第三章

第32話 王都ランキャスター

 この異世界に降りたってから約三ヶ月、王都に辿り着いた。


 大都市ラ・グランジより人口は遥かに多く、人族だけではなく様々な人種が王都を歩いている。表沙汰に人種同士の差別は無く。幸せそうに大通りを歩いている。道の端に開かれた屋台から良い匂いが漂う。


 神眼で街中を眺めるのと、実際に街を歩き周辺を眺めるのは結構違う。それに神眼で観てたより王都の街並みは綺麗だ。戦争中の街から溢れる雰囲気とは全く違う。


 建物や街の外装は地球の17世紀初頭のロンドンに似ている。しかし全くロンドンの雰囲気とは異なり。上に目線を向けると、上空を飛んでいる飛竜部隊が見える。


 それに、意外かもしれないが衣服の質はこっちの方が上等だ。


 金額を無視すれば魔法が掛けられた服もあり、上着一枚着るだけで、地球で使用されている防弾チョッキより防御力は優れている。


 更に、ランキャスター王国の領土はイギリスと比べ物にならない程広大だ。ここ王都すら建築物はロンドンの風景に似ているが、他は全く違う。それでもこの都市さえスラムが存在する。


 ここ実力国家では力があるものはどんどん優遇され。逆に無能は居場所を無くす。


 無能と決められたら、どうあがこうとも無能しか出来ない仕事をやらされ。無能が住まうスラム街に住むしかなくなる。しかし彼等はこの国から亡命しない。なぜなら他国に無能扱いされるなら、ここスラムで住むほうがマシだから。


 王都にも孤児院が存在しているが。その住み心地は他国に比べて大分マシになる。


 理由は王族や貴族が慈悲心を平民に見せつけるため多額の資金を寄付しているからだ。


 他国に無数に置かれた孤児院では寄付は雀の涙程度であり、満足に食べる事も出来ない。


 街中を歩いていると店や屋台が並んで随分と賑やかだ。


 少し先まで歩き、美味しそうな香りがする屋台でホットドッグを購入し、屋台のおっちゃんに冒険者ギルドまでの道を尋ねる。言われた道を辿り、冒険者ギルドへ向かう。位置はここからあんまり遠く無く、外壁近くとなっている。ラ・グランジとは違く、倒した魔物の素材を王都の奥まで持ってこられても困るので、冒険者の楽する為。外装付近に設置されている。


 流石王都、冒険者ギルドの建物も広い。しかしラ・グランジに有るギルドの方が冒険者の質は高い気がする。やはり塔が有るか、無いかの差は意外に大きい。


 それでも王都ランキャスターには中級と、上級ダンジョンが存在するので他の街よりかは冒険者が活躍している。それに加え王都ランキャスターにて一年に一回、闘技場にて最強の選手を決める大会がある。


 その時にはあらゆる都市、他国から参加者がここランキャスターに集まり。優勝を目指して競う。


 

冒険者ギルド前までたどり着いたショウは閉まっている扉を押し中へ入る。食堂で飲み食いしていた冒険者は一旦動きを止めると初めて見る彼の姿を凝視している。中にはショウの装備を鼻で笑い、見下している。しかし数少ない上級冒険者は彼の立ち姿を一秒でも逃さない風に観察している。


 彼等の視線を全て無視し、掲示板へ近付くと面白い依頼がないかと探し始めた。


 しかし、そこにショウが気に入った依頼は無かった。王都に設置された冒険者ギルドだけあって様々な依頼が張られていたが。ショウの目に入りそうな依頼は見つからなかった。


 一応全てのランクに出された依頼を確認した後、後ろに振り向きそのまま真っ直ぐ入口へ向かった。


「っうわ!?」


 ショウが入り口から出ようとした瞬間、外から全速力で駆け出していた子供とぶつかってしまいショウはビクともしなかったが。反対に思いっ切りぶつかって来た子供は後ろに飛ばされ尻餅をついてしまった。


