第20話 Bランク昇格試験 その4
ショウが乗った馬車は一言も会話が無く、無言のままずっと進み、そのまま夜間となり、途中真っ平らの草原で馬車を停め野宿を取ることにした。
ショウが入り口の一番近くに座っていたので最初に外に出て、先に野宿の準備を開始した。
次々と他の試験者達が馬車から出てくる。試験官であるベルンへイムとトゥーヴァが最後に出て来た時には、既に結構な大きさの竈を土魔法で作っており、中には周辺で集めた木の枝や葉っぱで火を点けていた。
「お、おい。いつの間にそんな立派な竈を作り上げたんだ?」
他の馬車から出て来た冒険者がショウへ寄り聞いてきた。
「ん?ああ、魔力操作で日々訓練をしていれば誰でも出来る」
『…いや無理だろ』皆が心の中でそう思った。
「誰かこの辺りに生息している魔物を狩って来てくれないか?その間に俺は串や皿を作っておく」
他にそう伝え、ショウは土魔法で串や皿、フォークとスプーンを作り始めた。
いきなりの命令に少し頭に来た他の冒険者達。しかし弓使いのフォラスが道中狩ったウサギを腰に付けていた袋から出し、器用に解体を始めると、他の冒険者も渋々行動を開始した。
一時間後、10人分の料理を作り終えた。流石にショウ一人で全員の料理の作るのは悪いと思ったのか、アザミやフレア、それに解体を終えたフォラスが手伝ってくれた。料理中、四人は意外に話が合いそんな暇にはならなかった。
作り終わると、それぞれが持った皿にスプーンや串を持ち、無言で塩と胡椒が入った肉スープを注いだり、竈に肉を入れたりし食べ始めた。
「全員腹は膨れたか!?よし!では今から休息を取る!女は馬車を使い、男どもは外だ!馬車の中に毛布を使え!但し翌朝、生活魔法で綺麗にするのを忘れるな!」
ベルンへイムはそう言って、適当な場所まで歩きそのまま寝転がった。
それから女性は馬車に入り、男性はその場で横になったり、少し離れて横になった。
ショウも一本の木が生えた場所まで歩き、木に背を向け座り込んだ。
他の人はマントや、馬車から持って来た毛布に身を包み寝ているが、神の身体は気温の変化を感じないのでパーカーを着たまま目を閉じた。
『ショウ』
『ああ、三人こちらを監視しているな。他にベルンへイムも気づいているだろう』
この草原に着いた時点から遠くにある森からこちらを監視している人を見つけていた。どうやら盗賊団の下っ端だ。最初は四人居たが、ショウ達を確認した際、一人がアジトへ連絡する為既に居ない。
ベルンへイムやトゥーヴァの二人は最初から気づいていた様子。流石Aランクと関心を持つショウ。
結局監視していた盗賊は奇襲を掛けずただショウ達のグループを監視していた。
しかし、アジトへ戻った仲間が盗賊団アジトの襲撃を伝えていたので、向こうも完全装備して罠も張った。他の試験者には少しきつい試験に成る事だろう。
「お前ら起きろ!さっさとメシ食って、奴らのアジトまで向かうぞ!」
ベルンへイムの叫びに寝ていた者は飛び上がるように起き、言われた通りに準備を始めた。
「お、おはよう、ショウさん」
「ああ、おはよう、フォラス」
昨晩土魔法で作りだした竈にて火を点け、網の上に鍋を置いて昨日残った魔物の肉入りスープをこれも土魔法で作ったスプーンで混ぜ、温めていたら後ろから料理を手伝ってくれたフォラスから声を掛けられた。彼は少々弱気でいつもオドオドしているが、Bランク昇格試験を受けるだけあって、弓の腕は良く才能も十分に有る。
彼も普段一緒の村で育った知り合いとパーティーを組んでいる。所謂幼馴染パーティーって奴だ。
「ショウさん、僕も何か手伝います」
「そーだな、肉が少ないから、鳥や、ウサギを狩って来てくれないか?」
折角彼が手伝いをしたいと言ってきたのでソレに甘えよう。
「は、はい!分かりました」
そう言いながら地面に置いて行った弓矢を背中に背負い、盗賊団のアジトが有る場所とは違う方角の森に向かった。彼の実力なら、奇襲を受けても大丈夫だろう。
「翔殿、拙者も手伝うでござるよ」
「そうね。貴方の作った料理は美味しかったし、私も手伝うわよ」
「そうか、ありがとうアザミにフレア。助かるよ」
馬車から出て来た、女侍アザミと軽装の防具を装備した女格闘家のフレアも、手伝ってきた。
相変わらず、ゼルギウスはショウを睨みつけているのは置いておこう。
「翔殿、一つ質問をしても宜しいでござろうか?」
袋の中から取り出した、地球で言うジャガイモを切っていたら、隣でスープを混ぜていたアザミが話しかけてきた。
「ん?どうした?」
「翔殿は召喚された勇者様の子孫ござるか?」
