第3話 ステータスを確認してみると…。

「それじゃ、まず『ステータス』と唱えてみよ」


 俺に創造神の祖父ができた翌日――かどうかはわからないが、お爺ちゃんが直々に修行をつけてくれるらしい。創造神を師匠に持つなんて、どの銀河を探しても俺だけだろう。


 最初に言われたのは、自分のステータスを確認することだった。さすがに初めてだと緊張する。数回深呼吸して覚悟を決め、教えられた言葉を口にする。


「よし…ステータス!」


 唱えた瞬間、目の前に半透明な画面がいきなり表示され、俺のパラメータが写っていた。


名前:鈴木翔

種族:人族

職業:無


レベル:1

HP:112

MP:100


攻撃力:14

防御力:11

体力:14

魔力:10

俊敏:11

器用:10

運:10


魔法スキル:

創造魔法Lv.1


スキル:

(なし)


称号:

創造神の孫


 ステータスを見て、最初に思ったこと。


「(うわ…俺、弱っ!)」


 でも、お爺ちゃんによると、地球ではこれが普通らしい。確かに、地球で魔法が使えたり、素手で石を砕く等、異常なほど力が強かったらおかしいか。レベル1でもステータスを上げることは可能みたいだ。


 攻撃力と体力が高いのは、普段から体を鍛えていたおかげだろう。それでも、HPや防御力が高くても首を斬られたら死ぬらしい。まあ、よく考えれば当たり前だ。ゲームと現実は違ってHPは絶対的なものじゃないってことか。


 それより、称号の「創造神の孫」が気になって仕方ない…。


「ステータスを確認できたみたいじゃの。次に魔力という現象を引き起こすエネルギーを知ってもらう」


 お爺ちゃんがそう言って、俺の頭に優しく、ゆっくりと手を置いた。今気づいたけど、お爺ちゃんって背が高いな。手が置かれた瞬間、体の中が温かくなってきた。まるで頭からつま先までお湯を注がれる感覚。特にへその辺りが一番熱い。悪くない体感だ。ジャグジーに入ってるみたい。これが魔力か…。


「これが魔力だ。もう使えるはずじゃ。今の感覚を頼りにやってみなさい」


 手を離したお爺ちゃんがそう言ってきた。ぶっつけ本番できるのか?わからない。とりあえず、さっきの感覚を思い出しながら手のひらに意識を集中してみた。十数秒後、手のひらが温かくなり、だんだん熱くなってきた…って、熱っ! 今度は消すように集中、無事消えた。ふぅ…火傷するところだった。


「ふぉふぉっふぉ、面白かったぞ。魔力を上手く扱うには、魔力操作のスキルを覚えるといいぞい」


「(いや…『いいぞい』じゃなくて先に言って欲しかった)」


 その後教えてもらったけど、魔力そのものを増やすにはレベルを上げるだけじゃなく、魔力をイメージしながら魔力路と魔力袋を広げることで魔力操作が上達するらしい。さらに、体内魔力を使い切って休息を取るたびに魔力の上限が増える。要するに、魔力を錬りながら毎日瞑想しろってことだな。訓練こそ正義か。


「ふむ、それじゃ君が望んだ魔法スキル、創造魔法について教えよう。言っとくが、この魔法を持っているのは創造神だけだぞ。使い方によっては世界を一瞬で滅ぼせる。それを肝に銘じなさい」


 お爺ちゃんが真面目な表情で念を押してきた。わかってるよ。この創造魔法で馬鹿なことはしない。神に…いや、じっちゃんに誓って。


 貰った創造魔法の全貌を教えてもらったが…確かに恐ろしい魔法だ。使い方によっては世界を一瞬で壊せる。でも決定的な問題が一個。神レベル、最低でも中級神にならないと発動すらできないらしい。俺みたいな一般の人間が世界を壊すはずもないけど、一応傲慢にならないよう気をつけよう。それ以外だと、創造魔法はいろいろ応用が効くらしい。Lv.1では石や木の枝くらいしか作れないけど、レベルが上がれば魔法スキルや素材無しで道具、宝石まで創造可能。Lv.10になると神具まで作れるとか。もう何でもありだな。驚くべき神の御業だ。


 白い空間が広がる神界で、読みかけの小説や電気器具を早く作ってみたい。俺の目標だ。


「ふむ、では、今から魔物を召喚するので倒してみせよ」


 …え。お爺ちゃん、今、魔物を倒せって零した? いや、どう見ても無理でしょ。もっと時間をかけるとかじゃないの!?


