第11話 Cランク

「…もう一度、何とおっしゃいましたか、私の狐耳にゆっくりと仰ってください?」


 笑顔を見せてるベラだが、口が引きつってるぞ。目は笑ってすらないし。


「え、だから約束した新作ドーナツを持ってきた…」


「そこじゃありません!あ、ドーナツありがとうございます。って!それよりも!ダンジョン攻略の事ですよ!ショウ様が依頼を受けてからまだ3時間も経っていませんよ!。あ、これ美味しい!」


 遂に業務中にドーナツを食べ始めた。ストレス発散の手助けになるといいけど。


「じゃあ、俺のギルドカード提出するから、それで確認してくれ。あ、後これ、依頼品」


「最下層までたどり着くのに二週間は掛かるのですが…畏まりました。そこまで言うのでしたら、確認します!」


 レベル10でダンジョン攻略は少し無理があったので、『隠蔽』でレベルをほんの少し上げといた。

 ギルドカードを手渡し、ベラを胡散臭い表情を見せながら、カードを相変わらず不思議な口の形をした水晶の上に乗せると、俺のステータスが映し出されてた。


名前:ショウ

人族:人族

職業:戦士


レベル:23

HP:240

MP:160


攻撃力:210

防御力:172

体力:204

魔力:149

俊敏:182

器用:200

運:10


魔法スキル:

水魔法Lv.3 聖魔法Lv.2 魔力操作Lv.3

生活魔法


スキル:

剣術Lv.4 体術Lv.3 身体強化Lv.3


称号:

下級ダンジョン攻略者


「………」


 俺のステータスを観たベラが固まったまま何も喋らない。彼女の顔の前に手を振ってみたが、効果は無かった。親指と中指のフィンガースナップで音を鳴らすと、問題なく動き始めた。


「は、はああああああ!?ちょっと、ショウ!これどうゆう事よ!?一週間でどうやったらレベルを10も上がるのよ!わ、グスっ、訳が分からないよ!っう、っう、グスッ」


 動き始めたが、壊れてしまったようだ。それに泣き始めたのでドーナツが入った箱から、ドーナツを一つ取り出すて、彼女の口元まで持っていくと、虚ろな目で遠くの見ながら鼻でクンクンと匂いを嗅ぎ、パクパク食べ始めた。食べ終わったら、正常に戻り、顔を真っ赤にしていた。


「ゴホンっ…失礼しましたショウ様、どうか忘れて下さい。私ベラが『ダンジョン攻略』の称号を確認しましたので、Cランク昇格試験を受けることが出来ます。どうされますか?」


「勿論受けるよ。それで、その昇格試験は今から受けることが出来るのかい?」


「はぁ…普通ダンジョンから帰還してから試験を受ける人なんて居ないんですけど。試験は一か月に2回ありますので、次の昇格試験は一週間後になります」


 話は変わるがこの世界の住人は時間や日にちを理解している。大きな町に行けば立派な時計塔が設置されてる。王族、貴族、裕福な商人はマジックアイテムの腕時計や懐中時計を所持してる。勿論高級品なので、珍しいが。

 だが地球の一年は12月だが、こちらの一年は14月と少し長い。


「了解。それじゃ、一週間後に来るよ。これ、皆で分けてね」


 大量のドーナツが入った箱を渡し、ギルドから出た。


『ショウ。Cランクに昇格した後、どうするの?この街にずっと居る訳ないよね』


 宿へ向かってる途中、ナビリスがこれからの事について聞かれた。


『ああ、Cランクに昇格したらラ・グランジの街に移動する予定だ。塔にも登ってみたいし』


――大都市『ラ・グランジ』


 オーウェンの町から馬車を使い、一週間程北に進みオーウェンと王都のやや中間に位置し、ランキャスター王国唯一の塔型ダンジョンが聳え立つ。グランジ公爵が納める人口約125万人が住む大都市。冒険者、商人、貴族、観光客共に人気な街であり。現国王の姉であり領主の『アレキシア・フォン・グランジ公爵』は聡明な女性で、領民から愛される女領主。俺が次に移動する場所だ。


