第36話 行方不明 その3

 ケイトと彼女の姉、カトリーナが通うランキャスター王立学園にて小さいが重要な手掛かりを得た二人。


 ショウとケイトは学園を後にすると二人して新しく建てられた教会の場所について聞き回っていた。


 しかし、その教会は秘密裏に建築されていたのか中々入力な情報は手に入らなかった。それに王都といえ、その大きさは広大で。一日二日で王都中を探し回るのはとても困難。歩く住人に教会について聞き回っていた二人だったが、ふと気付けば外は既にオレンジ色に照らさせ。もう少しで日が落ちようとしていた。


「今日はこの辺で終わりにしよう。また明日ケイトの姐さんを探そう」


 ショウがそう提案した。


「っつ!?で、でも!早く見つけないとお姉ちゃんが酷い目に!」


 手を強く握りしめショウの提案に反抗するケイト。彼女の目には涙が溜まっていた。

 そんな彼女を見掛けたショウはその場で片膝を地面に付き、目線を彼女に合わせる。ケイトの目から今にでも泣き出しそうだ。


「俺はこのまま探し続けるよ。でも、もうすぐ日が暮れる。ケイトの両親をこれ以上心配させたくない。な?」


 頭を優しく撫でながら、納得させるように話すショウ。

 彼女も心配する両親の気持ちを理解したらしく。大人しく僅かに頷いた。


「よし、いい子だ。ほら?俺が家まで送ってあげるよ」


「…うん」


 立ち上がり、手を差し出した。彼女がその差し伸べられた手を握ると、そのまま家に辿り着くまでその手を決して離さなかった。


「では、これからまたカトリーナ嬢を探してくるので。彼女の帰りをどうか待っていて下さい」


「はい。どうもありがとうございますショウさん」


 ケイトの家に辿り着くと、そこには丁度彼女の両親が家の中をうろうろしていたので。

 挨拶の代わりに受けた依頼の事を両親に伝えた。


 少ない報奨金で依頼を受けた事に驚いていたが。証明に黄金に輝くギルドカードを彼等に見せると、ショウのランクに驚愕し、そして感謝してくれた。


 ショウの膝の上に座ったケイトの頭を撫でながら、今日二人が掴んだ情報を両親にも伝えた。

 その情報を聞いた両親は今にでも一晩中探しに行きそうだったので。ショウは彼等に危険が及ぶ可能性があると、高ランク冒険者の自分に任せてくれ、と両親を納得させた。



『ナビリス、まだ大丈夫か?』


 ケイトを無事に届け、その帰り道宿の近くで店に入ると、注文したオムライスとコーンポタージュを召し上がりながら、今の誘拐されたカトリーナを監視しているナビリスに彼女の安易を聞いた。


『ええ、今は何もされずに、監禁されてます。食事もちゃんと与えている模様。でも誘拐した者の話を聞くと『司祭様』の帰りを待っているらしいわよ』


 …欲に溺れたドブネズミめ。


 俺は神界で修行している頃、同時に他の世界の成り立ちや歴史について勉強していた。今思うと、お爺ちゃんはあの頃から俺を神にしようとしていらしい。地球以外の世界を含めた歴史を知ると俺は宗教が好きでは無かった。善意の心を持った人間に近付き、自分の地位、権力の為。他人をだまし、憎しみを生み出す。どの世界でもソレは全く同じであった。


 それに、アティナの一件以来。俺は教会や教会で神の教えを伝える役職に出来るだけ近づかないようにした。


『平気?』


 おっと、色々考えているとナビリスが心配してくれた。


『問題ない。ナビリスはそのまま監視を続行してくれ。もし、ごみが何かしようとしたら殺す権利を許可する』


『ふふふ、了解ショウ。地獄を見せてあげるわ』


 …ナビリスの地獄はマジの地獄だからな。


 ケイトにはこれからカトリーナを探すと伝えたが既に居場所を特定しているので宿に戻り神眼で勇者達の様子を眺めよう。もし彼女の身に何かが起こりそうだったら即座にナビリスからの念話送られてくるだろう。その時にカトリーナが監禁されている場所に転移する。



