第9話 初めてのダンジョン攻略 その1
冒険者ギルドに登録してから一週間が経過した。
初めての依頼を無事達成してから、様々な依頼をこなしてきた。その結果、物凄い速度でDランクに昇格していた。
EランクとDランク、この二つのランクには大きな差が存在している。それは、Dランクからダンジョンに入場する事が出来る。
昔は誰でもダンジョンに入る事出来たが、ある事故が起こった、まだ11歳の男の子が病に伏せている母親の為に特別な薬草を取りに、ある下級ダンジョンへ向かった。翌日になっても帰ってこない事に心配した母親が、知り合いの冒険者に依頼した。大人総出で探す。結果、ダンジョンの少し奥へ入った所で、魔物に食い散らかされ原型を留めていない、薬草を手にした子供の死体が発見されたのだ。それを聞いた母は、後を追うようにその日の内に首を吊って自らの命を絶った。
この出来事を重く見た冒険者ギルド本部は、無駄に死人が出ない為に一定のランクに達していないと、ダンジョンに入れないよう管理した。今では、確認されてる全ダンジョンに必ず管理する門番が居て、入る為にはギルドカードを表示しないといけない。裏ワザとして組んでいるパーティの中に一人でもDランク以上の冒険者が居れば、他がEランクでも入れるらしい。冒険者では、ダンジョンに入る=初心者卒業らしい。
――ダンジョン。
この世界には二種類のダンジョンがある。一つは洞窟型ダンジョン。このタイプのダンジョンが殆どだ。長年に渡り、一定以上の魔素が凝縮された魔石がダンジョンの心臓であるダンジョンコアとなり、世界から知識と感情を蓄積された自我を持ったダンジョンコアは自身の生存率を向上の為ダンジョンボスを生み出し、階数を増やし、敵をおびき出す餌をダンジョン内にばら撒く。それに釣られてやって来た生き物を殺し魔素と吸収して洞窟を広げる。もし人類にダンジョンコアを壊されても、それは世界が用意したダミーなので問題ない。偶に本物のダンジョンコアが破壊されるが。勿論この設定を知るのは神のみ。
もう一つ目が神が作ったとされる塔型のダンジョン。どれだけ攻撃をしても決して崩壊することの無い天空を突き刺すかのように聳える塔型ダンジョン。通称『神の試験』と呼ばれ洞窟型の上級ダンジョンと比べ、難易度は高い。他のダンジョンと違い、塔型ダンジョンは魔物の氾濫が起きない為、塔の周りには大都市や国が栄えてる。ランキャスター王国の大都市とバンクス帝国の大都市に一塔ずつ、ロスチャーロス教国の中心に三塔聳え立っている。実際は祖父が暇つぶしで複数の世界に創っただけだが。
塔型と洞窟型のダンジョンには大きな違いが一つ存在する。
死体の消滅だ。
洞窟型のダンジョンで倒した死体はそのまま残るが、塔型のダンジョンでの死体は地面に吸収されるように消える。その代わりに魔石とモンスター素材や武具、宝石、マジックアイテム等をドロップする。どのダンジョンでも人の死体は時間が経つと吸収されるが。
『おはようございます。朝ですよ』
『おはようナビリス。毎朝ありがとうね』
ふかふかのベッドに倒れながらいつも通りの世界を眺めていたら朝になっていた。だが、今回はいつもと違い面白い物を見つけた。
『そういえばバンクス帝国が魔導列車と飛空艇を利用していたよ。アカシックレコードで過去を確認したら、200年前に召喚された勇者の監督元作ったようだ。でも、作るのに物凄い金が掛かるから、今は軍事利用していないらしい。今年に召喚する勇者に期待中だって』
本来は飛空艇を利用して魔界を滅ぼして、他の国を占領する計画だったけど作る金額と勇者による中途半端な知識で渋々断念したらしい。まぁ今の性能だと、魔法をどの種族より扱える魔族に簡単に破壊されるけど。この前魔王を鑑定したけどレベルは145だったし。
『それでしたらショウが下界の者達に作ってあげたら?貴方なら簡単でしょ』
『…っふ。分かってるだろナビリス。俺は神として人類に手を貸さないって』
…ナビリスはあの一件以来人間に良い感情を持っていない。気持ちは分かる。ナビリスは彼女と良く念話で話していたからな。俺の事は、元人間だから気にしないらしい。
『確かに俺…私がその気になればこの世界の文明を急激に進める事が出来る。それこそ巨大人型ロボットが世界中に飛び回る文明すら築ける。でもそれは、世界に住む人類に定められた仕事だ。我々神は眺めるのみ。理解したかナビゲーターのナビリス』
『畏まりました現人神ショウ様。出過ぎた真似を致しまして申し訳ございません。…でも神界でステルス戦闘機を創造していましたよね?』