『分かったわ。どうせ、そこの塔も攻略するんでしょ?貴族や王族から狙われるわよ』


『頂上には行くが、攻略はしないつもり。攻略は人類がするべきだ』


『頂上までは行くつもりなのね…』


『まあな』


 ナビリスがため息をついた。攻略はしないから大丈夫、大丈夫。あ、でも今は冒険者として活動してるから、間違えて攻略しちゃおうかな。


『怒りますよ』


『あはは、冗談だよ、冗談』


 うん。攻略は今の所諦めよう。



『おはようショウ。朝になったわよ』


『ああ、おはようナビリス。今日は機嫌が良さそうだな。何かあったのか?』


 ダンジョンを攻略してから丁度一週間が経った。今日はCランクの昇格試験の日だ。それよりも、今朝は珍しくナビリスの機嫌が良い。俺が世界を眺めてる間、嬉しい出来事でもあったか?


『うふふ、ショウが神眼を発動中に、リッシュ様から念話が来て、メティスが管理する世界が決まったらしいわ。これ程嬉しい出来事は無いわ!私の身体を創造したら、早速お祝いに行かなきゃ!』


『そうか…それは、そうだなナビリスの実体を創造したら一緒に祝いに行くか』


『ええ!絶対に行きましょ!』


 …アティナ。俺達の娘は立派な女神に育ったよ。後でリッシュに感謝の念話を送ろう。



 何時もの服装に着替え鞘に入ったロングソードが括りついた剣帯を腰に巻き、一階に降り食堂へ向かい、ショウ専用の席になった椅子に座り。

 数分後お馴染みのウエイトレスがメニューを持ち、笑顔を見せながらこちらへ寄ってきた。


「おはようございますショウ様。いいお天気ですね!他のお客がショウ様の事を噂していましたよ。何でも、冒険者に登録してからたった二週間でCランク昇格試験に受けるとか」


「そんな噂が広がっているのか?それじゃ、違う噂を広めてくれ。ショウはギルドに登録してから二週間でCランクに昇格したって」


「あははは、分かったわ。だからちゃんと試験に合格してよねショウ様!…それで今日のブレックファースト何にされますか?」


「今日は記念の日だから、豪華にしてくれ。勿論、ミルクティーも高級な奴を」


「別料金が掛かるけど宜しいでしょうか」


「ああ、これで満足できる料理を期待してるよ。お釣りはチップで取っておいて」


 彼女に白金貨1枚を手渡した。


「わ、分かりましたわ!ショウ様がご期待出来事料理をお持ちします!」


 白金貨を渡した瞬間ワタワタしながら、周りの目を気にせずにキッチンへと走り去った。

 15分後料理が乗ったトレーを持ちこちらへ向かって来た。うん、良い香りだ。


「お待たせしました。こちらが、オークキングの肉にデザスタートマトのケチャップを載せたハンバーガーと、ゴールデンバーナードの卵を使ったスクランブルエッグとなります。最後にアグレッシブカウのミルクとロスチャーロス教国の聖城で採れた茶葉を使ったミルクティーとなります」


 おおーこれは白金貨を払った価値が有りそうな料理だ。早速食べよう。


 インベントリから出したサングラスを掛けながらメインストリートを歩いていた。あ、朝食は美味しかったです。


「おっと、ごめんよ」


 そのまま歩いてると、反対側から歩いてきた男と肩がぶつかった。男は一応謝り、そのまま歩いて行った。ぶつかった男はそのまま裏道に歩き。周りに誰も居ない事を確認して、ショウにぶつかった際、内ポケットに入ってた豪華な宝石が付いた膨れた小袋を盗んでいた。思った以上の大金をゲットし、ホクホク顔の盗人は期待しながら小袋の口を開けた瞬間、爆発が起き体の肉や内臓をそこら中に撒き散らし死んだ。


――ボンッ!


