第74話 本戦開始

 本戦出場を果たした選手22名。彼等に加えて更にバンクス帝国そしてカサ・ロサン王国シード枠から2名の合計24名の実力者が試合場に集まり、早くかとトーナメントを決める抽選を待っている。


 とある選手は応援してくれる観戦者に手を振ったり、とある選手は他の参加者の体格や動きを観察していたり。…とある選手は一人の女性に穴が開く程見つめていたり、その選手が話題の勇者の事だったり。


 それぞれが自由にして今かと一列に並び待っている。


『それでは、闘武祭の抽選を行いたいと思います』


 そのアナウンスが響き渡った途端、真面目な表情になり試合場に運ばれた四角の箱に視線が集中した。どうやら箱の中には番号が書かれた札を引いて決まるようだ。…絶対このシステムも初代国王が提案した物だろう。


『まずは予選一試合目を勝ち抜いた、アリッテ選手とベイガリオ選手から…どうぞ」


 運ばれた箱の横には実況専属の女性が、魔石が組み込まれたマイクを手に持ち実況している。声だけでなく容姿も綺麗な彼女はちょっとした人気者らしく、彼女が試合場に現れると会場が大いに盛り上がりを見せた。


 そんな綺麗な声による実況を聞きながら、トーナメントの抽選会は始まった。


 札を引くのは予選を突破した順番らしく、シード枠の二選手は真ん中らへんで引く事になっているらしい。


『続きまして、予選四試合目を勝ち抜いた、アグリアス選手』



『続きまして、予選七試合目を勝ち抜いた、ゼル選手』



『続きまして、バンクス帝国からのシード枠、勇者様代表のアキト選手』


 抽選は淡々と進み、次は召喚された勇者の番になった。名前を呼ばれた彼は堂々とした表情で箱が置かれた所まで胸を張って進み、王族専用ブースに気品良く座るエレニールの方をチラリと見ると札を引いた。


『おっとお!アキト選手が引いた番号は21番です!』


 彼が引いた数字が会場全体に響き渡り、札を台に置いた勇者は振り向くと今度は俺の方へ視線を向けながら元の列まで戻り始めた。彼の瞳に殺気を灯しながら…。


 彼等は今でも元居た日本に戻ろうと血反吐を吐きながら努力を重ねていると言うのに、戦争が起こっていない日本で殺気を放ってみろ。一瞬で生命を刈り取る事になるぞ。

 こんな人間にセシリアが殺させるのを黙って見るのは紳士では無いな。


 でも、まぁ目を合わせるのも面倒なので手元にある参加者リストでも読んでおこう。すると俺に放った殺気に気付けない程の雑魚だと思ったのか、フンッと鼻で笑う勇者代表が列に戻っていった。エレニールに同情するよ。あいつの無礼次第では魔界進出の前に王国との戦争に発展する可能性もあるのだが、若さだな…。


『最後にカサ・ロサン王国かれの推薦枠での出場者、アルル選手は残った15番に決まりました。以上で組み合わせが決定しましたので、選手の方々は試合場の外へ出てくださいぃ!以上で闘技大会初日が終了しました!これより本戦出場者の勝者を決定する賭け金を始めます!現在の倍率はこのようになっております!』


 すると空中に浮かぶ巨大な水晶玉魔道具から選手の名前と賭け金の配当倍率が表示される。やはり一番人気は勇者の彼らしく、賭けのレートも1.3倍と低い。確かにスキルの多さやステータスも勇者だけあって高いが、如何せん対人経験が少ない。しかも使用する武器は主催側が用意する武器しか使えない。帝国から貸し出された国宝級の剣は勿論の事使用不可だ。


 さて本戦の開始は明日からだ、早く屋敷に戻って奴隷達に稽古を付けないといけないな。


 それでも、楽しそうなイベントに俺は内心喜び、期待している。



『皆様長らくお待たせしました~!只今より闘技大会、本戦を開始したいと思います!では早速!第一試合目を始めます!バッシュ選手!デトロア選手の入場です!!』


――オオオオォォォッ!!!!


 抽選から一日たった午前、美人司会の言葉に大きい歓声が闘技場に鳴り響く。すると呼ばれた二人の選手が入り口からステージに上がると観戦が更に大きく鳴り響いた。二人の防具は自分自身の装備品だが、彼等の手には歯が潰された鉄製の武器を持っている。更に首から下げたネックレスに目が付く。それは俺が作成した防壁の魔法が付与された魔道具だった。


 今回から導入された魔道具の説明は前に行っており、敵国等に悪用されないように多少改良しており。魔道具の効果範囲はこのコロシアム内でしか機能出来ないようになっている。勿論効果範囲が設定されていない魔道具は全て王族が購入してくれている。


 ステージに上がったバッシュ選手はロングソードに盾を装備したオーソドックスの構え。デトロア選手は片手斧を両手に持った構えを取っている。力対力の激しい戦いが予想される。ああ、面白い。


『……ではっ!開始!!』


 試合開始のアナウンスと同時に両者前に掛け走り、強烈な攻撃を放つ。


 デトロアの素早い攻撃を盾で防ぎ、バッシュの突きを体を捻って回避する。


「アックスバン!」


 スキルを叫んだデトロアが武器に魔力を込めると、輝く斧を大雑把に振り下ろした攻撃は衝撃波を生み出し対戦相手を吹き飛ばす。タイミング良く、向かって来た衝撃波を防ごうと腰を低く落とし盾を前に構えるバッシュ。


「――ッぐ!ははあぁ!」


 叫び声をあげながら地面に足裏を擦るようにして衝撃波を耐える。だが、既に彼の死角に移動していたデトロアが隙を突いて裏に回り込んでおり。掬い上げる様に斧を振り上げる。

 鈍い音を発し、地面に倒れるバッシュ。倒れた彼の首元かれは砕け散った魔道具の破片が枯れ葉のように散り溜まる。


『おっと!バッシュ選手が戦闘不能に!第一試合目の勝者はデトロア選手に決まりました!!』


――オオオオォォォッ!!


 司会の実況と共に歓声が響き渡った。うむ、一試合目から中々見応えがあった戦いだった。


 これなら早々退屈にはならないだろう。


 そう思いながら、昨晩ナビリスが作ってくれたケーキを三人で食べてさっきの激戦について話し合った。二人にも楽しんで欲しいと願いながら。

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