第15話 ハイエルフ

 あれから何事も起こらなかったので城内から戦争中の国へと視線を戻し、起こっている残虐を眺めそのまま朝になった。神眼を解除し、ベットから降り、バスローブを脱ぎそのままジャグジーに入って心地よい時間を過ごす。


 ジャグジーから上がると生活魔法クリーンで自分の身体に付いた水滴を飛ばしインベントリから取り出した、トランクス、分厚い黒色の靴下、ストレートデニムの順番に穿き。


 床に転がっていたコンバットブーツを拾い靴底に汚れが付いていないかを確認してから履き、激しい動きで靴紐が解けないよう軍隊式に靴紐をきつめに結んだ。


 黒無地のシャツを着て、グレーのフード付きのパーカーをシャツの上から羽織り、オーガの革とトレントの枝でで造られた鞘にミスリルロングソードを仕舞、シャドウウルフの革で出来た剣帯に、鞘ごと括り付け腰に巻き付け、その位置からズレないようベルトで固定した。


 数回軽くジャンプしてきちんと固定された事を確認し泊ってる部屋から出た。


 一階の食堂で高級素材を使った朝食を食べ、予定通り冒険者ギルドに向かう途中お洒落なコーヒーショップ屋を見つけたので一つ買うことにした。


 店内は裕福な人達がコーヒーを啜りながら優雅な時間を楽しんでいた。


 値段は張るがお持ち帰り用の紙コップを買いおススメのコーヒーを入れてもらい、大通りを歩きながら飲んだ。一つ思ったのが、これ召喚された勇者がス〇バの真似しただろ。


 俺の周囲から嫉妬深い視線を感じる。どうやら、紙コップでコーヒを飲む=裕福層の商人か貴族の自慢らしい。


 空になった紙コップをゴミ箱用のインベントリに放り投げ、ここの冒険者ギルドで開けっ放しの扉を潜り、美人で人気故大勢の男性冒険者を相手に忙しそうにしているセリアが居る受付の列に並んだ。


「セリア今夜俺とデートしに行かないか?酒奢ってやるぜ」


「ありがとうございます。では次の方どうぞ」


 すげー。ゴリマッチョの大男からのお誘いをふわーっと躱した。毎日口説かれてるから慣れてるのかな。


 15分後俺の番になった。


「遅くなってすまん。それより、セリアってモテるんだな」


「あはは、いえ時間どおりです。…仕事中に口説かないでほしいですよ全く。はぁ~」


 深い深いため息をついた。それを俺に見られて恥ずかしかったのか顔を少し赤く染めながらこちらを睨んだ。忘れろって意味だな。それよりも、何時も着ている制服では無く、胸の上部分が見える少し大胆な制服を着ていた。


「ところで、昨日言ってた大事な話って」


「…ええ。他の冒険者には聞かれたくない事なのでこちらの会議室までお越しください」


 そう言って受付の奥に続く通路に案内された。通路には幾つかの扉が設置されており。部屋でパーティーが相談したり、大事な商談で使う部屋があるようだ。


 セリアが開けてくれた扉を潜るとその部屋の中には、木製のローテーブルに四人ほど座れるソファーが二つ置いており、会議室にしてた随分質素な部屋だった。最初に俺がソファーに掛け、セリアが反対側のソファーに掛けると、彼女が持っていたファイルの中から一枚の紙をテーブルに置き話し始めた。


