第125話 結社

 当然の事ながら樹木がひしめき合う森で討伐した魔物が全てでは無い、目的地の村へ近づけば近づくほど、襲撃を仕掛ける魔物の数と種類が増えていった。一太刀で斬り捨てた数は200を超えてから数えていない。


「ギャギャアアアッア!」


 「洗脳」の状態異常が付いているせいか、周りの同族が死んでも足を止めずに手に持つ消耗しきった棍棒を振り下ろして飛び掛かってきたゴブリンを神速を超えた刺突で口から脳を切り裂く。手足をぶらんとさせながら目から光を失ったゴブリンを右腕を横に振るうことでボロ雑巾のように放り捨てる。


 勘を頼りに森を進んでいればいきなり木が途切れていきなり視界が開け、村らしき影が薄っすらと前方から見えてきた。予想はしていたが最早、村とは呼べない光景が目の前に広がっている。周りを囲っていた柵らしき物は使い物にならない程粉々に破壊され、あちらこちらで火で焼かれた平屋の残骸から黒煙が上がり、微風に乗って村の中心広場へ流れていた。きな臭い匂いがこっちまで漂っている。襲い掛かってくる魔物を屠りながら村の中へ足を踏み入れる。砕け散った木材の破片やおびただしい量の血、人骨が散乱してる中、たった一つだけ依然としてとどまった建造物が目に映る。二階建ての石材が使われた住宅は位置関係からして恐らく村長の家だろう。


 玄関前の開けた広場に地上に立てた十字形の柱で磔にされた人間を見つけた。手の平を釘付けされた大男の魂は既に天界へ戻りただの抜け殻、恐らくマイシャが話していた逃がす為殿となったリーダー。生きながら余程に痛めつけられたのであろう体中赤剥け、焼け跡、噛み跡、流血した後が残された無残な姿。


マイシャが見れば明白に自分を責めて精神が折れる程のダメージを受け止めたかもしれない。全てが終わらしたら死者を柱から下ろそう。


 それよりも……。


「中で待ち構えてる者に次ぐ、俺に奇襲は通用しない堂々と出てくるが良い」


 地中から掘り出てきたカマキリの鎌腕を持つ土竜系の魔物を一閃で二つに斬り分けて、目の前の家から覗き見している輩に話しかける。


 ギイィ――っとゆっくりきしんだ音を鳴らして扉が開く。


「おや、おやおやおやぁ?使役魔物の減り方が早いから誰かが軍を率いて来たと思いきや、勇気と自信に溢れた一人の青年とは考えが足りなかったのぉ。…憎らしい、憎らしい」


 玄関ドアを開けて内側より出てきた一人の人間、頬の肉はげっそりと落ちており額の皮膚は皺だらけの老いた顔。かきあげた髪が、油っ気のない髪が、バラバラ額に掛かってる。背はひょろ長く、獣みたいに丸めた背中は何時でもポッキリ折れてしまいそう。身なりは長年の垢が固まりついて、紺とも紫とも茶ともいいようのない奇妙な色合いに変化したローブを着付けてる。そのローブには至る所に人間や動物の骨を紐で巻き繋いで装具品もようにくっつけている、胸に下がっている骨の鎖からぶら下がった頭蓋骨はその小ささを察するに子供の部位。人の不気味さに十人見れば十人共口を揃えて彼が事件の裏に居る黒幕だと断言する格好をしていた。


 禍々しさを感じる白い杖の先端に嵌められた宝玉は濃色に濁り、距離が離れていても憎悪や恨みといった感情を宝玉から捉えた。


 ローブの袖から見え隠れする両手の指には魔力増加を補う指輪をそれぞれの指にはめている。魔法至上主義の国で魔力を増幅させる魔道具は余程の資金と伝手が無ければ手に入らない。そんな指輪が十個…。


どうやら面倒事に首を突っ込んでしまったか。


「時間と手間を掛けて増やした使役魔物の7割弱崩壊させるとは……。おい、若人の情報を持っていないか?」


 手に持つ杖で地面を何度か付きながら宙を向けて何かへ話しかければ、彼の背後で影の渦が発生すれば黒ずくめの二人組が跪いた姿勢で現れる。黒いコートを着ており、蝙蝠の様に見える。肩が張った外套を纏うせいか二人組の性別も判別付かない。


 すると、片方の黒ずくめから話が耳に入ってくる。


「彼はランキャスター王国の冒険者ショウ。階級はAランクなり立てですが噂によれば、その実力は上位に来る程らしいです」


「ランキャスター?…ああ、報告になった使節団の」


「っは」


 突如隣国の国名が出てくれば頭に指を押し当てながら不思議そうな表情で顔を傾げるが、即座に合点がいったようでパチンと音を鳴らした。


「お前ら二人、俺と同じ依頼を受けた前任者だったのか。偵察行動を得意とした二人組のメンバー。行方知らずだと思ったら、まさかのアッチ側だったとは」


 奴らが話している間、俺も黒ずくめの二人へ向けて鑑定魔法を使用していた。


 鑑定で得た情報を彼等へ告げれば図星だったらしく像みたく口を閉ざして俺に殺気を向ける。


「おひょひょっひょ、まだ若いのに実力、度胸も一人前。外見は極上でカリスマ性にも優れている。…憎いのぉ、羨ましいのぉ、憎らしい、憎い憎い――ニクイッ!!」


 いきなり気が触れたらしく爪で頭皮を掻きむしながら狂気を魔力に変化させ纏う。乱心したままかと思いきや急に首から下げた頭蓋骨の口部分に手を突っ込むと、何かを取り出した。


 …眼球だ。それにくり抜いてそう時間も経っていない。目にも留まらぬ素早さで手に取った眼球をパクリとお菓子を食すように口に入れた。歯の先で眼球を小刻みにむしゃむしゃと噛む老人の狂気をはらんだ表情が穏やかに変わった。光景に流石の俺も眉をひそめる、余りに人道から離れた所業。


「…何者だ?スタンビードを起らせて村を壊滅する目的はなんだ」


「おひょひょ野卑に教える名は無い、と言いたいが冥途の土産代に自己紹介くらい答えてしんぜよう。ガディ・ノーバスだ、秘密結社『福音黒十盟団』の序列第六柱を任されてる。短い期間お見知りおきのぉ」


 掠れた声で老人、否ガディ・ノーバスはそう名乗った。

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