第151話 大野外演習その17
不良少年ケビン先輩、忽然と姿が消える。
その知らせを受けた私は急遽、掛け走りでグループの先輩たちが居る場所へ詰めかける。
「グレイシア先輩!」
「ヴィオレット嬢、丁度良かった。今から呼びに行こうと思っていたよ」
グレイシア先輩を含む他の班員が集まっている姿に安堵の胸をなでおろすように一つ大きく息をつくと、彼女の傍まで駆け寄った。
先輩の表情を読み取るに酷く怒ってはいないようだが、同時に面倒事が起きたとげんなり気落ちのような複雑な感情が混合している。恐らくグレイシア先輩はケビン先輩が突如姿をくらました理由を捉えているからだろうね。多分不良少年が向かって目的先も。
「やはり…古代遺跡ですか?」
「其処しかないね。全く、あれ程言い聞かせたのに…」
わかりきった質問を尋ねても即座に用意された答えを貰った。あのやんちゃ坊主っ、何故こんな無謀な真似をしでかしたんだろう?二度目の生を受けた私でも男子が考える思考は1割も理解できない。
「野蛮なお猿さん一人ならまだしも、どうやら十人程集って向かったらしいですわ」
「えぇー。状況が悪化してる…」
広げた鉄扇で口元を隠した金髪ロール先輩より告げられる追加情報に自分の胸から出たものを思うまま口から零した私を咎める者は居なかった。口に出さないけど、皆同じ事を思っている。
どうやら教師たちが下した待機命令に納得出来なかった高学年生徒が声を掛け合って、団結した者達が徒党を組んでその一行の一人が目的地まで示された地図を持っており。押し止める生徒を振り払いのけた集団の中にケビン先輩の姿も確認された、と説明された私等…。
「(より一大事になってる!)」
予想より悪化している事態に思わずゴクリ、唾を飲み込む音がやけに大きく耳に入る。
「監視の教諭、冒険者の不在。連絡用魔道具は誰も持って無い…、今の状況、厳しいですわね。辛うじて校医のポーリーン先生が医療天幕で待ち受けているのは幸運ですわ」
金髪ロール先輩の口から出た看護教員の名前に皆が揃いも揃って同意するように頷いた。国家プロジェクトの中核とも言える魔法を専門とした学園では訓練により攻撃魔法で受ける怪我、魔道具の実験に失敗した負傷者が絶えない。
学園に通う生徒なら一度はお世話になる医務室に勤務するポーリーン先生は生徒たちからは厚い信頼を寄せられている教師。
ほんわりした美人看護師な事も加えれば男子から圧倒的好意を寄せらる話を何度も耳にしたことか。衣服の上からも丸わかりの曲線が華奢な押し上げられた二つの大山に男性群の餓鬼のような下品な視線を向けるのはご愛敬。
少しぐらい私に分けても罰は当たらないのに…ッぐ!これが一方的敗北なの!?
話が余計な方向へ飛んでしまったわ。本筋に戻しましょう。
「何でケビン先輩たちはこんな無茶をしでかしたのでしょう?明日、魔物を討伐しつつ遺跡に向かえば十分間に合うのに」
「簡単だよヴィオレットさん。アイツは他人より一層武功に執心なんだよ」
私の言葉を拾ったのはグレイシア先輩の背後で静かに佇むロングヘアーの男子生徒、記憶が合っていれば彼は六年のミカイル先輩だった筈。そんな私を横目に彼は話を続ける。
「学園五年目のケビン、奴が持つ野心の深さは底知れない。一年の頃より上級生に突っかかり、一定の実力者には所構わず魔法による決闘を吹きかける学園一問題児。理由は定かでは無いが、前より魔導の座を目指しているのは聞き及んでいた」
「言い方を変えれば、礼儀知らずで騒がしい悪猿ですわ」
金髪ロール先輩のケビン先輩に対する冷評に思わず噴き出してしまった。昨日、ケビン先輩が口にした余計な一言を今も根に持つ彼女の態度に周囲も苦笑いを懸命に堪えていた。
「あはは僕からは何とも…、ノーコメントでお願いします。話を戻して、僕の考えが正しかったら、是が非でも功績が欲しいケビンの心情はこうだったかもしれない。学園行事中、誰も予想出来ない災難に見舞われる、しかも対峙する敵は一級テロリスト認定された革命軍の可能性。
「「「…」」」
ミカイル先輩がたった今告げた推測に私を含む周囲の人達は呆れ返って、狐につままれたような呆然とした気持ちになる。話が壮大過ぎて荒唐無稽としか思えない空事、本当にケビン先輩はそんな些細な事の為に自分の命を危険に冒すの?
「魔力を落ち着かせて!皆本気にしないでくれ、今述べた推理は結局思いつく言葉を書き集めた憶測に過ぎない。ケビンが行動した決断は彼にか分からない」
体内の魔力が荒ぶりだした私達を落ち着かせるよう、やさしく諭すような口調で話す先輩の穏やかな声に渦巻く私の魔力が徐々に静まっていく。
「ご、ごめんなさい!」
私の詫びる言葉にグレイシア先輩はゆったりした優しい笑顔を浮かべて自慢の髪を丁寧に撫でる。
「構わない。寧ろ年相応に怒ってくれたお陰で先輩の私達が無様な態度をヴィオレット嬢に見せなくてホッとしている」
「グレイシア先輩…」
あ~ヤメテ-!優しくされたら禁断の百合の扉が開いてしまうわ…!
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