第二章

第12話 ラ・グランジ

無事?にCランクに昇格してから二日経った。


 今日が冒険者の街オーウェン最後の日。Cランクに上がった日、この二週間で仲が良かった受付嬢ベラにラ・グランジに向かうと告げたら大泣きし、慰めるのに少し時間が掛かった。一応ラ・グランジで塔に登ったら王都に向かうと教えたら、一瞬何か考え込む表情を見せ、その後凄い笑顔に戻り、彼女は王都に設置されてる冒険者ギルドに移動すると言い始め。そのまま副ギルドマスターへ伝えに行ったらしい。


 話し合いの結果、テストに合格したら王都に転勤出来る事になった。

 これから勉強に励むらしい。俺も応援しておいた。


 北側に設置された城門から潜り、ラ・グランジの方角へ歩き始めた。ほのぼのと歩きながら内ポケットから取り出したスケルトン懐中時計を手の中で弄りながら暇を潰していた。


「(何かイベントでも起きないかな~)」


 後ろから追い越した荷馬車を横目で眺めつつ、呑気な事を考えていた。


『ショウ、そういえば次の街に向かうときスケボーに乗って向かうんじゃなかったの?』


『…あ』


 今の今まですっかり忘れてた。…気にせずにこのままラ・グランジまで歩いて行こう。地図を見た限り徒歩だと三週間程度で着くらしいが。神は疲れないからもうちょっと早く着くかも。


 休まずに周りが暗くなるまで歩き続けた。神眼を発動すれば昼と変わらない眩しさに調整できるが、折角なので平べったい場所を見つけ、野宿を取ることにした。


 土魔法で簡易的な竈を造り、その辺に落ちている木の枝や、葉っぱなどを中に入れ、生活魔法で火を点けた。焚火が火の子を弾いて燃え始めた。火の輝きが河の様にゆらゆらとゆっくり揺れ。ぱちぱちと快活な音を立てて小枝が鳴る。煙が空気の重さと競うように、空に勢いよく上がる。


 串を創り、インベントリから一欠片のオークの肉を取り出した。実はインベントリの中には祖父が創ったダンジョンで狩りまくった食材や、魔物の素材が大量に入っている。

 あのダンジョンは正に地獄だった。一階層の魔物でレベル1万以上あり、あのゴブリンですらあらゆる物理攻撃や魔法を無効化にしてきた。しかし、時間が経つと楽しくなり周回しまくって、今のレベルまで上がってしまった。お蔭で俺よりレベルが高い神は創造神と、破壊神、それに時空神の三柱だけ。レベルだけなら俺は上級神に上がっても問題ないが、一つの世界も管理していない新入りひよっこ神は中級神まで。


 オークの肉を串に突き刺し、焚き火の中に入れた。

 良い匂いがしてきて、こんがり焼きあがった串に刺した肉を焚火の中から取り出した。

 口を大きく開けガブリと食いついた。うん、美味い。

 二口三口で串に刺した肉を食べ終えた。創造魔法で地球産の10UPの炭酸飲料を創造して、一気に飲み干した。うん、美味い。

 飲み終わった空き缶をインベントリに捨て、生活魔法『クリーン』で口の中を綺麗にし、近くにあった一本木の傍まで寄り。芝生の上に寝転がった。髪の毛がばさばさ風に吹かれる。両手を頭の後ろで重ね枕代わりに。両目を閉じ。毎晩続けてる神眼で今日の世界の様子を眺め始めた。


 オーウェンから北へ歩き続け既に五日が経っていた。平らな草原を抜け、山を下り、トンネルを抜け、村を通り過ぎ、野宿中魔物が襲い掛かり、ソレを瞬殺したり。


 何を言いたいか、それは。


「(うん。ひまだ)」


 何のイベントが起きない。


 暇だ。暇すぎる。ひーまー。


『ショウ。1キロ先で馬車が魔物に襲われていますよ』


 流石ナビリス。頼りにしていたよ。


『おお~やっとイベントが起きたか。ちょっくら行ってくるよ』


『分かったわ』




 瞬間、一気に加速し物凄い速度で魔物に襲われてる場所まで駆け抜ける。


 ゴブリンの群れが荷物を載せた馬車を襲っていた。

 護衛だろう冒険者達が馬車を守るように戦っている。四人しかいない状態で。他の二人の冒険者はゴブリンの襲撃により倒れていた。


 そこにショウが現れた。


「手が必要か?」


音も無くいきなり表れた軽装に剣を携えた青年に一瞬驚く冒険者達。しかし、瞬時に助けを承認した。


「お願いだ!この数ではゴブリンの群れを抑えきれない!」


「了解」


――『剣波』


 腰に差していたロングソードを抜き、顔の横まで持ち上げ掛け声と共に振り下ろすと、空気の刃がゴブリンの群れへ吸い込まれていき、首は毬のように飛んだ。

 振り下ろした剣をそのまま横に振り払い、再度空気の刃が群れに吸い込まれ上半身と下半身を分けた。

 二振りでゴブリン50匹の群れを全滅させたショウに冒険者達は絶句した。

 ロングソードを鞘に戻すと助けを求めた冒険者がこちらにやって来た。


「感謝するよ、もう少しで全滅するところだったよ。圧がましいが、もしポーションを持っていたら売ってくれないか?、さっきの襲撃で予備のポーションが割れてしまったんだ」

 

