第71話 闘技大会 予選 開始
『お前らー!!この日を待ち望んだかー!この瞬間を待ったかー!?』
オオォォオオオォォォッ!!
アナウンスの声が闘技場のあらゆるところに設置されたスピーカーから響き渡る。
同時に大勢の人々から大賑わいを見せる一般席。一般の席より豪華な高級席、貴族席からは拍手が聞こえる程度だ。だがその顔には興奮している。
本日は遂に始まった闘技大会初日。
大会一日目は本戦を決める予選から始まってから計五日間で優勝者を決める。
今回の闘技大会に出場する選手は合計で600名。
その中から天辺となる一人の優勝者は非常に名誉あることで、昔の大会で優勝した者はその後上級貴族まで成り上がった事も実際にある。
予選は1グループ約五十名がバトルロイヤル式に戦い、その中から生き残った二名の本戦出場者を決める。
一試合の五十名はランダムに配れた番号に従い。それまでは他の試合を見学するのもよし、番号を呼ばれるまで控室で待機しているのもよし。
予選は全て大会初日で全て終わらせ、何事も問題が無ければ本戦は二日目から始まる。
しかし…予選だと言うのに空いている席が見当たらない。貴族席も同じ、まぁ彼等にとって大会は優秀な人材がスカウト出来る時期だからな。既に手渡された出場選手の情報が集まった紙の束をペラペラと捲っている貴族も見受けられる、まだ大会も始まっていないのに気が早いことで。
それと…俺は今貴族専用観戦席に置かれた真っ赤なソファーに重い腰を下ろしている。そう貴族専用の席にだ。
俺も始めエレニールから聞かされた時には驚いたが、何時の間にか貴族になっていた。
貴族位が授かった理由は幾つかあるがやはり一番の理由はエレニールとの婚約らしい。
屋敷に遊びに来た彼女から詳しい話によると、どれだけ実力を所持し高ランク冒険者であろうとも王族から嫁を降嫁する場合平民では不味く。他国からも色々うるさく言われる。
それに、誰も住もうとしないが前国王の別荘を平民が所持するのも良くないようだ。
他にも様々な理由があるようだが、結果的に俺は下級貴族になった。
まぁ…名前だけの爵位であり、自分が治める領地も無ければ仕事の役割も無い。
王家に税を払えばいいだけの事。
それでエレニールと婚約出来るのら別に貴族になっても良いけど。
おっと、話が逸れたな。
エレニールに頼んで取って貰った貴族席は贅沢なスペースが広く取られている。
スペース内には今座っている真っ赤なソファーの他にも埃一つ落ちていない厚く柔らかいカーペットが引かれ、更に何故かクイーンサイズのベッドが置かれている。何に使うのかは知らないでおこう。
「物凄い人々やなぁ~、都ですらこれ程の数が揃うのは見たぁことないのぉ」
「ふふ、そうね。王国で一のビッグイベントらしいし、それに今回は異世界から召喚された勇者も参加しているから彼等の姿を一目見ようと集まった数もいるわ」
エレニールが特別に用意してくれた貴族専用のスペースには俺の他に今回誘ったナビリスに銀孤、更に護衛役の戦闘奴隷4名、特注したメイド服を着た世話係の奴隷3名が観戦スペースでゆったりと満喫している。だが今回周囲の目もあるので、与えられた仕事はしっかりとこなしている。
バカでかい真っ赤なソファーの真ん中に俺が座り、ここ最近お気に入りのワンピースを着用した銀孤は左横に腰を下ろし九本のモフモフ尻尾を俺の膝に乗せている。
反対側の右横に座るナビリスは珍しくメイド服を着ておらず、黒いタンクトップに白いフレアスカート。頭には青色のリボンが付いた麦わら帽子を被り、黄色のトングサンダルを履いている。正に真夏に丁度良い服装だ、タンクトップからは花柄のブラジャーが薄っすらと透けて色気が溢れ出している。
二人の左薬指には俺が上げた指輪が嵌まっており、太陽の光を反射して指輪に埋め込められた宝石が虹色の波を映し出している。二人が嵌めている指輪は錬金術によって素材から生成したせいか、俺も心から嬉しく思う。
『それじゃ早速開始!…の前に我らが敬愛する現ランキャスター国王陛下から、開始の宣言が始まります!』
その司会の言葉と同時にラッパの音が会場を響き渡し、一般席と貴族席の間にある一際高い位置に設けられた最も見通し良い観戦スペースの扉が開き、その扉から王冠を被った短髪の赤髪の一人の男が中へ入って来た。50近い年齢を感じさせない鍛え抜かれた肉体。随分と高貴っぽい服装を身に着けているが今にもはち切れそうだ。
国王の後から恐らく王妃であろうウェーブがかった金髪を背中まで伸ばし、頭にティアラを乗せた高貴そうな女性が入ってくる。顔はエレニールにそっくりだ、姉妹と言われても全く不思議ではない。
二人の後からこの前王城の一室にて出会った第一王位継承者の王太子、巨体な肉体を持った青年、彼等の次に婚約者であるエレニールが何時も着ている鎧や男性用の軍服を着ておらず、白地に夏の花を衣装をあしらった清楚なワンピースを身に纏っていた。ほんのりと化粧も施され、神界に住まう女神達にも負け劣っていない。それに彼女の豊満な胸部はワンピースの胸元をこれでもかと持ち上げていた。
闘技大会を観戦しにこのコロシアムに来ていた平民は国王入場のラッパ音が聞こえてきた瞬間立ち上がると、即座に片膝を突きこうべを垂れた。貴族達も敬意を表したりしている、俺達の世話をしている奴隷は何故か土下座に似た体制で額を床に擦り付けていた。王族の観覧席の隣スペースに居た勇者達も頭を下げている。何の振舞いをしなかったのは俺を含んだナビリスと銀孤の三人のみ、真っ赤なソファーに座ったままでリンゴを食べていた。
そんな俺達の姿をエレニールに見つかったようで、視線を此方に向けながらどこか呆れた表情を見せていた。王様もチラリとこちらを目に向けたが、それは一瞬の事。皆から見えるようにと前の方に歩き出す。
「我が愛する民よ、長らく待たせたな。闘技大会を開始する。今回の余興を余は楽しみにしておった。召喚された勇者も今回は出場する予定だ。皆奮起して汝等の強さを見せよ! 以上だ!」
オオオオオオオオオオオオッォォォ!!!
マイクの魔道具も使っていないのにコロシアム全体に広がった国の頂点に腰を下ろす者にそれに呼応するようにして、観客の歓声が会場を満たす。流石賢王と名高い王。
『お言葉ありがとうございます!っでは早速第一試合目を開始したいと思います!選手の皆様は、ステージへどうぞ!!』
やっと大会が始まり、そのアナウンスを聞いた大会出場者がゾロゾロと控室から出て来た選手達と共に、巨大なステージへと出てくる。
『全員集まりましたね!?では予選第一試合目……開始ッ!!?』
試合開始の狼煙が昇った。
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