「…お話というのはショウ様のランクの事に関してです」


「ランク?俺のランクに何か問題でも起きたのか?」


「いえ。…率直に申し上げますとショウ様の実力ではCランクが低すぎます。Cランクの冒険者がソロで第20階層の門番が撃破する事はあり得ません」


 成程。確かにCランクに昇格してから依頼は受けていないので未だ上に昇格はしていない。


「我々冒険者ギルドからしては是非ランクを上げて欲しいとこで、ギルドからショウ様に指名依頼がございます」


 指名依頼ねぇ、どうせ断る事も出来ないだろう。まあ、暇つぶしには丁度いいか。

 テーブルに置かれた一枚の紙を手に取り依頼表に記された内容を確認した。



『依頼主:ラ・グランジ冒険者ギルド

 依頼内容:オークの群れの調査及び討伐

 ラ・グランジから西にあるコールモデ森奥地にてハイオークを含めたオークの群れが集落を建築中の知らせが入った。群れを確認した故一匹残らずオークを壊滅せよ。集落も残すな。

 依頼報酬:白金貨2枚』


 オークの群れが作った集落か。この依頼書にはハイオークしか書いていなかったが、実際にはオークキングかオークロードも居るだろう。…ふむ、新しい剣の試し斬りには丁度いい獲物か。


「分かったこの依頼を受けよう。ただ一つ質問があるが良いか?」


「え…は、はい!何でしょうか?」


 俺がこんなあっさり受けるとは思っていなかったのか一瞬驚いた表情を見せたセリアだったが、直ぐに真剣な表情に戻った。


「この依頼内容には何の文句は無いが、流石に俺一人では荷が重すぎるよ」


「勿論ショウ様の他にBランクパーティー『火竜の牙』との合同依頼となっております」


 Bランクパーティーと一緒か。実際は俺の監視役だろうな。


「そっか。それなら安心したよ。それで依頼は何時から始めるんだ」


「はい、明日の早朝に城門前で集合っとなっております」


 早いな…普通は準備に二、三日か、間を開けてから依頼場所に向かうはずなんだが。…妙だな。


「分かった。それじゃさっさと壊滅させて、戻ってくるよ」


「ショウ様にご武運をあらんことよ」


 何故か目を閉じ今にも泣きそうな顔をしてるセリアに手を振りながら会議室から出た。カウンターの奥から現れた俺に嫉妬と殺気が混じった視線が当たるが気にせずに、今日もギルド内に設置された食堂で酒を飲んでる『大樹灰』のメンバーに手を振り、ギルドから出た。勿論無視されましたよ。


 翌朝、俺は城門から外に出て右側に沿って歩くと、そこには6人の冒険者達が馬車の周りでくつろいでいた。多分あれが一緒に行動する『火竜の牙』のパーティーメンバーらしい。一人の男が向かってくる俺に気づいて話かけて来た。


「お前が俺達と依頼を遂行するショウか?意外と若いんだな」


 神になって19の頃に若返って、それ以来ずっと変わっていないからな。


「ああ、Cランクのショウだ。宜しく」


 手を差し出した。


「おう、こちらも宜しくな!。俺はこの『火竜の牙』リーダーのルトだ。おい!お前らを紹介するからこっちに来い!」


 革鎧に金属製の手甲、足甲で身を守り、背中にロングソードと盾を装備した冒険者ルトの自己紹介が終わりこちらが差し出した手を力強く握った。ルトに呼ばれた他のパーティーメンバーが集まってきた。


「よし揃ったな。左からダビッド、ノーラン、パトリック、ダイアナにローザだ。最高のパーティーだぜ!」


「おうよ!宜しくなショウ!」


「っチ、こんな弱そうな奴と一緒かよ」


「まあまあ、Cランクで既に二つ名持ちの冒険者ですよ。よろしくお願いします、パトリック・フォン・ショパンと申します、以後お見知りおきを」


「ヨロシクなイケメン!一晩どうだ?」


「………よろしく」


 プレートメイルに盾と槍を装備した頭のてっぺんが眩しいダビット。軽装鎧に短剣を両腰に装備してこちらを見下しているノーラン。茶色のローブに魔法陣が張られた白いグローブに杖を持った魔法使いのパトリック。琥珀色の髪を後ろでポニーテールのように縛った、革鎧の軽装をした大剣を肩に担いた女性戦士のダイアナ。お胸様が凄いです。最後にダイアナの後ろに隠れながらオドオドしてるシスター服姿の女性、ベールから僅かに零れる長い銀髪がキラキラと輝き、神秘的なルビー色の瞳が相まった美しい外見。銀の聖杯を持つ女性聖魔法使いのローザ。胸の膨らみも結構ある。


