第34話 行方不明
「僕、の…僕のお姉ちゃんを見つけ出してください!!」
「…分かった。でも、話を初めから説明してくれないか?」
依頼の内容を教えられ、俺が最初に疑問に思ったことを聞いた。探しても言われても詳しく説明してもらえないと俺はどうも出来ない。
「あ、ご…ごめんなさい。でもお姉ちゃんは悪い奴らに誘拐されたんです!」
興奮して身を乗り出す少年の肩に手を置き、落ち着きさせた。
「俺は何処にも行かないからゆっくり、そして詳しく何が起こったのか教えてくれ」
「は、はい…」
やっとの思いで落ち着きを取り戻した少年はソファーに倒れ込むように座り、数回深呼吸をすると。彼の姉の身に何が起こったのか詳しく教えてくれた。
少年の姉。カトリーナはケイトの2つ上の姉であり今年で12歳になる。彼女もランキャスター王立学園に通っており中等部で魔法や礼儀作法を習っている生徒だ。レベルが高く、他国からも優秀な生徒が集う王立学園でも非常に優秀な生徒であり。その可愛らしい外見も相まって、平民貴族関係なく人気がある女性である。
学園の敷地内には生徒達が寝泊まりする学園寮が存在しているが、安くない金額が掛かるのでケイトと二人で毎日家から学園まで通っており。近所の人からも必要以上に可愛がられている。
そんなカトリーナの姿が消えたのは三日前に遡る。
ケイトは授業後、何時も学園門の前で姉の帰りを待っていたが。その日はどれだけ門の前で待っても彼女は現れなかった。
夜に泣きながら一人で帰ってきたケイトの様子がおかしいと感じた両親によってカトリーナが誘拐された事が発覚した。
ケイトの両親は即座に学園に滞在している警備員に助けを求めた。
事態を重く見た学園も探索用の魔法を使い彼女を探したが、一欠けらの痕跡すら見つけられなかった。
まるで今まで存在すらしていなかったふうに突然と姿を消した。
両親はこの王都を守る騎士達にも助けを求めたが、本気で取り組むことは無かった。
それより騎士から逆に彼女自身の志願で自ら逃げ出したと両親に告げたらしい。
それでもカトリーナの事を諦めなかった彼女の両親はここ毎日、彼女を探しているらしい。
されに弟であるケイトも自分が出来る事を考え、冒険者を雇うことを思い付いたらしい。
「でも…冒険者を親に持つ同級生から、冒険者を雇うには大きな金額が掛かるって。…でも、やらないよりはましだと思って昨日冒険者ギルドに依頼を出そうとしたんだ。その時にお兄さんとぶつかっちゃって。でもBランク冒険者のお兄さんならお姉ちゃんを見つけてくれるはず!って思ってお兄ちゃんに依頼を出したんだ。僕の家貧乏だからあんまりお金出せないけど。それでもっ!お願いします!!お姉ちゃんを見つけてください!!」
話を詳しく聞いていたら最後に泣いてしまった。…まだ年行かない子供なのに聡明な子供だな。
っま、俺の子供たちが一番なのは変わりないが。
『…親ばか』
ナビリスが小声で何か発したが気にしない、気にしない。
安心させるようにケイトの頭に手を置き、ポンポンっとした。
すると安心したのか更に泣き出してしまった。
「ご…ごめん!お兄さん」
五分後、泣き止むと恥ずかしくなったのか顔を赤くしながら下に向いてしまった。
「気にするな。泣くことは子供の特権だ、今まで辛かったんだろう?安心しな。もう大丈夫だ」
「え…?」
始め俺が言った言葉が理解出来なかったようだが、段々と意味を理解し始めるとケイトがまた興奮し始めた。
「そ!それって!もしかしてっ!依頼を受けてくれるの!!」
面倒なのでそのままにしておこう。時間が経てば落ち着くだろう。
「ああ、依頼達成金額もケイトが元々払うはずだった金額でいい」
「えっ!でも高ランク冒険者を雇うにはお金が一杯掛かるって…」
