第72話 予選 その2
司会の開始の言葉と同時に闘技大会の幕が切って落とされる。
「っはあぁ!」
「っぐ!?ぐらえっ!!」
「いっでえぇなあおいっ!おらぁおらぁ!死ねぇ!」
試合開始を知らせる銅鑼が鳴らされる途端に此方まで感じる、途方もない熱気。五十名の出場者がこの来たる日を目指し鍛え上げた技、魔物を撃破しレベルを上げ努力、それら持つもの全てを出し切り全力で潰し合いを始める。
数万人を優に軽く収容できるここコロシアムでは、観戦者全員がこの激闘を見届ける事が出来るように空中に巨大な水晶玉が浮かび上がっており。戦いの様子を拡大して映し出している。変なところで技術が進んでいるな…。
辺りに響き渡る、怒声と剣戟の音。それらが増える度に出場者の場の熱量が高まり、観客もそれに応じるかのように彼等もヒートアップしている。
それと、彼等が使用している武器は全て刃を潰した武器や魔法を使う木の杖を使っている。神聖で名誉ある大会だが勿論幾つかのルールが存在している。
一つは予選で使用できる武器は大会が貸し出す武器のみ、防具にも色々規則があるらしい。しかし本戦では防御魔法が付与された魔道具を装着するので、使用できる武器は刃を潰した金属剣等が貸し出される。
二つ目、使用できる魔法は一般的に下級魔法と言われる魔法のみ。そのせいか、魔法のみ長けた出場選手は本戦に出る事はとても困難になっている。
最後に事故なら罪に問われないが、意図的の殺しは厳しく取り締まっている。
表面上は神聖なる闘技大会で殺人は御法度と言われているが、実際の理由は使える駒が一つでも減るのは王国にとって痛手だからであろう。大会の予選に参加するにはコロシアムに登録後、幾つかの試練を突破しなければ予選すら出る事は無い。彼等にとって王国で開催される歴史と名誉ある闘技大会は予選に選ばれるだけで一躍有名人になるとか。それにもし本戦に進めなくとも、観戦する貴族達に顔と名前を覚えられば雇われる事もしばしば。
そんな事をぼんやりと考えながら俺は大会が開始される前にコロシアムの番店で購入しておいた参加出場者の写真付きデータが集まったリストをペラリ、と一枚一枚捲っていた。今回の暇潰しに俺とナビリス、そして銀孤の三人で誰が優勝するか勝負を始めていた。ルールとして神眼と未来眼の使用は禁止、鑑定スキルで全員のステータスを見る事も禁止した。そっちのほうが面白いし、神では無い銀孤にも勝算がある。勿論勝者に貰える景品は三人共考えていない、そう言う雰囲気が大事なのである…。
「……」
約300ページもある無駄に分厚い参加出場者のリストを数秒感覚で捲っていたら、一人のページに目が止まった。
「どうしたのショウ?貴方が気になる選手でもいたの?…ああ、そういう事ね」
「アキト・イリキイン。おにぃはんこれ…勇者って奴ぅかいのぉ?」
「そうね…、向こうではイリキイン・アキトだね。現王国には19名の地球から召喚された勇者が来ているけど、大会に参加するのは彼だけらしいわね」
俺の両側に座り、肩に顔を置きながら一緒に参加者リストを眺めていた二人の美女が周囲に聞かれない程の小声で話す。
「ああ、向こうでは学級委員長だった生徒だ、こっちの世界に召喚された時に珍しいスキルを授かりすっかり主人公気分に酔っている」
俺も二人に僅かながら頷く。
「そして、ショウが贈った加護の持ち主を殺そうとしている。でしょ?」
流石ナビリスには全てお見通しか…。俺は何も言わず目の前のテーブルに置かれたマフィンを一つ手に取り丸ごと口に入れた。うん美味だ。
「おんやぁ、おにぃはんに目を付けられる人間が存在したのぉかの。その者はどなぃさかい?」
「まだ生きているわ。貴方も直接目にしたでしょ?冒険者ギルドで会った日本人よ」
未だマフィンが口の中に入っており喋れない俺の代わりにナビリスが銀孤の疑問に答える。
「んぅ…?んっ?ほんまに会ったかのぉ?」
考える仕草をしながら思い出そうとしたが、結局彼女は覚えていなかった。まぁ、あの時銀孤は露店で買った牛串を頬張りながら興味深そうに貼られた依頼書を見ていていたからな。
…ああ、やっとマフィンを飲み込めた。
「ほら銀孤、王族が観戦しているブースの一個横に黒髪黒目の大勢の若者が座っているだろう?その右から四番目の彼だよ」
意外と呑み込みずらかったマフィンを喉に通し喋れるようになった俺は銀孤に先日冒険者ギルドで見掛けた四人組の勇者パーティーの場所を教えた。
「おんやぁ皆若いのぉ…、まるで小さく鳴く雛鳥やの。それよりうちにもその菓子食べせてくれのぉ」
「了解…ほいよ、あーん」
「あーんっ。うんぁ美味やのぉ」
そんな事気にも留めない如くにすぐさま彼女の興味がテーブルに置かれたマフィンに変わった。その様子に俺とナビリスは苦笑いをするしかなかった。ついでに口元までマフィンを持っていくと幸せの表情を見せながら頬張る彼女の姿に何も言えなかった。それより普段屋敷で偶にしか見せない銀孤の表情に、大会に連れてきた奴隷達が驚いていた。女性の奴隷は甘酸っぱい顔を、護衛役の奴隷達は何処か悔しそうに。
『ああっと!第一回戦の勝者が決まりましたあ!!本戦出場は……アリッテ選手とベイガリオ選手に決定しました!』
――オオオオォォォッ!!!
おっと…三人で話し込んでいたら既に一回戦目が終了してしまったようだ。
予選では出場した選手が場外に吹っ飛び、もしくは気絶した瞬間失格となり。場外壁側に待機している王家に従える優秀な聖魔法使いの面々がテキパキと失格になった選手に回復魔法を掛けている。それと、念の為に壁の外側に待機している魔法使いが張った結界魔法によって弾いた武器や、吹っ飛ばされた人が観客席に当たらないようにしている。
それから試合終了後、五分程度の休憩を取りながらも次々に本戦へ切符を手に入れた参加者が決まった。少し驚いた事に毎試合、約10分から15分程度で決着が着いた。中々決着がつかない試合でも30分は過ぎていないであろう。てっきり数時間は掛かると思っていたので進むペースは速い。
先程六試合目が終了し、残り試合半分になった所で数時間の休息に入った。休息の時間になった瞬間、大勢の観客が席を立ち、トイレに行く者。この時期に儲けようとコロシアムのすぐ傍に広がる屋台に並ぶ者、建物内に作られた広い空間でお茶する美女に声を掛ける男等。
という俺も、貴族専用席に設置されているキッチンを使わずメイド達に外の屋台で買ってきて貰った食べ物を口にする。勿論奴隷達にもお駄賃をあげ、自由にして良いと伝えている。
「ふふ、ショウ?」
「うん?どうした」
三人で大量に買ってきた食べ物を消化していると突然ナビリスが微笑みながら俺の名を呼んだ。
呼ばれた声に反応し顔を上げると、彼女はとある方向を真っ直ぐと見ていた。
彼女の目を追うように目線の先へと振り向くとそこには、ドレスを着用しティアラも頭を乗せた息をのむごど美しい二人の女性が護衛を率いてこっちに向かってきていた。
まぁ…絶対そうなると思った。
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