 男4に女性2の人族。前衛3、中衛1、後衛2のバランスが合ったパーティーだ。


『…』


「Cランクのショウだ。こちらこそ宜しくな」


 彼等が俺の監視するパーティーか。馬鹿な行動を取るのは止そう。後が面倒くさい。


『そう言っても結局馬鹿な行動をするんですけどね。ふふっ』


 何の事かなナビリスさん?クスクス笑わないで頂こうか?


「それよりパトリックって貴族なのか?」


 本当はミドルネームにフォンが付く者は貴族と知っているが、田舎人っぽく振舞おう。


「ええ、と言っても数ある貧乏男爵家の五男ですけどね。ほぼ平民と変わらないですよ」


「そうか。貴族と言っても色々あるんだな」


「全くです」


 二人して笑いあった。…ローザがダイアナの後ろに隠れながらこっちをずっと凝視してるんだが。


「え…とローザ、こちらをずっと見てるけど俺の顔に何か付いているのか?」


 …まさか俺の神力を感じ取ったとかじゃ無いよな。


「……!な…なんでも……ない」


「そ、そうか」

 

 ふむ、違和感は感じ取っているがハッキリとは断言できないってところか。


「んあ?それよりさっさとオークが作ってる集落って所に向かうぞ!」


 微妙な空気になったが、リーダーのルトの指示通り、皆用意された馬車に入り移動を始めた。


 道中は何事も無く、メンバーと色々話しながらコールモデ森の入り口に着いた。馬車から降りて馬が魔物や山賊に攻撃されないように結界の魔道具を発動させ、森に入った。奥へ10数キロ進むと、先に偵察へ向かったノーランが戻って来た。


「状況は?」


 ルトが戻って来たノーランに飯と水筒を渡し情報を聞いてきた。


「っはぁ、この先1キロ先に奴らが作った集落を発見した。相手の数はゴブリン50、オーク25、そしてハイオーク5。間違いないあそこにはオークキングが居る」


「っチ!よりによってキングか。他には?」


 やはりオークキングも居たか。ノーランが何か言いにくそうしている。


「…攫われた女性が居る可能性がある。詳しくは知らないが、一番大きい建物の近くに寄ったら…奴らの臭いがした」


 瞳の奥に強い憎悪が燃える表情しながら吐き捨てるように言った。他のメンバーも憎悪に満ちた顔をしている。ローザに至っては涙を目に貯めながら祈っている。


 神眼を発動させて視点を奴らの集落に動かした。ノーランから伝えられた一番大きな建物を見つけ、内部を確認した。確かに女性が居た。…彼女らの名誉の為神眼を切った。


「今晩夜襲を仕掛けるぞ。奴らを一匹残らず殺せ」


 鋭い目をいっそう細めた彼の命令にメンバーは力強く頷いた。



 日の光は既に落ち空には雲が多く、月はその背後に隠れている。絶好の奇襲日和だ。


 ルトと顔を合わせ、彼らは頷き行動を開始した。ショウと火竜の牙メンバーの面々はそれぞれ指定された配置へと移動する。


 オークの集落を中心に、南、南西、南東、東の四か所にそれぞれのメンバーが居た。作戦としては、まず魔法が使える俺とパトリックが派手に魔法で攻める。特にハイオークが寝ている少し大きめの建物を中心に。そしてそこに援軍が向かったら背後から、ルト、ノーラン、ダイアナが攻めていく。ローザは後ろに待機しながら怪我人の手当てだ。この作戦の鍵はオークキングがこの夜襲に築くまでにどれだけ雑魚を倒せるかになる。