 どうやら俺にぶつかった際、俺の金を盗もうとした盗人が死んだか。


 男が盗んだ袋には罠魔法の魔法陣が仕掛けてあり、開いた瞬間爆発するよう設定されていた。男が盗んだと思ってた豪華な袋も幻覚魔法が掛かった袋で、実際に盗人は何も入ってない只の袋を盗んでいた。

 奴が爆発した近くの場所で悲鳴が聴こえるが、それも運命。

 どこの街に行っても。どこの世界に行っても。悪党は必ず居る。地球で世界一安全と言われる日本でも一定数の悪党は居る。日本より安全な世界でも、犯罪は起きた。


 オーウェンの街ではそんなに見掛けないが、この世界にも奴隷は居る。実力大国と言われるランキャスター王国でも、奴隷商はある。スラム街も存在する。バンクス帝国では奴隷狩りが頻繁に行われている。100年毎に召喚される勇者は皆、この奴隷制度を無くそうと努力を傾注したが結果は無理だった。地球のアカシックレコードを読んで知ったが、現日本にも奴隷は存在しているのに、文化が全く異なる異世界で奴隷制度を無くせるはずがない。善意と思うなら、買えるだけの奴隷を買い、仕事を与えた方がマシだ。


 開けっ放しの扉を潜り、サングラスをインベントリに戻し、空いていた受付へ向かい、受付嬢にCランク昇格試験について聞いた。

 説明を聞く限り、どうやら試験会場は右の建物の訓練所で行うらしい。

 一旦外に出て直ぐ横に訓練所と書かれた看板が掛かった建物へ向かい、こちらも開けっ放しになっている扉を潜って中に入る。


 思った以上に広い空間が広がっていた。訳50メートルの円型の訓練場となっており、端には観覧席も設置されてた。冒険者の街特有の、闘技場みたいな扱いになってるみたいだ。


 本日は昇格試験ということで訓練してる冒険者は皆無で、代わりに訓練場の中心に6人の冒険者達がそれぞれ準備していた。どうやら試験者は俺も含めて7人か。観覧席に彼等のパーティーメンバーが見守っている。他の試験者が準備してる中、俺は何もせずに立っていた。試験者や観覧席から目線が集まるが気にせずに待つことにした。


 10分程経過すれば反対側の入り口から三人の冒険者が歩いて来た。


「おい!あれって、Bランクパーティー『竜の氷柱』のメンバーじゃねえか!?」


 そんな叫びが周りから上がってきた。どうやら、有名な冒険者パーティーらしい。


 こちらの前で止まり、革鎧を着た一人の男が一歩手前に歩き話しかけてきた。


「俺はBランクパーティー竜の氷柱のメンバーの一人スコットだ。こちらのローブを着た魔法使いがプリシア。そしてこっちの筋肉男がガドル。俺達三人が今回の試験官に選ばれた。試験内容は簡単だ。実力を見せろ!俺らに勝てなくてもいい!Cランクに匹敵する力を見せろ!分かったか!?」


「「「はい!!」」」


 熱血漢だ…右側の試験者から試験を始めるようだ。俺が最後か。試験者は三人の内一人を選び、摸擬戦して、無事実力を認められたら合格だとこと。武器は壁側に置いてある訓練専用の武器を選んで戦うようだ。


「よろしくお願いします!」


 一人目の挑戦者は10台後半の青年だ。刃が潰れた槍を構えて、彼が選んだ相手スコットに向かって飛び出した。


 青年が突き出した攻撃をいとも簡単に弾いた。弾いた衝撃でバランスを崩した青年の隙をスコットは逃さずに青年の腹に木剣を叩き付けた。青年は革鎧を着ているが、あまりの威力に3メートル程吹っ飛び、動かなかった。失神しているだけで命に別状はない。


「Cランクになるにはまだ速いな。もっと実戦を積め。次!」


 冷水をぶっかけられ目を覚ました青年は不合格通知と言われ肩を落としながら仲間が待つ観覧席へ向かった。


「お願いします!」


 二人目の挑戦者は杖を持った魔法使いの青年だった。…青年率多くない?