 俺の思考を読めるはずなのに、この神様は気にせず、俺の数メートル先に魔法陣のような光の粒子が現れ、形を成していく。魔法陣が晴れたその上には透き通った青い丸いボディの魔物がいた。大きさはバスケットボールより少し大きいくらい。 ゲーム内のフレーバーテキストなら、こう書かれているだろう。


――野生のスライムが現れた――


「おぉー、可愛い」


 魔物と聞いて一瞬身構えたけど、柔らかそうでプニプニしてみたい。恐る恐る手を伸ばして近づくと、いきなり飛びかかってきた。驚いて無意識に殴り飛ばしたら、スライムの中のビー玉みたいな核を砕く感触が腕に伝わる。勢いよく地面に叩きつけられたスライムは、砕けた核を残して消えた。初魔物討伐はあっさり終わった。


「ふふふ、可愛くても魔物は魔物だぜ。今後、気をつけるが良い」


 なるほど…可愛い見た目でも人間を襲うのか。日本人は可愛い生き物が好きだから油断しがちだな。


 そういえば、お爺ちゃんの口調ってコロコロ変わる。それについて聞いてみたら面白いことがわかった。創造神は元々肉体を持たない精神生命集合体らしい。他の神々もほぼ変わらない存在とか。じゃあなぜ老人の姿なのかと聞いたら、適当だったらしい。でも今の姿が気に入ってるみたい。


・・・

・・


 修行を始めて瞬く間に一週間が経った。神界では景色も気候も変わらない。朝も夜も存在しない。ただ白い世界が無限に広がるだけ。つまり、休息時間という概念がない。疲れてもお爺ちゃんが回復魔法をかけて無理やり修行を続けさせる。…ここは神界じゃなくて地獄だった⁉


意外と厳しい祖父だ。でも、ステータスは目に見えて上がっている。



名前:鈴木翔

種族:人族

職業:無


レベル:16

HP:278

MP:260


攻撃力:184

防御力:160

体力:175

魔力:190

俊敏:151

器用:153

運:10


魔法スキル:

創造魔法Lv.2/火魔法Lv.1/水魔法Lv.2/ 風魔法Lv.2/魔力操作Lv.1/生活魔法


スキル:

剣術Lv.1/体術Lv.2  


称号:

創造神の孫/創造神の弟子



 いつの間にか、また変な称号が増えてた…。「変な称号とはなんじゃ」って、思考を読まないでくれよお爺ちゃん。


 剣術や体術スキルが表示されてるけど、スキルレベルが上がっても剣を振る速度や攻撃力、体の使い方がわかるだけで、漫画や小説みたいに技名を唱えた瞬間、体が勝手に動いて派手な必殺技などは発動するとかはない。


 もちろん、スキルレベルが高いほどできることは増える。例えば、剣術Lv.3のレベル1戦士と、剣術Lv.1のレベル10戦士が戦ったら、後者の戦士が圧倒的に有利。多少の相性こそあれ、物理法則と違う法則が働く異世界なら基本的には個の性能が軍を圧倒するのがレベルの実力差。ん~、まだまだ勉強不足だな。


・・・

・・


 気持ち悪い。全て吐き出したい。でも何も吐けない。気持ちが悪い。口の中がカラカラだ。血まみれの剣を持つ腕の震えが止まらない。今この瞬間を心底後悔している。


 神界に来て約一年。今日、俺は初めて人を殺した。創造神が召喚した人間は、殺されても仕方ない男だった。ある異世界の盗賊の一味で、死んで当然の極悪人。


 大勢で村を襲い、成人男性、年寄り、赤ん坊まで容赦なく殺した。ある夫は、目の前で妻とまだ成人前の娘が犯され、心が壊れて世界を憎みながら舌を噛み自殺した。


 創造神はそれを俺の人殺しの練習相手として召喚した。確かに盗賊は多くの罪を犯し、無関係な命を奪った。殺されても仕方ない。


 でも…殺しを最も忌むべきものとする日本から来た俺は躊躇した。…してしまった。人型の魔物を倒すのは慣れていたけど、同じ人間を殺せなかった。それでも盗賊は容赦なく襲ってきた。恐らく、思考が操作されていたのだろう。歯を食いしばり、反射的に一人目の首を刎ねてから無意識に殺しまくった。悲鳴や命乞いを無視し、肉を断ち、骨を砕く感触がまだ手に残っている。


 その様子を祖父は無表情で見つめていた。


 …そうか。人間は神に無条件で愛されていると思ってるけど、逆なんだ。神々にとって人間なんてただの蟻だ。人間が蟻に無関心なように、神々も人間に無関心。何も変わらない。




『2025年2/26 修正』

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