『え…あ、あれは、子供たちと一緒に地球の映画を観ていたら、子供達が興味を持っちゃって仕方なく。そう、仕方なく。…うん、俺もちょっと欲しかったし…まあ、子供達も楽しんでたし』
本音はトッ〇ガンを観てたら俺が操縦したかっただけなんだけど、勿論言える訳が無い。
『はぁ…そういう事にしとくわショウ。ところで今日は何をするの?』
これ以上の追及は無かった。よし、本音はバレなかったようだ。ナビリスが話題を変えてくれたから、それに乗っかろう。
『そうだな。Dランクに昇格したし、この町のダンジョンに挑戦するよ』
『分かったわ。どの階層まで降りるの?』
『ん?勿論最下層まで』
『…Dランクに昇格ばっかで、初めてのダンジョンでいきなり攻略したら目立つよ?良いの?』
『ちまちま、目立たない行動をするよりも、目立った功績を残す方が面倒ごとは起きにくい』
それに、紳士たるもの目立ってなんぼ。神となり長い時が経っても。あの運命の日に出会った聖書一文字一文字覚えている。
『はぁ…分かったわ。ほら思う十分に目立ってきなさい』
言いたい事を理解してもらえたようだ。
一階に降りて、ここ一週間同じ席に座り、お気に入りのスクランブルエッグとベーコンを食べ、最後にミルクティーを飲み干し。冒険者ギルドへ向かった。閉まってる瞬間を見たことない扉を潜り中に入ると騒がしかったギルド内部に姿を現した俺を見た冒険者達が少し静かになった。どうやら俺にちょっかいを出したチンピラパーティの行方が分からないらしい。聞いた話によると、あのチンピラ達はCランクパーティ。しかも襲撃を仕掛ける前に他の冒険者に俺の金を巻き上げて殺す計画を話してらしい。結局俺は無傷で帰還し、それ以降奴らの姿が見えない事に関して、他の冒険者達が俺が殺したと思ってるようだ。当たりだ。
Dランクと一個上のCランクの掲示板へ向かい、ダンジョンに関する依頼を探したが意外と依頼は少なかった。縛らくして、ミノタウロスの角を欲している依頼書を見つけ剥がして列に並び、10分程ナビリスとダンジョンについて念話で話していたら受付が空いたのでそこへ歩くと。そこにはオーウェン冒険者ギルド人気美人受付嬢のベラが座っていた。俺に気づいたようだ。
「ショウ様!おはようございます!いい天気ですね!もうDランクになったとか?…早く唾つけておいて良かったわ」
良い天気って…今日曇りなんだけど。ソレに本音を隠そうともしてないね。
「あはは、おはようベラ。うん、良い天気だね、ベラの笑顔で今日も頑張れるよ」
「えへへ、ショウ様ってカッコいいし他の冒険者達と違って優しいですよね!…他の男性はくっさいけど。ショウ様は良い匂いがしますし!」
おーい、周りに聞こえてるぞー、こっちに殺気放ってるよー。相変わらず元気な子だな、まあそれが良いけど。
「はは。…今日はこの依頼を受けに来たんだ」
手元に持っていた依頼書をベラに渡した。依頼の内容を確認したらため息をつかれた。
「ショウ様…昨日Dランクになったばっかりですよね?それでもうダンジョンに潜るのですか?それに、ミノタウロスは最下層に出現する魔物ですよ…」
「問題ないよ。ちゃちゃっと戻ってくるよ」
ベラが呆れた表情をしている。美人がそんな顔をしちゃダメだよ。
「はぁ~。畏まりました、どうせ行くんでしょう。…では、ミノタウロスの角一本の入手後こちらへ納品お願いします。それと、もし、もし!、もーし!ダンジョンを攻略しましたら、ギルドカードの差出をしステータスの称号の欄に『下級ダンジョン攻略者』を確認出来ましたら、Cランクの昇格試験が受けれます」
「昇格試験?」
「……」
ずっと笑顔だ。答える気がなさそうだ。
「帰りにシュテルンドーナツ屋の新作ドーナツ買ってくるよ」
「っ⁉…仕方ないですね~今回だけですよ!…新作ドーナツ五個で」
チョロい。可愛いけど。
「コホンっ、冒険者は実力が無くてもDランクまで上がることが出来ます。しかしCランクより上は決断力、発想力、そしてなにより、力量が必須になります。昇格試験では冒険者ギルドで依頼したCランク以上の冒険者と摸擬戦を行ってもらいます。そこで合格すれば無事Cランクの昇格となります」
へー結構ちゃんとしてるんだな。
「ありがとう。流石ベラ、聞きやすかったよ」
「えへへ。あ、新作ドーナツ忘れないでくださいよ!六個ですよ!」
一個増えてる…別に気にしないが。
分かったと伝え、下級ダンジョンの一つ『獣の洞窟』へ向かった。
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