第84話 本戦 その9
「オークションの参加か」
そう書かれた紙の内容を言うと、テーブルに渡された手紙を置く。高級らしい丈夫な紙が使われた活字のように整った文字ギッシリつまった手紙。要約すると闘技大会が終わってから開催される年に一度のオークションへの招待状だった。
この分厚い手紙を受け取るほんの数分前。
闘技大会が既に三回戦まで終了し、明日には四回戦である準決勝が始まる。
同日の夕方、リビングでレモンティーを飲みながら優雅に過ごしていると珍しい者が俺の元へ現れた。その人物はカジノを任せている背中から生えた三対の純白に輝く翼を持つ熾天使サラーチェだった。
カジノをオープンしてからもうすぐで二カ月となる。未だに客足が途切れることは無く。逆に闘技大会のおかげで利益も右上上がり状態なんだとか。
そんな噂の種が絶たないカジノの表支配人と知られるサラーチェ、普段は背中に生えた三対の翼を隠しているが、深海にも思える青色の髪は長く。碧眼は澄んだ大きな瞳を持つ彼女はその美貌も相俟って、彼女の姿を一目焼き付けようと大金をベットする客もいるらしい。
そんな彼女が突然リビングの扉から飛び出してき、何か問題が起きたのかと屋敷にやってきた理由を尋ねたら、一枚の手紙を手渡された。この手紙こそが、オークションに参加できる物だった。
「うん、今日カジノオーナーの私宛に貰ったんだ。内容にも書かれているけどオークションには付き添いとして誰か一人、一緒に連れて行けるんだ。ショウ様!是非とも私と一緒にオークションへ参加しませんか!?」
テーブルから身を飛び出し、上目遣いで此方に尋ねてくる。勿論一紳士として女性からのお願いに拒否と言う言葉は存在しない。例えその女性が最高位天使であっても。
「やったー!ありがとうショウ様!あ、もう一つ。オークションで参加する以外にも出品出切るけど、何か下界の民に売っても構わない品とかある?」
ふむ、そうだな。度を越した神具等は売る訳にはいかないな。この世界は壊れたくないし。…何か、人間時代に作成した魔道具で丁度良さそうな品を探しておくか。
「ああ、分かったその件は俺に任しても構わない。それとカジノの景品からも一つ、出品しても平気だ」
「分かった!じゃ、まだやり残した仕事が残ってるからもう行くね!またねー、私が恋する神様」
そう言い終えたサラーチェの白い顔がそばに寄って来て、触れるだけの接吻をしてきた。
「えへへ~ん、ナビリス様には内緒にね!」
熾天使の彼女が恥ずかしさで顔を紅潮させ、正に天使の笑顔で扉の向こうへ飛び去った。
「っは!」
一直線へ向かってくるデトロアがその大剣を頭上から脳天を狙い思い切り振り下ろす。目に魔力を籠め彼の両腕をを良く観察してみると、荒々しい魔力で身体強化を行っていることが見て取れる。
風を切る音と共に振り下ろされた大剣を漆黒のローブを身に纏い、何処か不気味な仮面を被ったカサ・ロサン王国からの出場者、召喚術士のアルルが身軽な動きで躱し。反撃にと目の前に召喚した漆黒の大盾で、ぶつける。不意を突かれたデトロアはもろに部位召喚された大盾でシールドバッシュを食らってしまう。
脳に少なくないダメージを負ったらしく、よろよろと数歩後ろに下がりながらも両手に持った大剣は手放さない。
「ぐうぅ!召喚術士と相まみえるのは初めてだが、これほどまでやりにくいとは、やっぱ世界は広いなぁ!!」
一撃も当てれない相手に何処か気分がいい屈強な大男。彼の大きく開いた口から「わっはっはっは」と高笑いが空の果てに沸き上がり、そして消えていった。
「…」
高笑いを続けるデトロアの姿を見つめるローブに身を隠されたアルルは変わらず無口のまま、背負った木箱から一つの杖を左手に手にする。
そして、誰にも聞こえない小さな声でボソリと言葉を零す。
「多重召喚アルガイアの契約魔方陣」