 パトリックが居る場所から巨大な魔法陣が浮かび上がり無数の火槍ファイアーランスが派手に降り注いだ。建物に刺さり爆風を起こし更にまた無数の魔法が降り注ぐ。


 燃えた建物から普通のオークより大きな身体を持ったオークが苦しみながら出てきて、こちらに手を伸ばしながら息絶えた。俺もバレないよう火魔法で建物を焼き始めた。運よく崩壊していない建物から出てきたオークやゴブリンを既に抜いていたミスリルロングソードで振り下ろす。ショウに狙われたオークやゴブリンは左右真っ二つにされ内臓を地面に叩き付けながら倒れこんだ。


 近くではダビットが槍でオークの喉を突き刺し、ダイアナは大剣で豪快な一撃で頭部を粉砕していた。


 遠く離れた距離から弓を構えたオークだったが、背後から接近していたノーランが短剣で首を刎ねた。


「ブモオオオオォォォッ!!」


 集落の中心に建てられた一際大きな建物から全長3メートル程の赤色のオークが現れ、大音量の雄叫びを上げた。見た目にも豪華な鎧を身に着けておりその手には巨大なグレートソードが握られている。


「(ようやくお出ましか)」


 オークキングと俺の目線が合った。純粋な殺気を放ち、じりじりと距離を縮める。


 二人の距離が10メートル程に縮んだ瞬間オークキングが一瞬でショウの手前まで移動しグレートソードで下から掬い上げるように斬り上げられた一撃を、金属音を発しながら受け止めた。


 横に振りかぶった一閃を軽く防ぎ。


 振り下ろされたオークキングの全力を右手で持ったミスリルロングソードで軽々と防ぎ。


 そんな戦いが繰り返されること数分。上から振りかぶってきた剣を弾き、カウンターで剣を持った腕を斬り飛ばした。斬り飛ばした腕から血が大量に噴き出してきたが、オークキングは気にもせずに、残った腕で殴り掛かってきたがそのパンチも横に避け反撃に目の前に出された腕を切り落とし。


 両腕を失った同様で動きを止めてしまったオークキングを横真っ二つに切り落とした。零れた臓器が地面を真っ赤に染める。


 その光景を火竜の牙メンバーは呆然と眺めていた。オークキングはBランクフルパーティーでやっと倒せる魔物。それをショウはただ一人で倒した。正常で要れる訳が無い。


 オークの血がべっとりと付いた剣を地面に振り落とて生活魔法を掛けて傷一つ無い事を確認して鞘に戻した。そのままオークが造った集落で唯一残っている建物の中に入り、ある部屋に向かった。



――時空魔法発動「停止ストップ」


 俺の後を追い、火竜の牙メンバーがこの建物に入る手前で一部屋以外魔法の指定から外し、世界の時間を止めた。この先からは人には見せられない。


 目的の部屋と繋がる巨大な扉を開け、中に入ると部屋の奥で首に鎖を巻かれた衣服を何も着ていない女性たちが光りが映っていない虚ろな目でこちらを見つめていた。精神が死に、生きる事を諦めた目だ。男の俺が彼女等に向かって歩き出すが、何も反応は無い。彼女達は膨れたお腹を無意識に撫でていた。


「神力開放」


 ポツリと、言葉を放し普段は遮断している神力を解放した。他の生き物とは根本的に異なる威圧感が発せられるが、彼女等の表情は変わらなかった。恐れ、恐怖、喜び、何も起こらない。