「「「…」」」
丁度、二人の会話を聞いていた他の冒険者達も動きを止めショウ等に目線を集中させてきた。
「んーどうだろ。そういう話は聞いたことは無いな。どうかしたのか?」
「異世界から召喚された勇者達の殆どの人は黒髪に黒目、と珍しい色をしているござる。拙者のご先祖様である勇者様も他と同じ黒髪に黒目だったござる。しかし、翔殿は黒目であるが、髪色が黒と銀が交じり合ったとても不思議な色をしているゆえ、少し疑問におもっただけでござる。無礼な質問をして申し上げないでござる」
『懐かしいな…、俺が日本で生きていた頃は髪も普通の黒色だった』
神の魂えと変わり、その際膨大の魔力を体全身に纏いその結果、黒に銀色の面白い髪色になった。
『私は貴方の髪、すきよ』
『ありがとうナビリス。ナビリスは何色の髪が欲しいんだ?』
『ん~そうね…。私も貴方と一緒な銀色の髪が欲しいわ』
『分かった』
「別に気にしないよ。もしかすると遠くの先祖には勇者の血が入って居るかもしれないからな」
「ふふ、そうでござる」
ショウの冗談に少し笑ってくれたアザミ。
それっきり二人には会話は無く、三人で淡々と料理を作り続けた。
「ここ周辺に魔物避けの魔石を発動させたな?では、これより盗賊団のアジトへ向かう。俺とトゥーヴァは試験官としれお前らの後方で見守っとく故、予想外な事態が起こっても助けは期待しないように」
「「はい!」」
昨晩飯を食べながら話し合った通りにカイエン、フレア、アザミは前衛。
中衛に回復や状態異常回復が出来るランディー。それと、ランディーを守る盾としてゼルギウス。
後衛にフォラスにリカルド。
最後にショウは様々な事が出来るので臨機応変に動くこととなっている。ゼルギウスは胡散臭い顔で聞いていたが。
設置された罠を躱しながら遠目でアジトと思われる洞窟の入り口を発見したカイエンは腕を上に伸ばし、動きを一旦止めた。
皆の動きを止めたカイエンは腕を上に伸ばしながら指で洞窟の方角へ向けた。指さした方へ他の冒険者が盗賊団アジトの入り口を確認した。
洞窟に入り口付近には、三人の見張りが退屈らしく、下品な会話をしながら見張っていた。
彼等に見つからないよう隠れながらカイエンの周りに集合し、作戦を開始した。
フォラスが矢筒から取り出した一本の矢を引き、見張りの一人へと向け放った。
腰を落とすショウとリカルドがそれぞれ魔法の矢を作り出し、攻撃を放った。
フォラスが放った矢は真っ直ぐと飛び、欠伸をしていた見張りの頭を貫き地面に倒れた。
いきなり仲間が倒れた方へ他の見張りが驚きながら確認し、襲撃の合図をポケットから出した笛を吹こうとした瞬間、更に二つの魔法の矢が放たれ体に大穴を作り一瞬で命を奪った。
「よし、ランディーは俺に支援魔法を掛けてくれ。奴等が待ち構えている可能性が高い、俺が先に入る」
入口の見張りを全滅した後、左手に盾を構えたカイエンの決断にランディーは頷き、支援魔法を詠唱し始めた。
「分かりました。…我が魔力よ「ディフェンスアップ」!」
支援魔法を唱えるとカイエンの身体に光が纏わり、何事も無く消え自身の状態を確認したカイエンは盾を体の前に翳し洞窟の入り口へ向かった。
カイエンを先頭にアザミ、とフレアの後を残りのメンバーは追った。
洞窟の内部は狭く、枝分かれの様に道が分かれていた。
設置された罠を避けながら、ようやく大部屋と思われる扉を見つけた。
扉の正面までたどり着いたショウ達は、他の冒険者と顔を合わせ一斉に頷きフレアの蹴りで扉を破壊し、煙を上げながらカイエンが先に入り、後に続いた。
全員が中に入り周辺を確認すると、広い空間に酒場にありそうなテーブルが雑に置いてあり、地面には飲み終えた酒の瓶や樽が転がっており。
ショウ達を囲むように50人程の盗賊が完全装備で待っていた。奥には人一倍豪華な装備を纏った盗賊が足を組んで座っていた。
「真面目に正面の入り口から入ってくるとはな!おい、お前ら!女以外は殺していいぞ!。…やれ!」
げらげら、と気持ちわるい笑い声をあげながら俺達へ攻撃を仕掛けてきた。
「ひゃあぁあ!死ねねえぇ!」
斧のおお振りを支援魔法で強化されたカイエンが攻撃を受け止めた。盗賊の一撃を受けた彼の盾はビクともしない。
「ぐっぅ!こ、このおぉお!び、びくともしねえぇ…」
「ふんっ!」
盾で斧ごとずらし彼の剣で反撃の一撃を浴びせた。肩斜めを防具ごと切られた盗賊は血を吐き地面に叩きつけられた。
一瞬で仲間の一人が倒され動きを止めるが、盗賊団ボスの一喝により叫びながら攻撃を始めた。
