第196話:癌
「水ぶっかけたら、溶岩固まらへん?」
そんな松田さんの一言で、ひとまずの作戦を立ててみた。
水分補給用に持ってきた水のペットボトルがある。
それを俺が持って分身する。すると分身分のペットボトルが増える。
増えたペットボトルのキャップを外して、ケルベロスに投げる。
たったこれだけだ。
溶岩が固まれば攻撃を開始し、固まらなければいったん逃げて別の作戦を考えるしかない。
――が、その心配はなかった。
「溶岩固まったぞ!」
――けど、
「うわぁぁっ。攻撃したらその部分が剥げたばいっ」
「剥げたその下はまた溶岩かいな」
と、固める→攻撃する→固まった部分剥がれる→また溶岩に。
これじゃあ埒が明かない。
『にゃー。あいつ、小さくなってるにゃよ』
「小さく?」
『にゃー』
「なるほど。皮膚を剥いどるようなもんか」
となると、俺はひたすらペットボトルを持って分身。
分身たちが水をぶちまけ、奴の表面が固まったらみんなが攻撃。といっても、それぞれ一回だけ。
そしたら分身を解除して、また分身。
分身がペットボトルを――と、これを繰り返すしかない。
もちろん、その間にもケルベロスは攻撃を仕掛けてくる。
溶岩だけあって、こいつは火炎を吐いて来た。
ヒットアンドアウェイ戦法だったから、比較的みんな軽傷で済んでいる。
「回復しますっ」
「浅蔵、ポーションも持って分身してくれ」
「分かったっ」
時間は掛かった。
だけど福岡02の奴よりは幾分マシだな。
そうして一時間ほど経っただろうか、ついに俺たちは裏ボスの討伐に成功した。
【はぁ……やっぱり君が癌だよねぇ。まぁボクが考えたルールだし、仕方ないか】
【ご褒美の選択肢は四つだよ。ここにはダンジョン人がいないからね】
さも残念そうなボーカロイドの声。
癌ってのは俺のことだろうな。
選択肢が4つなのは納得出来る。理由は奴が言った通りだ。
「質問タイムあらへんの?」
【んー、前回いっぱい答えてあげてるしなぁ。でも君は今回はじめてだし、ひとつだけなら聞いてあげるよ】
「おおきに。なら質問や。ダンジョンを消滅させた後、その土地にまたダンジョンが出来るっちゅーことはあるんか?」
【……答えたくないなぁ。でも教えてあげるよ】
【それはない。はいお終いね。さ、どれを選択するのか教えてよ。スキルとか装備いいよぉ。お勧めだよぉ】
こいつにそう言われると、余計に選択したくなくなるんだが。
しかし松田さんの質問で、俺たちが知りたかったことも分かった。
そして――
スタンピードを発生させても、選ぶ価値のある選択であることも。
質問が許されないのなら、時間を先延ばしする必要はない。
俺たちがどのくらいの時間をかけて裏ボスを倒すのか分からない以上、地上の人たちもすでに準備万端で待っているだろう。
「俺から、いいか?」
「あぁ」
みんなに確認してから、俺が奴に洗濯を告げる。
「選ぶのはダンジョンの消滅だ」
【ふーん。まぁそうだよね。じゃなきゃ最下層以外に人がまったくいないなんてあり得ないんだし】
【ってことは地上でもいろいろ準備しているのかな?】
【まぁいいや。それじゃあ君たちを26階に戻すよ】
【その瞬間から60分後だからね。まぁせいぜい頑張って~】
【バイバ~イ】
感情のないボーカロイドの声。
にも拘わらず、人を嘲笑うかのように聞こえるんだから不思議だ。
一瞬にして俺たちは26階へと戻される。イエティを倒したその場所だ。
「さっむ!」
「どうせなら階段の前にしてくれよ。浅蔵ぁ」
「てて、転移するぞ」
裏ステージの服装のままだし、凍え死ぬ!
急いで26階の上り階段前に転移。そのまま階段を上り、ストーブの前――
『にゃぁぁぁ。極楽にゃぁぁ』
「おい虎鉄、髭が焦げるから近づきすぎるなって」
『にゃあぁぁ』
真っ先に虎鉄がストーブの前に陣取った。
「アナウンスが流れた。時計も合わせてある。俺たちは一足先に上に戻ってるよ」
「ありがとうございます。息を整えたら俺たちも上がるんで」
イエティ討伐に協力してくれていたパーティーは、階段までテレポートで戻って俺たちの帰りを待っていてくれた。
俺たちの肩を叩き、お疲れさんと声を掛けてから彼らはテレポートした。
「さて、一息ついたら戻るか」
「これから余計に忙しくなるしね」
「俺、地上に出たらトイレ行くんだ」
「翔太、変なフラグ立てんな」
コーヒー紅茶にココア。
ほっと一息ついて疲れがほんの少し取れたところで、地上へと戻った。
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