第179話:分身新機能

 地図のコピーを3枚用意し、宇佐の支援協会に貸し出し用として提出。

 下層攻略に乗り出している大分の冒険者も集まって来ているということで、協会施設にお金を払ってレンタルできるように。

 ただしコピーは14階からしか作っていない。

 15階からの階段にポストを設置して、鍵は俺と協会スタッフが持つ。

 休憩の度に図鑑ワープでポスト前に移動。地図が入っていれば地上に届けた。

 もちろん、その場でレンタル希望者がいれば貸し出す。制限時間は48時間。それだけあれば確実にクリアできるだろうってことで。


「しかしそうなると、我々のスピードを上げなければ、直ぐに追いつかれるな」

「ま、まぁそうなるんだよな」

「頑張りましょう!」

『にゃー』

「分身の浅蔵さんに頑張って貰わんとね」

『『任せとけ』』


 図鑑の地図には分身は表示されない。なのにコピーした方には分身が出てくる。

 結局自分たち用に地図をコピーし、それを上田さんに見てもらいながら進むことになった。


「お、階段を見つけたようだ」


 分身レベルが上がって、人数が増えない代わりに出来るようになったこと。

 時間延長。そして意思の伝達。

 伝達はレベル12になって増えた機能だ。いろいろ便利になっていくのか。楽しみだな。


「どこですか?」

「うん……それがなぁ。分身の声が聞こえるようにはなったんだけど、どこにいる分身なのかがさっぱりで」

『ダメにゃねぇ~』

「浅蔵、階段を見つけた分身を残して、他の連中には一度消えて貰ったらどうだ?」


 なるほど。どうせあと数分で時間切れになる。


(階段を見つけた分身以外は消えてくれ)


 そう頭の中で考えると、ブーイングが帰って来た。


(消えろとか酷い)

(あたしたちとは遊びだったのね!)

(いいから消えろよ!!)


 お決まりの遊びやってんじゃないよ!


「あ、分身浅蔵さん、ひとりだけになりました」

「よし、佳奈さん。悪いがその位置を覚えておくんだ。そろそろ消える頃だろ浅蔵?」

「あ……あぁ……ところで佳奈さんって、誰?」


 今物凄くナチュラルに名前を呼んでいたけど、まさか……。


 突っ込んだ瞬間に、甲斐斗と上田さんの顔が真っ赤になる。


「何言っとーと。上田さんの名前ばい。最初にあった時、自己紹介して聞いたやん」

「え……。あ、そうだっけ? 俺、上田さんとしか呼んでなかったし、下の名前は忘れてたよ。はは。はははは」


 こういう時こそ「リア充爆ぜろ!」って言うべきなんだろうなぁ。


 だが。ふっ。

 俺だって恋人と一緒だからリア充だもんね!


『リア充爆ぜるにゃー』

「ふあっ!? こ、虎鉄。お前そんな言葉、どこで覚えたんだっ」

「こ、虎鉄ちゃぁん」

『しょーたが教えてくれたにゃー。カイトとウエダが赤い顔したら、こう言えって』


 翔太ぁぁぁっ!

 虎鉄になんて言葉、覚えさせるんだぁっ!


「次に翔太を見かけた時には、お仕置きをしなければな」

「か、甲斐斗。そのお手てでパチパチすんの、止めような?」

「心配するな。未だに人間相手には使ったことはない。脅し以外では」


 何気に怖いんだよ。イケメンが真顔で電気バチバチするの。






 後続冒険者のプレッシャーと、新しい分身機能のおかげで、各段に攻略スピードは上がった。

 そしてこの機能を使えば、階層ボスも探しやすくなる。

 20階では真っ黒い二つ頭のヘルハウンドが階層ボスで、虎鉄がやたらと張り切っていた。

 だけどスキルをゲットできたのは上田さんだけ。


「た、短距離ワープ……。えぇ!? またワープスキルなの?」

「詳細を確認するためには、階段に行くしかないな。浅蔵」

「いや、虎鉄が鑑定できるから」

『にゃー』


 虎鉄に鑑定して貰った結果、名前のまんま効果だ。


『使用者が目視できる範囲内で、2メートル先にワープできる。にゃー』

「に、2メートル……」


 項垂れる上田さん。

 うん。まだそうだな。2メートルなら『短距離ワープ』って唱えてる間に移動できる距離だ。

 何のためのスキルなんだって思うが……レベルが上がれば化けるかもしれない。


「佳奈さん、気を落とすな。スキルはレベルが上がれば効果も変わってくる。たぶん距離が伸びるだろう」

「そうよ上田さん。5メートルぐらい伸びれば、緊急脱出としては十分使えるたい」

「そ、そっか。今じゃなく、未来のための投資と思ってレベル上げはしなきゃね」

「うんうん」


 あれ……俺が言おうとしていたこと、全部持っていかれた……。


 輪に入り損ねた俺の足を、虎鉄がぽんぽんと叩く。


『にゃー』

「……虎鉄……」


 寂しいので虎鉄をぎゅっとしておいた。


 

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