第161話 大野外演習その27
闇で黒塗りされた遺跡に繋がる出入口へ奇襲を仕掛けようと現世で使いなれた風魔法を放てば、見事予定通り入口で身を隠していた結社の幹部が一人、俺に酷い憎しみ心を持った大男、第五柱ゾアバックが姿を現せば向かってきた魔法を拳一つで跳ね返した。
「ジジィの仇!その首、置いていけ‼」
獣如く遠吠えを叫ぶ大男は足に溜めた魔力を爆発させて周辺に衝撃波を発生させながら二人の距離を瞬時に縮める。狙いは…俺の頭部と胴体を繋ぐ首、宣言した通り拳を開いた手刀で此方を突かんとする。彼の移動速度に威力が合わさればB級冒険者すら認識する間もなく秒殺されるだろう。要は俺には効果は無い。
「これを避けるか!」
膝を折り腰を低く落とした俺の頭上から風を切ったかまいたち音が鮮明に伝わった。今の一撃で仕留める算段だったのか意外という顔つきを見せたゾアバック。だが、隙を作る刹那は無く、流れる俊敏な動きで此方の脹脛にロウキックを繰り出す。直撃してもダメージは無いので躱さず奴の靴と、俺のズボンが接触した。
「――っお?」
そんな声が口から零れる、非常に珍しい現象が神の身に起こった。宙返りの状態で体が浮いているのだ。つまりゾアバックの蹴りを受けた際反転の力が働いて俺の体が上下180度回転した結果がこの様。翌々見れば彼の右腕に巻き付いた一対に絡み合う蛇の刺青が青白く光っていた。…成る程、巨樹ような右腕のみ反射の能力が発揮すると思いきや先入観に囚われたか。
「反射を与える部位は全身に及ぶのか」
宙に浮かんだまま頭が地面を向いた状態で種を語れば、大男はその狂暴な顔にニヤリと笑みを浮かべて右の拳を振り上げる。
「右腕より効率は落ちるがな。俺様の異能にこれ程早く看過されたのはお前が初めてだぜェエ!」
宙返りで肉体を固定された振りを続ける俺を疑う事なく、光を照らした蛇が巻き付いた右腕に追加で魔力で強化した正拳突きで此方の心臓を貫かんと腰を捻じって殴る。
「繊月斬り」
当然神の身を持つ俺に打撃技は無効化される。だが他人の目がある場面、人族ではなく高位生命体と正体がバレるのは正直答えて面倒。加えて武人気質を併せ持つ俺は意図的にレベルと身体能力を常人のレベルまで下げている。この戦いを楽しみたいのだ。
逆さまの体勢から八相に構えた剣を左へ斜めに斬り上げる。剣と拳はぶつかり合い火花を散らして金属の硬い澄んだ衝突音が耳に響く。
「糞ッ痺れやがって!っおらァ吹き飛べ!」
剣に接触した拳を弾くも、焦った表情は依然意気揚々と殺気を駄々洩れながら追加のミドルキックを繰り出す。横腹に直撃する寸前空いた手でゾアバックの踵を握り、一斉の体重を加えることなく横方向に回転して足の上に乗り移る。
「猿かよテメー!」
「好機」
これには予知出来なかったのか驚いた叫び声が口よりあがる、俺を振り解かさんと伸ばした足を左右に動く動作じゃなく、片足で立った状態から手の平を此方へ向けて詠唱要らずの超近距離魔弾を射出しようするが、この間合いなら剣の方が早い。丸太の如く太い足に乗ったまま首を狙った水平斬り、漢数字の「一」を書くように振るう刃がコンマ数秒以内にゾアバックの首をぬるりと貫通するであろう。
「
省略した魔法を唱えたゾアバックの首に貼り付いた魔力の壁が俺の剣を防いだ。省略魔法を咄嗟に唱えた負担の影響が生じたか彼の広い額より滲み出た汗が地面に置いた。
「ッツ!とっとと離れろっ、インパクト!」
右腕に巻き付いた蛇の刺青が一層光を灯すと両足から反発される感触が肉体に押し込まれる。後方へ跳躍した俺は今まだ二人の戦いを観察していたダリアの傍に飛び降りた。ダリアとゾアバック、両名共に結社の幹部格、しかし露骨な態度でお互い顔を合わせようとしない。各自気まずいのか?同時に相手取らなくて済む。
「……ピヨピーヨ、お兄さん怪我は無い?」
「ああ、掠り傷すら負ってない」
剣を構えたままゾアバックへ視線を向けながらダリアと会話していれば、遺跡の出入口から大勢の乱れた床を踏む足音が聞こえてくる。敵部隊のお出ましだ。革鎧に身を包み、防寒対策に動物の毛皮が首元を温めている。二の腕には革命軍の目印である布切れを総じて巻いている。
「使徒殿!攻撃音が内部に伝わってきましたが敵襲でありますか!?」
軽くチラッと一瞥した様子だと300人は超す団体から先頭を駆け抜ける部隊、突出して豪華な武具を身に着けた中年男性が一目散にゾアバックの元へ接近した。推測するにあ奴が一団を率いる部隊長か近しい指揮官に属する人物。
にしては不可解だ。俺が存知る革命軍が掲げる名分は生まれながら魔力量が少ない人族に対する差別を根こそぎ撲滅する目的に暗躍する組織な筈、だがコッチに馳せ参じた部隊長に流れる魔力量は抜き出て多い。裏のカラクリでも存在するのか…?
「ああ、連絡の時刻通り、学園教師がノコノコと列を連れて来たぜ。おまけの供え物付きだあ!」
ゾアバックが告げるや否や、革命軍300名の両目が俺に集中砲火を浴びる。各々が装備した武器を構える。剣に短剣、長槍、棍棒、戦斧、メイス、槌、射撃武器である弓にクロスボウすら。最後に魔法の杖と…宝石が埋め込まれた指輪?
「ショウが危険だ!俺達も打って出る、俺に続けえぇ!」
離れた背後からリーバスの声が上がる。正面から戦いを挑む指示が彼より下された。猛禽類のような鋭い眼差しを俺に注ぎながら、ニヤリと歪んだ笑いを含んだゾアバックが口火を開く。
「目の前の輩は俺が相手する、出だし無用。それ以外は一人残らず殺せ!総員攻撃開始!」
『おおおぉぉぉ!!』
四方を森に囲まれた平地にて俺達の戦いが始まった。
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