第21話 宗教とロスチャーロス教国

 盗賊を全員始末し盗賊団が蓄積していた食料、酒や財宝を無視して入り口に戻り始めた。不穏な空気が流れ、ショウ達の間には一言も会話が無かった。

 長くそして、狭い洞窟を歩いていると、奥から外の光が見えてきた。何人か外の光が見えた瞬間深く息を吐いた。

 ショウは全員が洞窟から出たのを確認すると、後ろを振り向き呪文を唱えた。


「エクスプロージョン」


 あの大広場で設置した火魔法「エクスプロージョン」を発動する。洞窟から地軸もろとも引き裂くような爆発音が響き、入り口が岩で崩れ落ち誰も入れないようにした。

 爆音が聴こえ、他の冒険者が即座に俺の方へ振り向いたが直ぐに目を逸らした。

 暫く外で休憩していると森の外で待っていたベルンへイム、とトゥーヴァがこちらへやって来た。


「全員お疲れ様。上手くいった…ようだが、何か問題でもあったのか?」


 こちらの雰囲気を感じ取ったベルンへイムが不思議そうに聞いて来た。


「えー、とですね。実は…」


 代表としてカイエンが説明し始めた。


 襲撃は何も問題無かった。

 ショウの魔法により一瞬で捕縛された。

 彼が捕縛して盗賊を始末し始めた。

 それをゼルギウスが止めようと、剣を向けた。

 ショウは盗賊団に殺された人達の為に始末した。

 アザミとフレアが奥の部屋で少女が無残に殺された事を知った。

 その後ゼルギウス以外で盗賊を全員始末した。


 カイエンは最初から起こった出来事を丁寧に説明した。


 説明を全て聞いたベルンへイムは目を閉じながら腕を組んでジッと、立っていた。

 皆の目線が集まり中、ベルンへイムは目を開けゼルギウスに話しかけた。


「まぁ今回は色々あったが、お前が起こした行動が間違っているとは言えない」


 意外な言葉にゼルギウスの目が一段と開いた。


「だが…今回の依頼は盗賊団の全滅だ。つまり盗賊の捕縛は必要無い、って意味なんだ。理解したか?」


 その言葉にゼルギウスは項垂れた。下を見ながら小さな声で「はい…」と返事した。


「それでは、お前たちの依頼は完了した。それでは、ラ・グランジへ戻るぞ!」

 

 親指で後ろを指さし後ろに振り向き、歩き出した。ベルンへイムと横に並んで歩いているトゥーヴァの二人が何か話し合っているようだがここからでは距離があり、何も聞こえない。


 森を抜け、早朝に使用した道具や、地面に置いた結界型の魔道具を馬車に戻し、そのまま街へ向かった。行きの馬車とは少し違い、中では喋り声が聴こえる。相変わらずAランクの二人はショウを見つめているが。流石にジッと見つめてくる二人にショウは困惑を感じたのか、二人と目を合わせ話しかけた。


「なあ、ずっと俺を見ているが何かあるのか?」


 いきなり話しかけられた二人は驚き、そして何やら怯えるように背中を丸めている。


「ショウ…お前は何なんだ…?俺の仲間からお前はソロで30階層を突破している。この偉業はAランクのトップすら出来る事は難しい。お前の目的は何だ!」

 

 振るえる左手を右手で抑えつて、悍ましい表情を俺に向け答えた。


「私も…スキルの魔力探知を発動しても貴方からは何の魔力が感じない。まるで魔力の存在ごと偽装している感じだわ」


 ショウと二人の間に張り詰めた空気がよどんでいる。あたりの空気が重みをもっていて、四方から圧し縮まってくるような息苦しさに、先程まで話していた冒険者も何も言えず、ただ息苦しそうにしている。