「大丈夫か?」


 ショウは転倒した子供に近寄り、床に片膝をつき手を差し出した。


「う、うん。ご、ごめんなさい!僕前をちゃんとみてなくて!」


 差し出された手を握り、ショウがその手を引き子供を立ち上げさせると。事態を気づいた子供が彼の手を握ったまま謝った。


「気にするな。次から気を付ければいい」


 手を離したショウはそのまま頭に乗せ、優しく撫でながら教えた。


 怒っていない様子に子供も白い歯を見せながら笑顔になった。


「はい!え…お兄さんも冒険者なの?」


 剣を装備したショウを見渡すと、子供は少し困惑しながら聞いて来た。どうやら武器は装備しているのに防具は全く装備していない事に疑問を持ったようだ。


「ああそうだ。ほら、このギルドカードも本物だ」


 そう言うとショウは、ポケットから黄金に光るギルドカードを取り出すと魔力を流し。それを子供に見せた。


「わぁ~!お兄さんってBランク冒険者なんだね!?凄い!カッコいい!!」


 ギルドカードを見せた瞬間、目を輝かせ興奮する子供。更にショウの事を注視していた周りの冒険者も、ショウがBランク冒険者と分かるとざわめきが起こり始めた。


「ふふ」


 裏表ない、ただ単に正直にショウの事を褒めてくる子供にほんの少しだけ笑うショウ。


「おい!!お前ら邪魔なんだよ!!さっさとどけ!ガキども!」


 背後からショウと子供の二人に向かって叫び声が聞こえてきた。どうやら外に出ようとした冒険者が入り口の手前で話す様子にどうやら頭に来た模様。


「…」


 背後からショウの肩を押し出そうとした瞬間、彼の肘が冒険者の顎下を捉え、一瞬にして意識を奪った。


 一撃で気絶した冒険者は大きな音を出しながらそのまま仰向けに倒れた。


 ――ッシンとなるギルド。


「俺はもう行くよ。じゃあな少年、帰り道は気を付けろよ」


「あ、あの!」


 気絶させた冒険者の事など一切に気にせず、別れの挨拶をして外に出ようとしたショウを子供が止めた。


「ん?なんだ」


 一旦足を停め、後ろに振り向く。


「名前を教えてください!」


 どこか眠そうな目をしているショウを子供は真っ直ぐ見つめ、名前を尋ねる。


「ショウ。Bランク冒険者のショウだ。最近では孤独狼と言われている」


 名を告げ、手をひらりと振りながら扉を潜り。それ以降足を止める事は無かった。



『あの子供がギルドに走りながら入ってくるのは知っていたのでしょう?なんでわざと避けなかったの?』


 王都の街並みを感心しながら探検しているとナビリスから先程の子供について尋ねられた。


『あ~ん~?何となく?興味深そうな依頼は無かったし。只の暇つぶしに』


 俺が思ったことを伝えると何故かため息をつかれた。理解できない。


『はぁ~。もういいわ…。それより王都で何するの?王城でも乗っ取るの?』


『え。嫌だよ面倒くさい。王都で屋敷でも買おうかな、と思っているんだ。屋敷さえ購入すればやっとナビリスの肉体を創造出来るからな』


『ショウ…』


 あれ?泣き出してしまった。…全く、スキルを創造した時は感情は存在しなかったのに。今では普通の女性より乙女になってしまって。


『何か変な事考えていない?』


『全然全くこれっぽちも、はい』


……危ねぇ。俺は神で良かった。もし普通の人間だったら絶対に心を読み取られていた。


 さて、不動産には明日寄るとして。何処か近くに宿が無いか探しますか。今夜も勇者の状況も眺めたいし。彼等の活躍は海外ドラマを観ているようで意外と面白い。…それにナビリスの肉体を創造するための素材も探さないといけないしな。

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