第14話 勇者召喚

 塔に挑戦し始めてから既に三日が経っていた。問題なく順調に進み続け、第20階層の門番であるギガントストーンゴーレムを無事撃破し、21階層に設置された石碑に魔力を流し、地上へ戻って来た。


 冒険者ギルド内の受付にて、道中適当に拾ったドロップアイテムを肩に担いでいた革袋から取り出し納品していたら、初日に俺の受付をしてくれた肩まで掛かる金髪のボブカットに碧眼の美人受付嬢、『セリア』が呆れた表情を俺に見せていた。


「あの…ショウ様。こちらはギガントゴーレムの核ですよね。第2門番の」


 カウンターの上に置いたドロップアイテムの中から車のタイヤ程の大きさを誇る紫色に輝く宝玉を彼女は両手で持ち上げながら聞かれた。


「ん?ああ、この核使い道ある?もし無いなら捨てとくよ」


 もしかしてこちらの世界では使い道の無いただのゴミだったか?…便利な素材だけど。


「い、いえ!使い道なんて腐るほどあります!絶対に捨てないで下さい!」


「お、おお。分かった」


 無駄にならなくて良かった…こちらの世界でも使い道はあるのか。


 持ち上げた核を抱きしめながら上目遣いで言われたら断れないよ。それと、胸結構あるんだな。


『…ナビリスは見た』


『仕方ないだろ。見えたもんは仕方ない』


 日に日にナビリスが拗ねてきた。早く彼女の肉体を造らないと。


「納品されたアイテムの鑑定に五分程掛かりますのでそちらの席でお待ちください」


 適当に倒した魔物や宝箱からゲットしたアイテムが俺が思った以上の量があり。換金に時間が掛かると言われたので、指定された席で待つこと五分後。俺の名前が呼ばれた。

 どうやら鑑定が終わったらしい。


「お待たせしました。こちらが代金の金貨9枚と銀貨34枚になります」


 トレーの上に金貨9枚と銀貨34枚が丁寧に重ねられた金を彼女の目の前で数え始めた。これは冒険者ギルドを信頼してるという表現を示している。確認を終え代金を革袋の中へ入れた。


「ああ、ちゃんと確認出来たよ。それじゃまた明日」


「ショウ様少しお待ちください」

 

 後ろに振り向き外に出ようとしたらセリアから声を掛けられた。前に同じ事があったな。


「どうした」


「明日の午前中に冒険者ギルドへ来てくれませんか?大事なお話がございます」


 ん?何か大事な事…?まあいいだろう。


「分かった。朝の11時頃にここに来るよ」


 内ポケットから出した懐中時計を見ながら来る時間を教えギルドから出た。それにしても何の用事だろう。


 ギルドから出た俺は斜め前にある武器屋に寄ることにした。今日ギガントストーンゴーレムと戦った時にオーウェンから使ってたロングソードが粉々に壊れてしまった。使った後ちゃんと油と石で刃を研いでもいなかったし、折角オーウェンの街より都会に来たので良い武器を買うことにした。


 透明度が高い窓ガラスの向こうで豪華な素材で作られてピカピカに光るフルプレートアーマーが置かれ、通り過ぎる人々を見ている。真横に設置された大人でも開けにくそうな大きな扉を開く。

 開いた瞬間扉の上に設置された鈴が心地よい音色を出し始めた。


 店内を見渡す。流石、大都会ラ・グランジ。業物の武器が壁に飾られ、物色中の冒険者達を魅了している。カウンターへ向かい立派な髭を生やした親父に新しい武器について聞いた。