しかし盗賊が動きを止めた瞬間にアザミとフレアが一人ずつ撃退しており。
フォラスが放った矢も盗賊の頭を貫いていた。
更に仲間が倒されたことで激怒するが、流石のBランクに成り得る能力を持つ冒険者達。問題なく攻撃をかわしている。
攻撃が得意では無いランディーさせ盗賊の攻撃をメイスで受け止め、反撃に頭を叩きつけている。
しかし、ゼルギウスのみ手加減をしており殺しはせず、盗賊を気絶させている。
彼等の判断力を確認しながら攻撃をかわし続けるショウ。幾ら攻撃してもかすりもしないショウに嫌気がさし、大雑把な攻撃になるが一向に当たる気配がしない。
「はぁ…はぁ…クッソ!何故当たらない!!」
汗を大量に流し、肩で息をしている盗賊が剣をこちらへ向け叫び始めた。
「…」
何も言わないショウ。彼は既に飽きていた。盗賊たちは既に10人以上は倒されており、対して冒険者組は無傷だ。傷は受けるが、即座にランディーの回復魔法によって回復するので全く苦戦していない。
それが詰まらい…。
――土魔法発動「ストーンバインド」
さっさと終わらす為魔法を唱える。
瞬間、盗賊団全員の足元に茶色の魔法陣が発動し、地面から土で出来た木の枝が飛び出し彼等の動きを止めた。
「なっ!何だこれはっ!う、動けない!?」
「っぐ!おい!だれかこれを外せっ!」
盗賊団ボスを含めた全員が一瞬にして無力化された事を理解した盗賊は、叫びまくった。
無力化した盗賊に冒険者達も困惑していたが、状況を理解すると一息いれた。そしてショウとリカルドに目線を向けた。リカルドも同じくへ目線を向けていたので彼等はショウの仕業だと確信したようだ。
ショウは向けられた目線を無視し、目の前で魔法によって体が動かせない盗賊の首を刎ねた。
そのまま次々と、止めを刺し始めた。
「「「…」」」
叫びまくる盗賊、泣きじゃくる盗賊、命乞いをする盗賊関係なく表情を変えることなく首を刎ねるショウに他の冒険者達は彼に恐怖した。…殺しに慣れている。
「お、おい!ショウ!これ以上殺すな!!もういいだろ!」
盗賊へ向かっていたショウの前にゼルギウスが飛び出し剣を構えながら止めた。
「…なぜだ?俺達の試験内容は盗賊団の全滅。俺は試験を実行しているだけだ」
そう言って、ゼルギウスの方へ歩き出すショウ。
「ふざけるなっ!こいつらは既にお前の魔法によって捕獲されている!このままロープで縛って奴隷にすればいいだろ!」
「お、お願いだ!もう誰も襲わない!心を入れ替える!だから助けてくれ!!」
身体が動かない盗賊が命乞いを始めた。
「ほ、ほらこいつらも!もう誰も襲わないって…!」
ショウは剣を構えたままのゼルギウスを追い越し、命乞いをした盗賊の首を切り落とした。
首の上から溢れる血がゼルギウスの顔に飛び付いた。
驚愕するゼルギウスにショウが後ろを振り向き、目を見ながら話しかけてきた。
「こいつらは今まで命乞いをした村人を笑いながら殺し。愛する女性を目の前で犯された。例えお前が許しても、殺された者は許さない。報われない」
何も言う事が出来ずショウを睨むだけのゼルギウスへ続ける。
「それに、こいつらは10もいかない女の子を犯し、虐殺するクズだ。こいつらの悪行を許す慈悲は無い」
「ね、ねえ!今の話、それって本当の事なの…?」
今まで一言も話さなかったフレアが、聞いてきた。
「ああ。こいつらのボスが座っていた椅子の奥に有る扉を調べたら分かる」
奥の扉を指さした。ボスが叫びまくっている。
「……分かったわ。行くわよアザミ」
「う、うむ了解でござるフレア殿」
確かめるため女性二人で奥の部屋へ入った。
彼女等が奥の部屋へ向かい数分後。二人が戻って来た。部屋から出て来たアザミは泣いており、フレアは殺気を放っていた。
彼女等の雰囲気を察した他の冒険者達も武器を構え、何も出来ない盗賊の元へ歩き始めた。
ただ一人。ゼルギウスは察する事が出来ておらず、フレアに聞いた。
「どうだった?何も無かっただろう?こいつの戯言だっただろ?」
余の言い草に他の冒険者が白い目をゼルギウスに向けていた。フォラスさえ嫌悪感の表情を見せている。
「…彼が言ってた事は事実だったわ。…もう話しかけないで頂戴」
そのまま盗賊の元へ向かい、フレアが放った拳は頭を吹き飛ばした。パンっと音が洞窟内に響き渡り飛び散った脳味噌が壁にへばりつく。
それから冒険者達は何も喋らず縛られた盗賊の命を全て奪った。ゼルギウスのみ、動けずにただ立っている事しか出来なかった。
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