第133話 依頼達成とその後
神眼を解除すれば、借りた宿の一室で横になった俺の肉体へ意識を戻す。寝息を立ててリラックスした体だが、頭は全中活動していた。
瞼を開けば歴史の匂いがする年季が入った板張りの天井、煤けた梁が眼に吸い付くように見えてくる。昨晩から降り続けている小雨が私語するように部屋にはめ込まれた木窓を叩き付ける。
ギルドで受けた依頼を無事達成してから既に数日が経過している。今回の依頼中に敵対関係となった魔導国にて暗躍する秘密結社『福音黒十盟団』より何かしらのアクションがあると見越した俺は大事を取って城下町へ足を運ぶ事は無かった。宿に籠る間はエレニール宛てに依頼中起こった出来事を手紙にしたためながら折々神眼を発動させ月の視点から大陸を眺めて暇を潰しつつ、襲撃に警戒の根を張っていた。
すると昨晩ナビリスより念話が送られる。その内容は秘密結社の盟主と幹部格が集まった会議の場所を探知した、との事だった。流石賢神のナビリス…略してサスリス――っふ。
教えて貰った座標へ眼を移動すると、運よく盟主らしき人物が現れる場面だった。
…内心驚いた事が幾つが見つかり、その一つが。
『ギルドで名を交わしたダリアが組織の幹部だった…か』
魔法が全てとされる魔導国でも逸脱した魔力量を所有する『鳥使い』ダリア。初めて顔を合わせた時は周囲の冒険者から狂人と気味悪がれ、関わりたく無いと露骨な嫌悪感を見せつけられた彼女。
今思うと膨大な魔力が込めた彼女の頭に装備した花冠は『ミルトリウスシリーズ』の一つだろう。俺と対抗したガディ・ノーバスが終身離さんだあの禍々しい高密度魔力が埋めた白い杖が『ミルトリウスの杖』だったとは…。
ナビリスに頼んで調べて貰っても良いが、彼女に頼るばかりでは無く少しは自分で探ってみるか。
しかし…盗み見の予感があったので、出来るだけ向こうに自身の情報を流さないよう立ち回る戦い方を意図的に魅せて正解だったな。まさか現人神である俺の目にすら映らない鳥で欺き、情報を盗み取って仲間に共有するとは…やはり人間は劣れん。
『それで…どうするのショウ?』
繋げたままであった念話から脳髄を痺れさせるような美声の持ち主であるナビリスの声が頭に入ってくる。世界のアカシックレコードに接続した彼女にすれば結社メンバーの現在地を即座に嗅ぎ当て、その場にミニブラックホールの展開すら可能だが…、実の所あんまり組織の願望に興味の微塵も感じない。
例え…。
『俺から干渉はせずに、放っておこう。向こうから襲撃を仕掛けない限り』
『例え盟主と名乗った者が微かに神力を体内に宿していても?』
『そうだ。偽りはない真実の神力を内蔵していてもだ』
世界中に広がる全ての事柄を通して俺に届けてくれる神眼。この眼で盟主が降臨した際、かの者に備わった混じりけが無い神の根底、つまり人間とは掛け離れた存在。と言っても大袈裟な部分も存在する、体内に帯びた神力のエネルギーが少量な事。神界に住まう神に比べれば雀の涙程度と言っても過言ではない。
考察する限り女神と人間の間に生まれた子供の子孫が盟主かもしれない。
盟主の目的が『女神メシアの再降臨』零している事から判別するに己の根源が何者か察しているかもな。
ふむ…女神メシアか。神界にいた頃はその様な名を耳にした覚えは無いが、俺が知る神より知らない神の方が大多数だし…。粗方、古の時代に人より日々信仰されたことによってこの地で体系化した神の一柱が長い年月を掛けて生命と自我を確立した上位存在へと星に君臨したのか。
まあ、敵のトップについて色々な思考が頭脳の中に渦のように描かれるが…武人気質に近い中級神である俺が一心に考えをめぐらしても結論、相手からのリアクションが無い限り介入はしない。彼方の会議でも革命軍との密接な関連をもつ方が大事らしい。
――よし、そうと決まればこの文字ギッシリ詰まった手紙をエレニールの手下に渡しつつ、久しぶりに冒険者ギルドへ顔を出すとするか。
意を決しれば、エレニール宛ての派手に飾った黄色の封筒を懐に忍ばせ、インベントリーから取り出した傘を子供用の鉄砲のように軽く肩に担ぐと、宿の廊下へ続く扉に手を伸ばした。
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