「なあ親父、ミスリル製のロングソードを一本くれ」


 いきなりの注文に親父の目がクワッと目開きこちらを睨んできた。

 頭から腕、腰、足えと視線を動かし全身を隈なく確認しまた頭を見て喋りかけてきた。


「ミスリス製のロングソードは最低でも白金貨15枚は掛かる。小僧はそれだけの資金を持っているのか」


「ああ、勿論」


 神界で造りまくった通貨ならまだ大量にあるから。


「分かった。そこで待っとけ」


 そうぶっきらぼうに言い、カウンターの奥の部屋へ向かっていった。

 数分後、布で棒状に巻かれた剣を持った親父が戻り、カウンターの上に置いた剣に巻かれた布を解き、その全貌が明らかになった。

 白青に煌めく剣身。滑りにくくした黒い革紐が巻かれ、鍔は見惚れる程に装飾がされ中心にサファイアの様な輝く宝石が埋め込まれたいる。


「持ってみろ」


 強面親父に言われカウンターに置かれたロングソードを持ち上げると瞬時に見た目より軽い事が分かる。数回上下に振ったが岩がバターのようにらくらく斬れそうだ。うん、これいいな。


「良い剣だ。丁寧な作りに歪みも無い、これを貰おう。幾らだ?」


 腕を組みながら何故か頷いている親父に値段を聞いた。


「ん?うーんそうだな。白金貨27枚でどうだ?おまけでその剣に合う剣帯と鞘をつけよう」


「分かった」


 カウンターに白金貨27枚丁度支払い、言われた通りに高級そうな剣帯と鞘を貰った。


「毎度!またよろしくな!」


 ホクホク顔の親父に手を振りながら大通りに出た。

 

 夜、街中を探検し近くの高級レストランで晩御飯を食べ、満足しながら俺が泊まっている部屋まで戻って来た。毎晩欠かさないジャグジーから上がり柔らかいバスローブを身に纏い、ベットの上に倒れこみながらナビリスと明日の事について話していた。


『明日大事な話が有るってセリアは言っていたけど、なんのだろうな?デートの誘いかな』


『冗談は顔だけにしてください。神眼で彼女の思考を読めば分かるはず』


『そうだなぁ、ナビリスと言う通り神眼を使えば全ての者の思考や過去が分かる。でも、俺は無暗に神眼を利用しようとは思っていないんだよ。ほら、最初から全ての物語が分かってる漫画や映画を観ても面白くないだろ?それと同じだよ』


『…私には理解できません。私は貴方から創られた存在。貴方と長い間一緒に過ごしてきて私は自我を持ち感情と言う意味を知りました。でも…下界の者を良く思っていない私からしたら、ショウは優しすぎます』


『ナビリス…』


 やはりあの日から彼女は人を恨んでいる。神界で無限に存在する世界のアカシックレコードを読んだ彼女が一番人の善悪と言う物を知っている。


『確かにろくでもない人間が沢山居るが、稀に良い人間もいるんだ。確かに神と人の存在意義は全く異なっている。でも俺がナビリスの肉体を創造したらいつの日かナビリスも、信頼出来る人間の友達が出来るかも知れないぜ。俺の未来の嫁とかな』


『ふふふ、そうだね。期待しないで待っとくよショウ』


『おう。期待して待ってろ。それじゃ俺はこの世界を眺め始めるよ。何か問題が起きたら念話してくれ』


『分かったわショウ』



『…現人神ショウ様。お耳に入れておきたい出来事が発生いたしました』


 今いる大陸で起こっている戦争を眺めてたらナビリスから念話が送られてきた。それも様付きで…と言う事は神としての問題が起こったって事か。


『どうしたナビリス。この世界で問題が起きたか』


『…バンクス帝国にて異世界から勇者が召喚されました』


 勇者か…。前から異世界召喚の準備していたのは知っていたが、今夜が召喚の日だったか。


『詳しく教えてくれ』


『畏まりました。召喚された勇者は日本人の高校生、教師も合わせて合計48名。召喚場所は帝都の城内。いきなりの出来事に戸惑ってる模様』


 48人…多いな。俺も暇な時、この世界のアカシックレコードを読んだが、これまで異世界に召喚された地球人は4、5人のグループがほとんど。…今回の召喚に関して何か、ただ事では無い。


