第75話 本戦 その2

闘技大会本番初日から一回戦は滞りなく順調に進み、先程七試合目が終わった所。彼等の激戦を神眼では無く間近で観戦するのがこれ程に楽しいとは今まで思いもしなかった。遥か昔に会場を設立した初代国王に感謝したい程に楽しんでいる。表情には出さないが、俺だけではなくナビリスと銀孤も楽しんでいる様子。実力の差があり過ぎて闘技大会には出場出来ないが、こうして観戦するだけで満足だ。


『これより八試合目を開始します!今試合は優勝者候補同士の試合と大変盛り上がっております!では早速、両選手!試合場の中央へと向かってください』


 美人司会者の声に従って二人、選手の影選手用の入り口から見え始め観客の観戦を受けながらステージの上に上がっていった。その内一人の男は俺が知る人物である。


『…では両選手の簡単な紹介を行いたいと思います。まずはルト選手ですが…』


 そう、その男は大都市ラ・グランジにて一緒に依頼を受けたパーティーのリーダー、ルトであった。最後に分かれてから彼の防具は数段階高級になっており、着用している手甲は魔力が埋め込まれたマジックアイテムだ。恐らくあのオークの村で見つけた財宝を売って購入したのだろう。


 彼が使用している武器は刃を潰したロングソードを片手に、カイトシールドを装備している。


 ルトが出場しているのなら彼のパーティーメンバーの一人でハイエルフのローザもこの会場の何処かに居るのだろうか、久しぶりに念話を送ってみるか。


『ローザ聞こえるか?』


『ッツ!?ショウ…様?ビ、ビックリ…した……どうした…の?』


 障害無く彼女に繋がった。


『やぁ久しぶり、今闘技大会でルトを見つけたからローザも一緒に観戦しているのかと思って。それと俺に様は付けなくても構わない。元気だったか?』


 ナビリスが此方をジロリと観ているが気にしない。それよりあの時ナビリスも一緒に居ただろ?


『う、うん…分かったショウ…。ルトは毎年闘技大会に参加している。…私達は騒ぎにならないよう…に、人気が無い離れた席から観ている…よ』


 と言う事らしいので、念話が繋がっているローザに俺の魔力を流し彼女の位置を掴んだ。神眼が使えないのは面倒だな。


『んぅ、っあ』


 流石魔力の扱いに長けたハイエルフ、俺が流した魔力にも気が付いたか。


 すると俺のブースから遠くの一般席に座っている彼女が俺の姿を捉え、手を振ってやる。


 彼女も他のパーティーメンバーにバレないように手を振り返した。本来エルフ族の王族であるハイエルフのローザはエレニール達と一緒に観戦する身分なんだがな。


『元気そうで何よりだ。今もラ・グランジで冒険者続けているのか?』


『ううん。今は…拠点を迷宮都市「ヴァルンドガルド」に移動して…ダンジョンに……潜ってお金を…稼いでいる』


『そうか、結構遠くから来たんだな』


 迷宮都市ヴァルンドガルド。王都から西に馬車を約三週間進めた距離に位置し。すぐ横にバンクス帝国と接した都市故、古の時代から戦争を仕掛けられることもあった領地。

 現領主の辺境侯は若き優秀な青年と言う噂で、彼が治める領民からは大変敬意を払われているとか。


 外見も麗しい噂の有能領主にエレニールの姉、ランキャスター王国第二王女シェルロッタが嫁いでおり。結婚から年月を経てなお、側室を取らず愛妻家、と言う話もエレニールから聞いたことがあった。


『…うん、でも飛空船を使って来たからそんなに時間掛かって…いない』


『あぁ~、飛空船か?』


 実はランキャスター王国にも空飛ぶ船、通称飛空船は存在している。流石に大勢の地球人が関わったバンクス帝国の飛空船と比べて性能は落ちているが。王国の天才発明者が発明、作製した飛空船は王国が直に経営し、戦争の時には物資や兵士を運ぶ有用な軍事兵器だ。


 話は逸れたが王都から迷宮都市ヴァルンドガルドを繋ぐ航路はたったの二日で行き来をすることが出来。それも一週間に一回の頻度で、王都へ向かう事が出来る。値段は一番安い席でも金貨1枚と結構するが、高ランク冒険者のローザ達なら痛くも痒くもないだろう。


『次にアルル選手の登場です!彼はカサ・ロサン王国からの推薦枠で参加し、事前の資料によりますと彼は何と珍しい召喚術士!期待の選手です!』


 ほう…召喚術士とは珍しい職業だな。召喚スキルを持っているのもレアだと言うのに、ソレを極めた者がこの世界に居るとは実に面白い。


 彼の名が呼ばれ選手専用の入り口からステージに上がってきた彼の姿は何とも言葉にしにくい恰好だった。


 両手にそれぞれ魔法の杖を持ち、背中に背負った木箱からは更に五本の杖が入っている。よくそれだけの数の杖を貸し出す事が出来たな運営。


 彼の服装は全ての肌を隠す様な紫色のローブを羽織り、フードを深く被っている。特に顔に付けた漆黒の仮面が印象的だ。肌を見せたくない理由があるのだろうか?だが興味は無い。


 おっと、まだローザと念話を繋いだままだったな。


『それよりローザ、まだお前の正体はバレていないか?』


 もし彼女がエルフの王族、ハイエルフだとバレた瞬間に彼等の目に映るローザの姿が大量の宝石財宝へと変動し、大陸の端まで涎を垂らしながら追いかけてくるだろう。大金の為だけに、それだけの価値をローザは持っている。自覚しているか怪しいが。


『……うん、大丈夫。…着替えやシャワーとかも周囲を確認してから入っている。それに……』


『それに?』


『ショウから貰ったペンダントも…ある。私は…大丈夫』


『そっか、それなら安心だ』


 ………。うん全く安心できないな、彼女は戦闘型じゃないし。それにエルフの王族である彼女に護衛が付いていないか訳がない。


『風の大精霊。ローザに何かあったら頼む』


 一旦彼女との念話を中断し、コロシアムに流れる爽やかな風に向かって念話を繋げる。すると一陣の風がさっと吹き、風がほつれ毛を弄ぶように襟元をくすぐる。


『うん!うん!勿論だよ!僕がローザの傍にいる間は何者にも手を出させないよ~。それと万能神ショウ様?僕の事はセルフィって呼んでね!』


 部屋の一ヵ所に風が集まり、次の瞬間にはドレス服を着たボーイッシュな女の子が空中に浮かんでいた。風の大精霊…セルフィの姿が見えているのは俺達三人だけ。


『礼を言おうセルフィ、念の為に彼女にはマジックアイテムを渡してある。しかし、未来で何が起こるかは神の俺ですら分からない。人間の欲深さは精霊の君も十分承知しているだろう』


『そうだね!精霊達も遠い昔人間達に捕まって道具の素材にされたりして、今じゃ大分数が減っちゃたもんね』


「「……」」


 二人の念話を聞いているナビリスと銀孤は何も喋らない。


『それでは早速!注目の第八試合目を始めたいと思います!ルト選手対アルル選手…始めっ!』


 どうやらセルフィと会話している間にも試合が始まったようだ。パーティーリーダーのルトがどれ程の実力者か見てみるか。



――あ、瞬殺された。

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