「…」


「「…」」


 どんどん威圧感が重くなってくる。


「…何って言われても、普通のCランク冒険者と言えるしかないよ」


 望んだ答えでは無い返答にベルンへイムが歯を食いしばりこちらを睨んでくる。


「…そうかい。それじゃ、そのまま普通の冒険者で居てくれよな」


「分かってるよ。ギルドマスターにも同じことを伝えた。俺がお前たちの敵にはならない。そちらが攻撃を仕掛けたら別だが」


「ああ。他の仲間にも伝えとくよ」


 威圧感が消え去り。空気が軽くなった事に、一緒の馬車に座っていた冒険者達は汗だくで一息ついた。


 恒例のラ・グランジに入る為の列に並んでいた時。ショウは馬車から出て列の外れで料理が売られている屋台へ向かい、大量の飯や、お菓子を買っていた。


 彼が馬車出た瞬間、他の冒険者が喜んだのは言うまでもない。


「………………!!…!……!!」


 古に召喚された勇者が広めたとされるクレープを頼んでいると近くで演説なのか、熱狂的な大声で叫んでいる集団を観かけた。


 頼んだイチゴたっぷりにチョコレートホイップクリームを付けたクレープを貰い、代金の銅貨8枚を渡し、興味が湧いた演説が聴こえる距離まで近づいた。


「我々の主神、光神ラヴァッグウルセラ様は貴方達を天界より見守っております!さぁ貴方達も祈りなさい。あの塔に祀られた邪神の半身を!私たちの信徒となり!例え国が違えど、さすれば光神ラヴァッグウルセラ様より加護を授かるであろう!」


 純白のローブに金と青の宝石が嵌め込みた豪華な祭服を着た40代後半の男性が、見習の修道服を着た集団の中心に天に祈りながら、大きな声で演説を行っている。豪華な祭服を着た神父の弁舌に、囲む修道服を着た人々は感動し、目に涙を貯めながら地面に膝を付け懸命に祈っている。


『光神ラヴァッグウルセラ?神界では聞いたことが無い神だな、名前も長ったらしい』


 神界で殆どの神とは顔なじみだが光神ラヴァッグウルセラなど聞いたことも無い神に疑問を持った。


『ナビリス、ラヴァッグウルセラって神を知っているか?』


ショウより神々と交流が広かったナビリスに聞いてみた。


『光神ラヴァッグウルセラなど神は存在しません。どうやら、ロスチャーロス教国の住民達が勝手に祭り上げた神です。元々は教国で生まれた聖人だったとか』


『…成程、ありがとう』


『いえ』


『そういえば、ロスチャーロス教国には三つの塔が聳え立っているが、そこに祀られた女神像はどう説明しているんだ?』


 ならと、あの女神像の事が気になり、ナビリスに聞いた。


『教国が布教する聖書の教えを紐解けば曰く、あの女神像がこの世界に魔物を生み出したと語っており、塔に祀られた女神像こそがこの世界の邪神だと言われています。非常に伺わしい事ですが』


 …人間は真実を捏造する事が好きだな。まぁ宗教ほど儲かる商売は無いなと俺は実感している。


 それより、あの神父は未だに演説を行っているが声がカラカラにならないのか?列に並んでいる商人や冒険者達は信徒達を白い目で見ているが。


 そんなことを呑気に思いながら、クレープのお替りをし馬車へ戻った。


 やっとの想い出街に入りそのまま真っ直ぐ冒険者ギルドへ向かった。広場の馬小屋に馬を止め馬車から出て来たショウ達はギルド内には入らず、目の前の広場で、ベルンへイムが話し出した。


「これにてBランク昇格試験を終わる!試験結果は三日後の昼、受付にて発表される!例え合格していなくても一か月後にまた受ける事が出来る!勿論次も盗賊討伐かは、知らないが!はっはっは!」


 大声で笑い終わると、最後に一言付け加えた。


「では解散!」


 殆どの試験者達はギルドの食堂へ向かったが、俺が居ると嫌な雰囲気になるので、そのまま宿へ戻った。


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