『召喚された勇者の中に飛鳥の姿はあるか?』


 神からしたら誰が何処に召喚されたか興味は無い。召喚されたと理由だけで、神として動くわけにはいかないからだ。

 しかし、もし飛鳥が召喚されたなら話は別だ。

 俺は神界で決めたんだ。

 何があっても飛鳥は守ると、その為に死ぬ思いで修行も続けた。

 神になってもその事は変わらない。


『いえ、確認できません。神眼で調べた結果、どうやら召喚された高校生は福岡市博多区の公立高校に通う生徒たちです』


 そうか…飛鳥が召喚されなかったのは良しとしよう。


 俺も神眼が城内の様子を眺め始めた。視点を変える。丁度そこには、はち切れんほどの腹をした悪趣味な王冠を被った男が王座に座りながら召喚した勇者たちに説明してた。


 曰く、お前たちは勇者として召喚された。

 ここは勇者たちが住んでいた世界とは違う、

 魔王がこの世界を滅ぼそうとしている。

 どうにか魔王を討伐し、この世界を救え、と。


 一人の真面目そうなイケメン男子生徒が手を挙げ質問をした。見るからに優等生っぽい生徒だ。


「僕たちは元の世界に帰れますか?」


 質問された皇帝は腕を組みながら数秒目を閉じ何か考え事をしていた。


「余の力ではそちらを元の世界に戻す事は出来ない」


「………え?どういうことですか!これは犯罪です!」

「はあ!?帰れないってどういうことだよ!」

「そうだ!そうだ!元の場所に返せ!」

「っう、お、お母さん…どうして…」


 望んでいた返答じゃ無かった答えに、ある者は激怒し、ある者は呆然し、ある者は泣き出した。それにある者は、自分が勇者だと知り感激していた。


 不穏な空気に皇帝の周りに居た騎士たちが剣を手に掛けたが、それを皇帝が軽く手を挙げて制す。そして続けた。


「しかし、魔王が住む魔王城の宝物庫にある空間の魔晶石があればそちらの元の世界に戻す事が出来よう」


「本当ですか!?それなら…皆!一緒に力を合わせて魔王を倒そう!」


 流石大国の王。元の場所に戻れるという餌で勇者達を釣ったようだ。


 ふむ、最初に手を挙げた生徒があのクラスのリーダーらしいが何人かの生徒はリーダを睨んでいる。召喚の説明をされた瞬間から「ぐふふ、チートハーレムチーレムぎゅふふ」と気持ち悪い笑いをしながら喜んでいた生徒がリーダーを睨んでいた。


 一つアドバイスをあげよう。努力を全く行っていない彼らに女性が寄ってくる可能性はゼロだ。


『どうされますかショウ』


『んーまずメルセデスに念話を送ろう。管理下の地球からいきなり50人弱の人間が消えたら、修正の修復に時間が掛かってるかもしれない』


『相変わらず娘には甘いですね』


『ナビリスにも子供が出来たら分かるよ』


『っちょ!な、何言っているの!私が貴方なんかと欲しくなんか……ふふ、赤ちゃん、何人欲しいかな?出来たらアメフトの対戦が出来る数まで産みたいな…でも女の子も欲しいな~』


 ナビリスがトリップし始めた。…彼女も心の底ではそんなに子供が欲しかったのか。…肉体を創造するときは、頑張らないとな。

 未だにトリップしているナビリスをほっといて地球の管理者であるメルセデスに連念話を通して送る。


『おーいメル~、元気か?』


『…あ、パパ久しぶり。私は元気だよ~。それでパパはどうしたの?』


 地球を管理している『女神 メルセデス』に無事念話が届いた。


『こっちの世界に地球人48名が勇者召喚されたから地球で問題が起きていないか心配したんだ』


『えへへ、パパに心配されちゃった。けど…うーん、何も問題無いよ~。確かに日本から48名召喚されたけ痕跡は有るけど、地球から消えた瞬間彼等が存在してたという記憶が無くなったっちゃから、空間の歪みとか何も起きていないよ~』


『そうか。分かったよ、ありがとうメル。何時でも念話送ってもいいからね』


『は~い。じゃあねーパパ、大好き』


 俺も大好きだよ。

 そうか、地球から彼等が存在していた記憶が消えたか。

 …すまない。

 もう君たちは地球には戻れない。奇跡的同じ世界線に戻れたとしても、誰の記憶にも存在していない。親友、兄弟、親にも。


 これが運命だ。

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