第44話

「大戸島さん……従兄のお兄ちゃんって……」

「うん。このメールくれた人で~す」

「ね、年齢とか、出身校とかは?」

「歳は23歳ですよ~。学校は……流石に分からないですねぇ。高校卒業してすぐお友達と冒険家になったんですよ~」


 学校名は分からないが、合致している点が二つ。

 年齢と、高校卒業後に友達と冒険家というこの二つだ。

 同姓同名で類似点があるって、もう他人じゃないよな。


「子供の頃住んでたのって、彼、天神のほうじゃないか?」

「あったり~♪ え? 浅蔵さん、どうして芳樹お兄ちゃんの住んでた所を?」

「俺も……天神だったんだ」

「……あっ」


 大戸島さんも気づいたようだ。彼女にも俺が10年前、家族を失った話はチラっとだがしてある。

 同じ境遇の友人と冒険家になったという事もだ。


「お兄ちゃんの……友達だったんだ?」

「はは。みたいだな。そんな芳樹からメールが届いたってことは、あいつ、このダンジョンに居るな」

「え? なんでそう思うんですか?」


 ダンジョンのある荒地と化した地上では、不可思議な電波が出ていて電話やメールは繋がらない。

 電波の届かない場所から荒地に向かっても、その逆も然り。

 ただ例外として、同じダンジョン内へは極稀に届くことがある。

 ほんとに稀なんだ。電波が立つのは。

 だから連絡手段としてまったく使えない。


 それでも、たまにSOSをキャッチしたりなんかするらしい。

 最後の手段として冒険家が使うが、そのおかげで命拾いした者も居れば、間に合わなかった者も居る。その場合にも遺品は持ち帰って貰えるので、まったくの無駄とも言えない。


「お兄ちゃん……来てくれてたんだ」

「何処に居るんやろ? すれ違いになってないといいんやけど」

「そうだな……大戸島さん、メールを作成してくれ。直ぐに送信できるように準備をするんだ。内容は簡潔に。長いと容量が多くて送信が途中で遮断されるかもしれないから」

「は、はいっ」

「芳樹が居るなら他の連中も居るかもしれない。俺も手あたり次第送る準備をするよ」


 慌ててスマホを取り出し確認してみるが、俺の所にはメールは届いてなかった。ちょっと寂しい。


 芳樹、省吾、春雄、翔太、甲斐斗。5人充てに一斉メール出来るよう準備をする。


「私も手伝うけん、相手のメルアド教えて貰っていいです?」

「そうだな。件名に『浅蔵と同行中』って書けば分かってくれるだろう」

「はい。そうします」


 書いた内容は『ダンジョン内。今夜は9-10階段で野宿』とする。

 送信してみるが、当然送れない。小まめに確認しなきゃな。

 一度送信すれば、暫くは自動で定期的に送信を繰り返してくれる。誰かひとりにでも届くことを祈ろう。


 夕食を済ませ、交代で見張りに立つ。

 3人が3人とも、見張りの時にはスマホを凝視した。


 そして翌朝。遂にそれは来た。


「そ、送信できたばい!」

「え!? 本当か、セリスさんっ」

「見て浅蔵さん! 出来たと。出来たんばい!」

「見せて見せて~」


 俺と大戸島さんが駆け寄り、セリスさんのスマホ画面を見た。

 送信済みフォルダには、確かに『浅蔵さんと同行している者です』と件名に書かれたメールが。


「内容は? なんて書いたんだい?」

「あ、はい。今9階から10階に下りる階段で休んでいます。浅蔵さんも瑠璃も無事です』って書きました」

「うん。それでいい。あとは……」


 俺たちが進んですれ違いになるとマズい。いや、既にその可能性も十分ある。

 下手に動くより彼らが到着するのを待った方が良いだろう。


「ここで返事が来るのを待とう。どのくらい掛かるか分からないが、進んですれ違うとマズい」

「そう……だよね。でもそれなら11階に戻りませんか~?」

「パチンコ店にかい?」

「はい。あそこならお風呂も入れるし、ベッドもあるからぁ」


 確かに休むには良い環境だった。

 半日歩くことになるが、まぁいいだろう。


「でも芳樹たちがあの迷路をクリアするには時間が掛かり過ぎるだろうから、9階をクリアした時点で迎えに行くことになるよ?」

「は~い。じゃあお兄ちゃんにメール内容変えて送信しますねぇ」

「あ、俺もだな」

「わ、私も送信しておきます」


 メール内容は『11階にあるパチンコ店でお前ら待つ。それより上層なら9階で返信くれ。下層なら階層教えろ。階段で待て』とした。


 迷路へと再び戻り、地図を見ながら11階層への階段までたどり着いたのは昼過ぎ。後半は自転車で走り抜けたので流石に速かった。


「そういえば浅蔵さんの新しいスキルって、どんなのなんですか~? セリスちゃんはお裁縫スキルだったみたいですけどぉ」


 にんまりと笑顔で大戸島さんが話す。よっぽど自分だけスキルが貰えなかったことが悔しいようだ。

 セリスさんがゴミスキルだったことを、どことなく喜んでいるのかもしれない。


「そういやステータスを確認しただけで、どんなものか見てなかったな。ちょっと行って来るよ」


 パチンコ店を出てすぐ、200メートルも歩けばそれがある。

 ひとりでも大丈夫だと言ったんだけど、二人はダメだと言って着いて来た。


「どんなかな~」

「エナジーチャージって名前だったからな。きっと疲労回復系だ。間違い無し!」

「浅蔵さんの願望ですね、それ」

「俺の時代が来た!! 若い者に後れを取ってなるものか!!」

「じじくさ~いっ」


 なんとでも言うがいい! さぁ、来いっエナジーチャージ!!



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     【エナジーチャージ】

 他者から元気を分けて貰うスキル。

 やり方は対象の首筋に口を付け、吸う。

 相手が異性であった場合、その効果は2倍になる。

 吸血ではないので噛む必要はない。


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 ・ ・ ・。

 疲労回復キター。

 同時に俺逮捕待った無しキターっ。



 その時、ぴろりろりん♪っとメールが着信する音が鳴った。



『今5階ボス倒してスキル貰ったぞ! 9階了。女の子二人と一緒だなんてエロいやつめ!』

『By芳樹』


 違う。違うんだ。

 俺何もしてないから。何もエロい事してないから!

 

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