第121話 交差するまで
最初に姿を消した冒険者パーティーが受けたと思われるギルド支部が置かれた町を素通りし、巧みに手に握る手綱を操り険しい獣道を進む。徒歩で半日進めば依頼の根源となった村が見えてくるとギルドの受付嬢から耳にしている、このままのスピードで地面を駆ければ数時間で辿り着く、と予想する。
「(異臭が漂う…近い)」
前方からムッとする悪臭が冷たい風に吹かれて鼻を突く。嗅覚が鋭い馬もげっとなる重苦しい悪臭にブルルと嫌そうに頭を交互に動いている。これ以上は徒歩で進まなければならない。
周りを軽く見渡せば近くに広げた場所を見つける。その場から地面に降りると馬の手綱を引いて身丈程伸び切った草を掻き分けて平らな場所へ向かう。
「(だいぶ臭いはマシになった)」
平原に出れば冷風が限りもなく駆け抜ける、木立が密生していた雑木林に湿った異臭はこっちまで届いていない。その場しのぎだが、乗ってきた馬は一旦ここで残しておく。平原に見つけた冬枯れの樹木に近づいて程よい太さの枝に馬から取り外したハミと手綱を掛ける。枝はびくとも動かなず追加で少々重りのある鞍と鐙も乗せてみるが枝は立派に支えている。身軽になった馬は気持ちよさそうにブルルンと鼻を鳴らす。
鞍から抜いたロングソードを剣帯に佩する、インベントリーから誤魔化し用の魔法袋を現すと中に入れた物を数点取り出した。一つは冷温調整の魔法が成された緑色のマント、これを上から纏えば例え今の格好が薄着でもしらが切れる。二つ目は魔都観光中に寄った魔道具店で購入した設置型容易結界魔道具。見かけは水筒に近い形状をしたコンパクトなサイズ、使い方も簡単、魔石が組み込まれた蓋部分を時計回りへ回して柔らかい地面などに埋めるだけ。すれば、範囲10メートルの円ドーム状の結界が浮かび上がる。 簡単に自他守れる便利な魔道具だが、短所も幾つか在る。土など柔らかい地面でなければ埋め込めない事と商隊等の大人数で行動する集団では結界が発動する範囲が小さすぎる点。
魔道具を発動させればビシビシ当たっていた冷風も穏やかになり気温も上がれば馬はリラックス状態になり足を曲げて雑草の上に座る。喉が渇いた時用に土魔法で飼料桶如きで生成すると中に飲み水を注ぐ。
最後に干し草を一定量傍に置けば準備完了。
「(おっと、怪我人用にポーション類も準備しなきゃな)」
結界の外へ出る直前に一つ思い出した俺は魔導袋からポーション類や状態異常回復する毒消し等が詰められたレッグポーチを取り出せば自らの腿に巻き付ける。
しっかりした足取りで範囲結界の外へ出た俺は一般の目では追い付けない速度で腐臭漂う地点目指して一直線に駆け抜ける。
電光のごとくに速度で進むと大量の魔物と魔力が空になった人間を探知した。消息を絶った冒険者の一人だろうか、だとすれば殺される訳にはいかない。
「ヒイィ――ッ!」
「ギャギャギャア!」
魔法が撃てなくなった人間の頭目掛けて振り下ろされた棍棒は寸前の際に俺の剣で止められる。
何処からともなく突如として現れた姿にぎょっとして立ち尽くす緑肌の醜い魔物の腹へ蹴りを入れる。唾液を吐きながら後方へ飛ばされる魔物を横一文字斬りで水面に腕を振るう。
肉が潰れる鈍い音が樹木つづきの緑の海に響き渡る。仲間が一瞬にして殺された魔物――いや、ゴブリン共は乱入者である俺に尖った歯を剝き出しで飛び掛かってくる。
目線から外れた方角からボロボロの槍を突き出して特攻をかましてくるゴブリンの右脇腹から首へ逆袈裟で斬り上げて持ち手が亡くなったズタズタな槍を剣とは逆手で掴むと、遥か後方に一列に並んだ魔物の集団狙っておお振りで放る。
垂直に弾道を描く射出された槍は一番星の光となって敵を貫く、激突した場所には槍を中心にでかいクレーターが出来ていた。…これで少しは時間が稼げた。
「俺はランキャスター冒険者支部所属、A級ショウだ。お前は五日前この先の村から出た依頼を受けた冒険者だな?」
コクコクと恐怖で蒼く顔を強張った者は怯えた魚のように目と口をぱちぱちさせ震えながらも頷く、さっき殺されかけた事を思い出したらしい、重心を失ったかの如く、人間はよろよろと腰をついた。
顔や防具には返り血がべっとり付いているが容姿の幼さから予想するに十代半ば、もしかすればアンジュと同い年かもしれない。怯えて当然のこと、やはり冷温調整の魔法が成されたマントを着ていてよかった。マントを外すと猫の様に背中を丸めた者の上にかける。
「魔法を宿したマントだ、これで寒さは妨げる。失った体力と魔力を回復するポーション類、毒消しも其方に置いてお――」
「ギャギャギャッ!」
言葉を言う終える前に木の枝を渡って頭上から飛んでくるゴブリンに大上段の構え、剣神より手ほどきを受けた秘剣、兜割り。音速を超えた一℃のズレも無い振り下ろした絶技は背後の大樹も含めて縦に斬る。
「話を囀るな星が産み落とし害虫。心得よ、我に向かう先は死有るのみ」
左足の踵を上げた状態で前に踏み込み、流れるような守りに重心を置いたカウンターの型。微塵の揺るぎも無い腰だめの構えを取れば飛び込んでくる魔物を待つ。
それから少女を守りつつ、俺は休む事無くゴブリンの軍勢と対峙する―
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