 目の前まで歩き、片膝を地面に付いて目線を合わせた。どの言葉を話そうが心が死んだ者には効果は無いが、伝えよう。


「私は、中級神ショウ。この世界ヒュンデで管理者をしている現人神だ」


 そして一息つき続けた。


「これから私はお前たちを痛みもなく殺し、魂を転生させる。これ以上もう苦しみ無くてもいい」


 虚ろな目でこちらの事を認識しているが、表情は変わらない。死んだ心は戻らない。


「しかし、それではこの世界を恨んでいる貴方達が報われない。…私が力を与えよう。お前たちが来世で苦しまないよう俺の加護を捧げる。…遅くなりすまなかった」


 …もういいだろう。この会話も転生後覚えていない。これ以上彼女等に苦痛を与えたくない。

 立ち上がり、数歩後ろ下がり彼女等に手を向けた。


「来世に幸せがあらんことよ…『神聖炎』」


 足元から床一面に赤が濃い虹色の魔法陣が広がり彼女達に白い火柱が立ち一瞬にして灰も残らず現世を終えた。火柱が上がる寸前、彼女達が微笑んだ気がした。


 火柱が消え彼女等が居た場所には灰すらも残って居なかった。


「…」


 通路へ出て、あの部屋の部分だけ崩し集落を焼くまで誰も入って来ないよう扉ごと壁に作り変えた。適当に直ぐ近くに在った部屋の中へ入り、インベントリから宝石財宝が入った宝箱や、マジックアイテム、魔法が付与された武器を置き。入り口近くまで移動して魔法を解除した。


「お、おい!ちょっと待てってショウ!。あ、あれ?すぐそこに居たのか」


 急いで俺の後を追ってきた火竜の牙メンバーが入り口を開け入って来た。


「ああ、隠れた魔物が居ないか確認しよう」


 彼等は一人一人散りばって部屋を一つずつ確認し始めた。俺は魔法を解除した場所から動いて居なかったが、ローザも動かずこちらをずっと見つめていた。


「どうした」


 流石に気になり声を掛けた。いきなり声を掛けられた彼女は少し驚いたが、すぐさま真剣な表情になり地面に跪き祈り始めた。


「貴方様のご慈悲に心の奥から感謝を」


「…」


 俺は何も答えなかった。否定も肯定もしなかった。


 気が済むまで祈った彼女は立ち上がり他のメンバーのところまで行った。


「お、おい!こっちに来い!宝物見つけたぜ!」


 俺が金目の物を置いた部屋から興奮したノーランが出てきた。宝と言う言葉に他のメンバーも蔓延の笑みを浮かびながらノーランの元へ走り出した。ローゼは一度立ち止まり俺を見て、更に俺が壁に変えた場所を一瞬確認し、彼女も彼等の元まで早歩きで向かった。


 最後に俺が部屋に入るとローザ以外宝を物色していた。両手一杯に宝石を持ったり、マジックアイテムを指に嵌めてみたり、魔法が付与された剣で素振りをしてみたり、持っていた袋に出来るだけ金貨を入れていたり、人間の欲が一か所に集まっていた。


「ローザは一緒に参加しないのか」


 部屋の端で立っていたローザの横に寄り聞いた。


「…い、いえ。…私は、遠慮しときます」


「そうか」


……………。


「ハイエルフ」


「ッ!な…なぜ……その…事を」


 ある種族名の言った瞬間。雷に打たれたように目を大きく開いた。


 ハイエルフ族。精霊のハーフと言われ、他のエルフ族より精霊魔法に特化している。

 エルフ族は長命で平均寿命は600だが、ハイエルフは不老でありどれだけ歳を取ろうと美しい外見を保つ。


 ナビリスから教えてもらったが、どうやら隠蔽スキルと偽装スキルを使い人間に変えてたらしい。神眼で彼女のステータスを確認するとハイエルフの王女と書かれていた。


「俺の正体に薄々感づいているのなら、隠し事が出来ないって知っているだろ」


「…」


 彼女は何も言わなかったが、他のメンバーに見えないようにベールを片方外し人族より長い耳を見せた。すぐさま戻したが。


「ありがとう信頼してくれて。でも他のメンバーにはバレないように行動した方が良い。もしローザの正体がバレたら、今彼等が宝物に向けている欲望を持った目が君の方へ向かう」


