第76話 本戦 その3
「はあッ!四撃斬クアトロスラッシュ!!」
「グッ!!ガアァっ!」
参加選手が放つ四連続の斬撃をまともに食らった相手選手は首にかけたネックレスが砕ける鈍い音と共に場外へ吹き飛び、結界魔法士が発動した結界にぶつかりそのまま場外の芝生へと落ちていった。見事な剣技だ。
『おっっと!闘技大会本戦第一回戦、最後の試合の勝者はアスモード選手に決まりました!流石剣聖の息子。イケメンでとても素敵です!後でデートに行きませんか!!?』
司会の声に会場からは男性のブーイングが響き渡るが、本人は全く気にした様子は見せず。彼を応援する女性観戦者たちに長髪を靡かせる。すると男性からのブーイングは更に広がり、女性からは「キャー」と感激の悲鳴が響き渡る。…煩いな。あまりの煩さに横に座る銀孤が狐耳を抑える程。
アスモードは司会者が言った通り、ランキャスター王国一の剣術を持つ剣聖の息子だ。実際に選手の情報リストにもでかでかと書いてある。
なんでも剣聖が若い頃は闘技大会に出場し何回も優勝したらしく、その息子も親が進んだ道を進みたいようだ。
アスモードのナルシストは兎も角、その剣術レベルは驚きのエレニール以上。
まぁ所持しているスキルの数や、総合レベルは彼女が圧倒的で。命を懸けた実戦ともなれば、接戦する事なくエレニールに呆気なく敗れることだろう。彼女には雷魔法もあるし。
『皆さん長らくお待たせいたしました~!では早速、皆お待ちかね明日の二回戦のトーナメント表を表示しましょう!』
ナビリスと銀孤で選手達の戦い方について話していると、何時の間にか司会席に居た司会者がマイク型の魔道具を手に持ちステージの上で観客全員に向かって喋り始める。司会の女性が空いた手を頭上に指差し、他の観客もその指先を追うように視線を空中に浮かぶ水晶の魔道具からトーナメント表が浮かび上がる。
そこには。一回戦を突破した選手の名前と、次に当たる対戦相手の名前が刻まれている。闘技大会に来ている観戦者はあのトーナメント表に映し出された選手を選び、誰が勝利するかを決め金を賭ける。
さて、次は誰を賭けてみようか?大穴を狙うのもありだな。こういう遊びも悪くはない。
まあ、二回戦が始まるのは明日からだし。今は屋敷に帰宅してナビリスが作る晩飯の方が気になっているけど。
そんな冗談を三人で楽しく、愉快に話しながら屋敷に帰る準備をした。
『おはようございます!今日もいい天気ですね!?正に対戦日に相応しい太陽の光!では早速闘技大会本戦、二回戦第一試合目の参加選手を呼びましょう!先ずは邪魔する者は全て粉砕!『破攻』デトロア選手!!』
――オオオオォォォッ!
翌朝、太陽の光が現れてからそんな時間は経っていないが、既に会場には満員の客が酒を手に二回戦開始のアナウンスを興奮しながら酔っぱらっている。俺達が座る観客ブースから朝の明るみが果てしない遠方からにじむように広がってくるのが目に入る。それ程早い時間帯から二回戦は始まるらしい。
勿論きちんとした理由が存在している。
それは今日の一日で二回戦と三回戦を行うからだ。
ああ…それだけだ。他の理由など存在しない。という俺も初めてその説明をメイドから聞かれた時はどんな表情をすればいいか分からなかった位だ。
「っお?おにぃはんこれ、珍しいカードやあらへんかぁ?」
二回戦に出場する選手の資料をリストで眺めていると、横から銀孤の声が聞こえてきた。
彼女の方へ顔を振り向くと、そこにはトレーディングカードショップで大人買いした空き箱が大量にそこら中に散らばっている。あ~あ掃除するメイドが可哀想だな。
だが、キラキラ輝くカードを満足げに見る彼女に一つの文句も出ない。
何故か俺がお試しで一回購入した時から興味を持っていたらしく。俺が小遣いをあげる度に屋敷で働くメイドに買いに行かせてる。昨日の賭けで得た金の9割程、カードパックに費やし残りの金で更に儲けるらしい。
「もう、お子様ね銀孤は。ねぇショウも何か言ったら?」
反対側に腰を下ろしたナビリスから小言を貰うが、今お前も一パック開けたよな?無理もないか、観戦スペースの一角に山ほど積み上げたカードパックの量を観ればナビリスでも手を出したくなる。
あちらに設置したメイド用のテーブルにも追加のカードパックが大量に置かれているし。
『一試合目から見事な接戦でした!それと皆さん?休憩はちゃんと済みましたかな?それでは早速闘技大会本戦、二回戦第二試合目の選手を呼びましょう!先に登場するのは…彼に当たらない攻撃は無い!『硬壁』ベイガリオ選手!!』
――オオオオォォォッ!
