第143話 大野外演習その9

             『前書き』


読み直したら、ダリアが使う武器が違っていたので修正を行いました。読者の皆を混乱させてゴメンよ!

装備をレイピア&魔法の杖から、レイピア&魔導書に変更しました。

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 風を切って、地を滑るような高速で道無き道を進むダリアの背後を追う俺。

 道中、目と鼻の先で道を塞いだ葉が枯れ落ちた巨木、速度を落とさず幹に優しく置いた足を蹴れば、その身軽さを利用して木の枝を足場にしようとアクロバティックな跳躍で飛び上がる。俺も程よい高さに位置した木の枝目掛けて跳躍、枝を掴んだ手を引き上げて身を翻して枝に乗った。

 枝から枝へ飛び移って進んでいたダリアが突如急停止したので、横に並んだ俺も彼女に倣って足を休める。


「チュンチュン…うん、分かったありがとう鳥さん。お兄さんここから先が森に奥地って、鳥さんが伝えてくれたよ」


 虚ろな目で空を見上げるダリアより告げられる。馬車から見た感じ一見大きく広がった森だと思っていたが、想像より時間も掛からず奥地に辿り着いたな。これなら奥地を縄張りとしている猛獣や魔物が空腹で狂暴化すれば食べ物を探して学園の生徒達が狩りする位置まで進行してしまう可能性がある…。才能豊かな将来性のある若者が魔獣に食い殺されるのは、管理する世界の平穏を望む現人神にとって損しかない痛手。

 しかし、森で生きる魔物の掃討は生態系に影響あるので避けるべき…、リーバスの指示通り増殖しきった魔獣の間引きが無難か。


「――っうん!鳥さんが早速魔物を発見したらしいよ!私、行ってくるね!」


 俺の返事も聞かずに虚空へ見えない鳥と話しながら、音も無く木の枝から地面へ降り立ったダリアは右手に細剣、反対の手には閉じた魔導書を持って足を踏み込む。白刃を閃かせ、細剣を構え即座に前へ飛ぶ。岩陰に隠れていた体長一メートル程の茶色の毛をはやした大ネズミの頸に剣身が深くめり込んでいた。確かめるまでもなく一撃で絶命した魔物、油断なく斬り捨てた魔物も含め周囲へと意識は配っている。


「鳥さん!…ッピョピョ、うん次!」


 他の方角へ身を向けたダリアは片手に持つ魔導書を開くと魔法の詠唱を唱え始める。


「風の魔力よ、斬り裂け『風刃ウィンドカッタ―』!」


 彼女の足元を中心とした光を灯す魔方陣が現れ魔導書を触媒にした魔法を詠唱すると目の前に空気を纏う刃が生成され、矢のように打ち出される。


「グガェアアアアアァ!」


吸い込まれるように解き放つダリアの魔法は伸び切った野草の茂みに身を潜ませ、奇襲の機会を狙っていた鼻の先に小さなツノが生えた森狼フォレストウルフの腹を切り裂き、腸をまき散らす狼の野太い叫びが周りに広がる。あれは致命傷だ、持って数分の命。


「鳥さんッ!風で動き止めて!」


 魔獣を屠ったダリアはリズムを崩すことなく彼女にしか認識できない鳥に命令を下す。


「シャアア!ッシャアアア!!」


 すれば近くの樹幹に擬態していた緑大蛇グリーンサーペントが頭上より飛び掛かって来るが、口を開き鋭く尖った管牙を向けまま空中に固定された。

 鳴き声を上げて宙をジタバタ暴れるが、風魔法で生体を固定された魔獣は身動きがビクとも取れない。毒牙より毒らしい紫色濁った液体が地面に零れ落ちていく。

 隙だらけとなった好機をA級の彼女は見逃さない。


「っせぃやあ!」


 蝶のように舞う踊るダリア、ルーン文字が刻まれた花柄のロープをドレスの如く揺らし、一瞬で移動した彼女は魔力を重ねた剣を蜂のように貫く。ダリアが込めた威力により一陣の風がなびき、周りの落ち葉が舞い上がって褐色のカーテンを一瞬生み出す。次の瞬間には、鼻孔から尻尾を一刀両断された緑大蛇グリーンサーペントは二つに分かれた胴が雑草の上に墜落する。


「お見事。素晴らしい腕前だった」


 小さく言葉を零した俺も地面に降り立って、剣の柄を握れば静かに鞘より抜いてダリアと反対方向へ振り向いて武器を構える。

 どしん…どしん。遠くから伝わってくる地鳴り。確実に此方へ向かって近づいている。やがてその姿を見せた。


「トロールだよお兄さん、手を貸そうか?」

「俺にも一度は格好いい所を見せたいから今回は一人でやらせてくれ。ダリアは周囲の索敵を頼む」

「あいあいさー!っさ、お願いね鳥さん達!」


 会話を交わす間に肩の筋肉が異様に盛り上がった全長四メートルは超えた茶肌の魔物、トロールは棍棒状に崩した枯木を握り締めた腕で、俺を潰そうと振り下ろす。大きな軌道を描いて振り下ろされた時間は一瞬、実力が足りていない並みの者なら今の攻撃で地面の染みとなったであろう。人類の身長を遥かに超える巨体が繰り出す一撃の威力量は馬鹿にならない。


 しかし、神界にて戦神直々に鍛え上げられた俺には目の前の光景一杯に広がった棍棒による攻撃、手首の捻りを応用すれば捌いて、横へずらす等ゆで玉子をむくより簡単なこと。

 隙が生まれたトロールの膝から下を斬り飛ばすのも、難しいことではなかった。

 でかい図体を支えていた両足の感覚を失ったトロールは受け身を取る事もできず、醜い悲鳴を上げながら『ぐしゃり』と落ち枝を潰しながら鈍い音を立ててトロールの胴体が地面に落ちた、振動で木々が騒めいた。

 うつ伏せになった太い首が眼前に写ればやる事はたった一つ。


 そして――俺は修行時代何万、何十万と繰り返した慣れた動作で剣で一閃。

  …森に斬撃音が数回木霊するした。

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