 エルフ族はその外見故このランキャスター王国以外の人が納める国では誘拐され奴隷として高値で売られる。その為、彼等は世界樹の周りに作ったエルフの国か、ランキャスター王国以外に出ない。

 ランキャスター王国に来る理由は初代国王の嫁の一人にエルフが嫁いだから。しかし、エルフの王族と言われるハイエルフ族は話が別だ。エルフより数が更に少なく、外に滅多に出ない一族故もし人族にバレたら、金額に目が眩みランキャスター王国内でも誘拐され他国に売られる可能性がある。


「わ…分かった。気を付け…る」


「…これをやるよ。もし危険が迫ったらこの魔法陣に魔力を込めてくれ。直ぐに助ける」


 そう言ってインベントリの中から創造魔法で作った大粒のエメラルドが付いたネックレスを取り出した。


 白金に細かいダイアモンドが装飾されたチェーンに円型に整えられた3センチほどの緑色に輝くエメラルドがはめ込まれ、宝石の中に薄っすらと写る魔法陣の光が美しさを増している。


「わあぁ…綺麗!」


 ハイエルフが住む王城でも見たことが無い美しさにローザは口を開け見惚れていた。


「付けてもいいか」


 礼儀として念の為聞いたが、意味を理解したローザは顔を赤くしながら、コクリと頷いた。

 彼女の後ろに回り、細く白い首に、腕を回しネックレスをつけた。


「っよし、似合ってるぞ。まぁ一様他の人にバレないように服の下に隠してくれ」


「あ!…ありがとう…ご、ございますショウ様」


 俺の方へ振り向き、花が咲いたような笑顔を見せてくれた。


「おう、気をつけろよ」


「はい!」


 …彼女等も運命が違えばローザの様に笑顔でいれたかもしれない。


「おーいショウ!ローザ!お前たちも来いよ!大量だぜ!」


 肩にパンパンになった袋を持ちながら、ルトがこちらに話しかけてきた。


「いや、俺は良いよ。袋も無いし」


「はい…私も遠慮しておきます」


 俺達が断った事にルトは目をパチクリしたか、「お、おう」と言い俺達の分も袋に詰め始めた。


 金貨1枚残らず全ての宝物を詰め込んだ火竜の牙メンバーを先に行かせ、俺はぼろぼろになった集落が一面出来る場所に居た。


「さて、やりますか」


火魔法発動「エクスプロージョン」


 オークキングが居た建物を中心に爆発が起きた。煙が天高く立ち上がり、集落は大きなクレーターを作り消滅していた。勿論普通の魔法使いがエクスプロージョンを使ってもここまでの破壊力は無い。


 集落の破壊を確認し終えれば火竜の牙が待っている森の入り口まで歩いて行った。



――五十年後。


 ランキャスター王国にある一つの豊かな村に4人の女の子が同じ日に産まれた。彼女たちは何時も一緒に遊び、学んだ。


――五年後。


 五歳に無事育った子供たちがステータスを習得するため村に置かれた教会で、神に祈りを捧げた。


 問題なくステータス獲得し、確認したら4人の称号の欄に見慣れない文字を見つけた。


『万能神 ショウの加護』


 称号を見た神父は感激した。神からの加護は物凄く珍しい、と。


――更に十年後。


 十五歳になり成人した彼女等は皆から羨ましがられる美しい外見となっていた。成人後彼女たちは近くに在る都市で冒険者ギルドに入った。冒険者となった彼女等は直ぐに頭角を現した。美しい外見も相まって彼女たちのパーティーはすぐさま有名になった。


――一年後。


 あり得ない速度でAランクパーティーとなった彼女等は『炎美姫』と言われ周りから尊敬され、王族からも信頼された。


 理由は不明だが、彼女等がオークの群れや集落を見つけると。いつもの様子とは豹変し殺意を爆発させながら壊滅し続けた。4人の部屋にはいつも、木製で彫られた小さな男性の像が大切に置かれていた。

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