化粧バッチリの美人司会者の大声がスピーカーの魔道具から響き、それに呼応するようにして、観客の歓声が会場を満たす。
そして名前を呼ばれた選手が選手専用の入り口から姿を表す。選手の姿を見た客のボルテージが更に上がる。一回戦を勝ち抜いたベイガリオの装備は身体全体を守るプレートアーマー、スチールガントレットの右手には大会主催者から貸し出された一般的な片手剣。左手には珍しい十字の形状をした盾を持っている。
彼はこれまで四回闘技大会に出場し、毎回本戦出場を突破した熟練の経験者だとこと。リストの情報にもそう書いてある。
『おっとぉ!?彼の姿を見ただけでこの盛り上がり!流石本戦出場常連っ!!続きましては、今回が初参加にして見事に本戦出場を成し遂げた彼女!本戦常連を破ることは出来るのか!?ウーラー選手』
ベイガリオが出て来た入り口とは反対方向から名前を呼ばれた選手がその姿を見せた。
彼女の姿が現れた瞬間、男達からの興奮したまるで下郎な声援が広まり。観戦席に座る女性観客達からは絶対零度の視線を男達に向けていた。
そんな声援など気にすることなくウーラーと呼ばれた女性は真っ直ぐ背を伸ばし、ステージの上に登った。
髪は肩に届くか届かない程度長さを綺麗に揃えた紫色で対戦相手をジッと見つめる彼女の瞳も紫色。使用する武器は右手に持った槍を脇に挟むように片手で持ち。左手には短剣と珍しい組み合わせの武器。
防具は心臓部分を守る胸当てだけで、他の身体の部位を防ぐ防具は装備していない。見た目から観察して彼女は素早さに特化しているようだ。
『…準備は出来ましたね?では第二回戦、二試合目!ベイガリオ選手対ウーラー選手!始めっ!!』
試合が開始した直後、ベイガリオは盾を前に身体と剣を隠すように掲げるとそのままウーラーに向かって全速で向かって来た。先にリーチがある彼女の槍を距離を縮めて武器を無効化するつもりだ。
「っはあ!」
しかし、相手の初手の動きを読んでいたウーラーはその場で左足を手前に出し半身を捻じると強化魔法を自分に付与させながら、大振りで思いっ切り頭上から振り下ろした。見た目に反して豪快だな。
予想外の振り下ろし攻撃に全速力で掛け走って来てたベイガリオは即座に動きを止め、盾を上に掲げ重い一撃を防いだ。もう少し角度があれば上手く流せた攻撃もタイミングがずれ馬鹿正直に一撃を受け止めた彼の腰が下がり、防ぐので精一杯だ。
「連続突き!」
ウーラーは動きを止める事無く、片手で槍を上手く使いながら連続で攻撃を浴びせる。
しかし、ただ真っ直ぐな突き攻撃にはベイガリオが装備したクロスシールドによって全て塞がれてしまう。
「パワースラッシュ!」
僅かな隙を見せたウーラーの攻撃を見逃さなかったベイガリオが剣技を叫び、カウンターを仕掛ける。
空気を断ち切るような金属音が聞こえ、槍を吹き飛ばそうとしたが彼女の手から槍が離れる事は無く。わざと後ろに飛ぶように距離を取った。
「貫け!ペネトレイト!」
一旦距離を取ったウーラーが腰を低く落とし突きの構えを取ると再度槍技を唱える。
すると槍先に魔力の光が集まり始め、一定の大きさになるとその場所から突きの行動を取った。
突いた槍先から眩しい光線がベイガリオへ向かって放たれる。
だが、彼に焦りの表情は見えない。
「守りを!『鋼防』」
彼もスキルを唱えウーラーが放つ光線を防ぎる。
「――ッな!」
しかし、強烈な攻撃を防いだ彼の口から驚きの言葉が飛び出した。それもその筈、彼の喉元には移動したウーラーが左手に持った短剣が突き付けられていた。あの光線はフェイントだったと言うことだ。
「……降参だ。参った」
『おっと!ここでベイガリオ選手が降参!勝者、ウーラー選手に決定しました!』
見事な攻防だった。
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