「(成程、地面に横たわってる怪我人の為か…)」


「聖魔法を使えるから怪我人を回復させる」


『ヒール』


 手を怪我人の方へ向け回復魔法を発動させた。近くにいた怪我をした冒険者達が一瞬にして白い光に包まれていき、怪我が一瞬にして治っていった。


「聖魔法も使えるのか!?ありがとう!感謝するよ!」


 彼等が感謝の礼をしてくれた。俺は手を振り気にするなと答えた。


「ところでさっきの剣術レベルといい、聖魔法と言い、貴方は高ランク冒険者ですか?」


 口調を改まって質問された。


「いや違う。俺は、Cランクに昇格したばかりのショウだ。さっきまでの話し方で良いよ」


 内ポケットに入ってた銀色に光るギルドカードを見せながら名を名乗った。


「そ、そうか?分かった。俺はDランクパーティー『半月の心』リーダーのコビーだ。宜しく」


 お互いに手を前に出して力強い握手をした。


「ああ、よろしくコビー。俺は今ラ・グランジに向かってる途中だから、もし運が良かったらそこで会えるかもしれない。それじゃ、俺はもう行くよ」


 そう言って、ラ・グランジに続く道へ歩き出そうとしたら、馬車の中から隠れてた横幅が広い商人の見た目をした男性が飛び出して来た。


「お、お待ちください!もしよければラ・グランジまでご一緒に護衛をお願いしてくれませんか」


 目の前に既に護衛を依頼した冒険者達の前でそれは無いでしょう…。コビーに目線をやると、彼は肩をすくめた。仕方ないようだ。


 移動中は比較的楽だった。魔物の襲撃が数回あったが難なく撃退。話し相手にも困らなかった。


 6日後、オーウェンの町に置かれた城壁を数倍高く、そして端が見えない程の長さを誇る城壁が見える場所にたどり着いた。門の前には長い列が出来ている。列の傍には料理を売ってる商人の姿もあった。5時間後ギルドカードを門番に見せやっと俺達は門を潜ることが出来た。


「楽しかったぜショウ!ギルドで会ったら酒でも飲もうぜ!」


「ああ、分かったコビー。また会おう」


 他のパーティーメンバにも挨拶して俺達は別れた。ラ・グランジの街並みは綺麗だ。人族の街ながらエルフやドワーフ、獣人族のようなそれ以外の種族がぽつぽつと目に付く。初代国王が差別を嫌いこの国を作ったお蔭で、ランキャスター王国に表立って差別する人は居ない。


 オーウェンの町より人口は数倍以上多いが、道も広く綺麗な白色の石畳みで整えられ、建物も真っ直ぐに一定の距離に沿り建てられている。領主が『アレキシア・フォン・グランジ』になってから治安も良くなったらしい。それでも西区にはスラム街が存在するが。


 中心に視線を向けるとこの街一番の魅力でもある塔型ダンジョンが天空そのものを突き刺す程の雰囲気を放ち聳え立ってる。


通称『神の試験』。


 千年以上冒険者が挑み続け未だ踏破されておらず。今現在で人類が突破した最高階層は65階。600年前に召喚された勇者の記録だ。


 今回も屋台で牛串を買ったついでに高級宿の場所を教えてもらいそこへ向かった。


 裕福な連中が多く住んでいる東区にあり、屋台の親父から教えてもらった宿は五階建て、外見から高級感溢れるレンガ張りの豪邸。一部屋ごとに透明度が高い窓ガラスが付いてあり。入り口の周りにも高級品であるガラスが張られ、両開きのドアの傍にはフルプレートの鎧を着込んだ兵が二人、槍と剣を装備し一歩も動かず立っている。


 俺が入り口まで近づくと手の剣に掛けた一人の兵がこちらまで歩いてきた。

 内ポケットから出した白金貨を見せると、元の場所まで戻り扉を開けてくれた。

 何も言わずに開けてもらった扉を潜る。


 一階は天井が高く広い空間。床は全て大理石で出来ており、中央の天井には巨大なクリスタルシャンデリアが輝きを放っている。カウンターまで行き一言も喋らないタキシードを着た20代後半のイケメンに話しかけた。


「普通部屋を10泊分宜しく」


「白金貨9枚になります」


 白金貨10枚を目の前に置かれたトレーに置いた。


「ありがとうございます。お名前をお願いします」


 ボーイから純金製ペンの魔道具を手渡され、真っ白の羊洋紙にペンに魔力を込め名前を記入した。


「ありがとうございます。ショウ様。こちらへどうぞ」


 ボーイの案内で三階に魔導エレベーターで上がり一つの部屋まで通された。


「こちらがカードキーとなります。どうぞごゆっくりと」


 右足を一歩下げ、右手を胸に左手を腰の後ろに回し頭を丁度10度下げ洗礼された一礼したイケメンボーイに礼を言い部屋の中に入った。


 一軒家が丸ごと入るほどの広さ、リビングにはふかふかのL字型のソファーが置いてあり、テーブルは大理石。上を見上げるとシャンデリア掛かれ、アイランドキッチンには冷蔵庫とコンロの魔道具とワインセラーもあり。マスターベッドルームに入るとキングサイズのベットが置かれ、すぐそばに半径二メートルの巨大ジャグジーが設置されていた。


 部屋の内装に満足した俺は、そのまま服を脱ぎ、ジャグジーを十分に堪能し、ベットに寝転がり、習慣である神眼で世界を眺め始めた。

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