回俺の武器を床に捨てていった女性騎士が待機していた。
俺が内部に入ると前回と同じく女性騎士が近付いて来たので、さっさと腰に付けたレイピアをベルトごと渡し。机の目の前に置かれた椅子に座り彼女が一息つくまで待つことにした。
「昨日は助かった。礼を言う」
丁度いい所まで終えたのか、万年筆を横に置くと視線を俺の目と合わすと先に礼を言われた。
「ああ、雇われた内容をこなしたまでだ。別に大した事はしていない」
「そうか…」
俺の返答に苦笑交じりに一言だけポツリと零す。
「…そんなことより昨日は驚いたぞ。気が付いたらショウの姿が見えなくなっていたからな」
机に置かれた紅茶を一口含み、魔物の首を刎ねた後、俺が突然と姿を消した事を切り出した。
その目は鷹の様に鋭く俺の全身を観察している。
「そうか?王女様が後始末で忙しかったからじゃないのか?」
そうとぼける。彼女は俺が転移魔法が使えるとは今まだ知られていない。それに今この瞬間、他者の目もある。
馬鹿正直に転移魔法が使えると伝える事はあり得ない。
「……そうか。それでは早速依頼完了の報酬を渡すとしよう」
すると、彼女は机の引き出しから小さな宝石が装飾された布袋を取り出すと。中から報酬である白金貨10枚を俺の目の前に重ねて置いた。
「確認した。それじゃあ俺はもう帰っても良いか?」
「ショウ」
数えた報酬を内ポケットに入れ。俺はもう用事は無いと椅子から立ち上がろうとすると、彼女から俺の名が呼ばれた。他に話したい内容があったのかと、一旦立ち上がった椅子に再度座った。
「何か?」
何か言いたげな彼女に尋ねる。
「…私はお前に決闘を申し込む」
「姫様!?何をっ!」
「…」
彼女から突然の決闘の申し込みに背後で待機していた女性騎士から悲鳴のような声が上がる。
メイド達も声は上げていないが、目開いた表情を見せているだろう。
「……何故平民風情である俺と決闘をしたいんだ?思惑が見えないんだが」
俺と決闘をしたい理由が判らない俺は真面目な表情を見せている彼女に尋ねる。
「お前は強い。私より遥か上に位置している。しかし私はどれ程強いのか挑んでみたい、格上であるお前相手に…私の全力をぶつけたい。受け取ってくれるか?」
…成程。強き者特有の悩みだな。
それなら俺が断るわけにはいかない。
「了解した。その決闘、受けよう」
「そうか!」
俺が決闘を受けると告げると、彼女に笑みが浮かんだ。
「では、一つ条件を付けても良いか?」
ん?まだ何かあるのか。
「何だ?」
「全力で戦ってくれないか。私に手加減等の侮辱は要らぬ」
「ああ、分かった」
残念だかその願いは叶えられない。俺が全力を出した際にはこの星ごと破壊するであろう。彼女の思いには答えられない。でも、俺は彼女の問いに頷いた。
「そうか、それでは決闘は一週間後。城内に摸擬戦専用の広場がある。今から見学していくか?」
「ありがとう。でも、大丈夫だ。当日侍女に道案内を頼むよ」
「そうか。一週間後楽しみにしているぞ。王女である私を失望させるなよ」
「ああ」
俺はそれだけ言うと、席を立ち城を後にした。勿論女性騎士からレイピアは返して貰ったぞ。
目線は恐ろしい程冷たかったが。
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