「俺はこう見えても稼いでるから、気にするな。ケイトはただ俺に助けを求めるだけで十分だ」
「うん!ありがとうお兄さん!!」
少年の顔にはここ一番の笑顔が溢れていた。子供には笑顔が一番似合う。全員を笑顔にすることは出来ない。それは神になっても同じだ。だが、神の目に留まった子供たちは手助けをしてやりたい。出来る範囲は小さいが。
「それじゃまず初めにケイトが通っている学園から探し出そう。何か痕跡があるかもしれない」
神眼を使用すれば一発で居場所が分かるが折角の依頼だ。寄り道をしても平気だろう。念の為にナビリスに神眼を使用させて、カトリーナを見守りつつ。もし危機が迫ったら彼女の元へ転移でもするか。
『ナビリス頼んだよ』
一応彼女にお願いする。俺の頼みなら彼女は断らないはずだ。
『…私が断れないと知って聞いているでしょう?はぁ~分かったわ。危なくなったら教える』
『ありがとうナビリス。愛しているよ』
『……私も愛しているわ。早く貴方のぬくもりが欲しいわ』
『ああ、分かってる。屋敷を購入したら即座にナビリスの身体を造るよ』
ハードルが上がってしまったが、まぁ別に大丈夫だろう。
「はい!…あ。でも学園の無関係者は学園敷地に入れない……」
元気よく返事したケイトだったが、ふっと何か考える仕草をすると何か思い出したらしく。俺に伝えてきた。
「平気だ。この国は良くも悪くも実力国家。Bランク冒険者の俺を無用に追い出したりはしないだろう。今回この依頼書も持っていく。それに依頼主であるケイトが一緒に居れば警戒はされないだろう」
それでもだめなら誰も居ない時間に学園内に転移するだけだ。
「へ~。うん、分かったよお兄さん!じゃあ制服に着替えてくるので少し待っていて下さい!」
そう言うと大急ぎで二階に続く階段へ駆け出した。
「お待たせお兄さん!どう、僕の制服?可愛いでしょう!?」
お替りした紅茶を嗜んでいると、どうやら学園に行く用の制服に着替えたケイトが戻って来た。
制服を着たケイトの姿を見た俺は一言、ポロリと口から零れた。
「……女だったのか」
そう、ケイトはスカートを履いていた。神眼で少年…いや少女の性別を調べなかったのは俺が悪いけど。
ショートヘアーに男用のズボン。それに自分を「僕」って呼んでいた。仕方ないだろう。
…醜い言い訳は止そう。
神である俺が人族の性別を間違えた。これからきちんと神眼を使用することにしよう。
キチンと褒めておこう。
「っお、制服に似合っているよ。それじゃケイト達が通う学園の案内を頼むよ」
俺が褒めたのが嬉しかったのか、顔を赤くしながら良い笑顔で返事をすると俺を連れて学園へ向かった。
学園に向かう間、俺達は色々な事を話した。授業の様子、二人の仲、母親の作る料理が美味しいなど。
目的地に辿り着くまで、俺達の会話は途切れなかった。しかし、学園に近付く程ケイトの様子が少し可笑しくなり、一旦足を止めると目線を彼女に合わせた。
「大丈夫か?」
彼女の震える小さな手を握り優しく聞く。
「う、ん。平気だよ。ただお姉ちゃんの事が気になって…」
10歳の女の子には辛い出来事だろう。彼女が今まで平気だったのは俺の近くにいて、僅かに零れる雰囲気が彼女の辛い気持ちを和らげていたからだろう。
「そうか、でも心配はしなくてもいい。俺がケイトの依頼を受けた以上、絶対カトリーナを探し出してみせるよ」
握りしめた手に更に片方の手を上に包み込むように握る。段々震えが止まって来た。
「それじゃ進もうか」
それから俺達が学園に辿り着くまで、ケイトは俺の手を離さなかった。
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