第197話:スタンピード

「セリス、本当に――」

「しつこいけん。絶対帰らんばい」


 もう何度も話し合った。

 本当は福岡02ダンジョンの家に戻っていて欲しい。

 けど、セリスはどうしても帰らないと言う。俺と一緒にいるんだって。


「はいはい。もうすぐスタンピード始まるから、そこイチャイチャしてないで」

「うっせー翔太」


 あぁクソ。今めっちゃ感動するシーンだったのに。


「由紀ちゃんはボクの傍にいてね」

「はい、翔太先輩」

「お前らだってイチャイチャしとるやん!」

「君ら緊張感なさすぎや」


 松田さんに呆れられてしまった。

 その彼は、同じく大阪から応援に来てくれた冒険家たちと合流。

 スタンピード鎮圧は、勝手知ったる仲間たちと一緒に臨むようだ。


「俺たちは後半戦からの参戦だから、しばらくは体を休めておこう」

「はーい」

『んにゃ~、ご飯食べたいにゃぁ』

「こんな時によく食えるよな、お前は」

『腹が減っては戦は出来ぬでごにゃるから』


 またどこで覚えてきたんだ、そんな言葉。


 休憩所――これまではダンジョンを出たすぐの所にあった。

 まぁ協会のプレハブ小屋だったから狭かったけど。

 だが今はそのプレハブ小屋では休めない。

 そこは間もなく、混戦の舞台になるから。

 もちろん協会の職員もそこにはいない。


「それにしてこの短期間で、よくあんな壁建てられたばいね」

「ほんとだな」


 もともとダンジョンの入り口は、壁で囲われている。

 その壁の外側にもう一枚、壁が新たに出来ていた。

 しかも壁はそこそこ高く、人が上を歩けるようになっていた。


 分厚い壁、ではない。

 壁の外側に木製の通路が建てられているだけだ。

 その通路の上から、遠距離攻撃を得意とする冒険家、そして銃器を持った自衛隊が攻撃する。


 しかも追加で建てられた壁には、通路が複数個所ある。

 内側の壁には一カ所しかない。

 複数用意した理由は、各個撃破する場所を増やすためだ。


 そして――


「低レベル帯の冒険家がスタンバイしはじめたね」

「結構集まったとやね」


 比較的若手の冒険家がほとんどだけど、中にベテランも混ざっている。指示を出すためだ。


 ボーカロイドの主、ダンジョン神だという異世界のアレの話だと、地下一階から順番に潰れていくらしい。

 それから免れるために、モンスターたちは地上に上がって来る。

 つまりスタンピードは、弱いモンスターから順に出てくることになる。

 だからこちらもモンスターのレベル帯を合わせて、人員を配置することになった。

 体力温存のためにだ。

 それでもベテランを何人か配置し、指示を出しつつ状況を見て交代を決める。

 

 休憩スペースに戻って来てすぐ、支援協会の職員に報告を行う。

 まぁ事務的な報告だ。

 無事にボスを倒し、ダンジョン消滅を選択しましたっていう。

 

「お疲れさまだったね。時間まであと32分だ。短い時間だが、ゆっくり休んでくれ」

「ありがとうございます」

「じゃボク、トイレ行ってくる」


 あ、冗談じゃなかったのか。

 ……俺もいってこよ。






「さぁて、そろそろだな」

「私、応援に行ってきます」

「俺もついて行こう」


 上田さんが最前線の方まで行くと言うので、甲斐斗が同行する。

 

「俺も行こうかな。壁の上にいるだけでも、サポートの効果があるだろうし」

「じ、じゃあ私も」

「セリスも?」

「ま、万が一ばい」

『おいにゃご飯食べてるにゃ~』


 薄情猫おぉぉぉ。


[スタンピード開始まであと五分]


 どこかでスピーカー音が聞こえた。

 急いで壁の上に上がって分身。

 分身もサポートスキルがある。壁の上を移動させ、ある程度広範囲をサポート出来るように配置した。

 全員が配置についたところで、突然足元が揺れ始める。


「壁の上にいる者たちは、落ちないように身を屈めて這いつくばれ!」

「地面に穴とか開かないよなぁ」

「不吉なこと言うなっ」

「こわいこわいこわいこわいこわいこわい」

「うおおおおぉぉぉぉぉ! 宇佐を取り戻すぞおおぉぉぉぉっ」


 いろんな声が聞こえる。

 そして――


【スタンピードが始まったよ】


 奴の――ダンジョン神の声も聞こえた。 

 その声はダンジョン入口から。中のアナウンスが漏れ出てきたものだ。

 それと同時に、入口の向こうから黒くうごめく影が――


「出て来たぞ!!!!」

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