アルルが魔法を唱えると杖の先に青い背丈ほどの魔法陣が浮かび上がる。アルルが零した魔法の正体を知っているショウとナビリスがその魔法を耳にした途端に、今まで遊んでいたカードバトルを止め興味深そうに視線を向ける。
だがアルルの行動はそれだけでは終わらなかった。出現した魔方陣を確認すると今度は、そのまま杖を上に向ける。
「ミカエラの星召喚陣」
ゆっくりと回転する魔方陣の上から二つ目の魔方陣が現れる。しかし、その魔方陣は普通の魔方陣とは異なり、五芒星の輝く魔方陣だった。
普段見慣れない魔方陣に学園に通う生徒、魔法に長けた魔法使いの観客達は思わず席から立ちあがり。その神秘的な輝きを放つ魔方陣を呆然と見つめただただ息を飲む。
「私の声を 届け 汝の魔を 払う者よ」
回転する二つの魔方陣が一つに重なる。一つになった魔方陣が一斉に輝き始め書き換えられていく。その大きさも広がり強力な魔力が溢れ出ていた。
「私の元へ馳せ参じよ『召喚魔法:太陽霊騎士ラー』」
召喚魔法を唱えると召喚陣が一際輝いた後に掻き消える。その残像の光の中から一つの影が姿を見せる。
空中に浮かぶその姿には、四本足を持つ馬の下半身。上半身は女性の姿だった。その女性は麗しく、金糸雀色の鎧に龍手を身に着けている。額には黄金に輝くサークレット、太陽のように赤く燃え流れる髪は背中の辺りで一つに結われている。右手に持った長槍は正に雲を貫くであろう神々しい魔力が洩れ出ていた。その神々しい光に包まれた姿に、一目見た観客は全員ただただ傍観している。
「ご、ご主人様。召喚魔法とはあれ程凄い魔法なのですか?」
その一角、ショウ達が観戦している豪華な一室ではメイド服を着用した奴隷の一人が無言で眺めているショウに非常に珍しい召喚魔法の事を尋ねる。
何処か考える仕草を取ったショウは口を開いた。
「そうだな。確かに召喚魔法は強力なスキルだ。だからと言って万能とは決して言えない」
すると、テーブル上に重なったトレーディングカードのデッキから一枚、カードを捲りその場に置いた。そのカードには凶暴な絵柄で描かれたドラゴンのカードだった。
「まずは召喚魔法については三種類ある。魔物や精霊と意思疎通をして契約する場合と、魔法陣から魔力を通じて異空間から呼び出す方法。最後に儀式を行う儀式召喚。言う限り簡単そうに聞こえるが実際は異なる。例えばいきなり「召喚魔法を覚えたからドラゴンを召喚しよう」、としてもそれは不可能だ。そして召喚に応じる際に使用者が主と認められなきゃならない。その契約方法にも幾つか存在するが、ほとんどの場合自らの力を証明しなければ契約に応じない。儀式召喚をする際にも高密度の魔石を複数必要だから金も掛かるし、ある特定の魔物に一度契約に失敗したら、同じ魔物を呼び出す事は無い」
ショウが話す召喚魔法について同室の奴隷たちが真面目に聞く中。一旦話を中断した彼はナビリスが淹れたレモンティーを喉に流しこみ、そのまま試合の成り行きを見守りながら説明を続ける。
「あの召喚術士が今まで召喚しているのは精霊のみ。精霊しか契約していないのか、奥の手で魔物を持っているのか俺も知らないが」
「え、精霊って…あの黒い大盾とか剣もですか?」
「ああ、あれは精霊ダークナイト、精霊ホーリーナイトの一部分を召喚している。本当の実態は二メートルはある身の丈で、精霊界で所謂門番を務める漆黒と純白の騎士だ」
初めて知った召喚魔法の説明に、ショウの話を耳にしていた彼の奴隷たちは素直に関心しながら頭を頷いていた。
『おおぉっとお!?デトロア選手!場外まで吹き飛ばされ戦闘不能!決勝に駒を進んだのは今大会初参加の召喚術士っ、アルル選手~!!』
ショウが話している内にどうやら決着が付いたようだ。
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