「魔力で表す火の矢よ、我が敵を撃てならん。火矢ファイアーアロー!」


 彼が選んだ女性魔法使いへ向かって魔法を放ったが、彼が詠唱を完了した時には、彼女は既に彼に強烈なアッパーカットを繰り出していた。馬鹿正直にアッパーカットを食らった彼は一瞬で失神した。


「魔法使いの弱点は接近戦闘。接近戦が苦手でも、体術か、短剣術を学ぶといいわ。失格よ」


 魔法使いの青年も肩を落としながら観覧席へ向かった。


 俺の番になった。


 あれから、三番目の挑戦者、弓使いのエルフ。四番目の大剣使い。六番目の挑戦者、魔法使いの女の子が合格していた。


 壁側に置かれた木剣を手に持ち訓練所の中心に戻ると、スコットから話しかけられた。


「お前が最後か。では相手を選ぶがいい」


「三人同時に挑戦するよ」


 俺が伝えた言葉が聴こえなかったのかスコットは何も言わなかった。


「…ん?俺の耳が遠くなったのかな?ちゃんと聞き取れなかったようだ。もう一度言ってくれるかい?」


 威圧を俺に浴びせながら、確認された。


「だから、三人同時に相手するよ」


 もう一度同じ言葉を伝えた。


「そうか、そうか。聞き間違いじゃ無かったか…このガキ!調子に乗りやがって!ボコボコにしてやる!後悔するなよ!!」


 どうやら、熱血に火が付いたようだ。他の二人も何も喋っていないが、俺に殺気を放っている。


「火の槍で我が敵を撃て。火槍!」


 剣を構えた瞬間、女性魔法使いが高速で詠唱し魔法を放ってきた。


「……潰れろ。クラッシャー!」


 飛んできた火槍ファイアースピアを横ステップで躱し、既に俺の後ろに回っていた筋肉男ガドルが大斧を俺の頭上目掛けて振り下ろして来た。


 右足を半歩後ろに下げ身体を半回転させ、木剣の先端で振り下ろしているバトルアックスの側面を突き、角度をずらした。完璧に頭を狙った攻撃がいとも簡単に地面の方へ捌かれ、数秒動きを止めてしまった隙を逃さず剣を振り払い気絶させ、剣圧で魔法を詠唱中のプリシアに向けて吹っ飛ばした。


 魔法を詠唱中に仲間がこちらに吹っ飛んでき、驚きながらも詠唱を中止して、横に避けるが。

 避けた先には俺が既に木剣を下から斬り上げていた。



 既に仲間の二人が一瞬で倒されたが、スコットは冷静のままだった。

 防具も碌に着けず、ロングソード一本で登録からたった二週間でダンジョンを攻略したショウの噂は既に聞いていた。

 三人同時に相手するって言われた時は思わず殺気を放ってしまったが。ショウは平然としていた。

――怪物が…。

 一瞬で理解された。この整った顔をした青年は化物だと。

 木剣と木剣のぶつかり合う音が響く。

 攻撃されては防ぎ、捌き、隙を見て攻撃する。

 スコットは一旦距離を取り、体に魔力を宿す。『身体強化』スキルを発動した。


 そして、蹴った地面を軽くヘコませながら突っ込んできた。


 ショウはその場から大きな移動はせず、カウンタースタイルに切り替えた。


 よって、その場でほとんど動かず防ぎ、木剣で捌き、無防備になった腹に一発蹴りを入れた。


「うぐっぅ!…降参だ。参った」

 訓練場の壁までぶっ飛ばされたスコットは起き上がれずに降参した。


 二人の白熱した摸擬戦に誰も開いた口が塞がらなかった。


 Cランクに無事合格出来た。試験後、スコットからパーティーメンバーに誘われたが、パーティーは作らないことにしてるので、断った。


 冒険者ギルドの受付に戻り試験合格の結果を知った美人受付嬢が呆れた表情を見せながら、銀色に輝くギルドカードを渡された。これで、この街に用は無い。


 二日後にオーウェンの町を出ることに決めた。

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