第78話 本戦 その4

『お待たせしましたっ~!無事、ステージの修復が完了したと言う事で。早速第三試合目を開始したいと思います!席に戻れー戻れ~さもないと、素晴らしい試合を見逃しちゃうぜーおらおらっ』


 強大な実力を持つ冒険者ショウに魔王討伐の手伝いを断れ酷く落胆した勇者達が他の仲間の所へ戻りそれから数分が経過し。闘技台の修復を終えたアナウンスが所々に設置されたスピーカー型魔道具から会場全体に響き渡る。


 美女で有名な司会者の気持ちが籠った声を聞いた観客達がぞろぞろと元の席に戻り始める。中には闘技場外で購入した肉串を食いながら全速力で掛け走る客の姿も見受けられる。


 高級感あふれる真っ赤なソファーから一歩も動かなかったショウは銀孤が大量購入したカードパックをナビリスも一緒になって開けていたが、アナウンスが聞こえると一旦手伝うのを中止し。貴族専用ブースで待機しているメイド達に山盛りとなったゴミの片づけを命じた。


 彼はこの試合はトーナメント表と選手の資料を観てから楽しみで心の中に喜びが沸いていた。


 その理由は第三試合目に出場する一人の選手の使用武器にあった。


 それは神界で激甚な修行を長年してきたショウすら手に出した事が無い武器であった。


『うふふ、観客の皆様。全員席にお戻りなりましたか~?それでは早速、選手の紹介をしたいと思いまーす!まずはこの方!数多く名高い魔法使いが誕生した魔法名家中の名家!ディアナ・キャビンディッシュ!!』


――オオオオォォォッ!!


 大勢の歓声と共に選手用の入り口から一つの人影が現れ、ステージへと上がる。女性だ。

 魔法使いが好んで被ってそうな三角帽子から見える金糸の髪は緩やかなウェーブの描くように腰まで伸ばし、一歩一歩丁寧に歩くたびに髪が金色の渦を捲いてきらきらと震える。鋭い気の強そうな目は濃い緑色の瞳、正に絵から出て来たような美少女。


『ディアナ選手は王立学園に通う若き生徒で、更に!全生徒の中でも優秀な生徒のみ入れる生徒会に所属していると事。流石名家キャビンディッシュ家!』


 右手に魔法の杖を持ち、杖の先端に埋め込まれた魔石が太陽の光によって結晶のようにキラキラ輝かせている。


 ディアナが身に纏った恰好は学園に通う生徒が着る制服。黒ネクタイには学年を示すであろう色分けされたタイピンを付けている。タイピンの色を見る限りディアナは高等部に通う生徒だと学園に通う生徒には一目で見分けがつく。胸元には生徒会だけが付けられる金色のバッチが輝き。腰に巻いた革製のポーチの中には幾つかのポーション類が入っている。

 

 追加の情報だが、王立学園現生徒会長はエレニールの妹である第四王女ティトリマ・エル・フォン・ランキャスター。氷魔法を得意とし人形のような絶世の美少女。母親譲りの絹のような美しい金髪に、エレニールと同じ赤色の目。学園に通う生徒からは尊敬を例え、彼女に嫉妬する者からはどの状況でもピクリと動かない表情に皮肉を込めて『零形』と呼ばれている。


 その不名誉な二つ名を付けられたティトリマも王族専用ブースでエレニールとアンジュリカの間に挟まれ、表情のない顔が能面のように冷たい表情で試合を観戦している。しかし稀にショウの話題が始まると視線を彼へ動かす。


 闘技大会に参加する選手は数多くいるが、学生の身で本戦まで出場できる人材は極めて貴重である。更に大会には多くの王侯貴族達が見定める中で、本戦に出るだけで将来は約束されたも当然。


 キャビンディッシュ家の初代当主、アルドノア・キャビンディッシュは初代国王である勇者と一緒のパーティーを組んでいた魔法使いで。この世界たった一人の賢者の称号を持っていた伝説の人物。賢者アルドノアは命を落とすまで魔法の研究に没頭し、現代の王都学園で使用される魔法学習法の基礎を確立したとされている。賢者アルドノアがこの世を去ってから一度も新たな賢者は今知る限る現れなかったが、キャビンディッシュ家からは数多くの優秀な魔法使いが生まれた。


 余談だが、賢者の称号を手に入れるには火水風土光闇雷氷空間、そして召喚魔法を最低でもスキルLv.5へあげる条件となっている。


 学生の身であるディアナはそこの境地まで辿り着けていないが、一回戦では相手選手を近づける事無く魔法で翻弄出来るだけの実力は持っている。


『対するは!冒険者クラン『鉄龍の目覚め』クランリーダー、ガーランド!!出場経験五回!本戦出場回数も五回!!確かな実力を持ち、上下左右360度空中から繰り出される多彩な攻撃をディアナ選手はどう防ぐのでしょうか見物です!』


――オオオオォォォッ!!!

――ガーランドォ!!ガーランドォ!!ガーランドオォ!!!

――やっちまえ!!

――小娘に負けるなガーランド!!


 ディアナが入って来た反対側の入口からステージへと対戦相手が現れた瞬間、ディアナより倍以上の大きい歓声が闘技場に鳴り響く。しかし、ステージの上で目を閉じ集中している彼女に動揺した動きはショウには感じられない。ガーランドと呼ばれた男は、身長185センチあるショウと比べても頭一つ大きい体躯。堀りが深く、静観な顔立ち。魔物の革で仕上げた軽鎧を装着し、半袖の裾から除く両腕には複数の痛々しい傷跡が刻まれている。片手できゅっと摘み上げたような茶色の短髪に、日に焼けた小麦色の肌。男女ともに高い人気を誇るであろう彫りの深い、目鼻立ちのはっきりした顔立ちをしている。だが、妙な事に彼は武器を装備しておらず。素手で試合に挑んでいる。魔法使いが使う杖も無く、見た感じ武装な何も無いと感じられる。しかし、五回も本戦に出場した男が何を得意とするかは既に観客全員が知っている。


『では……第三試合目…始めッ!』


 司会者の声と同時に試合開始の合図がなった。


「高め!『魔力増加マジックブースト』!追加に、我の身を守れ『プロテクト』!」


 開始の合図と同時に杖を掲げたディアナが魔法攻撃を上昇させる魔力増加と攻撃を防ぐ魔法の壁を唱えた。


 それが彼女の初手の行動だった。

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