『ショウ、ごみが姿を現したわ。ヤル気満々らしいわよ』


『了解。いまから向こうに転移する』


 召喚された勇者達対帝国騎士団による摸擬戦を見物していると、ナビリスからの念話が入った。

 良いところだったが、依頼が最優先だ。


 神眼の視点をカトリーナが監禁されている部屋に移動する。


 そこには薄暗い部屋に置かれたベットの上に縮こまって震える一人の少女の姿があった。

 彼女の身体には暴力などを受けた痕跡は見当たらなかったが、地面に落ちている彼女のだろう、制服はズタボロに切り裂かれ。ベッドのシーツで体を隠すように纏っていた。


 腹がでっぶりと肥ったオークに見える下品な男を見つめる彼女の瞳には怯えの表情が神眼上からでも確認出来た。彼が司祭のようだ。


 豚の様にベットへ向かう男から逃げる様にベットの上を這いずるカトリーナ。

 ニタニタした顔をしながらベットの上に乗る豚。たるんだ腹を揺らしながら彼女の方へ向かう。


 もうこれ以上眺めなくてもいいだろう。


 腰に巻き付けた剣帯から剣を抜くと、彼等が居る部屋へ転移を使用した。


「ッ!?だ!誰だ!!」


 いきなり何処からともなく現れた俺の姿に驚き慌てた。


 豚の質問に俺は何も答えず、剣を持った手をぶらぶらしながら無様な格好でいる男のベットへ向かう。

 慌てている豚の隙を突き、ベッドで逃げいたカトリーナは地面に降りるとシーツで体を隠しながら部屋の端に逃げた。


「誰か!?誰かおらぬか!!侵入者だっ!」


 俺の剣に気付いた豚が慌てながら大声で護衛を呼ぶ。しかし豚の叫び声に答える者は居なかった。


「誰か!?ッ糞!お前は何者だ!この儂を光神ラヴァッグウルセイラ教の司祭と知ってのことか!?」


「…」


 豚が何かブヒブヒと鳴いているが俺は豚を無視すると、部屋の隅で怯える彼女の元へほんの少し寄った。近付過ぎないよう慎重に。


「君の妹、ケイトから君を探し出す依頼を受けた者だ。安心してほしい、君はもう安全だ」


 顔を彼女の方へ向け、怯える彼女の目を見つめながら俺が来た理由を伝えた。


「え…ケイトから…?」


 妹の名が出た途端驚いた彼女がケイトの名を発した。


「ああ、そうだ。それとちょっと良くないものを見る可能性があるから目を閉じておいてほしい」


「…はい」


 俺が今から実行することを理解したカトリーナは一瞬だけ豚を睨むと、両目を閉じ後ろの壁に振り返った。


「き、貴様!この儂の邪魔をしよって!?ただじゃ済まないぞ!ロスチャーロス教国本部が黙っていないぞ!いいのか!?」


 まだこの豚ブヒブヒ喚いていたのか。良く声が枯れないな。


「豚が一匹死んでも直ぐに代わりの人材が派遣させるだろうな。まぁ次の司祭はちゃんとした人族だといいな。まぁ教国のトップも豚なら仕方ないが」


 剣を肩に乗せ。ゆっくりと歩きながら話す内容に生命の危機を感じた豚が醜い物を見せながら俺から逃げようとベッドの上で這いずる。しかし、重さのせいもあり全く進んでいない。


 目の前の俺を見上げながら未だに権力や地位を見せびらかし俺を止めようとする。


「儂は光神ラヴァッグウルセイラのオーグント司祭様だぞ!?貴様のようなガキは儂の姿を観にする度に地面に膝を付き、儂の靴を舐める存在であるぞ!…い、今儂の前から消えるならばこの件は内密にしておこう。これは大変名誉なことだぞ!分かったならさっさとその汚い靴を退けるがよい!」


「光神ラヴァッグウルセイラと言う奴に宜しく伝えておいてくれ」


「まっ!…」


 何か鳴き声を出そうとしたが既に首が飛んだ後で、それ以上もう鳴くことは無かった。

 首と分かれた胴体が大量の血を流しながらベッドに沈む。カトリーナは未遂だったが、被害者は他にも大量に居るのであろう。中にはこの世界に産まれた事態を憎みながら自らの命を絶った者もいるであろう。彼等にせめての償いだ。


 それより。


「大丈夫か?まだ目は閉じておいた方がいい」


 部屋の端で後ろを向きながら俺を待っていたカトリーナの傍まで近付き。声を掛ける。

 いきなり声を掛けられた彼女は肩をビクッと震わせ、身体を振り返り目を開けようとするのを止めた。

 正直に頷ぎ目を閉じたままの彼女を安心させるため、手を肩に置きこれからのことを説明する。


「さて、君を誘拐した者は居なくなった。次から気を付けような?それじゃ早速家に戻るか。ケイトが君を待っていることだし」


「……はい!」


 目を閉じながら俺の顔の方を見て元気に返事をしてくれる。そこんトコロは妹のケイトにそっくりだな。



「お姉ちゃん!!」


 パトロール中の兵士や騎士に見つからないよう狭い裏道を通りながら彼女の家に付いた俺達。

 早速ドアをノックすると、中から元気な返事がし。扉を開けたケイトが俺とカトリーナの姿を見た瞬間、カトリーナに飛びつくように抱き着いた。


「ケイト…心配掛けてごめんね?この人が私を助けてくれたんだよ」


 泣きじゃくるケイトの頭を優しく撫でながら、カトリーナも流れる涙を止めようともせずに助けられた経緯を説明する。


「うんっ!…うんっ!お兄さんがお姉ちゃんを絶対に助けてくれるって約束してくれたんだよっ!」


 力一杯姉に抱き着き離れようとしないケイト。その様子に笑顔を見せながら頭を撫で続ける。


「カトリーナ?カトリーナなのかっ!?」


 外に出たまま戻ってこないケイトを不安に思った彼女の両親が開いた扉の外を確認すると。二人の娘が抱き着く姿を確認した両親も声を上げながら外に出ていき。抱き合う二人を上から抱擁する。

 そこには親子の愛情があった。


「よかったなケイト。それじゃ俺は宿に戻るよ。勉強頑張れよ」


「お、お兄さん!お姉ちゃんを見つけてくれてありがとう!!」


 彼女からの感謝は歩きながら振った手で返事をすると、後ろを振り向かずにそのまま宿へ戻った。

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